異世界転移料理人は、錬金術師カピバラとスローライフを送りたい。

山いい奈

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幕間7 筋肉を鍛えてみよう

それを有効活用出来たらと思ってんだよ

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「なぁ、アサギ」

「ん、なぁに?」

 それはルーシーの減量合宿が終わり、数回めの停滞期を乗り越えた頃の事。昼食の洗い物をしながらカロムが何気無く聞いて来た。

「ルーシーの減量って、言っちまえば肉体改造って事だよな」

「ああ、そうだよね」

「じゃあさ、筋肉を作る飯ってのも作れるものなのか? 何かそう言う食材とかさ」

「うん、あるよ。筋肉を作るには蛋白質たんぱくしつを中心にすれば良いから、鶏のささみとかかなぁ。でもカロム、そんなに筋肉付けたいの? 確かに普段から鍛えてるみたいだし、良い筋肉が付いてるなって感じするけど」

「そこまで執着してる訳じゃあ無いさ。けど俺は錬金術師の世話係だろ。いざと言う時にロロアと、勿論アサギを護れる様にしておきたいんだ」

「お世話係ってそんな事までするの?」

 浅葱あさぎが驚いて聞くと、カロムは「いやいや」と首を振る。

「人に寄ると思うぜ。世話係は家事能力と人格が重視されるからな。それに何かを足すかしないかは人それぞれだ。俺は昔から運動とか身体を鍛えるのが楽しかったから、それを有効活用出来たらと思ってんだよ」

「そっかぁ。頼もしいなぁ。じゃあ今日の晩ご飯、少し意識してお献立考えてみようか」

「そりゃあ助かる。頼むな」

「うん」

 そうしてふたりは洗い物を進めて行った。



 村で買い物を済ませ、夕飯作りである。手っ取り早く鶏のささみをたっぷり購入して来た。

「ささみかぁ」

 カロムが感心した様に、包装されたままのささみを持ち上げる。

「鶏肉の中で1番脂が少ない部位だけど、1番蛋白質が含まれてるんだよ」

「その蛋白質って言うのが筋肉を作る訳か」

「そう。今日はささみにしたけど、お魚とか大豆、卵、チーズとかの乳製品にも良い蛋白質が含まれてるよ。お肉だったらこのささみみたいに脂が少ないお肉が良いね。でも食べ過ぎは良く無いからね。かたよるのもね。ぶっちゃけて言うと、普段の食事とあまり変わらないかも」

「そうなのか?」

「うん」

 話をしながら、浅葱は調理を始める。先ずは人参を皮ごと乱切りにし、鍋で水から茹で始める。水が沸き始めたら塩を入れる。

 ブロッコリを小房こふさにしておき、人参に粗方あらかた火が通ったら鍋に加える。

「ええと、うちでも美味しいからって豚とかでもばら肉使う事あるでしょ。ああいうのをヒレとかの赤身肉に変えるだけで効果あると思うよ。それが減量の時とは違うよね。それと、お米とかパスタとかの炭水化物もちゃんと食べる事。運動とかするなら必要なものだからね」

「そっか、減量の時は過剰エネルギーを消費する為に控えてたが、運動をするなら必要だよな」

 人参ブロッコリともに火が通ったのでざるに上げて、同じ湯で今度はささみを茹でて行く。火加減を極弱火にし、湯の表面が静かになったらささみを入れる。

「でね、効果的なのが、運動をした1時間以内に食べるのが良いんだって」

「そうなのか? そんな時間帯があるのか?」

 カロムが驚いた様で、眼を見開く。

「うん。それが効率良く筋肉が鍛えられるんだって。カロムはいつ運動してるの?」

「家からこの家の往復走ってるのと、後は夜に腕立て伏せと腹筋と全身の屈伸をやってるかな」

「じゃあ朝は丁度良いとして、お昼は家事が運動代わりって無理があるかな」

「確かにあれぐらいじゃなあ。けど運動する時間も無いしなぁ」

「午前中は確かにねぇ。じゃあ晩ご飯の時、運動の時間を作ろうか。作った後に屈伸運動を皆でやろう」

「でも飯が冷めちまうだろ」

「少しぐらいなら大丈夫だよ。考えてみたらロロアも僕も運動不足だしね。それぐらいやっても良いと思う。それに身体を動かした後のご飯美味しいよ」

「はは、そうだな。じゃあそうさせて貰うか」

 次に大きめなボウルににんにくと玉葱たまねぎり下ろす。それに胡椒こしょう、白ワインビネガーとオリーブオイルを加えて混ぜて、ドレッシングを作っておく。

 ささみが茹で上がったので取り出し、粗熱あらねつが取れたら手で割いて行く。それを野菜と一緒にドレッシングのボウルに入れて良く和える。

「で、家に着いたらナッツとかチーズを軽く食べると良いよ」

「運動後の蛋白質ってやつだな。それぐらいなら手軽だから続けられるな」

 野菜とささみを茹でた湯にトマトの粗微塵あらみじん切りと、カレー用にブレンドしたスパイスを入れ、オリーブオイルを垂らしたら、ざく切りにした玉葱ときゃべつ、厚めにスライスしたマッシュルームとエリンギを入れて、弱火に掛けておく。

 盛り付けの前に研究室にいたロロアを呼び、食前の運動の事を伝えてみる。するとロロアは笑顔になった。

「それは良い案なのですカピ。僕も確かに運動不足なのですカピ。そう言えばラジオ体操をしていた時は、あまり感じなかったのですカピ。そう難しい事で無くても、解消出来るのですカピね」

「そうだな。ま、今からやろうとしているのは、ラジオ体操よりは少しきついかもだけどな」

「何ですカピか?」

「全身の屈伸運動だ。こうして両腕を前に伸ばして、上半身を真っ直ぐに保ったままひざを曲げて腰を下ろして行く、と」

 カロムが言いながら見せてくれた運動は、浅葱たちがスクワットと言っているものだった。これなら浅葱でも出来る。が。

「この運動って、ロロアって言うかカピバラでも出来るものなの?」

 浅葱が聞くと、ロロアは少し思案する様に眼を閉じる。

「そうですカピね……。カピバラの場合でしたら、2本足では無く、4本足でした方が全身運動になりそうですカピ。腕立て伏せに近くなってしまうのですカピが」

「成る程な。じゃあやってみるか。まずは10回。浅葱、しっかりと腰を落とせよ」

「うん」

 いーち、にーい、さーん、とカロムの掛け声に合わせてスクワット。

 しっかりと腰を落とせば落とす程、上半身を真っ直ぐに保つのは難しい。そして完全に落としてしまい座る様な格好になってしまえば効果は半減だ。

 浅葱は回を追う毎に全身を震わせ、少しカロムから遅れながらもどうにか10回やり切った。

「うわぁ~、久しぶりだったから結構身体に来るなぁ」

「本当ですカピね。自分の身体を支えると言うのはなかなか大変なのですカピ」

 浅葱とロロアが溜め息とともに言うと、カロムが「ははっ」と笑う。

「本当に運動不足だなぁ。だったら習慣付けたら良いかもな。うかうかしてたら身体もたるんじまうぜ」

「本当だ。もうご飯が冷めるかもなんて言ってられない。いや勿論出来立てが良いとは思うんだけど。こんなに体力が落ちてるなんて吃驚びっくりだよ。明日から晩ご飯の前には屈伸運動だ」

 浅葱が気合いを入れて言うと、ロロアも「はいカピ」と頷いた。

「僕も研究室にこもってばかりなのですカピ。それだときっといけないのですカピ。明日からも頑張るのですカピ」

「その意気だ。よし、じゃあ飯にしようぜ」

「うん。ロロア待っててね。すぐに持って来るから」

 ロロアは「はいカピ」と返事をすると、ひらりと椅子に上がった。

 浅葱とカロムは台所へ入り、冷暗庫を開いて和えておいたものを取り出して皿に盛って行く。

 葉物野菜を使っていないのと、既に火が通っているので、ドレッシングの様な塩分のあるものと和えておいても水っぽくならないのだ。代わりに馴染んで良い感じになっている。

 カレーの鍋はこれから仕上げである。火を強め、くつくつとして来たところに溶き卵を入れて、ふんわりと固めたら。

 茹でささみと野菜の玉葱ドレッシングのサラダと、きゃべつときのこと卵のカレースープ、完成である。

 食堂に運び、テーブルに料理を置いて行く。わくわく顔のロロア。皿を見て顔を輝かせた。

「今夜はサラダとスープなのですカピね! 玉葱のドレッシングが美味しそうですカピ! スープもお野菜がたっぷりなのですカピ」

「この献立になったのも理由があるんだよ。食べながら説明するね」

「はいカピ」

 神に感謝を捧げ、いただきますと手を合わせ。

 まずはスープを啜る。野菜とささみから出た出汁に加え、きのこの出汁がしっかりと出ており、それらと合わさったカレーの風味がきのこに含まれていて、噛むとじゅわっとスパイシーな旨味がにじむ。卵もふわふわである。

 玉葱ときゃべつは歯応えを残していてしゃきっとしていた。これらもカレー味に良く合う食材だ。

 サラダはあっさりといただける味付けだ。材料もシンプルで、カレースープと合わせると丁度良い。口の中をさっぱりとしてくれる。

 サラダとは言え、筋肉作りの為にささみを多めに入れたので、食べ応えがある。

 浅葱とカロムは口を動かしながら、ロロアに筋肉を鍛える食事の事やその摂り方などを説明した。

「成る程、そう言う事だったのですカピね。カロムさんのお気持ちも、とても嬉しいですカピ。是非僕もご一緒させてくださいカピ」

 ロロアが嬉しそうに言うと、カロムは「ありがとうな」と笑う。

「言ってもそんな神経質と言うかさ、気を使う事も無さそうだからさ、とりあえずは晩飯前の屈伸運動だけ付き合ってくれたら助かる」

「はいカピ」

 今まで特に何をせずとも、まだ若いからか体型や体力を気にした事が無かった。元の世界での洋食屋の仕事はある意味体力勝負な部分もあったので、それで問題無かったのだ。

 だが確かにこの世界に来てからの事を考えてみると、運動不足なのは否めなかった。これは良い機会なのだと思う。少し頑張ってみようか。ただし、続けられる様にあまり気負わない事にするとしようか。
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