遠い海に消える。

中原涼

文字の大きさ
22 / 22

22

しおりを挟む
 あれから何度求め合ったのか分からない。
 ベッドから抜け出せば、もう終わりだとお互い言い合ったのに、湯船で終わりなく求め合い、もう止めようと言いながら、リビングで横たわればその場で身体を重ねた。
 深夜にようやく力尽きて眠りに落ちれば、リビングの堅いソファの上で目が覚めた。
 俺は兄の腕の中にいた。ブラインド越しに、白々と青い朝が訪れている気配がした。目を擦ると、幾分視界がクリアになり、ただ身体の気怠さだけが昨日の激しい夜を物語っていた。
 あの怠い身体に、良くあんな体力があったものだと、我ながら感心してしまう。
「起きた?」
 声を掛けられて顔を上げると、兄の唇が降ってきた。朝に似合う、重ねるだけの優しいキスだ。
「おはよう」
「おはよ、悪いな。こんな場所で。ベッドに運ぼうと思ったんだが、さすがに体が怠くて、少し眠ってた」
 兄が苦笑いすると、俺は首の下にある彼の二の腕に頬を擦り当て、
「ここならどこでもいい」
 と掠れた声で答える。
 ベッドの上でも堅いソファの上でも、どこでもいい。
 そう言うと、兄は俺を抱き締めてくれた。俺達はお互いに抱き合いながら、木の根のように足を絡ませて、窓の外からじわりと滲み寄ってくる朝から逃れる様に抱き合った。
 もう戻れない場所まで来てしまった。
 一艘の船に乗せられ、広大な海に放たれたような不安が、不意に胸に去来する。それは幸せの隙間を縫って忍び寄り、何度も俺の影に身を顰め、隙を突いては俺の心を、何度でも黒く覆うのだろう。
「好きだ、もう絶対離さない」
 囁くように呟いた兄の俺を抱く腕に力がこもる。彼の体の熱が、俺の胸を焼いて、心も、思い出も焼き焦がそうとする。俺はそれにそっとを目を閉じて、一度だけ頷いた。
 もう俺達には未来しかない。
「愛してるよ」
 けれど、この先光のない場所でも、胸に宿った炎だけは生涯消える事はないから、きっと生きていける。
 俺は兄の腕の中に深く潜り込んで、思い出を遠く見えない場所へと投げ捨てた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

ちゃんちゃら

三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…? 夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。 ビター色の強いオメガバースラブロマンス。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

あなたの家族にしてください

秋月真鳥
BL
 ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。  情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。  闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。  そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。  サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。  対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。  それなのに、なぜ。  番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。  一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。  ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。  すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。 ※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。 ※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

処理中です...