異世界転移料理人は、錬金術師カピバラとスローライフを送りたい。

山いい奈

文字の大きさ
73 / 92
7章 痩せたいお嬢さんのダイエットご飯

第13話 アサギさんを信じてましたから!

しおりを挟む
 ルーシーに電話をし、いも南瓜かぼちゃなどを解禁してから20日程後、今度はルーシーから電話があった。

「アサギさぁん、ここ5日程、体重が全く落ちなくなりました~」

 泣きそうな声だった。浅葱あさぎは「ああ……」とまなじりを下げる。

 予想していた通り、停滞期がやって来たのだ。

「1日ぐらいならそんな日があってもおかしくないと思ったんですが、4日5日ともなるとおかしいなって。もしかしてこれがアサギさんが仰っていた停滞期と言うものですか?」

「とうとう来ましたか。そうです、停滞期です」

「どうしたら良いんですか?」

「食生活などはどうしていますか? 減らなくなって変えたりしましたか?」

「ええと、一応合宿の時の様にお米とお芋を控えてみているんですが、これで大丈夫でしょうか」

 不安げな声。無理も無いだろう。

「はい。また体重が落ち始めるまでは、それで行きましょう」

「あの、また減る様になりますか?」

「なります。体重が急激に減って、今は身体が防衛反応を起こしているだけなんです。しばらくしたら身体がそれに慣れて、また減って行く様になります。大丈夫ですよ」

「あ、アサギさんがそう仰るのなら、信じて続けてみます」

 まだ声に戸惑いがあるが、それでもルーシーは浅葱を信じてくれた。

 浅葱は安堵しながら、それでも「大丈夫です。頑張りましょう!」と言うしか出来なかった。



 停滞期を突破する方法。それは実はもうひとつある。「チートデイ」と呼ばれる日を設ける事だ。

 「チート」は「だます、ずるをする・反則する」と言う言葉から来ており、その日だけは食事制限無しに好きに食べる事で「ちゃんと食べてるよ。飢餓きが状態じゃ無いよ」と身体を騙し、減量をうながすのだ。

 そうする事で代謝が良くなったり、栄養状態が整ったり、食事制限で感じているであろうストレスの軽減になったりする。

 そう言うと良い事づくめの様に思えるが、当然リスクもある。その解放された食生活から、また制限された食事に戻れるのかと言う事だ。

 これが、元々肉が好き、魚が好き、野菜が好きなら問題は少ないだろう。だがルーシーの好物は米なのだ。糖質制限ダイエットの大敵だ。

 「1日だけ、何でも好きな物を食べても良いですよ」。そう言うと、恐らくルーシーは大好きな米を多く食べるだろう。とすると、翌日から制限量に戻せるのかどうか。

 ルーシーなら大丈夫だと思う。10日一緒に生活をして、真面目まじめな性格だと言う事は解っている。だがここまで巧く行っているのに、リスクを負わせたく無い。

 なのでえて伝えなかったのだ。

 そう、ルーシーは真面目な女性なのだ。また体重が落ち始めるまで、糖質制限を真摯しんしに続けてくれるに違い無い。浅葱はそう信じている。



 それからまた15日程が経った夜、ルーシーから電話があった。

「また体重が減り始めました!」

 先日とは打って変わって嬉しそうな声。浅葱は心底安堵あんどし、ほっと胸をで下ろした。

「良かったです! 本当に頑張られましたね!」

「はい! アサギさんを信じてましたから!」

 そう言われると何とも照れ臭い。浅葱は「へへ」と小さくこぼした。

「ありがとうございます。ルーシーさんの頑張りが凄かったんです。本当に良かったです」

「こちらこそありがとうございます。あの、食事とかどうしたら良いんでしょう。またお米とかを戻しても大丈夫でしょうか」

「はい、大丈夫です。ゆっくり体重を減らして行きましょう。合宿中は痩せるのを実感して欲しくてスパルタしましたけど、出来るならゆっくり落とした方が良いです。目標の体重までまた停滞期が来るかも知れないですが、今回みたいに続けて行けば、また絶対に落ちますから。あ、目標体重になったら、ちゃんと普通のバランスの良い食事に戻してくださいね。お米の食べ過ぎは禁物ですが、体重が軽すぎたらそれはそれで身体に良く無いですからね。健康第一ですよ」

「はい。今63キロぐらいなんです。出来たら後10キロぐらいは落としたくて……でもあせりは禁物! なんですよね」

「はい。ルーシーさんもお米が食べられた方が嬉しいかな、と思いますし」

「はい、それはもう」

「なので、次の停滞期が来るまで、お米とかも有りの食事で。で、来てしまったら」

「お米とかお芋とかを抜く、ですね」

「はい」

「解りました。効果が出ているのが本当に嬉しいので、まだストレス無く続けられそうです。お水もたっぷり飲んでますよ。あの、お通じもほぼ毎日あります」

 最後は少し声が小さくなったが。

「良かったです。また何かあったら電話してください」

「はい。ありがとうございます。あ、それと、うちに来ていただいて食事を振る舞う約束、もうちょっと待ってくださいね。ごめんなさい。もう少し、もう少しで自信が付きそうなんです」

 少し焦った様なルーシーの声。浅葱は「ふふ」と小さく笑い声を上げた。

「そちらも焦らずに行きましょう。楽しみにしています」

 おっと、これはプレッシャーを与えてしまうだろうか。浅葱がはっと口元を抑えると、受話器からは「はい、頑張ります!」と明るい声が聞こえて来た。

 通話を切ると、カロムが「ルーシー調子良さそうじゃ無いか」と言った。浅葱の台詞で内容の予想が付いたのだろう。

「良かったですカピ」

 ロロアも嬉しそうだ。夕食の後、皆で珈琲コーヒーを楽しんでいたのである。

「うん。停滞期を無事乗り越えたって。本当に良かったよ」

 浅葱は言いながら椅子に戻り、マグカップを傾ける。珈琲はまだ熱さを保っていた。

「減量の為に好きなもん鱈腹たらふく食うの我慢して、それで成果が出なきゃあ心も折れるよな。良かったぜ、乗り切ってくれて」

「本当にルーシーさん頑張ってくれたよ。僕もほっとした」

「停滞期と言うものは、本当に怖いものなのですカピね。僕はお陰さまで今は減量の必要が無いので大丈夫かと思うのですカピが、気を付けなければと思いましたカピ」

むしろロロアは成長期なんだから、沢山食べて大きくならなきゃ」

「アサギの飯をバランス良く食ってたら、太らずに大きくなれるさ」

「そうですカピね。お師匠さまのところにいる時もそうだったのですカピが、こうしてお食事のお世話をしてくれる方がいると言うのは、本当に有難い事なのですカピね。僕ひとりだと好きなものばかり食べてしまいそうなのですカピ」

「ルーシーが正にその状態だった訳だがな。ウォルトとカリーナがいるから料理そのものはちゃんと作ってたんだろうが、自分の分を少なくして、その分米を増やしてたんだろうよ」

「そうだね。確かにオリーブさんの食事はバランスが取れていたよね。この世界の人たちはそういうの意識していないみたいだけど、本能的に無意識に献立こんだてを考えていたのかも知れないね。特に人に食べて貰うとなったら余計にね」

「俺も自分で自分が食べるものを作るんだったら、好きなものにかたよっちまうと思うが、他の人に食べて貰うとなったら、色んな食材を使うよな。俺は錬金術師の世話係だから特にな。ま、今はすっかりアサギに任せちまって助かってる訳だが」

「それは僕が好きでやってる事だからね。朝ご飯はカロムにお任せだし」

「それぐらいはな。ともあれルーシーの減量はこの調子で行ってくれりゃあ、問題無いって事だな」

「うん。後は目標体重まで頑張ってくれたら。ルーシーさんなら大丈夫だと思う」

「そうですカピね。ルーシーさんはとても真面目なお方なのですカピ。絶対に大丈夫なのですカピ」

「お、言い切るねぇ。錬金術師のお墨付きを貰ったんなら大丈夫だ」

 ロロアの自信満々な台詞に、カロムが少し揶揄からかう様に笑い、ロロアは「む」と少しふくれる。浅葱はおかしくなって、小さく笑みを浮かべた。



 それからルーシーは時折連絡をくれて、状況を教えてくれた。体重は順調に落ちている様だ。これなら目標体重まで問題無く減って行くだろう。

 食べたいものを全て我慢するのでは無く、ゆっくりでも確実に体重を落として行く健康的な減量。それが理想だと浅葱は思っている。

 ルーシーはそれを実現してくれている。上出来だ。

 この村の人たちは目立って肥満の人は見掛けないのだが、医療の観点などでも必要が出て来る事があるかも知れない。その時にまた役に立てたらな、と思う。

 今回はルーシーに喜んで貰えたので、それが本当に何よりだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪
ファンタジー
   日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。    そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。  しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。  高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。    確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。  だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。  まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。  ――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。  先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。    そして女性は信じられないことを口にする。  ここはあなたの居た世界ではない、と――  かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。  そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます! ※AI学習禁止・無断転載禁止・無断翻訳禁止・無断朗読禁止

【完結】うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

処理中です...