『元』魔法少女デガラシ

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十二.真相は闇?

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 翌日。俺は会社に着くなり坂出社長に夕べの失礼をお詫びに伺ったのだが、社長はまだ出社していなかった。秘書さんに聞いたら、午後三時出社の連絡があったらしい。まさかあの女の子たち全員相手にした訳じゃないよな。

 午前中、だだっ広い世界戦略構想部で、吉崎もおらず社長の乱入もない……静かな時間をすごしていた。正直、昨夜は飲み過ぎていた事もあって、結構二日酔いがひどいため、あまり仕事が手につかない。でも、まあ普段から大した仕事はしていないのだが……そんな感じで昨夜の事を思い出しながらボーとしていたら、秘書さんがお茶を持ってきてくれた。

「田中さん眠たそうですね。お暇ですか?」
 いやー、この秘書さん。前から思ってたけど結構物言いがストレートだよな。
「ええ。社長も吉崎もおらず、二日酔いもひどくて……」
「それじゃ、私に付き合ってくれませんか?」
「えっ?」まさか社長の居ぬ間にオフィスラブ? などと妄想したが違った。
 社長室の本棚を動かす様に言われていたらしく、社長がいない時でないと作業が出来ないのだが、今はたまたま他に手伝える人もいないらしい。
 まっ、頭脳労働でなくてよかったかな。それにしてもでっかい本棚だな。
 まあ、実際には読んでなんかいなくてインテリア見たいなもんだろうけどな。

 秘書さんといっしょに、いったん本を出し床に並べて、本棚を空にしていく。
 この秘書さんも、さすが坂出一輝の秘書さんだけあって、美人でスタイル抜群。というか、ちょっとムッチリ系で、本を床に置くためかがむと、太腿の内側がチラと見えるのが何とも眩しい。なんかそんな俺の目線に気が付いている様でもあるのだが、気にせずというかサービスしてくれていると言うか、なるべく奥の方が見える様に俺の方を向いてくれている様にも思える。一流の秘書ってそういうものなのかな。

「井坂さーん。ああ、ここにいた。すいません。社長のお客でアポ無しなんですが、VIPみたいで……井坂さん。対応お願い出来ますか?」どうやら下の受付の人の様だ。
「ああ、ごめんね。こっちにいたから内線気づかなかったよ。今行くから、とりあえず応接で待って貰って」

「田中さん。そう言う訳で一旦離れますので、留守番も兼ねてここお願いしていいかしら?」
「それはもちろん。ですが、私は信用していただいていいので?」
「あたりまえじゃない。そういう方でないと、隣の部屋は与えられません!」
 そうなのか。それはそれでちょっと面映ゆいな。
 それじゃ仕方ない。期待に応えるべく、勤勉に働くとしよう。

 本棚自体には、下にローラーが付いているので、空になれば手で押せる。
 位置はすでに秘書さんに聞いていたので、問題なくそこに合わせた。
 さて次は、床の本を元に戻さないと。
 
 黙々と作業を続けるが、秘書さんが戻ってくる気配はない。お昼も近くなってお腹もすいてきたが……まあ出来る所まで頑張っぺ。
 そして足元にあった段ボールに手をかけ持ち上げたのだが、段ボールが劣化していたのか、手をかけたところからベリベリっと破れ、中身が散乱してしまった。あっ、やべ。段ボールは後で秘書さんに貰うとして、とりあえず飛び散った奴集めないと……そして床に落ちた書類を手にした俺は、そこで一瞬固まった。

「なんだこれ……魔法少女死亡統計!?」
 これって坂出一輝が魔法少女サポーターをしていた時の資料か? いやこれ勝手に見ちゃいかん奴だろ……でも……いかんとは思いながら、俺は書類を拾って整えるフリをしながら順番に書類を眺めていく。

『魔王発生頻度・分布と考察』、『年齢推移に伴う魔力量測定結果』、『性的充足度と魔力強度の関係』……俺は心拍数が爆上がりなのが自分でわかる位、極度の緊張に叩き込まれる。
 そして……『マジノ・リベルテ M市市民大量殺害事件調査報告』!! 何だよこれ!? 見ちゃいけないと思いつつ、そのレジュメを開こうと恐る恐るページをめくった瞬間。

「おい田中。お前何してる!!」
「うきゃっ!!」あまりにびっくりして声が上ずってしまった。

 後ろを振り返ると坂出社長が立っている。
「ああ、社長。午後三時出社と伺っていましたが……」
「何をしていると聞いている」
「いや、秘書さんに頼まれて、本棚の移動のお手伝いを……」
「ほお……」
 坂出一輝はつかつかと俺のそばまで来て、俺が手に持っていたレジュメをひったくった。

「はあ。だめだよ。人の秘密のもの見ちゃ……中も読んだのか?」
「いえ。今さっき落としてしまって、手に取っただけです」
「ふう。そうか。信じよう。こいつらはどれも国家機密扱いだ。本当なら金庫にでも締まっておくべきシロモノなんだが、ヘタに会社の金庫なんかに入れておいたら、誰に見られるか分からんしな。まあ僕の社長室自体が金庫見たいなものなんで、一般人には何の事かもわからん資料だし、大したものではない感じを装って段ボールに入れてたんだが……劣化してたんだな」
「はい。社長。私は何も見ませんでした。記憶にも残りません!」
「それがいい。そうでなければ君。東京湾に沈むぞ」
「はい。肝に銘じます!」
 そこへ秘書さんが戻って来たので、坂出社長が新しい段ボールを用意させ、床の本もあの書類ともども無事すべて本棚に収まった。

「社長。それじゃ私は、前に戻ります」秘書さんがそう言って社長室を出て行った。
「ごくろうさん……ああ田中。ちょっといいか」そう言って坂出社長が俺を近くに呼び寄せた。さっきの脅しの念押しかなとも思ったが違った。

「あれ見たのが君でよかったかも知れん。君はかえでの思い人だし、こっちの立ち位置で物事を考えてくれるだろうと思っている。正直、あれを私一人で抱えているのも苦しいのだよ。
 まあ、知ったからと言ってどうなるものでもないのだが、秘密を共有してくれる同志がいるだけで少しは心が軽くなる」
「それじゃ、あれの内容を私に?」
「いや、全部はダメだ。そんな事バレたら、さすがの僕でも抹殺される。
 だが、そうだな。君は魔法少女が魔王と戦ってどの位の生存率が有ると思う?」
「えっと。ほぼ百%なのでは?」
「はは……アニメの見過ぎだ。
 十八%。これが現実だ。五チームある魔法少女チームのうち、四チームは間違いなく全滅して死んでる……マジノ・リベルテはトップクラスに優秀だったんだよ」

「えっ? そ、そんな……そんな事デガラシは一言も……」
「デガラシ? ああ五十嵐だからか。はは……そんなの彼女らに言える訳ないだろ!
 だからアニメ作る方も必死なんだよ。たくさん視聴率とってたくさん応援してもらって、その生存率をコンマ1%でも上げないといけないんだ」

 ああ……そういえばデガラシが言ってたっけ。日曜朝のアニメで応援するとそれが魔法少女の力になるって……それって本当だったんだ……。
 だとしたらマジノ・リベルテも、常に死と隣り合わせだったって言う事だよな!?

 なんだよそれ……そんな中で懸命に頑張って来たって言うのに、卒業してからデガラシは、全然報われていないじゃん。
 
 俺はあいつの顔を思い出しながら、全身が黒い霧で覆われていく様な感覚に陥った。

 ◇◇◇

「ただいまー。あれ珍しいね。こんな時間にビール飲みながらアニメ観てるんだ?
 あれ! それクワトロじゃん。どしたの?」
 バイトから帰ってくるなり、デガラシがそう言った。

 坂出一輝にあの話を聞いてしまったら、無性に魔法少女を応援したくなった。
 会社の帰りに「魔法少女戦隊クワトロ・カクテル」のブルーレイを買おうと思ったのだが、なぜかBox売りしか予定されておらず販売開始がまだ先だったので、配信チャンネルで観ていたのだが、ふと気になってデガラシに尋ねた。

「デガラシさ。前にみんながTVで応援すると、魔法少女の力が高まるって言ってたけど、あれって、日曜朝でなくって、こうした配信とかでもいいのか?」
「もちろん! 応援してくれているの、リアタイで肌で感じられるよ」
「へえ。感じられる位分かるんだ。じゃ、今俺がこれ観ながらモスコミュールちゃんを応援したら、それが彼女に伝わっているんだ。なんかちょっと照れるな」
「そうだね。でも日曜朝だと同時視聴者数がダンチだから、あの時間帯はほんとにビリビリくるんよ。そんで変身バンクの時がピークでさ。なんかイッちゃいそうになった事ある」
「それって、もしかして大きなお友達の応援? だったりして?」
「それもあったかもね。でもあれでだいぶ助かったんだよ。ほんとみんな応援ありがとって感じ。おかげで風俗務めてもあんまり抵抗感なかったし……」

 そうか。俺がこうして応援する事が少しでも彼女達の役に立つんだったら応援するしかないよな。十八%……デガラシも知らないこの数値の意味は大きくて重い。今放映しているクワトロは、多分今一番苦戦しているチームだ。マジノ・リベルテだってアニメ放映されていたと言う事は、当時が一番ピンチだったのだろう。

 モスコミュールちゃんだけじゃなくてほかのメンバーも生き延びてほしい。
 そう思いながら、俺はクワトロの配信を何度も観ながら真剣に応援した。

 ◇◇◇

 その後、坂出一輝と一対一で会話する機会もあったのだが、魔法少女に関する情報はほとんど教えて貰えなかった。そしてそれは、俺がそれを知ってしまう事で、坂出や俺の立場がまずくなるという懸念もあったとは思うが、そもそもあの段ボールの中身は坂出一輝が国家機関の眼を逃れて密かに独自に集めたものらしく、坂出一輝が何かを腹に隠しているのは間違いなさそうだ。まあ、もっと俺を信用してくれたら打ち明けてくれるのかもしれないが、こっちとしても、デガラシが内縁とかウソついている状況でもあり、まだ当面、腹を割った話合いは出来ないだろうな。

 そして九月十日。デガラシの誕生日だ。
 デガラシがコンビニの見切り品のショートケーキを買ってきていた。

「あーあ。二十九か……あと一年。頑張るぞー!」
 それって、処女を守る事か? ノルマンディは出来れば俺に貰ってくれと言っていたし、アルデンヌも俺とデガラシがくっつけば解決だ見たいな事を言っていた。
 正直、俺だって性欲はあるし、たまにデガラシに隠れて一人で抜いたりもしている。
 吉崎ではないが、俺などグイグイ押されたらコロっと行ってしまうと思うのだが、デガラシは決してそんな事はしてこない。それは俺との今の関係性をちゃんと彼女なりに理解して考えているからだろうと思いたいが、単純に処女にこだわっているだけかも知れない。

 だが、やはり、あいつと交わる時は、俺が半端な気持ちではいかんと思う。
もっとちゃんとデガラシに向き合って、ちゃんと好きになってからでないと……俺は古いのだろうか。
 
「なあ、デガラシ。お前魔法使いになって何がしたいんだ? 何か夢があるんだろ?
 それなら、別に三十待たなくても応援するぜ」
「えっ。そうだな……でもあれ? 何だろ。パっと思い出せないや。何か、絶対やらなきゃならない事が有った様な気がするんだけど……」
「それって、まさか。カズくんとヨリを戻せますようにとか?」
「ああー。それはない! でも、何だったっけー……今がかなり幸せなんで忘れちゃったかな。でもまあ、三十越えて魔法使いになったら絶対思い出すよ!」

 今がかなり幸せ……といわれて、ちょっと舞い上がってしまった。
「ふふ。なんかニヤついてるぞ田中。でも本当に私は今が幸せだなって感じてるの。こんな得体の知れない奴を半年近く面倒見てくれてありがとね。何にもお礼は出来ないけれど、三十すぎて魔法使いになれたら、私の処女。嫌だっていってもあんたにあげるわ」
「はは……楽しみに待ってるわ」
 うん。これで当分、無理に関係を迫る事が不可能になった。
 ノルマ・アルデ……ご期待に沿えず申し訳ない。
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