海の声

ある

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42.母の想い

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『親御さんは??』

「家に居ると思いますけど…」

『あら…そう。』
海美母は少し不機嫌そうに一言こぼし、おもむろに助手席のバッグを後ろの席に動かすと『送って行くわ、乗りなさい。』と助手席を指した。

その道中、沈黙の車内で海美母の携帯が音を立てスマートフォンの画面が車内の闇に輝いた。

「あ…それ。」

スマートフォンの画面に映し出された待ち受けの写真。そこには海美母と、その横で満面の笑みを浮かべる女の子…海美が映っていた。

『ん?あぁ、私の娘よ。』

"知ってますよ"なんて言える筈もなく"あぁ…"と一言返事をする。

『この子ね、"渡し子"を楽しみにしてたのよ。』

そこで1つの疑問が生まれた。

「"楽しみにしてた"…ですか?」

『あぁ、こんな事あなたに言うべきじゃないけれど、この子の…海美の代わりにしっかりと役目を果たしてもらいたいのよ。』

代わりって…
その瞬間、何かが音を立てて繋がった気がした。

刹那、海美と出逢ってから今までの事が走馬灯のように流れては、またそれを繰り返した。

「海美が…渡し子…」

『あら、名前…知ってたのね。』

しまった!!つい…
言い訳を口にしようとすると海美母の言葉に遮られた。
『どこまで聞いているのか知らないけど、海美の為にも生半可な気持ちで"渡し子"をやってもらっては困るの。それだけは肝に命じておいてちょうだい。』

海美母こえぇーっ!!
下手な事言わなくて良かった。

俺は簡単な道案内を終え、取調室…いや車内から降りた。

「ありがとうございましたっ。その…俺、頑張ります。」

『そうでなきゃ困るわ。色々と言われるかもしれないけど"役目"を果たしてちょうだい。それと、親御さんに"子供だけに挨拶に行かせるような事"はどうかと思いますって伝えて。』

海美母は去り際の"手土産"を渡すとすぐに走り去って行った。

なんか…誤解されてる?よな。

暗闇に揺れるテールランプを見届けると俺は家へと戻った。


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