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て
しおりを挟む鳥のさえずり、さわさわ揺れる木の音、遠くから訓練をしている騎士たちの声がかすかに聞こえる。
「…まり。」
「え、えと…!も、申し訳ありません…!」
はるか遠くに飛んで行ったボールは私の目には全く見えない。
「ぼーどぅ…」
ルーカスもしょぼんとしている。
「はわわ!ルーカス様!申し訳ありません!
マリが!マリがとってまいります!!」
マリもまさかここまで飛ぶとは思わなかったのかアワアワと慌てている。
しゅん、としてしまったルーカスを抱き上げたルーカス付きのメイドさんは、ヨシヨシと頭を撫でてニコニコしている。
この人、ルーカスさえいればいいんだなぁ。
「まり、わたしもいくよ。」
「殿下ぁぁ」
「るー、さきにおへやにもどってて。」
「ううう、あい…」
こく、と頷いてルーカスは部屋に連れられて行った。
「さ、まり、いくよ。」
「うう、申し訳ありませんーー!
せっかくのルーカス殿下とのお遊びでしたのに!」
「だいじょうぶ。もうつかれてたから。そろそろかえるところだったもの。」
「殿下はお優しいです!お優しすぎます!」
「そんなことないよ。ほら、はやくさがすよ。」
「はい!」
私とマリは、どこかに行ったボールを探しに中庭の奥へと進んで行った。
「マリはどこにいったかみてたの?」
「ええと、途中までは見えていたのですが、まさかこんなに飛んでいくとは…途中から見えなくなってしまいました…!」
「すごいね、こんなにとばせるの、しらなかった…」
「うぅ、成長期なもので!知らないうちに力が増してしまい加減が分からなくなってしまいます…!」
「それはしかたがないね」
「それにしてもミスが多すぎます…この前も軽く机に置いたはずのコップからガン、と音がして水がこぼれましたし、キャップが開かないペンを開けようとして潰してしまいました…。」
「それは…はやくなれるといいね。」
「はいぃぃ…。」
さて、そうこうしている間に植え込みまで来ました。
低木が植わっているけれど、奥行がかなりある。5メートルくらいかな。
「ううん、ここは探せませんね…。」
「わたし、さがせるよ。」
「ええ!?殿下、お怪我をしてしまいます!」
「しない。だいじょうぶ。」
私はキリリとマリを見た。
ちょっと潜ってみたい。木の下。
童話で見たもの。
こんな木の隙間を姉妹が屈んで走っていくと、その先には大きな猫みたいなタヌキみたいな化け物がいるのだ。
確か名前は…なんだっけ?
子供の時にだけあなたに訪れる不思議な出会い、と言っていたから私には見えるはず!
マリもまだ子どもだけど、今回はお留守番ね。
「まり、おけがしない。ちょっとだけ。ね?」
マリのお洋服を掴んで顔を見る。
お願い、ね?
「うぐうううぅ」
マリはほっぺたを膨らませて目をうるうるさせている。
「まり、おねがい。」
私もうるうるする。だめかなぁ。
「く、くぅぅう!
殿下!お怪我をしたらわたしが号泣いたしますぅ!
ですから、絶対お怪我をしないこと!
いいですね!」
「うん!しない!」
「それから、木の下は葉っぱで太陽の光があまり入りません!
薄暗いのでここからでは奥まで見えません!
マリは殿下がどこにいるのか分からなくなってしまいます!
お声がけした時は大きな声でお返事してくださいね!」
「わかった!」
こくこく、と頷いてマリと約束をする。
「ううぅ、心配です。
これが独り立ちというのですね。
あまりにも早いですが、怖くなったらいつでも帰ってくるのですよ!
マリは待っております!」
「まり…。わかった。
がんばってくるね。」
「ええ!行ってらっしゃいませ!」
よし、私は木の枝の隙間に頭を入れた。
わぁ。
まだ顔を突っ込んだだけなのにまるで世界が変わったみたい。
昼で明るかったさっきとは違い、こちらはまるで夜のよう。
心なしか静かな気もする…。
「殿下!なにかありましたか?!大丈夫ですか!?」
気がするだけだった。
「だいじょうぶだよ!まだあたましかいれてないもの。」
もう、マリったら心配しすぎよ。
それにしても確かに暗いわ、危ないから少しずつ進まなくちゃ。
私は身体を全て入れて、頭をぶつけないようにそっと進んで行った。
普段は外では芝生の生えた地面か硬い床しか歩かないから土を踏むこの感覚は新鮮だ。
少しふかふかしている。
よいしょ、よいしょと奥に進む。
ここは少し坂になっていて、奥に行くには坂を上らなければいけない。
少しきついけれど、私だって最近運動しているもの。
これくらいなら大丈夫よ。
「殿下!大丈夫ですか?!ボールはありますか?!」
「だいじょうぶ!ぼーるはないよ!」
「お気をつけてくださいね!ボールは見つからなければ報告すればいいのですから!無理しないでくださいね!」
「うん!」
マリの声も少し遠くなったかな。
うーん、少し暗さに目が慣れてきた。
でもボールはないなぁ。
ん?
キョロキョロとボールを探していると、少し遠くに紫の何かを見つけた。
あれはなんだろう。
よし、行ってみよう!
うんしょうんしょ、と私は紫の何かを目指して進んで行った。
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