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7章 痩せたいお嬢さんのダイエットご飯

第3話 そう難しい事とは思えんのだがのう

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 完成した煮込みを3人で食堂に運び、すでにテーブルに着いているアントンたちの前に置いた。

「おお、こりゃあ旨そうじゃのう」

「本当ですねぇ。減量って言うので、もっと淡白と言いますか、量も少ないのを想像していたんですが」

「食べながら説明しますね。ではいただきましょう」

 そうして浅葱あさぎたちも椅子に掛け、神に感謝を捧げ、いただきますをする。

 スプーンで煮込みとカリフラワを絡めてすくい、口へと運ぶ。

 一見ばらばらの様に思える具材が、トマトと玉葱たまねぎで素晴らしくまとめられている。どれもこれらに合う食材なのだ。当然である。

 ほろりと崩れる燻製豚ベーコン、しゃきしゃきのしめじ、ほっくりとした大豆、ほうれん草の適度な歯応え。

 それを米に見立てたカリフラワと食べると、トマトの酸味が更に和らぎ、優しい味わいになる。

「美味しい……! やっぱりアサギさんの作るお料理は美味しいです!」

 ルーシーが満足げにうっとりと眼を細めると、その横でウォルトも、嬉しそうにうんうんと頷く。

 カリーナは仏頂面のままだったが、少しばかり口角が上がっている様な気がする。

「本当ですねぇ。私たちも先日のホルモンをいただいたんですよ。家でもルーシーに作って貰ってね。それが本当に美味しくて凄いねぇって話をしていて。またアサギくんの料理をいただける機会があれば嬉しいねって言っていたんですが、まさかこんな事になるとは」

「それも勿論嬉しいんですが、さっきも聞きましたけど、こんなに食べて大丈夫なんですか?」

「はい。むしろちゃんと食べないといけません。太りにくい食材を腹八分目にるのが理想です」

「この白い粒々の、ぱっと見お米かと思ったんですけど、違うんですよね? これは何ですか?」

「カリフラワを微塵みじん切りにしたものです。お米に見立ててます」

 カリフラワーライスは減量、ダイエット方法として浅葱の世界で知られているものだ。カリフラワの淡白な味とその食感の特徴を活かしたものである。

 ただやはりカリフラワの風味はあるので、今回のトマト煮込みの様に、しっかりとした味のものと合わせるのが良いだろう。

「ルーシーさんはお米がお好きなので。ただ、やっぱり味はカリフラワですしね。ここまでしてお米に拘らないのなら、次からはカリフラワも普通に切ります」

「う~ん」

 ルーシーは唸り、首を傾げた。

「こうして煮込みと食べると、確かにお米っぽいなと思います。でもこれって手間が掛かりますよね?」

「まぁ、少しは」

 浅葱は小さく苦笑する。

「なら普通に切ってください。あの、またお米を食べられる様になるんですよね?」

「はい。この10日を越したら、お米復活です。量は前よりもかなり減らして貰うのですが」

「ならそれまで我慢します。大丈夫です。気を使ってくださって、ありがとうございます」

 ルーシーがそう言って笑顔を寄越してくれるので、浅葱も笑みを浮かべた。

「いえいえ」

「でもそうかぁ。成る程、お米の代わりにカリフラワを使うんですね。これは微塵切りにしてから、どうするんですか? 煮るんですか?」

「お湯で茹でます。1分も要りません。で、ざるに上げてしっかりと水分を切って、そのまま粗熱を取ります」

「へぇ、微塵切りは大変そうだけど、後は楽なんですね。あ、カリフラワがあるから、こんなに食べても大丈夫って事なんですか?」

「勿論カリフラワも大事なんですけども、毎日食べなきゃならないものでは無いです。ええと、食べたら良いもの、と言うよりは、控えた方が良いって言う食べ物があるんです。お米は言いましたよね。後は小麦。なのでパンとパスタ、お菓子も控えます。後は馬鈴薯じゃがいも南瓜かぼちゃ玉蜀黍とうもろこしとか。砂糖も。これらは人間が動く為のエネルギーが多く含まれているんです」

「じゃあそれは必要なものなんじゃ無いんですか?」

「必要です。ですが、それが過剰かじょうになってしまうと、体内に溜まってしまうんです。そして太ってしまうんです。ルーシーさんはお米を沢山食べていたとの事なので、体内で余ってしまったんですね」

「ああ……成る程」

 ルーシーは合点がてんがいったと言う様に眼をぱちくりさせる。

「なので、まずはエネルギーを入れるのを抑えて、体内にある分を使うところから始めます。完全に止めるんでは無くて、控える、ですね。とりあえず、お米とパンとパスタは合宿中は我慢してください。で、食事の時間以外にお腹が空いてしまったら、ナッツ類を食べてください」

「ナッツは大丈夫なんですか?」

「食べ過ぎなければ大丈夫です。てのひらに軽く乗るぐらいを目安に。食べられない事がストレスになる方が良く無いですからね」

「ナッツ好きだから嬉しいです」

 ルーシーは言葉の通りに小さく笑みを浮かべた。

「この煮込みに使っている食材は、全て太りにくいものばかりです。エネルギーが少ないんですね。代わりに色々身体に良い栄養素が入っていますから。今は体内のエネルギーを使う事、それと食事中にごめんなさい、お通じが毎日ある様に身体を整える事です。大豆もしめじもほうれん草も、お腹に良いものです」

「そうなんだぁ……えいようそとかは良く解らないんですが、そう言うのがあるんですね」

「はい。後は、水分をたっぷり摂る事です。1日にコップ10杯ぐらい飲んで欲しいです。お酒やお茶じゃ無くて、お水が1番良いです」

 この世界には、珈琲コーヒーや紅茶など、カフェインが含まれている飲み物を飲む事が多い。だが、それだと逆に水分を排出してしまう。正しく水分摂取をして貰わなければ。

「お水で良いんですか?」

「はい、お水が良いんです。一気に飲む必要は無いので、1日掛けて飲んでください。その量は目安なので、汗をかいたりしたら喉も渇くでしょうから、もっと飲んでも大丈夫ですよ」

「どうして紅茶とかじゃ駄目なんですか?」

「珈琲や紅茶には利尿作用って言うのがあって、ええっと、また食事中にごめんなさい、おしっこが出やすくなってしまうんですよ。ちゃんと身体に吸収しづらいんですね。なのでお水にしてください」

「そうなんですね。はい。解りました」

 ルーシーはそう言って頷いた。

 そこで、それまで黙って聞いていたアントンが口を開く。

「聞いておると、そう難しい事とは思えんのだがのう。わしらが普段している事の様にも思えるのう。水はそこまで飲んでおらんがのう」

 浅葱は「はい」と応える。

「そうなんです。前にカロムとも話していたんですが、食のバランスが崩れるから太ってしまったり、腸内環境が悪くなったりするんです。お肉、お魚、お野菜、豆類、穀物なんかをバランス良く適量食べていたら大丈夫なんです。今回はスパルタなので穀物を控えますが」

「水を飲む効果は何かのう?」

「水分不足になると、極端な話なんですが体調を崩したりもするんですよ。この世界は今以上暑くならないと聞いたので、あまり神経質になる必要は無いと思いますが。今回の場合は体内の循環です。まずはお通じが良くなります。そして代謝が良くなるので脂肪が燃焼されて、体温が上がって、更に脂肪が燃やされて、の好循環を生みます。で、おトイレの回数も増えますが、その分老廃物、身体に溜まってしまう良く無いものが出て行きます。後、これは減量とは関係無いのですが、血液がさらさらになるので、身体にも良いですよ」

「おお」

 アントンが眼を丸くする。

「良い事づくめだのう」

「そうですね。気分が悪くなるまで飲む事は無いですが、意識して多めに飲んでみてください。ルーシーさん、普段はどれぐらい水を飲んでますか?」

「そう言われてみると、あまり飲んでいないなぁ……お仕事中は水分も摂らないですし、お家では紅茶ばかり飲んでました」

「お仕事中に飲む事が出来たら、適度に飲んでみてください。紅茶も代わりにお水にして貰って。一気に飲まない様に、少しずつゆっくり飲んでくださいね。あ、勿論紅茶禁止とかでは無いです。飲みたい時には飲んで貰って、お水もしっかりと」

「心掛けてみます」

 ルーシーが頷くと、アントンも「そうだのう」と声を上げる。

「儂も仕事中はとんと水分を取る事を忘れてしまうのう。気を付けねばのう」

「診察と診察の間に飲む様にしたら良いかもね、爺ちゃん」

「そうじゃな」

 そう話をする頃には、皆の皿は空き始めていた。浅葱は立ち上がる。

「食後に食べて欲しいものがあるので、持って来ますね」

 続いて立ったカロムとともに台所へ行き、まずは手早く林檎を皮ごと小さめの一口大に切る。

 その間にカロムが冷暗庫を開け、取り出したのはヨーグルト。それを器に入れ、浅葱が林檎を盛り、蜂蜜をとろりと掛けた。

「お待たせしました」

 食堂に運んで、皆に配る。

「林檎とヨーグルト、掛かっているのは蜂蜜?」

「はい。これもお腹の為のものです。ヨーグルトにはお腹に良い菌が含まれているんです。それを少しでも多く腸に運ぶ為に、食後に食べます。お腹が空いていたら、胃酸に負けちゃいますからね。蜂蜜にも林檎にも、お腹を整える効果があります」

「わぁ、甘いものまで食べられるのって嬉しい」

 ルーシーは甘い物が好きなのか、そう言って眼を輝かせた。

「そして食後は、少し落ち着いたら軽い運動です」

 そう言うと、ルーシーは身体を動かすのが好きでは無いのか、明らかにがっかりとした表情を見せた。
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