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3章 牛のホルモンはいかがですか?
第3話 こんないろいろな味と食感があるんだねぇ
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水を張った大きな鍋に、浅葱は適当な厚さにぶつ切りしたテールと生姜を入れ、火に掛ける。
次にレバの臭み取り。血の塊を取り除いて流水で洗い、水分を拭ったらしっかりと浸かる程の牛乳に浸しておく。
ココロも流水で血抜きしておく。
玉葱を擦り下ろし、やや小さめの一口大にカットしたタンを漬け込む。
そうしていると、テールの湯が沸いたので、そこにツラミとレバ、タン以外のホルモン類を入れる。全て料理に適したサイズにカット済みである。余分な脂などが出たらボウルに引き上げて、水で綺麗に洗っておく。
続けて野菜の下拵え。にんにく、生姜、玉葱を微塵切りにし、トマトは荒微塵切りに。
さて、鍋にオリーブオイルを引き、にんにくと生姜を弱火でじんわりと炒める。香りが立ったら玉葱を入れ、透明になるまで炒める。そこに茹でたホルモンを入れてさっと炒め、赤ワインを入れ、しっかりと煮詰めてアルコールを飛ばす。
牛乳から引き上げたレバの水分を拭き取り、適当なサイズにカットして鍋に加える。ツラミも入れる。
レバとツラミに火が通ったらトマトとブイヨンを入れ、塩で調味して、ローリエを乗せて煮詰めて行く。
玉葱からタンを引き上げ、まだテールが茹でられている鍋に入れて茹でる。
もうひとつ鍋を用意する。そこに家から持ち込んだトマトケチャップとウスターソース、赤ワイン、ブイヨンを入れ、火に掛ける。
くつくつと沸いたら、タンを入れる。贅沢にも根元の部分をたっぷりと使う。ローリエも乗せて、煮込んで行く。
さて、テールである。下茹でが出来たそれを水で綺麗に洗う。肉と骨の間にある血液もしっかりと絞り出す様にして。
それを、沸いたブイヨンの鍋に入れ、スライスした玉葱と千切りの生姜も加えて煮込む。
後は、時間が調理をしてくれる。それぞれ焦げ付いたり煮詰まり過ぎたりしない様に弱火にしておこう。テールの鍋だけは中火で。こまめに灰汁も取らなければ。
1時間程が経った。そろそろ仕上がって来る頃だ。テールやタンなどは本来ならもっと時間を掛けて煮込むものだが、今日はそう時間が取れない。なので本来より小さめにカットする事でカバーしていた。
それぞれの味を見て、塩と胡椒で味を整えて。
タンの鍋には、彩りに塩茹でしたえんどう豆を散らして。
「出来ました!」
浅葱が声を上げると、「わぁ」と言う声とともにロロアたちが寄って来た。
メインはずっと浅葱の傍にいて、浅葱の手元を凝視しながら洗い物などを手伝ってくれていた。
器に盛られ、ほかほかと湯気を上げるのは、ホルモンのトマト煮込み、タンシチュー、テールスープである。
「うわぁ、美味しそうだねぇ!」
「本当ですカピ。とても良い香りがしていますカピ」
「本当だな。こりゃあ旨そうだ」
「だよね。私作っているところをずっと見てたけど、美味しそうになって行くの、凄く不思議な感じだった。ごめんなさい」
「良かった。味も気に入ってくれると嬉しいな。早速食べましょう」
「食べよう食べよう。楽しみだなぁ」
スコットの嬉しそうな声に、全員が台所の脇にある大きな木製のテーブルに着く。が、おや?
「もうひとりの人は?」
「あっ! 呼んで来ます、ごめんなさい!」
メインがガタッと音を立てて立ち上がり、慌てて部屋を出て行く。そしてひとりの体躯の良い男性を伴って、間も無く戻って来た。
「内臓の料理が出来たのだって? それは楽しみだなぁ!」
「パット、お疲れぇ。アサギが美味しそうなのを作ってくれたよぉ」
パットと呼ばれた快活な男性は、そのほんのりと肥えた腹を揺らしながら「はっはっは」と豪快に笑う。
「じゃあ頂くとしようか!」
そう言って椅子に掛ける。続いてメインも。
神に祈りを捧げ、浅葱たちは「いただきます」をして、「では!」とスプーンを手にする。
まずはテールスープから。
ずず、と音を立てて椀から直接飲む。するとあちらこちらから「ふわぁ~」と声が漏れた。
「優しい味だぁ……なのに奥深いと言うか、何と言ったら良いのかなぁ」
「コクがあるんだな。これは確かに旨い。牛の尻尾からこんな旨味が出るもんなのか? なのに臭みは全く無い」
「お肉はどうなのかしら。美味しそう。でも骨が凄いのね。でも、あら? 簡単に離れちゃった」
メインが身と骨の間にスプーンを入れたのだろう。短時間でも柔らかくなる様にカットしたテールはとろとろになっている筈だ。
「本当だな! どれ、味はどうだ?」
パットが身を口に運び、「んん!」と眼を見開いた。
「とろっとろだな! 骨周りの白い部分がとろっとろだ! 赤いところはほろほろに柔らかくて。どうなっているのだこれは!」
「本当、とろとろで旨いな。まさか尻尾がこんなになるなんてなぁ」
「凄いねぇ。本当に美味しいねぇ」
「美味しいですカピ! 柔らかくて、お味が濃いですカピ」
「本当ね。こんなに美味しいのね。えっと、尻尾、なんだけど、えっと、ごめんなさい、テールって言った方が良いのかしら」
「そうだねぇ。そう呼んだ方が美味しい気がするねぇ」
「じゃあお次は、トマト煮込み行こうかな。アサギ、これは?」
「いろいろな種類のホルモンが入ってるよ。味と食感をひとつずつ楽しんでみて」
「よっし。じゃあ、この白いのは……」
カロムがスプーンで掬い、口へ。噛み、まずは眼を輝かせ、次に首を傾げる。
「ん? 味は旨い。凄い甘みで味わい深い。けど噛み切れんな」
「ああ、じゃあチョウかな。脂が美味しい部位なんだ。確かに美味しいけど、噛み切るのは諦めた方が良いよ。良く噛んで柔らかくしてから飲み込んでね」
「成る程な。おお、噛み締める程に旨いと言うか。これはなかなか」
カロムは言いながら満足げに口を動かす。
「こちらの白いのはどうかな?」
そう言ってバットがスプーンを口に運ぶ。
「おお、こちらは噛み切れたぞ! 味は、何だかさっぱりとしているな?」
「じゃあミノですね。胃袋です。淡白な味で、食感が良いんです」
「確かに面白い食感だ」
「じゃあごめんなさい、私は、この赤いのを」
口に入れ、咀嚼し、メインは「へぇ」と漏らす。
「口の中でほろっと解ける。そしてねっとりと甘いわ」
「じゃあレバでしょうか。鉄分たっぷりで、女性が食べると良いとされています」
「ごめんなさい何を言っているのか良く判らないけど、美味しいわ。ごめんなさい」
確かにこの世界の人に、鉄分だ何だと言っても解らないだろう。
「では、僕はこの黒いのに挑戦してみますカピ」
ロロアがそう言って眼の前のものに齧り付く。
「これもまた、面白い食感ですカピ。味は殆ど無い様な感じなのですカピが、何だか癖になるのですカピ」
「センマイだね。確かに味はかなり淡白だから、こうした煮込みにしたら、食感を楽しむのがメインになるかも」
「赤いのもうひとつあったよねぇ。少し淡い色の。これはどうかなぁ?」
そうして口にするスコット。咀嚼して「へぇぇ」と口角を上げる。
「ほんのりと甘いねぇ。さっぱりもしてるんだけど。歯応えはしっかりしてるかなぁ? これも面白いねぇ」
「ココロですね。レバに近い感じがしつつも、歯応えもあって、味はどちらかと言うと淡白な方なんですよ」
「じゃあ最後に、舌、ううん、タンだねぇ」
スコットが言い、フォークを刺す。
「あぁ、柔らかいねぇ」
そうして口へ。そして眼を見開く。
「柔らかいし、このソース初めて食べる味だぁ」
「デミグラスソースって言うんです。野菜やお肉なんかを煮込んで作るソースです。凄く手間暇掛かるんですけど、今日は簡単な作り方で」
「へぇぇ、複雑な感じもするけど、こういうのもコクって言うんだねぇ。タンの味が更に増してる気がするなぁ。て言うかタンってこんなに美味しいものなんだねぇ。これは驚きだぁ。確かに例え用が無いかもねぇ」
「確かにタンもだが、このソースも旨い。トマトケチャップとウスターソースを合わせてたな?」
手伝いはメインに任せていたが、カロムも近くで浅葱の作業を見ていたのである。
「うん。それにブイヨンと赤ワインね。お肉と合うソースなんだよ。特に牛肉が良いかなぁ」
「そのトマトケチャップとウスターソースと言うのがそもそも判らない……ごめんなさい」
「調味料です。トマトケチャップはトマトを煮詰めて作ります。ウスターソースは野菜とかスパイスとかを煮て作るんです」
「初めて聞くものばかりだが、アサギくん、君はこの国の外から来たとかかい?」
異世界から来ました、と言って良いものか。浅葱がバットの問いの返事に窮していると、ロロアが「あの」と口を開いた。
「アサギさんは、異世界から来られた方なのですカピ」
何気無く言われた台詞に、スコットたちは「え?」と驚き顔で首を傾げる。
「え、こういうのって言っちゃっても大丈夫なものなの?」
「大丈夫ですカピよ。公言する事でも無いのですカピが、秘密にする必要も無いのですカピ」
「異世界? 異世界って、異世界?」
「え、ごめんなさい、異世界って本当に存在するものなの?」
「俄には信じられないが、だが本当の事なのだな?」
「はい。原因とかは未だに判らないんですが、気付いたらこの世界にいて、ロロアとロロアのお師匠さんに助けて貰いました」
「へぇぇ、異世界の人って初めて見たぁ。でも俺たちと変わらないねぇ」
スコットが興味深げな表情で浅葱を見つめる。
「同じですよ。僕の世界では動物は喋りませんけどね。ケチャップとウスターソースは僕の世界の調味料です」
「じゃあ俺たちは、内臓食も調味料も、貴重な経験をしていると言う事になるのだな! アサギくん、ありがとう!」
「いえいえ、とんでも無いです」
バットが深々と頭を下げたものだから、浅葱は照れながら焦ってしまう。
「でも内臓、ホルモンって面白いねぇ。こんないろいろな味と食感があるんだねぇ」
「確かに面白いな! 今まで捨ててたのが勿体無かったな!」
「こうして食べてみると、本当にそう思う。さっきアサギくんの手際を見て粗方覚えたから、今度作ってみるわね」
「それは楽しみだねぇ」
これまで赤身部分だけを食べて来た人たちにとって、ホルモンは未知の味だ。浅葱の中では美味しいと確信があったものの、多少の不安もあった。だがどれも喜んで貰えた様で一安心だ。
「あの、またホルモン譲って貰いに来て良いですか?」
「勿論良いよぉ。1頭から結構な量が取れるからねぇ。俺たちだけじゃあ食べ切れないからねぇ」
「ありがとうございます」
これでホルモンが食べられる様になった。赤身も勿論美味しいが、ホルモンはまた違った旨味が詰まっている。浅葱は嬉しくなり、ふんわりと笑みを浮かべた。
次にレバの臭み取り。血の塊を取り除いて流水で洗い、水分を拭ったらしっかりと浸かる程の牛乳に浸しておく。
ココロも流水で血抜きしておく。
玉葱を擦り下ろし、やや小さめの一口大にカットしたタンを漬け込む。
そうしていると、テールの湯が沸いたので、そこにツラミとレバ、タン以外のホルモン類を入れる。全て料理に適したサイズにカット済みである。余分な脂などが出たらボウルに引き上げて、水で綺麗に洗っておく。
続けて野菜の下拵え。にんにく、生姜、玉葱を微塵切りにし、トマトは荒微塵切りに。
さて、鍋にオリーブオイルを引き、にんにくと生姜を弱火でじんわりと炒める。香りが立ったら玉葱を入れ、透明になるまで炒める。そこに茹でたホルモンを入れてさっと炒め、赤ワインを入れ、しっかりと煮詰めてアルコールを飛ばす。
牛乳から引き上げたレバの水分を拭き取り、適当なサイズにカットして鍋に加える。ツラミも入れる。
レバとツラミに火が通ったらトマトとブイヨンを入れ、塩で調味して、ローリエを乗せて煮詰めて行く。
玉葱からタンを引き上げ、まだテールが茹でられている鍋に入れて茹でる。
もうひとつ鍋を用意する。そこに家から持ち込んだトマトケチャップとウスターソース、赤ワイン、ブイヨンを入れ、火に掛ける。
くつくつと沸いたら、タンを入れる。贅沢にも根元の部分をたっぷりと使う。ローリエも乗せて、煮込んで行く。
さて、テールである。下茹でが出来たそれを水で綺麗に洗う。肉と骨の間にある血液もしっかりと絞り出す様にして。
それを、沸いたブイヨンの鍋に入れ、スライスした玉葱と千切りの生姜も加えて煮込む。
後は、時間が調理をしてくれる。それぞれ焦げ付いたり煮詰まり過ぎたりしない様に弱火にしておこう。テールの鍋だけは中火で。こまめに灰汁も取らなければ。
1時間程が経った。そろそろ仕上がって来る頃だ。テールやタンなどは本来ならもっと時間を掛けて煮込むものだが、今日はそう時間が取れない。なので本来より小さめにカットする事でカバーしていた。
それぞれの味を見て、塩と胡椒で味を整えて。
タンの鍋には、彩りに塩茹でしたえんどう豆を散らして。
「出来ました!」
浅葱が声を上げると、「わぁ」と言う声とともにロロアたちが寄って来た。
メインはずっと浅葱の傍にいて、浅葱の手元を凝視しながら洗い物などを手伝ってくれていた。
器に盛られ、ほかほかと湯気を上げるのは、ホルモンのトマト煮込み、タンシチュー、テールスープである。
「うわぁ、美味しそうだねぇ!」
「本当ですカピ。とても良い香りがしていますカピ」
「本当だな。こりゃあ旨そうだ」
「だよね。私作っているところをずっと見てたけど、美味しそうになって行くの、凄く不思議な感じだった。ごめんなさい」
「良かった。味も気に入ってくれると嬉しいな。早速食べましょう」
「食べよう食べよう。楽しみだなぁ」
スコットの嬉しそうな声に、全員が台所の脇にある大きな木製のテーブルに着く。が、おや?
「もうひとりの人は?」
「あっ! 呼んで来ます、ごめんなさい!」
メインがガタッと音を立てて立ち上がり、慌てて部屋を出て行く。そしてひとりの体躯の良い男性を伴って、間も無く戻って来た。
「内臓の料理が出来たのだって? それは楽しみだなぁ!」
「パット、お疲れぇ。アサギが美味しそうなのを作ってくれたよぉ」
パットと呼ばれた快活な男性は、そのほんのりと肥えた腹を揺らしながら「はっはっは」と豪快に笑う。
「じゃあ頂くとしようか!」
そう言って椅子に掛ける。続いてメインも。
神に祈りを捧げ、浅葱たちは「いただきます」をして、「では!」とスプーンを手にする。
まずはテールスープから。
ずず、と音を立てて椀から直接飲む。するとあちらこちらから「ふわぁ~」と声が漏れた。
「優しい味だぁ……なのに奥深いと言うか、何と言ったら良いのかなぁ」
「コクがあるんだな。これは確かに旨い。牛の尻尾からこんな旨味が出るもんなのか? なのに臭みは全く無い」
「お肉はどうなのかしら。美味しそう。でも骨が凄いのね。でも、あら? 簡単に離れちゃった」
メインが身と骨の間にスプーンを入れたのだろう。短時間でも柔らかくなる様にカットしたテールはとろとろになっている筈だ。
「本当だな! どれ、味はどうだ?」
パットが身を口に運び、「んん!」と眼を見開いた。
「とろっとろだな! 骨周りの白い部分がとろっとろだ! 赤いところはほろほろに柔らかくて。どうなっているのだこれは!」
「本当、とろとろで旨いな。まさか尻尾がこんなになるなんてなぁ」
「凄いねぇ。本当に美味しいねぇ」
「美味しいですカピ! 柔らかくて、お味が濃いですカピ」
「本当ね。こんなに美味しいのね。えっと、尻尾、なんだけど、えっと、ごめんなさい、テールって言った方が良いのかしら」
「そうだねぇ。そう呼んだ方が美味しい気がするねぇ」
「じゃあお次は、トマト煮込み行こうかな。アサギ、これは?」
「いろいろな種類のホルモンが入ってるよ。味と食感をひとつずつ楽しんでみて」
「よっし。じゃあ、この白いのは……」
カロムがスプーンで掬い、口へ。噛み、まずは眼を輝かせ、次に首を傾げる。
「ん? 味は旨い。凄い甘みで味わい深い。けど噛み切れんな」
「ああ、じゃあチョウかな。脂が美味しい部位なんだ。確かに美味しいけど、噛み切るのは諦めた方が良いよ。良く噛んで柔らかくしてから飲み込んでね」
「成る程な。おお、噛み締める程に旨いと言うか。これはなかなか」
カロムは言いながら満足げに口を動かす。
「こちらの白いのはどうかな?」
そう言ってバットがスプーンを口に運ぶ。
「おお、こちらは噛み切れたぞ! 味は、何だかさっぱりとしているな?」
「じゃあミノですね。胃袋です。淡白な味で、食感が良いんです」
「確かに面白い食感だ」
「じゃあごめんなさい、私は、この赤いのを」
口に入れ、咀嚼し、メインは「へぇ」と漏らす。
「口の中でほろっと解ける。そしてねっとりと甘いわ」
「じゃあレバでしょうか。鉄分たっぷりで、女性が食べると良いとされています」
「ごめんなさい何を言っているのか良く判らないけど、美味しいわ。ごめんなさい」
確かにこの世界の人に、鉄分だ何だと言っても解らないだろう。
「では、僕はこの黒いのに挑戦してみますカピ」
ロロアがそう言って眼の前のものに齧り付く。
「これもまた、面白い食感ですカピ。味は殆ど無い様な感じなのですカピが、何だか癖になるのですカピ」
「センマイだね。確かに味はかなり淡白だから、こうした煮込みにしたら、食感を楽しむのがメインになるかも」
「赤いのもうひとつあったよねぇ。少し淡い色の。これはどうかなぁ?」
そうして口にするスコット。咀嚼して「へぇぇ」と口角を上げる。
「ほんのりと甘いねぇ。さっぱりもしてるんだけど。歯応えはしっかりしてるかなぁ? これも面白いねぇ」
「ココロですね。レバに近い感じがしつつも、歯応えもあって、味はどちらかと言うと淡白な方なんですよ」
「じゃあ最後に、舌、ううん、タンだねぇ」
スコットが言い、フォークを刺す。
「あぁ、柔らかいねぇ」
そうして口へ。そして眼を見開く。
「柔らかいし、このソース初めて食べる味だぁ」
「デミグラスソースって言うんです。野菜やお肉なんかを煮込んで作るソースです。凄く手間暇掛かるんですけど、今日は簡単な作り方で」
「へぇぇ、複雑な感じもするけど、こういうのもコクって言うんだねぇ。タンの味が更に増してる気がするなぁ。て言うかタンってこんなに美味しいものなんだねぇ。これは驚きだぁ。確かに例え用が無いかもねぇ」
「確かにタンもだが、このソースも旨い。トマトケチャップとウスターソースを合わせてたな?」
手伝いはメインに任せていたが、カロムも近くで浅葱の作業を見ていたのである。
「うん。それにブイヨンと赤ワインね。お肉と合うソースなんだよ。特に牛肉が良いかなぁ」
「そのトマトケチャップとウスターソースと言うのがそもそも判らない……ごめんなさい」
「調味料です。トマトケチャップはトマトを煮詰めて作ります。ウスターソースは野菜とかスパイスとかを煮て作るんです」
「初めて聞くものばかりだが、アサギくん、君はこの国の外から来たとかかい?」
異世界から来ました、と言って良いものか。浅葱がバットの問いの返事に窮していると、ロロアが「あの」と口を開いた。
「アサギさんは、異世界から来られた方なのですカピ」
何気無く言われた台詞に、スコットたちは「え?」と驚き顔で首を傾げる。
「え、こういうのって言っちゃっても大丈夫なものなの?」
「大丈夫ですカピよ。公言する事でも無いのですカピが、秘密にする必要も無いのですカピ」
「異世界? 異世界って、異世界?」
「え、ごめんなさい、異世界って本当に存在するものなの?」
「俄には信じられないが、だが本当の事なのだな?」
「はい。原因とかは未だに判らないんですが、気付いたらこの世界にいて、ロロアとロロアのお師匠さんに助けて貰いました」
「へぇぇ、異世界の人って初めて見たぁ。でも俺たちと変わらないねぇ」
スコットが興味深げな表情で浅葱を見つめる。
「同じですよ。僕の世界では動物は喋りませんけどね。ケチャップとウスターソースは僕の世界の調味料です」
「じゃあ俺たちは、内臓食も調味料も、貴重な経験をしていると言う事になるのだな! アサギくん、ありがとう!」
「いえいえ、とんでも無いです」
バットが深々と頭を下げたものだから、浅葱は照れながら焦ってしまう。
「でも内臓、ホルモンって面白いねぇ。こんないろいろな味と食感があるんだねぇ」
「確かに面白いな! 今まで捨ててたのが勿体無かったな!」
「こうして食べてみると、本当にそう思う。さっきアサギくんの手際を見て粗方覚えたから、今度作ってみるわね」
「それは楽しみだねぇ」
これまで赤身部分だけを食べて来た人たちにとって、ホルモンは未知の味だ。浅葱の中では美味しいと確信があったものの、多少の不安もあった。だがどれも喜んで貰えた様で一安心だ。
「あの、またホルモン譲って貰いに来て良いですか?」
「勿論良いよぉ。1頭から結構な量が取れるからねぇ。俺たちだけじゃあ食べ切れないからねぇ」
「ありがとうございます」
これでホルモンが食べられる様になった。赤身も勿論美味しいが、ホルモンはまた違った旨味が詰まっている。浅葱は嬉しくなり、ふんわりと笑みを浮かべた。
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