煮物屋さんの暖かくて優しい食卓

山いい奈

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季節の幕間10 冬の訪れ

迎える寒を乗り越えるために

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 12月に入り、冬はとうに訪れている様だが、冬至とうじは今日22日だ。

 冬にいたるという字の通り、本格的に冬が始まる。

 冬至は1年で最も昼の時間が短くなる日だ。日照時間は徐々に短くなって来ていて、ここでピークを迎える。

 冬至では「ん」の付くものを食べると、運が向上するという言い伝えがある。人参、蓮根れんこんうんどんうどんなど。

 その代表格と言われるのがかぼちゃだ。かぼちゃは「南瓜」と書き、音読みで「なんきん」である。

 縁起担ぎと言われればそうなのだが、日本人は縁起も大事にする民族であると言える。なので煮物屋さんでは大いにそれにあやかることにしている。



 そうして用意した本日のお献立。

 メインはかぼちゃのそぼろ煮だ。大きく角切りにしたかぼちゃをお出汁とお砂糖、お酒、薄口醤油でことことと煮て、途中で菜種なたね油で炒めた鶏そぼろを加え、また優しく煮て行く。

 鶏のひき肉を炒めているので、お出汁に鶏の旨味と一緒に香ばしさも溶け出して、かぼちゃに絡んでふくよかな味わいに仕上がっている。

 さて、確かにこれがメインではあるのだが、いつものメインの量だと多い。なにせかぼちゃと鶏ひき肉のみというシンプルなメニューだ。

 なので量を控えめに盛り付け、代わりに小鉢のボリュームと食べ応えをアップさせる。

 ひとつはピーマンとえのきのツナ炒めだ。

 ピーマンは縦方向に太めの千切りにし、えのきは石づきを落として2等分に。

 ツナ缶はまぐろのものを使い、適度にオイルを切って使う。ツナ缶に塩分があるのでお塩は使わず、味付けはごま油と塩昆布、仕上げに削り節を混ぜ込む。

 いわゆる「無限◯◯」と言われるものだ。味付けは各ご家庭で多少は変わって来るだろうが、ピーマンなら苦味のあるそれが無限に食べられてしまうと言う。

 まぐろの旨味が溶け出したオイルと風味豊かなごま油が合わさり、塩昆布と削り節の旨味が加わって、それこそ無限に食べられる味に仕上がっている。

 もう一品はポテトサラダだ。普段のポテトサラダは具をシンプルにすることも多いが、今日は具だくさんだ。

 スライスして塩もみした玉ねぎ、輪切りにして、こちらも塩もみしたきゅうり、オリーブオイルでかりっと炒めたベーコン、オリーブオイルとバターで作った炒り卵を加える。

 蒸して粗く潰したじゃがいもには、熱いうちにお塩とお酢、バターで下味を付けておく。粗熱あらねつが取れたら全てを合わせてマヨネーズと白こしょうを適量混ぜ込んだ。

 前面にはマヨネーズが濃厚に立つが、噛み締めて行くうちにお酢のほのかな酸味とバターのこくを感じる。そこに玉ねぎやきゅうりの爽やかさ、しっかりとしたベーコンと卵の旨味が舌に乗る。

 様々な味わいが合わさって、旨味が生み出されている一品である。

「あ~、染みる~」

 そんなことを言いながら陶製のおちょこを傾けるのは、田淵たぶちさんと沙苗さなえさんご夫妻(2章)。

 おふたりとも1杯目は生ビールをご注文されたが、早々に飲み切ってしまって、2杯目は熱燗あつかんにされた。2ごうを仲良く注ぎ合っている。

 田淵さんはおひとりだとビールで通されるのだが、今日は沙苗さんに合わせたのだろう。

「暖房効いてるけど、冬の熱燗ってやっぱり美味しいのよねぇ。身体に染み渡る感じ」

「だよね。たまには熱燗も良いよね」

 そんなお話をされつつ、お料理にもお箸を伸ばす。そぼろ煮のかぼちゃをお箸で割り、口に運ぶ。

「ん~、かぼちゃねっとり。美味しい~。冬至と言えばかぼちゃよね。えっと確か、漢字で書いたら「なんきん」とも読むのよね。あまり馴染み無いけど」

「そうですね。冬至の縁起物ですね。「ん」が付くものを食べると良いとされている様ですよね。おうどんとか」

 佳鳴かなるが言うと、沙苗さんは「そうそう」と頷く。

「だからお昼はあんかけうどん食べちゃった。寒いからあったかいもの食べたかったって言うのもあったけど」

「へぇ。俺はそんなの意識したこと無いなぁ。昼も豚の生姜しょうが焼き定食だったし」

「男の人ってあんまり縁起担ぎとかしないのかしら。人による?」

「そうだと思うよ。俺があんまり考えて無いだけで。でもこうして煮物屋さんが季節を考えたメニューを出してくれるから、それで充分」

「確かにね」

 おふたりは頷き合いながら、またおちょこを傾けた。それで沙苗さんのが空になってしまったのか、手酌てじゃくでおちょこを満たした。

 そして今度はポテトサラダを口に入れ、「んふ~」と満足げに目を細めた。

「こんな凝ったポテサラなんて、家でなかなか作れないから、ここでいただけるの嬉しい~」

「そうだよね。ポテサラってメインにするには難しいのに、地味に作るの大変だよね。こっちのツナのやつも、家だとピーマンだけとか、きのこだけとかシンプルになっちゃうけど、具沢山で良いよね」

「そうなのそうなの。ご飯を作るのって結構大変なんだからね」

「いつも感謝してるよ、沙苗さん」

 共働きの田淵さんと沙苗さんご夫妻は家事を分担されていて、食事の用意は沙苗さんの役目だ。

 少しばかり一悶着ひともんちゃくあったご夫妻の食事問題だが、それも無事解決され、沙苗さんはその日によって、作ったりお惣菜などに頼ったりしているそうだ。

 そしてたまに揃って煮物屋さんに来てくださる。

 そろそろお食事も終わりそうなころ、佳鳴はおふたりの前に熱燗用のおちょこを置いた。

「今日は食後のスイーツもありますよ」

 佳鳴が言うと、沙苗さんは「やった!」とこぶしを握る。

柚子ゆず寒天かんてんゼリーです」

「柚子と寒天……、ああ、なるほど!」

 田淵さんが合点がいったと、ぽんと手を打った。

 冬至には柚子湯に入ると良いとされている。起源は定かでは無いらしいが、風邪を引かずに冬を越せる、なんて言われているのだ。

 なので柚子は食べる習慣では無いのだが、煮物屋さんはご飯のお店なので、こうしてスイーツで食べていただこうとご用意した。

 そして寒天は「かんてん」、「ん」の付く縁起物だ。

 寒天を水とともに火に掛けてしっかりと溶かし、グラニュー糖でほのかな甘みを付ける。

 おちょこに、薄皮までいて粗くほぐした柚子を入れ、粗熱が取れた寒天液を流し込んで固めて作った。

 寒天の甘さは控えめに、柚子の持つやんわりとした酸味と、爽やかな甘みが引き立つ様に仕上げた。

「嬉しい~。いただきます」

「いただきます」

 ご夫妻はあらためて手を合わせ、おちょことスプーンを持ち上げた。

 小さくすくって一口、口に滑り込ます。沙苗さんは「あ~」と心地よさげな溜め息を吐いた。

柑橘かんきつだからさっぱりしてる~。程よい甘さ。お酒の後にちょうど良い~」

「本当だね。あっさりしてるから、男でも美味しく食べられるね」

 田淵さんも頷きながらスプーンを動かした。

「これだけ縁起担ぎしてもらえたら、この冬も元気に越せそうね、ヨシくん」

「そうだね」

 おふたりはにっこりと満足げなお顔を見合わせた。

 お客さまにとって、煮物屋さんでのご飯は食生活のほんの一部だ。だからこそ佳鳴も千隼ちはやも、お客さまの安寧あんねいや健康を願って、思いを込めるのだ。

 どうかお客さま方が、すこやかに過ごせます様に。これからどんどん厳しくなるであろう冬を控え、佳鳴と千隼はそう願わずにはいられないのだった。
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