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最終話 デリバリー・デイジー アフター(その1)
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はあっ。最近ため息ばかりだなー。このお店もそろそろ潮時なのかもね。ここのところお客の本指名もオキニ登録もめっきり少なくなっている。でもそりゃそうかー。お店のホームページではあいかわらず『デイジーちゃん・二十一歳』のままだけど……実際はもうアラサーだもんなー。お客がついても、そのあとのリピートがほとんどない。
こないだお店のバレンタインフェア用のコス写真も撮ったけど、いくら小柄なロリフェイスとは言え、どんなに加工してもオバさんなのがバレちゃうよなー。まあ若い素人系を売りにしている今の店から、人妻系のお店に鞍替えして愛想とテクニックで売ってくのもありだとも思うけど……以前、藤巻先生に言われて、頑張って通信で高卒の資格は何とか取ったので、そこを足掛かりにカタギの仕事に移るのもありかもな。リンだって今度の四月でもう小学三年生だ。リンは相変わらず無口で、本ばっかり読んでるけど、そろそろ色々と世の中の事が分かって来ているみたいだし……はあっ……それにしても今の世間は、シングルマザーは普通に息をするのも苦しいよ。
「たっだいまー、リン。ほら、スーパーで見切り品のメンチ買って来たから、明日の朝食べよ。あんた好きでしょ?」
「……うん」
さすがに小学生になってるんで、あたしの朝夕の送り迎えはもうやっていないが、リン自身は近所の子供達といっしょの集団登下校みたいな事はしているのだ。そしてふと見ると、リンがなにかでっかいスマホ見たいのをいじってる。
「あれっ!? リン。それどうしたの?」
本はせがまれて買ってやる事がままあるが、あんな機械買った記憶ないぞ。まさか、どこぞの変なパパに? いや、まさか……。
「……学校の……ePad……宿題」
学校の? あー、そういやそんなお知らせ来てたっけ。今は小学校でタブレット教育やるんだった。リンが操作しているのを見たら、どうやら漢字の読み書きの宿題みたいだ。
「へー。そんなのでやるんだ。でも、それ家に持って来ていいのか?」
「……大丈夫。重いけど……」
リンは操作にそれほど戸惑う様子も無く、ちゃんと文字を打ち込んでいる。
こりゃ、も少ししたら、スマホ買ってくれとか言われちゃいそうだな。
「ありゃ、リン。漢字間違ってるぞ! それ安金じゃなくて安全じゃね? それとそっちは玉様じゃなくて王様だろ。ははは。金と玉間違えるんじゃねえよ!」
「ママの馬鹿!!」顔を真っ赤にしながらリンはタブレットをテーブルに放置したまま、自分の部屋に籠ってしまった。
ありゃりゃ。ちょっと下品だったか。でもガキだガキだと思っていたけど、最近は読む本も、小学生向けとはいえ恋愛ものばっか読んでるみたいだし……何かマセてるんだよな我が娘は……と言う事はあたしもいよいよ気を付けないと……。
テーブルに置きっぱなしになっていたリンのタブレットを手に取ってみるが、こりゃ大人も使う本物のePadだな。ちょっと待て!? これでお店のページ見れちゃったりしたら……慌てて確かめてみるが、よかった。ちゃんとなんとかフィルターの警告が出てる。そりゃそうだよな。こんなんで小学生がエロ動画とか観れたらシャレになんないぞ。学校もそこまでは馬鹿じゃないだろうから、ちゃんといろいろ対策はしてあるんだろう。
でも……へー。メールとかも普通に使えるんだ。でもこんなんで変な奴から裸の写真送れとか言われたりしたら……いやこれ、たまには親も目を通して置かねえと危ないよな。
◇◇◇
遅まきながら一応、学校から配られたタブレット教育の親の心得みたいなやつを引っ張り出して読み、リンと話し合って、たまにあたしが中を見てもいい許諾を得た。
ログインのパスワードも教えて貰い、リンが寝てからたまに、ざっと目を通すが……よしよし。変なメールとか画像はなさそうだな。
そんなこんなでやがて四月になり、リンは三年生に進級した。今度の担任は若い男の先生らしい。相変わらず無口な娘ではあるが、別に嫌がりもせず学校には通っているので、これでいいかと思っていたのだが……。
◇◇◇
四月も終りかけ、あすから連休と言う時に、シフトを予定していた女の子がいきなり数人休んだとかで、少し夜のヘルプに入ってくれと言われた為、リンの例のタブレット宛てに、帰りが遅くなる旨メールを入れた。こういう使い方も、予めリンと話し合って了解を取っており、何かと便利だなとは思う。
そんなこんなで、夜の十時を回って帰宅したら、ありゃりゃ。リンがキッチンのテーブルで寝落ちしてら。しょうがないなー。起こさない様にそっと抱き上げ……あれ? 何だこいつ。泣いてたのか? もしや学校でいじめとか!? 焦る気持ちを抑えながらリンをベッドに運び、何か判るかと連絡帳とタブレットを開いてみる。
連絡帳には連休中の宿題が羅列されているだけで、タブレットには担任の先生からの、この連休中の注意がメールで来ている位だ。特に気になるものは無い。テーブルに腰かけ、まあ明日起きたら本人に聞いて見ようと思いつつ、何気なくブラウザを開き……何っ!? あたしは一瞬目を疑った。ブラウザの検索窓にカーソルがあたって、過去の検索ワードが羅列されたのだが……『デイジー』って何だよ!!
あたしは背中に冷や汗が流れるのを感じ、あわててその検索を実行する。でも……はは。花の情報しか出てこないわ。そりゃそうだ……へー。デイジーの花言葉って『純潔』なんだ。全然あたしとは真逆じゃん。でも、あー、焦ったー。学校のタブレットが風俗や水商売の情報引っ掛ける訳ないもんな。それにしてもこんな単語どこで……偶然か? いや、いままでもあいつの耳に入っちゃった事はあるかも知れないな。もう冷や汗でびっしょりだ。さっさとシャワー浴びよ……そう考えてブラウスを脱ぎだしたのだが、嫌な考えが頭をよぎった。
「こういうのって、実際に見たページの履歴も残ってるんだよな……」
その見方も、学校が親に向けたタブレットの案内に書いてあったな。
怖いけど……確認しなきゃ……そして……
「なんだよこれ……風俗のページはタブレットには出ないんじゃないのかよ……」
それはお店とか企業のものではなく、個人が趣味で上げているブログ見たいなもので、なぜかデイジーという名前とお店の情報。そしてあたしに対するレビューみたいのが書いてあった。写真も……店のやつの無断転載か? 顔は湯気で判らないけどリンなら私だって判かっちゃうよな……これ。
やばい!! バレた!? …………突然、涙が噴き出した。
「あっ……あっ……あたし、リンに何て言えばいいんだ?」
結局、昨晩はキッチンのテーブルに突っ伏したまま全く眠れなかった。朝が来て、リンに何を言われるのか……恐ろしくて仕方なかった。だけど……無情にも朝が来て、目覚ましの音がリンの部屋で鳴っていた。あの子がごそごそと部屋の中で着替えている気配がした。
そして……
「……おはよ」リンがキッチンに来た。何を言われるのか……私は戦々恐々としながらビクついていたのだが、リンは私にこう言った。
「ママも……今日お休み? 本屋さん、行く?」
こないだお店のバレンタインフェア用のコス写真も撮ったけど、いくら小柄なロリフェイスとは言え、どんなに加工してもオバさんなのがバレちゃうよなー。まあ若い素人系を売りにしている今の店から、人妻系のお店に鞍替えして愛想とテクニックで売ってくのもありだとも思うけど……以前、藤巻先生に言われて、頑張って通信で高卒の資格は何とか取ったので、そこを足掛かりにカタギの仕事に移るのもありかもな。リンだって今度の四月でもう小学三年生だ。リンは相変わらず無口で、本ばっかり読んでるけど、そろそろ色々と世の中の事が分かって来ているみたいだし……はあっ……それにしても今の世間は、シングルマザーは普通に息をするのも苦しいよ。
「たっだいまー、リン。ほら、スーパーで見切り品のメンチ買って来たから、明日の朝食べよ。あんた好きでしょ?」
「……うん」
さすがに小学生になってるんで、あたしの朝夕の送り迎えはもうやっていないが、リン自身は近所の子供達といっしょの集団登下校みたいな事はしているのだ。そしてふと見ると、リンがなにかでっかいスマホ見たいのをいじってる。
「あれっ!? リン。それどうしたの?」
本はせがまれて買ってやる事がままあるが、あんな機械買った記憶ないぞ。まさか、どこぞの変なパパに? いや、まさか……。
「……学校の……ePad……宿題」
学校の? あー、そういやそんなお知らせ来てたっけ。今は小学校でタブレット教育やるんだった。リンが操作しているのを見たら、どうやら漢字の読み書きの宿題みたいだ。
「へー。そんなのでやるんだ。でも、それ家に持って来ていいのか?」
「……大丈夫。重いけど……」
リンは操作にそれほど戸惑う様子も無く、ちゃんと文字を打ち込んでいる。
こりゃ、も少ししたら、スマホ買ってくれとか言われちゃいそうだな。
「ありゃ、リン。漢字間違ってるぞ! それ安金じゃなくて安全じゃね? それとそっちは玉様じゃなくて王様だろ。ははは。金と玉間違えるんじゃねえよ!」
「ママの馬鹿!!」顔を真っ赤にしながらリンはタブレットをテーブルに放置したまま、自分の部屋に籠ってしまった。
ありゃりゃ。ちょっと下品だったか。でもガキだガキだと思っていたけど、最近は読む本も、小学生向けとはいえ恋愛ものばっか読んでるみたいだし……何かマセてるんだよな我が娘は……と言う事はあたしもいよいよ気を付けないと……。
テーブルに置きっぱなしになっていたリンのタブレットを手に取ってみるが、こりゃ大人も使う本物のePadだな。ちょっと待て!? これでお店のページ見れちゃったりしたら……慌てて確かめてみるが、よかった。ちゃんとなんとかフィルターの警告が出てる。そりゃそうだよな。こんなんで小学生がエロ動画とか観れたらシャレになんないぞ。学校もそこまでは馬鹿じゃないだろうから、ちゃんといろいろ対策はしてあるんだろう。
でも……へー。メールとかも普通に使えるんだ。でもこんなんで変な奴から裸の写真送れとか言われたりしたら……いやこれ、たまには親も目を通して置かねえと危ないよな。
◇◇◇
遅まきながら一応、学校から配られたタブレット教育の親の心得みたいなやつを引っ張り出して読み、リンと話し合って、たまにあたしが中を見てもいい許諾を得た。
ログインのパスワードも教えて貰い、リンが寝てからたまに、ざっと目を通すが……よしよし。変なメールとか画像はなさそうだな。
そんなこんなでやがて四月になり、リンは三年生に進級した。今度の担任は若い男の先生らしい。相変わらず無口な娘ではあるが、別に嫌がりもせず学校には通っているので、これでいいかと思っていたのだが……。
◇◇◇
四月も終りかけ、あすから連休と言う時に、シフトを予定していた女の子がいきなり数人休んだとかで、少し夜のヘルプに入ってくれと言われた為、リンの例のタブレット宛てに、帰りが遅くなる旨メールを入れた。こういう使い方も、予めリンと話し合って了解を取っており、何かと便利だなとは思う。
そんなこんなで、夜の十時を回って帰宅したら、ありゃりゃ。リンがキッチンのテーブルで寝落ちしてら。しょうがないなー。起こさない様にそっと抱き上げ……あれ? 何だこいつ。泣いてたのか? もしや学校でいじめとか!? 焦る気持ちを抑えながらリンをベッドに運び、何か判るかと連絡帳とタブレットを開いてみる。
連絡帳には連休中の宿題が羅列されているだけで、タブレットには担任の先生からの、この連休中の注意がメールで来ている位だ。特に気になるものは無い。テーブルに腰かけ、まあ明日起きたら本人に聞いて見ようと思いつつ、何気なくブラウザを開き……何っ!? あたしは一瞬目を疑った。ブラウザの検索窓にカーソルがあたって、過去の検索ワードが羅列されたのだが……『デイジー』って何だよ!!
あたしは背中に冷や汗が流れるのを感じ、あわててその検索を実行する。でも……はは。花の情報しか出てこないわ。そりゃそうだ……へー。デイジーの花言葉って『純潔』なんだ。全然あたしとは真逆じゃん。でも、あー、焦ったー。学校のタブレットが風俗や水商売の情報引っ掛ける訳ないもんな。それにしてもこんな単語どこで……偶然か? いや、いままでもあいつの耳に入っちゃった事はあるかも知れないな。もう冷や汗でびっしょりだ。さっさとシャワー浴びよ……そう考えてブラウスを脱ぎだしたのだが、嫌な考えが頭をよぎった。
「こういうのって、実際に見たページの履歴も残ってるんだよな……」
その見方も、学校が親に向けたタブレットの案内に書いてあったな。
怖いけど……確認しなきゃ……そして……
「なんだよこれ……風俗のページはタブレットには出ないんじゃないのかよ……」
それはお店とか企業のものではなく、個人が趣味で上げているブログ見たいなもので、なぜかデイジーという名前とお店の情報。そしてあたしに対するレビューみたいのが書いてあった。写真も……店のやつの無断転載か? 顔は湯気で判らないけどリンなら私だって判かっちゃうよな……これ。
やばい!! バレた!? …………突然、涙が噴き出した。
「あっ……あっ……あたし、リンに何て言えばいいんだ?」
結局、昨晩はキッチンのテーブルに突っ伏したまま全く眠れなかった。朝が来て、リンに何を言われるのか……恐ろしくて仕方なかった。だけど……無情にも朝が来て、目覚ましの音がリンの部屋で鳴っていた。あの子がごそごそと部屋の中で着替えている気配がした。
そして……
「……おはよ」リンがキッチンに来た。何を言われるのか……私は戦々恐々としながらビクついていたのだが、リンは私にこう言った。
「ママも……今日お休み? 本屋さん、行く?」
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