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2章 多種多様なお客さま
第4話 第一印象は怖かったけれど
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「邪魔すんで~」
数日後、そんな低いがらがら声で「ゆうやけ」に入ってきたのは、大柄でタチがあまり良く無さそうなふたり連れの人間の男性だった。
揃って派手な長袖Tシャツにだぼっとしたボトム、足元は秋なのにビーチサンダルで、腰にはじゃらじゃらとチェーンがぶら下がっている。髪もふたりとも短い金髪だった。まぁ、新世界では良く見かける風貌ではある。
「いらっしゃいませ」
一瞬「怖い」と思ったのだが、人を見た目で判断してはいけないことは常識である。由祐は他のお客さまと変わらない笑顔で迎えた。
ふたりは空いていた手前の方の席に掛けて、手にしていた白いナイロン袋を由祐に差し出した。
「姉ちゃん、これ、「かんかん」のたこ焼きや。皆に振る舞ったってや」
それに由祐は面食らってしまう。
「あ、あの、大変ありがたいんですけど、うちは持ち込みはちょっと」
「ゆうやけ」に限らず、ほとんどの飲食店は持ち込み禁止だろう。一部のカラオケボックスなどなら、持ち込み料無しで可能なところもあるらしいが。
「持ち込み料はその袋に入っとる。足りんかったら言うてや」
そう言われたので、由祐はとりあえず受け取って、結ばれている持ち手をを解く。するとまだ温かい発泡スチロールの容器の上に、1万円札がぺらりと入っていた。由祐はぎょっとする。
「お、お客さま、これは多過ぎます! お返し、いえ、お会計に使わせていただいて」
由祐が慌てると、見た目がいかついお客さまは「ええねんええねん」と人の良さそうな笑顔になる。
「こっちのわがままで持ち込んどるんやから、全然多くないて。もろといて。それよりあったかいうちにお客さんに出したってや。余ったら姉ちゃん食うたって」
由祐は戸惑うが、確かにたこ焼きは温かいうちに出した方が良いだろうと思い直す。持ち込み料の件はあとだ。由祐は「ありがとうございます」と言いながら、お客さまの人数分の小鉢を取り出した。
たこ焼き「かんかん」さんは、新世界にいくつかあるたこ焼き屋さんの中で1位2位を争う人気店で、いつでも人だかりができている。芸能人もたくさん訪れていて、表には写真が飾られている。
由祐ももちろん食べたことがある。お出汁の風味が豊かで、ふわふわとろりとした美味しいたこ焼きで、人気店なのも頷けるのだ。
難があるといえば、個数が選べないことである。8個入りのみなのだ。由祐は深雪ちゃんと串かつ屋さんに行く前に食べることが多いので、いつもシェアしていた。買うときにお箸の本数を聞いてくれるのは親切なところだろう。
袋の中にたこ焼きは2パック入っていた。合計16個。今が満席だとしても充分足りる個数だ。「ゆうやけ」の席数は8席である。今空いている席は1席なので、ひとり2個出すことができる。
由祐は菜箸を使って小鉢にたこ焼きを取り分け、お客さまに出していく。もちろん茨木さんと龍さんにも。
「今来られたお客さまからです」
すると方々から「ありがとうございます」「ありがとうさん」と声が上がった。たこ焼きのお客さまは「ええってええって」と言いながら満足げだ。
人に何かをしてあげたりするのが好きな人なのだろうか。施し、というのは言い方が良く無い気がするが、お金があって、それで周りを喜ばせたい、とか。
第一印象は申し訳無いのだが良くは無かったが、実は良い人なのだろう。由祐は少し安心する。
「お客さま、ふたつ余ったので、わたし、ちょうだいしますね」
「おう、食え食え。「かんかん」のたこ焼きは旨いからな!」
お客さまはそう言って豪快に笑ってくれる。由祐の心はすっかりと和んでしまった。
「ありがとうございます。いただきます」
由祐はまだ熱を持っているたこ焼きをお箸で持ち上げて、ぱくりと口に入れた。はふはふとするほどでは無く、程よい塩梅になっている。ああ、やはり美味しい。さすがの「かんかん」さんだ。
さて、持ち込み料はいくらいただこうか。初めてのことなので迷うが、他のお客さまにも振る舞ってくれたのだし、1000円ぐらいが妥当だろうか。
お釣りはこれからお客さまが飲み食いする分に当てさせてもらおう。フードファイターでも無ければ足が出ることは無いだろう。この「ゆうやけ」のひとりあたりの平均予算は3000円程度である。
「あ、姉ちゃん、うっかりしとったわ、生ふたつ頼むな」
「はい、お待ちくださいね。たこ焼き、ごちそうさまでした」
「おう」
「かんかん」さんのたこ焼きで身も心も満たされた由祐は笑顔で応え、ジョッキをふたつ出した。
数日後、そんな低いがらがら声で「ゆうやけ」に入ってきたのは、大柄でタチがあまり良く無さそうなふたり連れの人間の男性だった。
揃って派手な長袖Tシャツにだぼっとしたボトム、足元は秋なのにビーチサンダルで、腰にはじゃらじゃらとチェーンがぶら下がっている。髪もふたりとも短い金髪だった。まぁ、新世界では良く見かける風貌ではある。
「いらっしゃいませ」
一瞬「怖い」と思ったのだが、人を見た目で判断してはいけないことは常識である。由祐は他のお客さまと変わらない笑顔で迎えた。
ふたりは空いていた手前の方の席に掛けて、手にしていた白いナイロン袋を由祐に差し出した。
「姉ちゃん、これ、「かんかん」のたこ焼きや。皆に振る舞ったってや」
それに由祐は面食らってしまう。
「あ、あの、大変ありがたいんですけど、うちは持ち込みはちょっと」
「ゆうやけ」に限らず、ほとんどの飲食店は持ち込み禁止だろう。一部のカラオケボックスなどなら、持ち込み料無しで可能なところもあるらしいが。
「持ち込み料はその袋に入っとる。足りんかったら言うてや」
そう言われたので、由祐はとりあえず受け取って、結ばれている持ち手をを解く。するとまだ温かい発泡スチロールの容器の上に、1万円札がぺらりと入っていた。由祐はぎょっとする。
「お、お客さま、これは多過ぎます! お返し、いえ、お会計に使わせていただいて」
由祐が慌てると、見た目がいかついお客さまは「ええねんええねん」と人の良さそうな笑顔になる。
「こっちのわがままで持ち込んどるんやから、全然多くないて。もろといて。それよりあったかいうちにお客さんに出したってや。余ったら姉ちゃん食うたって」
由祐は戸惑うが、確かにたこ焼きは温かいうちに出した方が良いだろうと思い直す。持ち込み料の件はあとだ。由祐は「ありがとうございます」と言いながら、お客さまの人数分の小鉢を取り出した。
たこ焼き「かんかん」さんは、新世界にいくつかあるたこ焼き屋さんの中で1位2位を争う人気店で、いつでも人だかりができている。芸能人もたくさん訪れていて、表には写真が飾られている。
由祐ももちろん食べたことがある。お出汁の風味が豊かで、ふわふわとろりとした美味しいたこ焼きで、人気店なのも頷けるのだ。
難があるといえば、個数が選べないことである。8個入りのみなのだ。由祐は深雪ちゃんと串かつ屋さんに行く前に食べることが多いので、いつもシェアしていた。買うときにお箸の本数を聞いてくれるのは親切なところだろう。
袋の中にたこ焼きは2パック入っていた。合計16個。今が満席だとしても充分足りる個数だ。「ゆうやけ」の席数は8席である。今空いている席は1席なので、ひとり2個出すことができる。
由祐は菜箸を使って小鉢にたこ焼きを取り分け、お客さまに出していく。もちろん茨木さんと龍さんにも。
「今来られたお客さまからです」
すると方々から「ありがとうございます」「ありがとうさん」と声が上がった。たこ焼きのお客さまは「ええってええって」と言いながら満足げだ。
人に何かをしてあげたりするのが好きな人なのだろうか。施し、というのは言い方が良く無い気がするが、お金があって、それで周りを喜ばせたい、とか。
第一印象は申し訳無いのだが良くは無かったが、実は良い人なのだろう。由祐は少し安心する。
「お客さま、ふたつ余ったので、わたし、ちょうだいしますね」
「おう、食え食え。「かんかん」のたこ焼きは旨いからな!」
お客さまはそう言って豪快に笑ってくれる。由祐の心はすっかりと和んでしまった。
「ありがとうございます。いただきます」
由祐はまだ熱を持っているたこ焼きをお箸で持ち上げて、ぱくりと口に入れた。はふはふとするほどでは無く、程よい塩梅になっている。ああ、やはり美味しい。さすがの「かんかん」さんだ。
さて、持ち込み料はいくらいただこうか。初めてのことなので迷うが、他のお客さまにも振る舞ってくれたのだし、1000円ぐらいが妥当だろうか。
お釣りはこれからお客さまが飲み食いする分に当てさせてもらおう。フードファイターでも無ければ足が出ることは無いだろう。この「ゆうやけ」のひとりあたりの平均予算は3000円程度である。
「あ、姉ちゃん、うっかりしとったわ、生ふたつ頼むな」
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