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4章 偏食お嬢さんと、血液を作るご飯
第11話 この辺の部分をメインに使ったら良いんじゃ無いか?
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さて日を改めて、浅葱たちはまたルビアの家へ。約束の牛ヒレ肉の赤ワイン煮込みを作る為だ。
今日のルビアは、バナナがたっぷり入ったパウンドケーキを焼いて待ち構えていた。その持て成しを逃れる事は難しい。
紅茶を淹れて貰い、いただいたそれはしっとりと程良い甘さ、しっかりとしたバナナの風味で、とても美味しかった。
そして漸く調理に取り掛かる。ルビアは紙片と鉛筆を片手に。カロムは手伝いを。
「これが、牛肉の脂が少ない部分です」
商店で買って来た牛ヒレ肉の包みを開くと、赤く艶々とした細長い肉が現れる。
「ああ、本当だ。綺麗な肉だねぇ」
「脂が無い分他の部位よりはあっさりしてますが、柔らかくて美味しいですよ」
「この前いただいた豚みたいな?」
「そこはやっぱり牛肉なので、味はちゃんと牛肉なんですけどね。最初は鶏、次に豚、今回は牛と、お肉の癖が強くなって来てるんですけど、徐々に段階を踏んだので、牛も大丈夫だと思うんですけど」
「で、牛が1番貧血に効くんだね?」
「そうです。お肉の中ではこの前ペーストを作った豚のレバが1番ですが、レバの食べ過ぎは良く無いので、お腹一杯食べるのなら牛肉が良いと思います。もし駄目だったら、ほうれん草や鮪なんかを積極的に食べさせてあげてください」
「成る程ね。ならこの牛肉を美味しく食べて貰える様に願うよ。そうしたらメニューの幅も広がるだろうからね」
「じゃあ作って行きましょう」
まずは野菜の準備。玉葱と人参を角切りにし、にんにくは微塵切りに。
鍋にオリーブオイルを引き、にんにくを弱火で炒め、香りが出たら玉葱を入れる。
玉葱から甘い香りが立ち透明感が出て来たら、人参を入れてさっと炒める。
そこにブイヨンをひたひたに入れ、ことことと煮て行く。
次にフライパンを用意する。中火に掛けて、オリーブオイルを引いたら、一口大にカットして塩胡椒で下味を付けた牛ヒレ肉を焼き付けて行く。
全面に焼き色が付いたらブイヨンの鍋に移す。
空になったフライパンに赤ワインを入れる。煮詰めながら底に付いた肉の旨味をしっかりとこそげ取り、これもブイヨンの鍋へ。
ローリエとタイムを乗せて、弱火で煮て行く。
「今回は簡単に作ってみました。でもお肉の焼き付けだけはきちんと」
「それが大事なんだね」
「そうです。後はっと」
ブロッコリ小房に切って塩茹でしておく。仕上げに加えるのだ。
「後は煮上がるのを待つだけです。トマト煮込みよりすこし時間を掛けて煮詰めて行きたいですね。マリアさんたちはそろそろお帰りですか?」
「ああ、そうだね。オーランドは今日は遅いけど、マリナとマルスはいつもの通りさ。ま、煮上がるまで珈琲でも淹れようかね」
カロムのお陰で洗い物はすっかりと終わっている。ルビアは棚からドリッパを取り出した。
さて、仕事から返って来たマリアとマルス、そしてルビアの前にはほかほかと湯気が上がる皿が置かれる。
塩茹でブロッコリを入れて仕上げた、牛ヒレ肉の赤ワイン煮込みである。
マリナは相当楽しみにしていた様で、帰って来るなり「ただいま! 赤ワイン煮!」と叫びながら飛び込んで来た。
マルスは「姉ちゃん……」と呆れ、ルビアは「こらっ、お行儀悪いよ!」と窘め、浅葱たち3人は顔を見合わせ、「はは」「ふふ」と笑みを零した。
「今回は牛肉なんだよね? 脂身は大丈夫?」
「勿論。脂身の少ない部分を使ってるよ。この前の豚が食べられたんだから、牛も大丈夫だと思うんだ。牛肉だから味は牛肉だよ」
「牛肉なんて本当に何年振りに食べるかなぁ。じゃあいただきます!」
「マリナ! 感謝を忘れるんじゃ無いよ」
「おっとそうだった。どうしてもアサギくんのご飯の前だと忘れちゃうんだよねぇ」
「気持ちは解るよ。私もこれまでうっかりしていたよ」
マリナ、そしてマルスとルビアも感謝を捧げ、顔を上げると早速スプーンを手にした。
「ルビアさんたちが感謝を捧げるの、初めて見た気がする」
浅葱がロロアとカロムにそう耳打ちすると、ふたりは「まぁ」と苦笑する。
「しない人もいるんだぜ。マリナたちの場合はただのうっかりみたいだがな。アサギの料理を前にしたら、そりゃあ気も急くだろうさ」
「人それぞれなんだ」
「それぞれですカピね」
「ま、祈らなくても食える事に感謝はしてるから、良いんじゃ無いか?」
「そんなものなのか」
「そんなもんだ」
浅葱たちがひそひそとそんな話をしている内に、煮詰めた赤ワインを纏った牛ヒレ肉はマリナの喉をするりと通過していた。
「食べられた! 美味しく食べられた! 美味しい! 本当に柔らかいね!」
嬉しそうにマリナはそう声を上げる。
「確かに脂身のある肉よりも淡白だとは思うけど、煮込みの味がちゃんとしてるからか、味気無いとかそんなのは全然無いんだねぇ」
ルビアが感心した様に言うと、マルスも「うんうん」と頷く。
「本当だ。脂身が無くても充分に旨い。いや、噛めば噛むほど旨味が出るのは豚と一緒だ。これだったら姉ちゃんも食べられるんだし、鶏も豚も、この辺の部分をメインに使ったら良いんじゃ無いか?」
「そうだねぇ。でもたまには脂の部分も食べたくなるだろうから、その時は途中で分けたら良いんだよね。焼き付けも先に脂の少ない方をすれば、肉の脂は回らないからね」
ルビアが言うと、マリナは弾かれた様に立ち上がった。
「姉ちゃん?」
「お母さんごめん。いつもそうやって面倒掛けてたんだよね。何で私今まで何も思わなかったんだろう」
マリナが言うと、ルビアは小さく息を吐いた。
「まぁね、最初こそ面倒だったけど、最近はオーランドもマルスも美味しいって言ってくれる様になったからね。料理も楽しいと思える様になって来たし、まぁ良いよ」
「それはさ」
それまで口を開かなかったカロムが言う。
「マリナも、多分マルスもオーランドおじさんも、ルビアおばさんに飯作って貰って当たり前だってどっかで思う様になっちまってたって事だと思うぜ。マリナの場合は嫌いなものが多かったから、それを食わんって事に意識が向いて、余計にな。だから「旨い」って簡単な台詞が出なかったりな。確かにおばさんは今家にいるけどよ、お前さんらもたまには手伝うとかしたらどうだ。マリナもマルスもこれから先どうするつもりなのか知らんが、結婚とかになったら夫婦で協力してかにゃならんからな」
カロムの台詞に、マリナもマルスも神妙に頷いた。
「そうだよね。結婚は相手いないしまだ考えられないけど、結婚してもしなくても、そういうのは出来なきゃ駄目だよね。うん、頑張ってみる」
「俺も手伝いとかしてみようかな。将来結婚出来た時に、奥さんに呆れられたく無いからな」
「そりゃあ助かるね。じゃあこの皿の洗い物から、早速鍛えようかね!」
ルビアが豪快に笑うと、マリナたちは「お手柔らかにお願いね」と苦笑を浮かべた。
「そっか、この世界では夫婦は助け合うのが普通なんだね」
「アサギさんの世界では違うのですカピか?」
「家庭によると思う。助け合う夫婦もいるし、家事育児を全部奥さんに丸投げって男性もいる」
「何だそりゃ」
カロムが顔を顰めると、浅葱は苦笑するしか無い。
「勿論それが良いなんて僕は思わないけどね。だからこの世界は良いなって思うよ」
「この世界を気に入ってくださったのなら嬉しいですカピ」
「そうだな」
さて話は逸れてしまったが、マリナは無事牛肉まで到達した。脂身の少ないささみやヒレ肉だが、本人が望むのなら徐々に脂身に慣れて行ったら良い。
他の苦手だと言っていた野菜も下拵えの一手間で食べられるものが増えたそうだし、このまま改善して行ければ、貧血もかなり改善すると思われる。勿論薬も欠かさず飲んで貰って。
「もうさ、この前みたいなしんどいのはご免だから、少しぐらい苦手だと思っても頑張って食べるよ」
「ああ、頑張れ」
カロムに言われ、マリナは「うん!」と力強く頷いた。
今日のルビアは、バナナがたっぷり入ったパウンドケーキを焼いて待ち構えていた。その持て成しを逃れる事は難しい。
紅茶を淹れて貰い、いただいたそれはしっとりと程良い甘さ、しっかりとしたバナナの風味で、とても美味しかった。
そして漸く調理に取り掛かる。ルビアは紙片と鉛筆を片手に。カロムは手伝いを。
「これが、牛肉の脂が少ない部分です」
商店で買って来た牛ヒレ肉の包みを開くと、赤く艶々とした細長い肉が現れる。
「ああ、本当だ。綺麗な肉だねぇ」
「脂が無い分他の部位よりはあっさりしてますが、柔らかくて美味しいですよ」
「この前いただいた豚みたいな?」
「そこはやっぱり牛肉なので、味はちゃんと牛肉なんですけどね。最初は鶏、次に豚、今回は牛と、お肉の癖が強くなって来てるんですけど、徐々に段階を踏んだので、牛も大丈夫だと思うんですけど」
「で、牛が1番貧血に効くんだね?」
「そうです。お肉の中ではこの前ペーストを作った豚のレバが1番ですが、レバの食べ過ぎは良く無いので、お腹一杯食べるのなら牛肉が良いと思います。もし駄目だったら、ほうれん草や鮪なんかを積極的に食べさせてあげてください」
「成る程ね。ならこの牛肉を美味しく食べて貰える様に願うよ。そうしたらメニューの幅も広がるだろうからね」
「じゃあ作って行きましょう」
まずは野菜の準備。玉葱と人参を角切りにし、にんにくは微塵切りに。
鍋にオリーブオイルを引き、にんにくを弱火で炒め、香りが出たら玉葱を入れる。
玉葱から甘い香りが立ち透明感が出て来たら、人参を入れてさっと炒める。
そこにブイヨンをひたひたに入れ、ことことと煮て行く。
次にフライパンを用意する。中火に掛けて、オリーブオイルを引いたら、一口大にカットして塩胡椒で下味を付けた牛ヒレ肉を焼き付けて行く。
全面に焼き色が付いたらブイヨンの鍋に移す。
空になったフライパンに赤ワインを入れる。煮詰めながら底に付いた肉の旨味をしっかりとこそげ取り、これもブイヨンの鍋へ。
ローリエとタイムを乗せて、弱火で煮て行く。
「今回は簡単に作ってみました。でもお肉の焼き付けだけはきちんと」
「それが大事なんだね」
「そうです。後はっと」
ブロッコリ小房に切って塩茹でしておく。仕上げに加えるのだ。
「後は煮上がるのを待つだけです。トマト煮込みよりすこし時間を掛けて煮詰めて行きたいですね。マリアさんたちはそろそろお帰りですか?」
「ああ、そうだね。オーランドは今日は遅いけど、マリナとマルスはいつもの通りさ。ま、煮上がるまで珈琲でも淹れようかね」
カロムのお陰で洗い物はすっかりと終わっている。ルビアは棚からドリッパを取り出した。
さて、仕事から返って来たマリアとマルス、そしてルビアの前にはほかほかと湯気が上がる皿が置かれる。
塩茹でブロッコリを入れて仕上げた、牛ヒレ肉の赤ワイン煮込みである。
マリナは相当楽しみにしていた様で、帰って来るなり「ただいま! 赤ワイン煮!」と叫びながら飛び込んで来た。
マルスは「姉ちゃん……」と呆れ、ルビアは「こらっ、お行儀悪いよ!」と窘め、浅葱たち3人は顔を見合わせ、「はは」「ふふ」と笑みを零した。
「今回は牛肉なんだよね? 脂身は大丈夫?」
「勿論。脂身の少ない部分を使ってるよ。この前の豚が食べられたんだから、牛も大丈夫だと思うんだ。牛肉だから味は牛肉だよ」
「牛肉なんて本当に何年振りに食べるかなぁ。じゃあいただきます!」
「マリナ! 感謝を忘れるんじゃ無いよ」
「おっとそうだった。どうしてもアサギくんのご飯の前だと忘れちゃうんだよねぇ」
「気持ちは解るよ。私もこれまでうっかりしていたよ」
マリナ、そしてマルスとルビアも感謝を捧げ、顔を上げると早速スプーンを手にした。
「ルビアさんたちが感謝を捧げるの、初めて見た気がする」
浅葱がロロアとカロムにそう耳打ちすると、ふたりは「まぁ」と苦笑する。
「しない人もいるんだぜ。マリナたちの場合はただのうっかりみたいだがな。アサギの料理を前にしたら、そりゃあ気も急くだろうさ」
「人それぞれなんだ」
「それぞれですカピね」
「ま、祈らなくても食える事に感謝はしてるから、良いんじゃ無いか?」
「そんなものなのか」
「そんなもんだ」
浅葱たちがひそひそとそんな話をしている内に、煮詰めた赤ワインを纏った牛ヒレ肉はマリナの喉をするりと通過していた。
「食べられた! 美味しく食べられた! 美味しい! 本当に柔らかいね!」
嬉しそうにマリナはそう声を上げる。
「確かに脂身のある肉よりも淡白だとは思うけど、煮込みの味がちゃんとしてるからか、味気無いとかそんなのは全然無いんだねぇ」
ルビアが感心した様に言うと、マルスも「うんうん」と頷く。
「本当だ。脂身が無くても充分に旨い。いや、噛めば噛むほど旨味が出るのは豚と一緒だ。これだったら姉ちゃんも食べられるんだし、鶏も豚も、この辺の部分をメインに使ったら良いんじゃ無いか?」
「そうだねぇ。でもたまには脂の部分も食べたくなるだろうから、その時は途中で分けたら良いんだよね。焼き付けも先に脂の少ない方をすれば、肉の脂は回らないからね」
ルビアが言うと、マリナは弾かれた様に立ち上がった。
「姉ちゃん?」
「お母さんごめん。いつもそうやって面倒掛けてたんだよね。何で私今まで何も思わなかったんだろう」
マリナが言うと、ルビアは小さく息を吐いた。
「まぁね、最初こそ面倒だったけど、最近はオーランドもマルスも美味しいって言ってくれる様になったからね。料理も楽しいと思える様になって来たし、まぁ良いよ」
「それはさ」
それまで口を開かなかったカロムが言う。
「マリナも、多分マルスもオーランドおじさんも、ルビアおばさんに飯作って貰って当たり前だってどっかで思う様になっちまってたって事だと思うぜ。マリナの場合は嫌いなものが多かったから、それを食わんって事に意識が向いて、余計にな。だから「旨い」って簡単な台詞が出なかったりな。確かにおばさんは今家にいるけどよ、お前さんらもたまには手伝うとかしたらどうだ。マリナもマルスもこれから先どうするつもりなのか知らんが、結婚とかになったら夫婦で協力してかにゃならんからな」
カロムの台詞に、マリナもマルスも神妙に頷いた。
「そうだよね。結婚は相手いないしまだ考えられないけど、結婚してもしなくても、そういうのは出来なきゃ駄目だよね。うん、頑張ってみる」
「俺も手伝いとかしてみようかな。将来結婚出来た時に、奥さんに呆れられたく無いからな」
「そりゃあ助かるね。じゃあこの皿の洗い物から、早速鍛えようかね!」
ルビアが豪快に笑うと、マリナたちは「お手柔らかにお願いね」と苦笑を浮かべた。
「そっか、この世界では夫婦は助け合うのが普通なんだね」
「アサギさんの世界では違うのですカピか?」
「家庭によると思う。助け合う夫婦もいるし、家事育児を全部奥さんに丸投げって男性もいる」
「何だそりゃ」
カロムが顔を顰めると、浅葱は苦笑するしか無い。
「勿論それが良いなんて僕は思わないけどね。だからこの世界は良いなって思うよ」
「この世界を気に入ってくださったのなら嬉しいですカピ」
「そうだな」
さて話は逸れてしまったが、マリナは無事牛肉まで到達した。脂身の少ないささみやヒレ肉だが、本人が望むのなら徐々に脂身に慣れて行ったら良い。
他の苦手だと言っていた野菜も下拵えの一手間で食べられるものが増えたそうだし、このまま改善して行ければ、貧血もかなり改善すると思われる。勿論薬も欠かさず飲んで貰って。
「もうさ、この前みたいなしんどいのはご免だから、少しぐらい苦手だと思っても頑張って食べるよ」
「ああ、頑張れ」
カロムに言われ、マリナは「うん!」と力強く頷いた。
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