【R18】特攻E小隊

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第九話 沙羅フォーメーション

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「やっぱり片手より両手の方がマナ溜まるのが早いような気がする」
 そう言いながら、人の頬に自分の頬をくっつけようと沙羅がにじり寄ってくる。
 俺の方は両手を強く握られていてすぐにに逃げられない。

「よ、よせっ。あんまりくっつこうとするな!」
「照れなくてもいいって。
 くっついている面積が広いほうが絶対いいはずだから……」
「やめろ―。戦闘中に頬ずりしたり出来んだろっ!」

 いかに迅速に沙羅にマナを渡すかの試行錯誤が続いていた。
 ここ数日、マナグラフィーも使って簡易的に計測しながらいろいろ試しているが、いまのところ肌が接触している面積が大きいほど、時間あたりのマナ供給量は増える事と、服越しよりも直接触れている方が良い事が判明している。
 なお、このトライアルは絶対他人には見られたくないので、別途基地内の古い倉庫を一つ借りて、その中に籠ってやっている。

 いまのところ俺の、大気からのマナ取込みは100MVマナ値/分くらいで、博士に聞いたところによると、まあ成人のエルフはだいたいこんなものらしい。
 それで、そのうち1~2MVくらいを、手を握る事で沙羅に渡せていることが計測で分かっている。
 沙羅本人だけだと、分当たり1MVくらいしか取り込めなかったが、今のところその二~三倍の効果は見込めるという事だ。まあそれでも、次弾装填が二時間から四十分くらいになる程度だが……それにしても、実際の戦闘時にはどうすればいいんだよ。

 沙羅が攻撃とマナ補給を交互に実施する形で、補給の際、俺のそばに戻ってくるのが無難かと思われるが、そもそも沙羅の場合、マナを体内に溜めておくキャパもかなり低く、エル程とは言わないが一般的なエルフと比べても余剰のストックが効かないため、普通に生活する分には問題なくとも、戦闘中はずっと手をつないでリアルタイムでマナを補給し続けるくらいでないと話にならなそうだ。
 一方で、保有キャパが少ないところでの強制的なマナ消費で、沙羅の健康に問題は起きないのだろうかという危惧もある。
 元来、エルフは大気中のマナを取り込んで、細胞レベルでの生体活性化エネルギーに変換することが出来、そのおかげで人間よりかなり長寿なのだと言われている。だからマナを魔法力で消費して、いつもストックが無い状態が継続するのは、もしかしたら彼女の寿命を縮めているのかもと、ちょっと考えてしまう。

(もしそうなら、極力俺のマナを渡して使ってもらう方が、彼女のためになるのは間違いないかな……)
 そんな事を考えていたら、また馬鹿野郎発言が飛び出した。

「小隊長~。裸で抱き合ってみる? 雪山で遭難したときみたいに、人肌でお互いを温め合いながら……寝るな! 寝たら死ぬぞっ! 的なやつ」
「アホか、お前は。百歩譲って、裸で抱き合うとマナ効率が上がるとして、戦闘中に裸で出撃するのか? 
 あるいは、補給のたびに服脱いで抱き合うのか? というか、俺はお前と雪山で遭難した事なんかないぞっ!」
「いやいや、雪山は言葉のアヤ。
 裸って言ってもさ、下着つけてれば大丈夫じゃない?」
「だから~、抱き合っているうちに敵に囲まれたらどうするんだって!」
 今までの訓練中に、何回かエルに吹き飛ばされて、沙羅の頭のネジがどこか外れたんではないかとまじめに思う事がある。

「でもそうなると、恋人たちのお散歩よろしく、戦場で手をつないで歩くしかないよね~。それはそれで大問題」
「なにが大問題なんだ。
 現実的な話、それ位しか出来ないだろ」
「僕は、両手でロッド振らないと魔法弾発射できないんだよ!」
「?」

「だから、攻撃発射のときは、小隊長の手を放さないといけないし、その間に小隊長が迷子にならない様、ぼくのそばに付いててもらわないといけない」

「!! あの―沙羅さん。俺の保護者的発言はとりあえずおいといて……ロッド、片手で振ったりは出来ないの?」
「うん、無理。あの大きな水晶玉を一定以上の速度で振らないといけないんで、僕の体格だと両手で振らないと、重心がずれちゃって的にあたらないんだよ」

 先の問題が片付かないうちに新しい問題が浮上した?

 そんなやりとりが聞こえたのか、座禅の訓練を終え、窓際で休憩していたカレンとエルが近づいてきた。

「小隊長~。なんか問題山積みね~」
「困りましたね。ロッドは……ワンドもそうですけど、モーション変えると、習熟するのに結構手間がかかるんですよね」
 カレンは冷やかし口調だが、エルはまじめに心配してくれているようだ。

「ふ~。俺も沙羅も腹は括っている。
 この際だ、二人も何かアイデアがあれば出してほしい」

 カレンが口を開く。
「接触プレイの先輩として言わせてもらえればぁー、一番そそるのはやっぱり背中よね。面積も広いし……。
 いっそ、小隊長と沙羅ちゃんを背中合わせで、さらしでぐるぐる巻きに縛っていっしょに行動したら~。
 これなら、裸でもさらしを巻けば傍目にはわからないし~」
「うむ……アイデア的には面白いが、お互いが逆方向を向いていて、移動や照準は大丈夫かとは思うぞ」
 なんか半ばヤケではあるが、冷静に考えて感想を述べた。

 小首をかしげて思案していたエルが口を開いた。
「それならおんぶとか抱っことか…………う~ん、それだと沙羅ちゃんが動きずらいか。 
 そう……肩車! 肩車はどう?」
「おおっ、なんかよさそうな気がする」
 沙羅が身を乗り出した。
 俺もひたすら冷静に考えてみる。

「確かに。肩車なら、二人の視界も重心も共通だし、何より沙羅が両手を使える」
「そうだよ。しかも僕の背丈より高い位置からだから、より遠くの敵も狙いやすいよ!」
「それに、首・肩と、太腿の接触だから、手を握るよりはるかに面積が広いわよ~。小隊長は上半身だけ脱げばいいから敵前でも恥ずかしくないわよねっ」

 カレンにそう言われて、はっと気が付いた。
 太腿もそうだが、股間も付いてくる?

 一瞬、鳥肌が立ったような気もしたが……いや、もう腹は括った!
 部下がせっかくよさそうなアイデアをせっかく出してくれたのだから、試さない手はないだろう!
 その後、どう固定するのが良いかなど、安全対策も含めた細かい議論の上、とりあえずトライしてみる事とした。

 俺は上半身をはだけ、沙羅は生足で俺に肩車した。そして、急な爆発や攻撃でも離れたりしない想定で、沙羅の内股と俺の首が密着した状態でさらしで固めてもらった。
 本気でこのフォーメーションを使うなら、装備はもう少し工夫したほうがよさそうだが今日のところはこれで試験だ。

 結果は……案ずるより産むがやすし。
 マナを渡す量が、手を握るより二~三倍効率がよい。
 やはり接触面積が増えていることが要因であろう。
 また、高い位置から沙羅が方向を指示してくれるので、的を識別しやすいし、重心が高い事だけ気を付ければ、方向転換や移動もそれほど大変ではない。
 なにより沙羅は軽いので、荷物を背負っている感覚はほとんどなく、動き回ってもそれほど疲れない。
「いや~、やってみるもんだな。行けるんじゃないかこれ」

 俺の正直な感想に、沙羅もうれしそうだ。
「うんっ、高いところから撃てて気分爽快! 
 ひれ伏せ、愚民ども! って感じだね。 
 自分で走らなくていいから楽だし」
「まあまあ、すっかりお山の大将ね。
 でも、これで沙羅フォーメーション、発進ね」
「沙羅フォーメーション? かっくい―」

 カレンの命名に沙羅も至極満足げだった。

 そうして何回か沙羅フォーメーションの練習をし、その日の訓練を終えた。
 幸いな事に、練習を続けて行くうち沙羅と俺とでの阿吽の呼吸というか、受け渡しにより習熟したというか、ちょっとずつではあるが、だんだん時間当たりのマナ受け渡し量も増えている事が計測された。

「なんか、ちょっと肩が軽くなったかな。
 いや実際には重くなるんだが……」
 などど思いながら宿舎に帰ろうとした時、後ろからカレンに呼び止められた。

「小隊長。大事なご相談があります」

 その後ろで、エルがうつむきがちにちょっと困り眉でこちらを見ていた。
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