ロリ鉄‼ おじいちゃんと旅する昭和ワンダーランド

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第一話 C61

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 令和五年十二月三十日。年末の上野駅は人でごった返していた。

 多くの人はアメ横に買い出しに行くのだろう。皆ぞろぞろと広小路口を目指すが、松嶋二葉まつしまふたばは、両親といっしょに余りひと気のない通路を抜け、入谷いりや口を出た。

「確かこっちでいいんだよね? お父さん、お母さん。早く早く」
 以前訪れたのは、小学校一年生の時だっただろうか。今はもう五年生なので、四年ぶりだけど結構覚えているものだ。二葉はそのまま台東区役所の前を通り抜け、古くてちょっと立派な門構えの屋敷の前に立った。

「ごめんくださーい。おばあちゃん。来たよー」
「あらあら二葉。いらっしゃい。大きくなったわね」
 出迎えてくれたおばあちゃんは元気そうだ。両親もようやく追いついて来た。

「それじゃ、おばあちゃん。お正月の間、お世話になるね」

 ここはお父さんの実家で、私達はこの年末年始に久しぶりに家族で里帰りをしたのだが、この家は太平洋戦争の前からあるもので、幸運にも空襲を免れ、母屋も蔵も健在であり、私にとっては存在そのものが、かなりのワンダーランドなのだ。

 居間でお茶を出されたお父さんが足を投げ出しながら、おばあちゃんに話かける。
「母さん。そろそろいっしょに住む件も考えてくれよな」
「ふん。まだまだあんたの世話にはならないよ」
「いや、いくら今が健康だって言っても、いつ何が起こるか分からんだろ」
「そうさね。でもまあ終活じゃないけど、そろそろ蔵の中のもの位は整理していってもいいかもね」
「……いやー。ありゃ大変じゃないか?」
 
「ねえねえ、お父さん。何が大変なの?」
「ああ、蔵の中のもん整理するって言っても、ただ捨てちゃったらオヤジ……お前のじいちゃんな……が化けて出て来そうでさ」
「へー、何それ」
「お前知らないっけ? まあ見てたとしてももっと小さい頃か。いいよ、そしたら晩御飯食べたら見に行こうか。俺もしばらく見ちゃいなかったしな」
「うん! 楽しみ」
 こうして私は、晩御飯の後、お父さんに連れられて、庭の離れにある蔵に入った。

 確かに入った記憶はあった様な無い様な……お父さんに手を引かれ、薄暗い蔵の中に入ると内戸があった。うわー、なんかドキドキしてきた。
 お父さんが戸を開けるが、すでに外は陽も暮れていて中は真っ暗だ。私はお父さんから離れない様に慎重に蔵に入っていく。

「えっと。灯りのスイッチは確か……ああ、あったあった」
 お父さんがパチっとスイッチを入れると、ジジジジッっと音がして、かなりしばらくしてから灯りがついた。これって蛍光灯ってやつよね?
 
 そして、目の前に広がった光景に、私は圧倒された。
「何これ……」

 蔵の中は、私の学校の教室よりちょっと狭い位の大きさの部屋で、その左の壁一面がガラス張りの棚になっていて……これって、鉄道模型? 私にはまったく分からないが、いろんな大きさの列車の模型が並んでいる。そして反対側の壁は本棚になっていて、なんだろうこれは? 時・刻・表? かなりの冊数がある。他にも旅行や鉄道関係と思われる本が大量にあった。

 部屋の正面には、大きな事務机が置いてあり、これまた立派な革製の椅子が備えられていて、机の上には立派なガラスケースに収まった黒い塊が……なんだろうこれ、大きいな。1m以上あるよね。下に線路があるからやっぱり鉄道の模型?

 不思議そうな顔でそれを眺める私に、お父さんが言った。
「ははは。オヤジご自慢のC61はご健在だな」
「C61?」
 確かにその模型の前面と思われる所には【C6118】と書いてある。

「ああ二葉。お前は知らないよな。これがSL。蒸気機関車だよ」
「これが蒸気機関車……電車じゃないの?」
「うん。これはお父さんがまだ生まれる前に活躍していた列車だ。電気じゃなくて石炭燃やして動くんだよ」
「へー、昔の電車……いや機関車か。でもこの部屋すごいね。なんか鉄道グッズばっかり」
「ああ。俺のオヤジは筋金入りの鉄オタでな。俺のじいさんが戦後に始めた陶器の外国向け販売が成功して、うちは結構羽振りがよかったらしいんだけど、オヤジはその三男坊で、ロクに定職にもつかずに、あちこちの温泉行っては鉄道三昧の暮らしをしていたって聞いてる」

「ははは。でもお父さんは鉄道趣味じゃないよね?」
「あー、俺は……小学生の時に、オヤジに無理やり、夜行の普通東京発大垣おおがき行きってやつに乗せらられてから鉄道は苦手で……お前には才能がないってさんざん嫌味いわれたんだけど、何の才能だよって……まあ、こんな感じなんで、マニアに売っちまえば高く売れそうには思うんだけど、俺もばあちゃんもいろいろ思い出深くてね。これ、どうしたものかと……お前、鉄オタやらない?」
「何よそれ。私は女の子よ」
「いや女の子でも最近は鉄女とか……はは、まあいいや。もう冷えてきたし母屋に戻ろう。こいつらの処遇はまたおいおい考えるさ」

 そして私は、お父さんと母屋に戻った。
 
 ◇◇◇
 
 翌日は大晦日。みんなでアメ横にお正月用の買い出しに行ったが、すごい人だわ。
 ここ数年、自由に買い物も出来なかったから、みんなその分の鬱憤うっぷんを晴らしているのかと思える位だ。ヘトヘトになっておばあちゃん家に戻り、おそばを食べていたら、お父さんが「もう紅白の時間だ」と言ってテレビを付けた。私は、お笑い番組がいいんだけどな……。

 大晦日って夜明かしするものらしいけど、小学生の私にそれは無理だ。昼間、人混みで疲れた事もあるのか、まだ夜の九時前なのに猛烈に眠い。テレビの前で舟を漕いでたら見かねたおばあちゃんが「二葉、もう先にお休み」と言ってくれたのでお言葉に甘え、先に一人で二階に上がり、そのまま布団に潜り込んだら多分三十秒もしないうちに寝落ちした。

 …………ボーーーーーン……

 ふわっ? 何の音だ? 
 あっ、これってどこかの除夜の鐘かな。この辺お寺も多いしね。
 不意に目が覚めてしまったが、いったい今何時位かな? 除夜の鐘が鳴っているという事は、まだ年明けてないよね? 隣に敷いてある布団はまだ空なので、両親もまだ下でテレビ見てるんだろう。まあ、いいや。寝直そう……そして何気なく窓をみると外が異様に明るい事に気が付いた。

「近所で何か年越しイベントでもやってるのかしら?」
 ちょっと興味が沸いて、布団から抜け出して外を眺める。ううっ、寒っ!

「あれ、どういう事。蔵の灯りが付いてる? お父さんがまたおじいちゃんの模型でも眺めてるのかな」
 そして私は、昨日見たC61の事を思い出したのだが、なぜか無性にまたあれを見たくなった。灯りが点いてるんだから誰かいるのよね。私はそのまま一階に降りたのだが、居間には誰もおらずテレビも消えていた。ああ、やっぱりみんなで蔵に行ったのね。ちょっと寒かったけど、勝手口からサンダルを履いて私も蔵に向かうが、確かに蔵の戸が開いている。
 
「おじゃましまーす」
 内戸を開け中に入ると、蛍光灯は灯いていたが……誰もいない?

「あれ、おかしいなー。大人だけでどこかに出掛けちゃったのかな? でも蔵の戸開けっ放しで不用心よね」
 仕方がないので母屋に戻ろうとも考えたのだが、せっかくここまで来たのだからC61をもう一度拝んで行こう。そう思って私は正面の机のそばに歩みよる。
「不思議な形だけど……なんか黒くてかっこいいわよね。いやそう思えるのは、私におじいちゃんの血が流れているからか?」などど他愛もない事を考えながら、私は無意識にこうつぶやいた。

「C61。出発進行!」
 
 その時である。いきなり、ぽおぉぉぉぉっ‼ と大音量が響き渡り、C61が入れられていたガラスケースが直視出来ない程の明るさで輝きだした。

「えっ⁉ 何なに? 何がどうしちゃったの?」
 何が起きたか分からない私は、パニック状態になる。遠くからシュッシュッ……という音がだんだんと近づいて来た様に思うのだが、あたり一面が、真っ白い霧の様なものでおおわれ始め、視界も利かなくなった。

「やだよ。何これ……お父さん、助けてっ‼」

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