谷中・幽霊料理人―お江戸の料理、作ります!

相沢泉見

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1巻

1-2

 こうして一緒にキッチンに立ってみると、彼がいかに料理を愛しているかがよく伝わってくる。
 惣佑の代わりに包丁を握り、指南通りに料理を作って、それを美味おいしく食べる。
 ただそれだけのことで、彼の顔はふわりとほころぶのだ。
 ……まるで、花が開くように。

「咲」

 不意に惣佑が手を伸ばしてきた。それが、咲の頬のあたりで止まる。
 実体がないから何の感触もないはずなのに、なぜか手がある場所が温かくてくすぐったかった。

「咲……お前」

 惣佑の顔が、グッと近づいてくる。おでことおでこが付きそうなくらいの距離だ。
 もちろん相手は幽霊で、実際は触れることなどないのだが、ここまで近いと否応いやおうなしに鼓動が速まる。

「え、なっ、何⁉」

 慌てる彼女にかまわず、彼はしばらく咲の顔をまっすぐ見つめた。そして、ニヤリと口角を引き上げ、笑みを浮かべる。

「お前、最近頬っぺたがふくふくしてきたな。まるで大福みてぇだ」
「だ……大福⁉」

 咲は思わず自分の頬に手を当てた。
 ――ふに。ふにふに。ふに。

(嘘! なんか、丸くて柔らかい!)

 惣佑に会ってから一か月。彼の言うまま料理を作り、美味しく完食してきた。
 しかも、どの料理もご飯にとてもよく合うので、気付けば一杯、二杯とお代わりをしていて……

せなきゃ……」

 呆然としながらつぶやく咲に、惣佑がからからと笑った。

「そんな必要ねぇよ。もっと丸っこいほうがいいくらいだぜ。俺ぁそのほうが好――」
「ううん、痩せるから!」

 こうなったら毎日アパートのまわりを走って、腹筋を百回して、フィットネスジムのCMばりのビフォーアフターを展開してやる!
 でも……

「ダイエットは明日からね!」

 いろいろなことを横にうっちゃって、咲はふわふわの泡にえいっとスプーンを差し入れた。何があろうとも、目の前の料理に罪はないのだ。

美味おいしい~」
「ははっ、そうだろ? どんどん食いねぇ。漬物、まだ残ってんぞ」

 はふはふ言いながらご飯をほおばる咲を見て、惣佑はまるできらきら輝くお日様みたいな笑みを浮かべたのだった。



   一品目 口を閉ざす子供のための祝い膳


   1


『咲ちゃん、谷中っていう場所知ってる? とってもいい町なんだけどさ、よかったら大学に通ってる間、そこに住んでみない?』

 咲が谷中に住むことになったのは、母の弟――つまり叔父のこの言葉が切っ掛けだった。
 叔父・やすひこと咲の母は年が少し離れていて、年齢的には叔父さんというよりお兄さんと呼ぶほうがしっくりくる。その保彦は気さくな性格で、咲にとっては親戚の中でも親しみやすい存在だ。
 咲の実家は栃木だが、叔父の住まいは東京である。そこで小さな不動産屋をいとなむ保彦が、咲の上京を知ってすぐさま電話を掛けてきて、物件を紹介したいと言い出したのだ。

『谷中なら上野うえのまで歩いて行けちゃうから交通の便もいいし、観光客に大人気の町なんだよ。地下鉄の駅も使えるし、咲ちゃんの大学まで電車一本で行ける。可愛いめいのためだし、この際、敷金礼金はゼロにしよう! なんなら家賃も半額でいいよ!』

 電話口で、叔父は大いに谷中の魅力をアピールし、金銭的なメリットまでちらつかせた。そして電話を切ると、すぐさま物件の写真をメールで送ってよこす。
 駅から歩いて八分。築二十年だがリノベーション済み。二階建てアパートの一階角部屋。七畳の洋室に大きめのクローゼット、キッチンスペースがついて、風呂トイレ別。
 この条件で、叔父が提示してきた家賃は、四万円と少しだった。他の物件とは比べ物にならないほどの破格である。
 身内の紹介というのも相まって、咲と咲の両親は一も二もなく提案を受け入れ、実際に物件を見学することなく入居を決めてしまった。
 この時、咲たちは『肝心なこと』を忘れていたのだ。
 叔父の保彦はそもそも、そんなにサービス精神に溢れる人物ではない。どちらかといえばお金にがめつく、人に道を尋ねられてもただでは教えないようなタイプだ。
 ついでに元来のなまものでもある。仕事をサボりがちで、自分から営業の電話を掛けてくる熱心さなどカケラも持ち合わせてはいない。
 その叔父がまめまめしく物件紹介にいそしみ、しかも大盤振る舞いをしている時点で、疑ってみるべきだった。
 あるいは、一度でいいから現地を見にいけばよかったのかもしれない。
 ……そうすれば、その物件にがいることに気付けたのだ。
 しかし何をどう嘆いても、もうあとの祭りでしかない。
 こうして咲は、あれよあれよという間に谷中のアパートに住むことになった。
 実際に引っ越しをしたのは、四月の初めのことだ。
 当日はよく晴れていた。咲は上京したその足で、上野にある叔父の不動産屋にアパートの鍵を取りにいく。
 叔父は不在だったが、名前を告げると代わりに受付にいたバイトのお姉さんが「電気と水道とガスは、もう使えますので……」と鍵を差し出してくれた。
 思えばこのお姉さんもやたらと咲の顔色をうかがっていたような気がする。何かを知っていたに違いない。
 しかし、初めての一人暮らしを前に浮かれていた咲は、さしたる疑問も持たず、お礼を言って不動産屋をあとにした。
 少し急いでいて、余計な話をする暇がなかったせいもある。アパートに引っ越しの荷物が届く前に鍵を開けて、何もない部屋を眺めておきたいと考えていたのだ。


「……わぁ!」

 アパートにつくと、咲は人目もはばからず声を上げた。
 谷中でも大きな通りの一つである三崎坂さんさきざかという坂道から一本入った細い路地に、それは建っている。
 小ぢんまりとしているが陽当たりはよく、白い外観が光にえていた。
 叔父が送ってきた写真でしか見たことがなかったが、実際の建物は写真より数倍、住み心地がよさそうだ。
 築二十年ほどらしいが、補修してあるのか、そんなに経っているとは思えないくらい綺麗で新しく見える。
 アパートは二階建てで、部屋の数は十室。咲の部屋は一階の一番奥だ。
 共用通路を進み、一〇五というプレートのある部屋の前に立つ。一つ深呼吸して、手にした鍵を鍵穴に差し込んで回し、ゆっくりとドアを開けた。

(今日からここが、私の住む部屋だ!)

 玄関に立ってみて、まず目に飛び込んできたのは、窓から差してくる柔らかな光。
 その光の真ん中に、のだ。
 空中に浮いたままこちらを見つめる、長身の青年が――

「……えっ?」

 咲は一度ドアの外に出て、もう一度部屋に入り直した。
 何かの見間違いかと思って、パチパチとまばたきをしてみる。……が、目の前の光景は何一つ変わらなかった。
 異常事態だと気付いたのは、数秒過ぎてからだ。

「えっ、えええぇーっ! だ、誰ですか⁉」

 ふよふよと空をただよう異様なものを指さしたまま、咲はその場に固まってしまった。
 するとその浮遊物は、こともあろうに咲の手前まできたのだ。無重力空間にいる宇宙飛行士のように、すいーっと……

「おめえ、俺の姿が見えてんのか?」
「は……はい?」
「俺のことが分かるんだな! そうか、分かるか! 声も、聞こえてるな?」
「は、はぁ」
「俺の名は惣佑。年は、数えで二十五……だった」
「数え……? だった……?」
「ああ。俺、その年で死んじまったんだ。それからずっとここにいる。……いわゆる『幽霊』ってやつだな。ははっ!」
「……は?」

 目の前のは、一応人の形をしている。
 空中に浮いているため正確なところは分からないが、身長百五十四センチの咲より頭一つ分は背が高そうだ。もしかして百八十センチ近くあるかもしれない。
 身につけているのは着物だが、普通の着方ではなかった。
 地味な紺色こんいろの着物を腰のあたりでまくり上げるようにしてからげ、その下に足首まである黒いスパッツに似たもの――またきというのだろうか――を穿いている。
 さらに黒々としたそうはつを頭の上できゅっと結い上げていた。
 そんな格好で、彼はふわんふわんと自由気ままに空中をただよっている。よく見ると、裸足はだしの足先がうっすらとけていて……

「いっ……」

 いやあぁぁぁぁ! と叫ぼうとしたのに、咲の喉からはヒューヒューとかすれた音が漏れるだけだった。
 声を出して助けを呼ぼうとしている自分と、『驚きすぎて声が出ないなんてことが本当にあるんだなぁ』などと冷静に分析する自分が、同時に存在している。
 目の前のことが信じられず、頭の中が分裂しそうだ。
 そんな咲の背中に、冷たく固いものが当たっていた。自分で閉めたばかりの玄関ドアだ。今すぐそれを開けて外に逃げたかったが、足がすくんで動けない。

「いやぁ、参ったぜ。何だか知らねぇうちに幽霊になっちまうし、そうこうしてる間にこんなけったいな長屋が建って閉じ込められちまうしよぉ。しかも今までここに入ってきた奴ら、誰一人俺のことに気が付かねぇんだぜ? おめぇが来てくれて助かった。これで退屈しなくなるってもんよ!」

 すっかり腰が抜けて玄関に座り込んだ咲の横で、長身の幽霊はふよふよ飛びつつ饒舌じょうぜつを振るう。
 久しぶりに聞いてくれる相手がいることで、たがが外れたのだろう。死ぬ前は料理人をしていたことや、谷中で小さな店を持っていたことなどを、一方的にべらべらと語り続けた。

「おい。そういや、黒船はどうなった?」

 一通り身の上をしゃべりつくしたところで、彼は再び咲のすぐそばまで飛んできて尋ねる。

「く、くろふね……?」
「あぁ。浦賀うらがみなとに、異国からでっけぇ船が来たろ? あれが来たのは、俺が死ぬ三日前なんだ。……なぁ、どうなった?」

 黒船が何なのか、咲は咄嗟とっさに思い出せなかった。はるか昔の出来事だということだけは、かろうじて分かる。
 よって、目の前の光景に、一つの答えが出た。

(幽霊だ。これはまぎれもなく幽霊だ。オバケだ。死んだ人のたまだ。霊魂だ!)

 咲はかたわらに放り出していた自分のトートバッグから携帯電話を抜き出した。画面をタップして、素早く電話帳を表示する。

「あ、もしもし、叔父さん⁉ あの、こ、この部屋っ!」

 電話を掛けた相手は叔父の保彦だ。東京に出てきたばかりの彼女にとって、頼れるのは叔父しかいない。
 その叔父は、咲の切羽詰せっぱつまった声を聞いて、ふぅーっと溜息をいた。

『……やっぱりその部屋、何か、いる?』

 間延びした彼の声に、咲の肩からどっと力が抜ける。
 そしてようやく気付いた。――叔父は、すべてを承知の上で、この部屋を仲介したのだ!

『実はさー、その部屋、現地見学すると断るお客さんが多いんだよ。気分が悪くなるとか言ってさぁ。契約できても、みんな一週間と持たずに出ていっちゃうんだよね。ラップ音っていうの? そういうのがするとか、薄気味悪い気配がするとか言うんだ』
「ゆ、幽霊を、見た人がいるってこと……?」
『それが、そこまではっきり見た人はいないんだ。だから余計気味悪がられちゃってさぁ。……咲ちゃんも、何か感じちゃった?』

 感じちゃったどころの騒ぎではない。
 見えてるし聞こえてるし、会話までしている。
 確実に『何かいる』のだ。
 しかも、すぐ目の前に!

「お、お寺! お寺行かなきゃ。お坊さんに、お、おはらいしてもらわなきゃ!」

 幸いにも、このアパートの周辺にはたくさん寺がある。寺町である谷中の恩恵にあずかるなら、まさに今だ!
 そう思ったのに、電話の向こうから聞こえてきたのは乾いた笑い声だった。

『あはは、残念だけど何をやっても無駄だと思うよ。実は叔父さんも同じこと考えて、神主さんやらお坊さんやらを呼んだことがあるんだ。それでも……効かなかったんだよねぇ』
「えぇっ! そ、そんな……」

 希望の糸はあっけなく断たれた。
 倒れそうになりながらも咲は携帯電話にすがりつき、声を絞り出す。

「……何でそういうことを最初に言ってくれないの⁉ 知ってたら、別の部屋にしたのに」
『事故物件ってわけでもないからねぇ。聞く限りじゃ、ちょろっと音がする程度で、何かが襲ってくるわけじゃないみたいだし。身体的には安全だよ。うん、大丈夫!』
「大丈夫じゃないよぉ~」
『いや、イケるイケる。咲ちゃんは姉さんに似て、しっかりした子だ。平常心を保てば問題ないさ。ともかく、一年でいいから住んでくれ。あんまりにも入れ替わりが激しいと、変なうわさが立って余計に借り手がいなくなるんだ。頼む!』
「そんなこと言われても……」
『頼むよ。こんなこと頼めるの、しっかり者の咲ちゃんしかいないんだ! 叔父さんを助けると思って、ね? じゃあ頼んだよ!』
「あっ、叔父さん!」

 携帯電話から、ツーツーというむなしい電子音が流れてきた。
 すぐにリダイヤルしてみたが、聞こえてきたのは叔父の声ではなく『留守番伝言サービスにお繋ぎします』というアナウンスだ。
 咲は泣きそうになりながらも、再び電話を握り直す。

(こうなったら、お母さんに電話してみよう!)

 叔父が頼りにならないのなら親だ。
 そう考えたものの、実家に電話を掛ける前に、身体から力が抜けていた。
 幽霊が見えるなどと泣きついても、まず間違いなく信じてもらえないだろう。心配はしてくれると思うが、ホームシックでどうにかなったと考えるかもしれないし、迷惑を掛けることになる。
 それに、この部屋を出て別の部屋を探すにしても、その間はどこに住めばいいのだ?
 四月は就職や進学の時期でいている物件が少ない、と聞いたことがある。これから新しい部屋を探すのでは、大学の入学式に間に合わない可能性が高い。
 どう転んでもアウトだ。つまりこの部屋以外、咲に行くあてはない。

「嘘でしょ……」

 思わず項垂うなだれたところで、頭上から声が掛かった。

「おい。お前、名前は?」
「え、私の名前? 咲……。春野咲だけど」

 答えてしまったあとで、いてきた相手が幽霊だったことに気が付いてあせる。パニックになるととりあえず口を開くのが、咲の悪い癖だ。

「ほお、咲か。いい名前だな。じゃあ、咲、これからいっちょよろしく頼むぜ」
「は? よろしくって、それ、どういう……」
「咲は今日からここで暮らすんだろ? つまり俺と一つ屋根の下ってことだ。久しぶりに誰かと話ができて、俺ぁ嬉しいぜ。よろしくな!」

 大きな体をきっちり曲げて、惣佑は頭を下げた。

(あれ、幽霊のくせに意外と礼儀正しい)

 ……などと感心したのは一瞬のことだ。

「いやいやいや、無理無理無理! 幽霊と同居なんて、無理だよ!」

 すぐに咲は両方の手の平をバンと前に出し、全身で拒絶のポーズを取る。
 どう考えても無理だ。他人と突然同居するなんて、無謀すぎる。しかも相手は既に死んでいるのだ。
 ……こうして考えているだけでも、まるで意味が分からない。頭が混乱してくる。
 なのに、当の惣佑は飄々ひょうひょうと言った。

「そんなに気負いなさんな。心配はいらねぇ。俺ぁ基本的にこうやって浮いてるだけで、水も飯もいらねぇんだぜ? それに、お前を末代までたたるつもりもねぇ。この俺がそんな悪党に見えるかい?」
「え、えーと……見えない」

 正直な感想だ。
 最初は不気味だったが、こうして話しているうちに早くも慣れてしまい、恐怖感はすっかり薄れている。
 幽霊という未知の存在に対する畏怖いふの念がなくなったわけではないが、不思議なことに、もはや彼にかすかな親しみさえ覚えているのだ。
 しかし――

「……やっぱり幽霊と同居なんて、無理だよ」

 無理なものは無理である。
 咲が再び否定すると、惣佑は困ったように眉を少しだけ下げた。

「そう言われても、俺ぁここから動けねぇしな。そもそも俺のほうが最初にこの場所にいたんだぜ? それでも咲がここに住むってんなら、我慢するしかねぇだろ」
「うぅっ、そうなんだけど、でもいや……って、そうだ! それなら、今からじょうぶつしてよ!」
「はぁ? 成仏?」
「そう。もうこの際、成仏して、極楽浄土にでも行けばいいじゃない!」

 咲の言葉に、惣佑は思い切り顔をしかめた。そして、ふっと視線を遠くに移す。

「……それができるなら、とっくにしてらぁ。何年も何年も、好きこのんでここにいたわけじゃねぇ」

 冷静な言い方だったが、消え入りそうな言葉の終わりに、微かなうれいが混ざっている。
 そこで、咲はようやく彼が抱えているものに気が付いた。
 ――長い長い、孤独。
 誰にも気が付いてもらえずに過ごした、惣佑の気持ち……

「……ごめんなさい。私、今すごく無神経なこと言った」
「いや、気にしなさんな。咲の言い分はもっともだ。俺ぁいい加減、あの世に行くべきなんだ」

 そう言うと、惣佑は一旦天井付近まですいっと浮かび上がった。それから、まっすぐキッチンのほうへ降りていく。

「ここは、台所……だよな。俺が生きてた頃とずいぶん変わっちゃあいるが、使い勝手はよさそうだ」

 男らしい節くれだった手が、銀色に光るシンクのふちに伸びた。しかしその手は、シンクをするりとすり抜けて空中を彷徨さまよう。

「咲、頼みがある」
「何?」
「俺の代わりに、料理を作ってくれ」
「……え?」

 キッチンの横に浮かんでいた惣佑が、咲のもとへ飛んでくる。
 そのまま膝を折るようにして身体を縮め、相変わらず玄関に座り込んでいた咲と視線を合わせた。

「俺ぁ生きてる時、毎日毎日、包丁を握ってた。料理を作って誰かが笑ってくれれば俺ぁそれでよかった。甲斐がいみてぇなもんだったんだ。まだ作ったことのねぇさいを作りてぇとか、新しい食材を使った煮物を試してぇとか……今でも俺ぁ、そんなことばかり考えちまう。俺がじょうぶつできねぇ理由は、多分そこにある」
「料理に未練があるってこと……?」
「……ああ。けどこの身体じゃ包丁どころかはし一本だって握れねぇし、歯ごたえも味も匂いも、何一つ感じることができねぇときた。俺の姿が見えて声が届くのは、咲……おめぇだけだ。だから頼む。俺の代わりに、料理を作ってくれ!」


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