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ほ
しおりを挟むじい様は腕を組んで少し上を向き、目を軽く瞑った。
「お前さんたちが知っているか分からねぇから始めっから説明するぞ。
今からもう何年前か…。あの頃のこの世界は国とは呼べないような小さな国が興っては滅びを繰り返していた。
ここ、ルイスエールもそうだ。
ただルイスエールは他の国と違って豊かな農地の広がる穏やかな地域だったんだ。
そんなルイスエールが他の国に狙われなかったのはこの国の立地が理由だな。
当時、いまの王都ほどの大きさだったルイスエールだが、現王都の場所とは違う場所にあったんだ。
それが、俺の故郷といわれている今のルイスエール領だな。
ほら、王位を譲った王や王妃が余生を過ごすあそこだ。
あの場所は国の端の方にあるだろう。だが他国に攻められる心配はない。
なぜなら他国との境はそびえ立つ世界有数の山脈が連なっているからだ。
あれに登れる人間なんざかなり鍛えた奴くらいだろう。
一人で来たところでさすがに多勢に無勢。しかも登山で体力を使ってしまった状態だ。誰も試さない。
もちろんあの山を軍なんか連れて登った日にはこっちに来る前に軍隊が壊滅するだろうな。
そういう訳で、誰にも攻められなかったんだ。
そして、ルイスエールの今の王都を境にして反対側を思い出してくれ。海があるだろう。
ルイスエール領から王都あたりまでは農地が広がり、そこから先は漁業が盛んだった。
お互いがお互いの物を必要としていて、交換する物もある。だからこの地域は争いが起きず穏やかだったんだ。」
へー、そうだったのね。
いま平和なのとあまり理由は変わらないのね。
「そうですね。」
「な、なんでそんな淡々としているんだ!」
「そこは ははうえがよく ほんをよんでくださるので…。」
「すごい!しえる、おべんきょうしてるのね!」
「しえる、かしこーい!」
私とカーラでぱちぱちとシエルを褒める。
ふふっと微笑み少しピンクになったほっぺがかわいい。
「じ、じゃあアレだ!ほら、唯一宣言とか言われてる恥ずかしいあの出来事の本当を教えてやる!」
じい様は不本意だという顔を隠さずそう言った。
「あんな恥ずかしい話にしやがって…。
アレはな、本当は俺の名前にミラなんていらねぇって話じゃねぇんだ。
当時そもそも俺しかいなかったんだからミラなんて存在しなかったんだ。
俺が皆から皇帝として認められてから、重役についているものや、働きを見て貴族の位を付けていった。
すると貴族はいちばん上のくらいである皇族を気にするようになるんだ。
何か粗相はしないか、どうすれば喜ばれるか、必死に考えるんだな。
初めは俺だけしかいなかったから良かったが、子供が産まれ、皇族が増えるに従って貴族たちは混乱するわけだ。どこまでが皇族なんだ、ってな。
だからせめて名前だけでも直ぐに皇族だと分かるようにしてほしいって言われたんだよ。」
「じゃあ、もともとなかった みら を、ふえたしそんにつけたから、じいさまは ついてないだけ、ってことですか?」
「なるほど、なくしたわけではないのですね。」
「じゃあ!どうして みら をつけなかったの!ですか!」
「そう、無くしたわけじゃねえんだ。俺がミラをつけなかったのはもう既にアシム・ルイスエールで通っていたからだ。
名前を変えまくったらややこしいだろう。俺は長く統治したからな。
俺の子供達が成人して子供を産んで、さて皇太子に譲位するかって時にミラをつけたんだよ。
つまり唯一宣言なんてのは後の歴史家が勝手に言ったことをみんなが信じちまっただけだ。」
「むむむ。このはなしは はじめてしりました。」
「お?信じたか?」
ニヤニヤするじい様に対して2人はむむむ、としぶしぶ頷いた。
よかった、みんな信じてくれて。もう少しでじい様が不審者になるところだった。
ほっと落ち着いた私と違って、じい様は少し怖い顔をしてシエルとカーラに言った。
「信じたのは良かったが、ここでのことはまだ誰にも言うんじゃないぞ。言っていい時が来たら教えてやる。それまで誰にも言うな。親にもだ。」
雰囲気のかわったじい様に2人は真剣に頷いた。
「これから大変なことが多いだろう。その時はこの子を助けてやってくれ。味方になってやってくれな。」
「「もちろんです!」」
じい様は私の頭をよしよし撫でながら2人に伝えた。
ちょっと恥ずかしいけれど、じい様の言葉に頷く2人にじんわり心があたたかくなった。
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