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炎天
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まだ、皐月だというのにアスファルトと人の皮膚を容赦無く焦がす太陽がもうすぐ夏だと告げる。
額と顳顬から滝のように流れる汗はいくらタオルで拭っても拭いきれない。仕舞いには、幻聴か蝉の声も聞こえてくる始末だ。
「これ、5月だよね?おかしくね?なにこれ、暑すぎて俺死ぬかも~」
今にも死にかけている様な声を発したのは、普段は誰もが心を奪われ呼吸する事さえ忘れ、すれ違えば振り返らない者などいない美貌の持ち主の天だ。だが、今は暑さに窶れ普段の天とは思わぬ姿となっている。
「そんくらいで、死ぬのか。脆いんだな。将来が心配だ。」
これに答えたのが、何色にも染まらない漆黒の髪と人々の心を虜にする桔梗色の宝石に猫のようなツリ目に、人と一線を引くような壁の役割を果たす銀フレームの眼鏡をかけている陸である。
「なんで、陸は全然汗かいてないの!?おかしいでしょ、こんなに暑いのに!見てこれ天気予報が38℃って言ってる!!!5月なのに!」
「落ち着けって、今年が初めてじゃないだろ。ほら、学校着くぞ。早く歩け。」
「はーい…」
自宅が隣同士の彼らは自然と一緒に登校するようになっている。自宅から学校までは、歩いて15分の距離だ。普通なら、送り迎えがあるのだろうが車で校門前に来ると人に囲まれて動けなくなるので人がまだ少ない時間を二人で歩いている。暑さと闘いながらのそのそと歩くと堂々と聳え立つ建物がある。
年季と威厳さを感じる門を通過したら二人を出迎える。その建物こそが、彼らが通っている「帝統大学附属高等学校」である。この学校は、幼稚園から大学又は大学院まで全てエレベーター式のエリート中のエリートしか入学が許されない一貫校である。「我が国に命をかけて貢献すること。」をもっとうにこの国を託すに値する人間の育成を行う、それと同時に優秀な遺伝子を後世に残すということを目標にしている。帝統高校の制服は、昔から変わらない。
黒のスーツに黒ネクタイという、大昔では御葬式の際の正装だったらしいが現代では関係のない話だ。スーツを採用しているのは、早いうちから社会人としての意識を芽生えさせるためである。流石と言ったところだ。天は暑さのあまり、ジャケットは脱ぎ、タイは緩みきって、シャツは第1ボタンが空いている。一方の陸は、それとは正反対だ。全てがきっちりとしているた。
「おい、天!その服装をなんとかしろよ、だらしの無い。」
「えーー、だって暑いんだもん無理無理死んじゃう。教室に入ったら直すから~ね?」
「はぁ、まったく。」
「へへ~」
そうして、笑った天の顔は幼子を連想させるようなひどく無邪気な顔だった。
一度学校に入れば、大きな歓声と視線が二人を容赦なく包み込む。
「天様ー!!!!!今日もお美しいです!!」
「陸様ー!!!今日も凛々しいお姿素敵です!!!」
必ず様付けなのだ。ファンの間での暗黙の了解らしい。男女共にこれだ。
(はぁ、五月蝿い。疲れるな)
心の中で、吐き捨てた陸の本音を天が察したらしく、
「はーい!朝から熱烈な挨拶ありがとうー、みんな!そろそろ始業だよ戻ろうね!」
「はい!大切な朝のお時間を削ってしまい申し訳ございませんでした。以後気をつけます。」
「そんな、気を貼らないで!もっとフレンドリーにいこ?ね?」
「キャーーー!!!」
「お前、服装を今すぐに正せ。」
「あ、そうだった。はいよっと。」
きっちりと、スーツを着こなした天は一緒にいる陸の視線までも奪ってしまう程、色気と凛々しさを漂わせる。
ここで、陸によってドアが閉められ始業を迎える。これが、二人の毎朝の光景だ。
二人が入った教室が3-A組。帝統の特徴は、クラス編成やカリキュラムにある。一つは、クラス編成だ。三学年全てが4クラス編成となっており、AからDまで振り分けられている。振り分け基準が、生徒の総合能力だ。総合能力とは、学問、運動能力、演説力や説得力、統率力。また、日々の服装や人に対する態度、仕草など細かな所までが点数付けされたものである。この総合点数が高い者達が順にAからDへと振り分けられているのだ。そして、成績が伸びない者は保護者同伴の指導か退学の措置がとられる徹底した学校だったのだ。
カリキュラムもそうだ、高校の過程で大学の勉強範囲は既に終わっている状態だ。社会に出てから家柄に恥じないようマナーに関する授業や環境問題、自治に関する専門的な授業もある。
運動面では、一般の学校が授業としているサッカーやバスケなどもやるが、ゴルフや乗馬、武術なども同時に身に付けるよう授業が組まれている。この際は、授業ではなく講義と言った方が正しいのかもしれない。卒業した後、どの職に就いてもいいようにある程度全ての分野には全員が触れるのだ。
3年間で、これら全てを完璧に身に付けた者が無事卒業し、国に貢献していくのだ。
これが、昔からの帝統大学附属高等学校なのだ。
この厳しい条件下で、全ての学問において成績をトップに保っているのが陸であり、全ての実技でトップを保っているのが天なのである。この状況は、入学してもう2年が経つが1回も変わったことがない。変えることが出来ないのだ、あまりにも二人が出来すぎていて。だから、人々は二人を様付けで呼ぶし、尊敬し、敬意を払っているのだ。
天は、周りからチヤホヤされるのが嫌いではないようだ。女子からもチヤホヤされるが、それと同時に男子からも人気者なのだ。何せ運動の成績がトップであり、性格面でも常に明るくクラスの中心核だからだ。休み時間には、よくクラスメイト達とバスケなどを楽しんでいる姿も見られる。
その一方で、陸は別だ。チヤホヤされる事を好まない、静かに学校生活を送りたいタイプなのだ。休み時間は、基本読書か勉強をしている。疲れることを嫌う、そんな理由で教室に留まっている陸を見て、女子達はクールという一言で崇めている。また、あの容姿だ。クールと言う言葉にトドメを刺したようなものだ。
そんな、正反対な二人が毎朝登校しているのは単に家が隣同士だからだけではない。
二人には、この社会に生きていく上で重要な問題に直面しているのだ。
額と顳顬から滝のように流れる汗はいくらタオルで拭っても拭いきれない。仕舞いには、幻聴か蝉の声も聞こえてくる始末だ。
「これ、5月だよね?おかしくね?なにこれ、暑すぎて俺死ぬかも~」
今にも死にかけている様な声を発したのは、普段は誰もが心を奪われ呼吸する事さえ忘れ、すれ違えば振り返らない者などいない美貌の持ち主の天だ。だが、今は暑さに窶れ普段の天とは思わぬ姿となっている。
「そんくらいで、死ぬのか。脆いんだな。将来が心配だ。」
これに答えたのが、何色にも染まらない漆黒の髪と人々の心を虜にする桔梗色の宝石に猫のようなツリ目に、人と一線を引くような壁の役割を果たす銀フレームの眼鏡をかけている陸である。
「なんで、陸は全然汗かいてないの!?おかしいでしょ、こんなに暑いのに!見てこれ天気予報が38℃って言ってる!!!5月なのに!」
「落ち着けって、今年が初めてじゃないだろ。ほら、学校着くぞ。早く歩け。」
「はーい…」
自宅が隣同士の彼らは自然と一緒に登校するようになっている。自宅から学校までは、歩いて15分の距離だ。普通なら、送り迎えがあるのだろうが車で校門前に来ると人に囲まれて動けなくなるので人がまだ少ない時間を二人で歩いている。暑さと闘いながらのそのそと歩くと堂々と聳え立つ建物がある。
年季と威厳さを感じる門を通過したら二人を出迎える。その建物こそが、彼らが通っている「帝統大学附属高等学校」である。この学校は、幼稚園から大学又は大学院まで全てエレベーター式のエリート中のエリートしか入学が許されない一貫校である。「我が国に命をかけて貢献すること。」をもっとうにこの国を託すに値する人間の育成を行う、それと同時に優秀な遺伝子を後世に残すということを目標にしている。帝統高校の制服は、昔から変わらない。
黒のスーツに黒ネクタイという、大昔では御葬式の際の正装だったらしいが現代では関係のない話だ。スーツを採用しているのは、早いうちから社会人としての意識を芽生えさせるためである。流石と言ったところだ。天は暑さのあまり、ジャケットは脱ぎ、タイは緩みきって、シャツは第1ボタンが空いている。一方の陸は、それとは正反対だ。全てがきっちりとしているた。
「おい、天!その服装をなんとかしろよ、だらしの無い。」
「えーー、だって暑いんだもん無理無理死んじゃう。教室に入ったら直すから~ね?」
「はぁ、まったく。」
「へへ~」
そうして、笑った天の顔は幼子を連想させるようなひどく無邪気な顔だった。
一度学校に入れば、大きな歓声と視線が二人を容赦なく包み込む。
「天様ー!!!!!今日もお美しいです!!」
「陸様ー!!!今日も凛々しいお姿素敵です!!!」
必ず様付けなのだ。ファンの間での暗黙の了解らしい。男女共にこれだ。
(はぁ、五月蝿い。疲れるな)
心の中で、吐き捨てた陸の本音を天が察したらしく、
「はーい!朝から熱烈な挨拶ありがとうー、みんな!そろそろ始業だよ戻ろうね!」
「はい!大切な朝のお時間を削ってしまい申し訳ございませんでした。以後気をつけます。」
「そんな、気を貼らないで!もっとフレンドリーにいこ?ね?」
「キャーーー!!!」
「お前、服装を今すぐに正せ。」
「あ、そうだった。はいよっと。」
きっちりと、スーツを着こなした天は一緒にいる陸の視線までも奪ってしまう程、色気と凛々しさを漂わせる。
ここで、陸によってドアが閉められ始業を迎える。これが、二人の毎朝の光景だ。
二人が入った教室が3-A組。帝統の特徴は、クラス編成やカリキュラムにある。一つは、クラス編成だ。三学年全てが4クラス編成となっており、AからDまで振り分けられている。振り分け基準が、生徒の総合能力だ。総合能力とは、学問、運動能力、演説力や説得力、統率力。また、日々の服装や人に対する態度、仕草など細かな所までが点数付けされたものである。この総合点数が高い者達が順にAからDへと振り分けられているのだ。そして、成績が伸びない者は保護者同伴の指導か退学の措置がとられる徹底した学校だったのだ。
カリキュラムもそうだ、高校の過程で大学の勉強範囲は既に終わっている状態だ。社会に出てから家柄に恥じないようマナーに関する授業や環境問題、自治に関する専門的な授業もある。
運動面では、一般の学校が授業としているサッカーやバスケなどもやるが、ゴルフや乗馬、武術なども同時に身に付けるよう授業が組まれている。この際は、授業ではなく講義と言った方が正しいのかもしれない。卒業した後、どの職に就いてもいいようにある程度全ての分野には全員が触れるのだ。
3年間で、これら全てを完璧に身に付けた者が無事卒業し、国に貢献していくのだ。
これが、昔からの帝統大学附属高等学校なのだ。
この厳しい条件下で、全ての学問において成績をトップに保っているのが陸であり、全ての実技でトップを保っているのが天なのである。この状況は、入学してもう2年が経つが1回も変わったことがない。変えることが出来ないのだ、あまりにも二人が出来すぎていて。だから、人々は二人を様付けで呼ぶし、尊敬し、敬意を払っているのだ。
天は、周りからチヤホヤされるのが嫌いではないようだ。女子からもチヤホヤされるが、それと同時に男子からも人気者なのだ。何せ運動の成績がトップであり、性格面でも常に明るくクラスの中心核だからだ。休み時間には、よくクラスメイト達とバスケなどを楽しんでいる姿も見られる。
その一方で、陸は別だ。チヤホヤされる事を好まない、静かに学校生活を送りたいタイプなのだ。休み時間は、基本読書か勉強をしている。疲れることを嫌う、そんな理由で教室に留まっている陸を見て、女子達はクールという一言で崇めている。また、あの容姿だ。クールと言う言葉にトドメを刺したようなものだ。
そんな、正反対な二人が毎朝登校しているのは単に家が隣同士だからだけではない。
二人には、この社会に生きていく上で重要な問題に直面しているのだ。
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