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エンデラ王国と不死族

使徒パイルエスカルネ

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 千景ちかげは、菊一きくいち濃紺のうこん着流きながしを、早々と、忍術『変装七法へんそうしっぽうの術』で執事の服に着替えさせた。帯刀たいとうさせておくのもどうかと思ったが、菊一が死ぬほど嫌がったので、そのままにせざるをえなかった。

「これは僕の命ですよ? これがだめなら天音あまねさんの刀、僕に下さい」

「そういうことを言っているじゃないだよ、菊一」

「嫌なものは嫌です、まったく御館様は、人切りのなんたるかをわかっていない、いいですか? これがないと僕は、存在価値を失います、刀を失った人切りにどんな存在意義そんざいいぎがあるのですか! 教えて下さい御館様!」

「そう設定したのは、俺だけどもだ!」

「こっちの世界に来てから、あれやっちゃいけないこれやっちゃいけないってそんなことばっかだよ、ご主人しゅじんは」赤狐が天井のシャンデリアにまたがりながら、言ってきた。

赤狐しゃっこも、そんなんだとパンツ見えるだろ!」

「ほらね、中水着なんだからいいんじゃん」

「あまり、主様あるじさまで遊ぶものじゃありませんよ、赤狐」

「わかった……刀持ってていいから、俺がいいって言うまで抜くなよ」

「人切りの刀は、飾りじゃないのに……僕は悲しい……」
  
 そんなことをしていると、天音に呼ばれたので、作業を中断して、そちらに向かった。その間も、菊一は「この服、窮屈きゅうくつじゃないですか、もっとゆったりしたのがいいな僕は」とか言って、それに赤狐が「でしょー、そうでしょー、わかるー」と乗っかっていた。呼び寄せる配下を間違えたかと思ったが、どうせそのうち全員呼ぶことになるだろうと思い、そのことについて千景は考えるのをやめた。

 それよりも、拠点を手に入れたということは大きな収穫であった。『倭国神奏戦華わこくしんそうせんか』の遠方への移動は、宿屋の『転送の間』経由で行われ、街に帰還しようと帰還スキルを使ったときには、最寄りの『転送の間』が表示されそこから選ぶといった感じであった。しかし拠点を持つことにより、ギルドメンバーだけが利用できる『転送の間』を作ることが可能で、そこにはどこにいようとも、自由に帰ってくることができ、そこから他の『転送の間』への移動も可能だった。そしてさらに課金アイテムの『定点十字石ていてんじゅうじせき』を打ち込めば、十か所までしか記録しておくことが出来ないという欠点はあったが、打ち込んだところに『転移の間』から飛ぶことが出来た。ただ他所よそのギルドの拠点内部きょてんないぶや、ボスの間等の直接転移されるとゲームバランスが壊れるところには『定点十字石』を打ち込むことは不可能であった。

白狐びゃっこ、食べ終わったら、この屋敷やしきの拠点化を済ませておいてくれ」

「それは一番先に終わらせておきましたよ、主様、」
 
 千景は赤狐の分まで白狐は優秀になっているんじゃないかと感心した。そしてそのまま『転送の間』の作成と、その周辺の罠の作成を頼んだ。これで大分動きやすくなる。しかしその時、水音からグループヴォイスチャットが飛んできて「御館様、御館様、大変でえふ!」とただならぬ雰囲気ふんいきで話しかけてきた。

「どうした、水音、なにかあったか」

「なんか、けもくじゃらの化物が、窓に大量にへばりついています、結界で中まで入りこめていませんが」

「すぐ行く、エルタとミレアは全力で守れよ」

「わかりましたあー、はやあーく、へるーぷ」

「みんな城に戻るぞ、エルタ達が襲われている」

 すぐさま、ゴルビスの屋敷から、全員で城へと向かった。そして千景は忍術『天稟千里眼てんぴんせんりがんの術』を発動して、視線を城へと走らせる。

「街にはそれらしいものがいないみたいですけど、城だけでしょうか」白狐は先に街の方を確認しているようであった。

「そうか街にはいないか、城にいるのもどうやらエルタ達がいる部屋に、集中して突っ込んでるみたいだ、けもくじゃらの化物……種族獣人 職種リヴィングロストってなってるな、獣人共のゾンビってことか、レベル四十越えてる」

「そいつらは全部切っていいんですよね?」菊一が、にこやかに微笑んでいる。

「切れ」

「よかったそれまで止められたら僕は、田舎に帰らせて貰いましたよ」

「田舎か……」

 まだ部屋の中まで入り込まれてはいない、やつらは攻めあぐねている。千景達が、柵を飛び越え、城門の前まで行くと、上から何かが降ってきた。それを、四散しさんして避ける。見あげるとそこには、大きくて黒い羽根を羽ばたかせて空中を旋回しているなにかがいた。種族ヴァンプドラゴン、そこまで見た時に、それに乗ってきたのであろう、上から降ってきた何者かが話しかけてきた。

「初めまして」そう言いながら千景達に恭しく会釈をした。

「誰だお前は」

「名前聞くんですかあ、御館様、切っちゃいますよ、僕」と言って、菊一が、初めましてと言ってきた男の横を、弾丸の速度で駆け抜けた。ヒィィンと風切り音がして、男の首が体から切り離された。が男は菊一によって跳ね飛ばされた首を、飛びあがってつかんだ、そして、何事もなかったような表情で、手の上に首を置いて話し始めた。

「いきなりですか、そうですか、せっかくわたくしが迎えに来て差し上げましたのに」

「迎えに?」千景は、白狐と赤狐に目で合図して、先に行かせた。その後を、菊一も付いていく。男はその姿を目で追ったが、何をするわけでもなく、意識はこちらに集中しているようであった。

「貴方様もこの世界の者ではないのでしょう? わかっております、わかっておりますよおー、わたくしには言わなくてもいいです、今から楽しみでしょう、だから迎えに来たのです。貴方様を連れてこいというのが、我が主である『災禍さいかの魔典第一章の顕現者けんげんしゃ』ヴィタニア様の望みなのですから、ちなみにわたくしはヴィタニア様の使徒をやらせてもらっております、パイルエスカルネと申します、どうぞお見知りおきを」

「災禍の魔典? 顕現者? ヴィタニアって誰だ」

「あらっ、知らない? おかしいですね、杖に選ばれた『レプリカーズド』様の一人だというのに、そうですか、どういうことでしょうね、まあいいでっす、平たく言えば予言の書ですね、もうじき忌まわしい『アールシャール』の封印から『黒渦くろうずの杖』が解放されますので、安息を与えてはならないという神の意志を実行して頂ければいいだけなのですがあーー、お好きでしょ? そういうの」

「俺は好きじゃないな」種族不死魔 職種レプリカーズドの使徒 レベルは六十五、高いな、これで使徒か。

「困りましたね、困りました、非常に困りました、貴方様もしかして人間? そうですよねっ? ねっ? ねっ?」頭を左右の手で持ち変えながら、こちらに言葉を発してくる。

 天音は、千景の横で刀を構え、微動びどうだにせずにパイルエスカルネを見つめている。千景は、いくつかの疑問があったが、先手必勝とばかりに高位忍術『烈爆遁れつばくとん集彩束玉しゅうさいそくだまの術』を唱えた。パイルエスカルネの体の中心に火の玉が出現して、その一点に急速に光が集まり爆発した。
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