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8章 好きなものを作って、食べて、そして。
第1話 これが食べ頃だと思います
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様々な出来事や触れ合いなどがあって、それらもやがて落ち着いた頃。
今日の夕飯はエールとともに。料理はローストビーフをメインに用意した。
エールを一口、そして生のスライス玉葱を巻いたローストビーフをぱくり。これもとても美味しい。合う。だが。
「……枝豆が食べたい」
浅葱はぽつりとそう漏らす。ビールに枝豆、それは日本人である浅葱の髄に染み込まれているものなのである。
「えだまめ?」
「初めて聞くものなのですカピ」
浅葱よりもハイペースでエールを重ねるカロムとロロアが、きょとんと眼を丸くする。
「食いたいって事は食い物だよな。浅葱の世界にあって、この世界には無いものか」
「ううん、あるよ。あるんだけど、この世界では食べる習慣が無いみたい」
「そうなのか? でもそんな名前の食い物聞いた事無いぜ」
「僕もありませんですカピ」
そう言って首を傾げるふたり。浅葱は「あは」と小さく笑う。
「枝豆はね、大豆の若いものなんだよ。大豆は葉っぱとか茎とかが枯れて、鞘も茶色くなって中の豆が硬くなってから収穫して更に乾かすでしょ。枝豆は葉っぱも茎も鞘も緑の状態で、豆が大きく出来たら収穫するんだよ。それを塩茹でたり蒸したりして食べるんだ」
「へぇ、その状態で食えるのか!」
「知らなかったですカピ」
ふたりは感心した様に眼を丸くする。そしてそわそわと指を動かす。
「そんな事を聞くと、食いたくなるよなぁ。このタイミングでそんな事言うって事は、エールに合うって事か?」
「うん。僕の世界の僕の国ではエールに枝豆って言うのは凄くポピュラーで、今は他の国でも食べられてるよ」
「良し、じゃあ明日買いに行こうぜ。大豆農家に直接行ったらあるだろ」
「あるの? 枝豆と言うか大豆栽培は気候が大事だって聞いた事あるよ。僕の世界では枝豆は夏の暑い時期にしか生のものは出回らなかったよ」
「この世界はそんなの関係無くいつでも育ててるぜ。大豆は保存が利く食材だが、新鮮なものが良いって思ってる人も多いからな。商店で出回ってるのも、収穫して乾燥させて、30日以内ものが殆どじゃ無いかな」
「そうなんだ。そんな短いスパンで栽培してるんだ。じゃあ枝豆もあるかも。うわぁ、凄く楽しみになって来た」
浅葱がわくわくと興奮気味に拳を上下に振ると、カロムは可笑しそうに「はは」と笑う。
「じゃあ明日、昼飯食ったら行ってみるか」
「うん!」
浅葱は嬉しさで笑顔になった。
さて翌日。午前中に家事を済ませ、目玉焼き乗せチキンライスの昼食を摂った浅葱とカロムは揃って家を出る。ロロアは留守番である。
馬車に乗り、かたことと村に向かう。門が見えたが潜らず、右折して村の周りを回る。
「村の中には入らないんだ」
「おう。畑へはこっちからの方が近いからな」
御者席でカロムが応える。そのままぱかぱかと馬車は進む。
やがて畑らしき、瑞々しい緑が生い茂った場所が見えて来る。一部枯れている部分があったが、それは収穫間近の野菜だろう。大豆もそうだが、馬鈴薯や薩摩芋なども葉や蔓などが枯れてから収穫するのである。
近付くに連れ、何も植わっていない部分も見えた。それは連続して栽培する事が出来ない食物があったのだろう。数ヶ月から数年、土を休ませてやらなければならない。
それらが眼前に広がった辺りで「はい、どうどうどう」と言いながらカロムが手綱を使う。馬はおとなしくその場に止まった。
「着いたぜ」
「ありがとう」
カロムに続いて浅葱も荷台から降りる。そしてカロムと並んで畑で作業をしている男性に声を掛けた。
「こんにちは」
「おや、カロムくんにアサギくんじゃ無いですか。こんにちは。どうしました?」
その男性は明らかに浅葱たちより年上だろうに、何とも物腰の柔らかな人だった。
「大豆の畑に用があって。サリノさんいますかね」
「ああ、おられると思いますよ。行ってみてください」
「ありがとうございます」
カロムが礼を言い、浅葱がぺこりと頭を下げると、男性はにっこりと笑顔を寄越してくれた。
先導するカロムに付いて行くと、若い女性が腰を曲げて伸びた茶色い茎を掴んでいる。それをぐいと引っ張ると、ぼこっと根ごと抜けた。軽く振って土を払い落とし、既に抜いた茎の山に放り投げるとかさりと音がした。
「サリノさん」
カロムが声を掛けると、サリノと呼ばれた女性が振り向く。若く見えるが、カロムの口調からして年上なのだろうか。
「あらぁ、カロムくんとアサギくんじゃ無いですかぁ。こんにちはぁ」
何とも力の抜ける口調だ。目尻も下がりがちで、何ともほんわかとする女性である。
「こんにちは。ちょっと若い大豆が見たくて来たんですがね」
「こんにちは。よろしくお願いします」
カロムの挨拶に、浅葱も頭を小さく下げる。するとサリノが「あらぁ?」と首を傾げる。
「若い大豆なんてどうしてぇ?」
「食えるんですってよ。アサギの世界では食うんだそうで」
「あらぁ、そうなのぉ?」
驚いた様だが、その表情だけでは何とも分かり難い。
「そうなんです。塩茹でとか蒸したりして食べるんです」
「塩茹で、は判るけど、むしてってぇ?」
「お湯の蒸気で火を入れて行く調理法なんです。食材から旨味が逃げないので、美味しく食べられますよ」
「へぇ、そうなんだぁ。若い大豆はこっちよぉ」
サリノが案内してくれるので付いて行く。するとそこには青々と茂った枝豆がたわわに生っていた。
「わぁ! 触っても良いですか?」
「良いわよぉ」
浅葱はそっと若い大豆、枝豆に触れる。それは鞘が張り裂けんばかりに中の豆がぱんぱんに張っていた。
「うわぁ、凄い! ぱんぱんだ! これ絶対に美味しいよ!」
浅葱が嬉しそうに声を上げると、サリノが「ふふ」と笑みを浮かべる。
「これはぁ、後はからっからに枯れるのを待つだけなのよぉ。もっと若いのもあるけどぉ、それはまだ中の豆が小さいからねぇ」
「そうですね。これが食べ頃だと思います」
浅葱が顔を輝かせて枝豆を見ていると、後ろでカロムとサリノの交渉が始まる。と言っても。
「これ、何株か譲って貰っても良いですかね?」
「良いよぉ。私もお家で塩茹でしてみようかなぁ」
何ともスムーズなものである。
「幾らになりますかね?」
「ああ~そうねぇ。大豆より全然手間も掛かっていないしねぇ」
ふたりはそうして話を進めて行く。浅葱が振り返る頃には話は纏まっていた。
「アサギ、譲って貰えるってよ。しかも大豆より安く」
「え、そうなんですか!? 良いんですか?」
「勿論よぉ。だって大豆にする工程が無いんだもぉん。何株要るかしらぁ?」
「2株お願いして良いですか?」
それだけあれば100前後の鞘が取れる筈だ。3人で食べるのなら充分だろう。
「それだけで良いのぉ? もっと持って行っても良いのよぉ」
「充分です。枝豆、若い大豆は生でも火を通しても日持ちがしないんです」
「あらぁ、そうなのねぇ。まぁ確かに水分含んでるからねぇ。じゃあっとぉ」
言うと、枝豆を2株ぼこりと抜いてくれた。
「はぁい、これで大丈夫かしらぁ?」
「はい! ありがとうございます!」
枝豆を受け取った浅葱は深く頭を下げる。カロムも「ありがとうございます」と横で頭を下げた。
「いいえぇ。良かったらまた来てねぇ」
「はい!」
浅葱は満面の笑みを浮かべた。
今日の夕飯はエールとともに。料理はローストビーフをメインに用意した。
エールを一口、そして生のスライス玉葱を巻いたローストビーフをぱくり。これもとても美味しい。合う。だが。
「……枝豆が食べたい」
浅葱はぽつりとそう漏らす。ビールに枝豆、それは日本人である浅葱の髄に染み込まれているものなのである。
「えだまめ?」
「初めて聞くものなのですカピ」
浅葱よりもハイペースでエールを重ねるカロムとロロアが、きょとんと眼を丸くする。
「食いたいって事は食い物だよな。浅葱の世界にあって、この世界には無いものか」
「ううん、あるよ。あるんだけど、この世界では食べる習慣が無いみたい」
「そうなのか? でもそんな名前の食い物聞いた事無いぜ」
「僕もありませんですカピ」
そう言って首を傾げるふたり。浅葱は「あは」と小さく笑う。
「枝豆はね、大豆の若いものなんだよ。大豆は葉っぱとか茎とかが枯れて、鞘も茶色くなって中の豆が硬くなってから収穫して更に乾かすでしょ。枝豆は葉っぱも茎も鞘も緑の状態で、豆が大きく出来たら収穫するんだよ。それを塩茹でたり蒸したりして食べるんだ」
「へぇ、その状態で食えるのか!」
「知らなかったですカピ」
ふたりは感心した様に眼を丸くする。そしてそわそわと指を動かす。
「そんな事を聞くと、食いたくなるよなぁ。このタイミングでそんな事言うって事は、エールに合うって事か?」
「うん。僕の世界の僕の国ではエールに枝豆って言うのは凄くポピュラーで、今は他の国でも食べられてるよ」
「良し、じゃあ明日買いに行こうぜ。大豆農家に直接行ったらあるだろ」
「あるの? 枝豆と言うか大豆栽培は気候が大事だって聞いた事あるよ。僕の世界では枝豆は夏の暑い時期にしか生のものは出回らなかったよ」
「この世界はそんなの関係無くいつでも育ててるぜ。大豆は保存が利く食材だが、新鮮なものが良いって思ってる人も多いからな。商店で出回ってるのも、収穫して乾燥させて、30日以内ものが殆どじゃ無いかな」
「そうなんだ。そんな短いスパンで栽培してるんだ。じゃあ枝豆もあるかも。うわぁ、凄く楽しみになって来た」
浅葱がわくわくと興奮気味に拳を上下に振ると、カロムは可笑しそうに「はは」と笑う。
「じゃあ明日、昼飯食ったら行ってみるか」
「うん!」
浅葱は嬉しさで笑顔になった。
さて翌日。午前中に家事を済ませ、目玉焼き乗せチキンライスの昼食を摂った浅葱とカロムは揃って家を出る。ロロアは留守番である。
馬車に乗り、かたことと村に向かう。門が見えたが潜らず、右折して村の周りを回る。
「村の中には入らないんだ」
「おう。畑へはこっちからの方が近いからな」
御者席でカロムが応える。そのままぱかぱかと馬車は進む。
やがて畑らしき、瑞々しい緑が生い茂った場所が見えて来る。一部枯れている部分があったが、それは収穫間近の野菜だろう。大豆もそうだが、馬鈴薯や薩摩芋なども葉や蔓などが枯れてから収穫するのである。
近付くに連れ、何も植わっていない部分も見えた。それは連続して栽培する事が出来ない食物があったのだろう。数ヶ月から数年、土を休ませてやらなければならない。
それらが眼前に広がった辺りで「はい、どうどうどう」と言いながらカロムが手綱を使う。馬はおとなしくその場に止まった。
「着いたぜ」
「ありがとう」
カロムに続いて浅葱も荷台から降りる。そしてカロムと並んで畑で作業をしている男性に声を掛けた。
「こんにちは」
「おや、カロムくんにアサギくんじゃ無いですか。こんにちは。どうしました?」
その男性は明らかに浅葱たちより年上だろうに、何とも物腰の柔らかな人だった。
「大豆の畑に用があって。サリノさんいますかね」
「ああ、おられると思いますよ。行ってみてください」
「ありがとうございます」
カロムが礼を言い、浅葱がぺこりと頭を下げると、男性はにっこりと笑顔を寄越してくれた。
先導するカロムに付いて行くと、若い女性が腰を曲げて伸びた茶色い茎を掴んでいる。それをぐいと引っ張ると、ぼこっと根ごと抜けた。軽く振って土を払い落とし、既に抜いた茎の山に放り投げるとかさりと音がした。
「サリノさん」
カロムが声を掛けると、サリノと呼ばれた女性が振り向く。若く見えるが、カロムの口調からして年上なのだろうか。
「あらぁ、カロムくんとアサギくんじゃ無いですかぁ。こんにちはぁ」
何とも力の抜ける口調だ。目尻も下がりがちで、何ともほんわかとする女性である。
「こんにちは。ちょっと若い大豆が見たくて来たんですがね」
「こんにちは。よろしくお願いします」
カロムの挨拶に、浅葱も頭を小さく下げる。するとサリノが「あらぁ?」と首を傾げる。
「若い大豆なんてどうしてぇ?」
「食えるんですってよ。アサギの世界では食うんだそうで」
「あらぁ、そうなのぉ?」
驚いた様だが、その表情だけでは何とも分かり難い。
「そうなんです。塩茹でとか蒸したりして食べるんです」
「塩茹で、は判るけど、むしてってぇ?」
「お湯の蒸気で火を入れて行く調理法なんです。食材から旨味が逃げないので、美味しく食べられますよ」
「へぇ、そうなんだぁ。若い大豆はこっちよぉ」
サリノが案内してくれるので付いて行く。するとそこには青々と茂った枝豆がたわわに生っていた。
「わぁ! 触っても良いですか?」
「良いわよぉ」
浅葱はそっと若い大豆、枝豆に触れる。それは鞘が張り裂けんばかりに中の豆がぱんぱんに張っていた。
「うわぁ、凄い! ぱんぱんだ! これ絶対に美味しいよ!」
浅葱が嬉しそうに声を上げると、サリノが「ふふ」と笑みを浮かべる。
「これはぁ、後はからっからに枯れるのを待つだけなのよぉ。もっと若いのもあるけどぉ、それはまだ中の豆が小さいからねぇ」
「そうですね。これが食べ頃だと思います」
浅葱が顔を輝かせて枝豆を見ていると、後ろでカロムとサリノの交渉が始まる。と言っても。
「これ、何株か譲って貰っても良いですかね?」
「良いよぉ。私もお家で塩茹でしてみようかなぁ」
何ともスムーズなものである。
「幾らになりますかね?」
「ああ~そうねぇ。大豆より全然手間も掛かっていないしねぇ」
ふたりはそうして話を進めて行く。浅葱が振り返る頃には話は纏まっていた。
「アサギ、譲って貰えるってよ。しかも大豆より安く」
「え、そうなんですか!? 良いんですか?」
「勿論よぉ。だって大豆にする工程が無いんだもぉん。何株要るかしらぁ?」
「2株お願いして良いですか?」
それだけあれば100前後の鞘が取れる筈だ。3人で食べるのなら充分だろう。
「それだけで良いのぉ? もっと持って行っても良いのよぉ」
「充分です。枝豆、若い大豆は生でも火を通しても日持ちがしないんです」
「あらぁ、そうなのねぇ。まぁ確かに水分含んでるからねぇ。じゃあっとぉ」
言うと、枝豆を2株ぼこりと抜いてくれた。
「はぁい、これで大丈夫かしらぁ?」
「はい! ありがとうございます!」
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「いいえぇ。良かったらまた来てねぇ」
「はい!」
浅葱は満面の笑みを浮かべた。
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