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しおりを挟む『やはり!顔に傷が!!』 ニコラスが指を指して叫ぶ。
人様に指、指すんじゃねーよ!ど阿呆ぅ。サイモンの胸中、今日一番の不愉快。
指を指されたブライオニーの右頬には確かに、しっかり、真横に走った刃物跡が有った。
『噂に違わず醜い傷ではないか!』
ニコラス様。その様な...と侍従が声を上げる。
『黙れ!傷物を傷物と言って何が悪い!』
「ニコラス殿、落ち着いてくれないか」とサイモンが諭すも
『うるさい!その様な傷者令嬢を高貴な私の伴侶になど出来るか!!』
高位貴族の子息とは思えぬ激高であった。
侍従と近衛士官も図らずともブライオニーの顔が見えた。
そのブライオニーを醜いなどと思わなかった。否、美しいとさえ思った。
高い身長は姿勢良く気品が有り、背中まで伸びた金髪は麗しく、真っ直ぐにニコラスを見る瞳は、夕日のようなアンバー。頬に傷が有れど、この様に侮辱されるものではないはずだ。
『全く図々しい。私に釣り合うと思ったか!田舎で馬でも羊でも追いかけているのが似合いだ!』
唾を飛ばして貶し続けるニコラス。
『今日ここで繕おうとも、お前の事は調べがついている!傲慢で我儘で、その顔の様に心根も醜いとな!』
あーお父様、キレそう。大丈夫ですか?ダメそうですか?
ブライオニーが心配しだした刹那
「ニコラス!!」
王妃マリアンヌが現れた。
部屋の外まで、彼の暴言は響いていただろう。
初対面の女性に対して何と失礼で、思い遣りの無いことか!
傲慢で心根の醜いとは、どの口が言っている?
候爵の嫡男で有るのに、否、嫡男でしか無いのに...辺境伯当主に、その息女に、許されぬ無礼の数々...
怒りで顔が赤いであろうとマリアンヌは思った。落ち着かなければ.. と一度深呼吸をする。
「ニコラス、全て聞こえましたよ」
『叔母様...』少したじろぐ辺りは権力に迎合する気質の表れか。
『しかし、この娘...』と再びニコラスが指をブライオニーに向けた瞬間、サイモンがバシッとその手を払い除けた。
『痛っ!!』
「指を指すな」
侍従と近衛士官はその声だけで縮み上がった。
近衛士官を輩出するオースティン家には申し訳ないが、王都の近衛騎士など安寧の今日は、王家に泊を付ける飾りである。
生死をかけた臨場など知るわけもない。
日夜鍛錬し、冬季には北の辺境伯領で気力も追い込み、実戦として隣国と刃を交えるのは辺境の騎士たちである。
その頂点にいるサイモン・ガルシュには青年騎士の時代から様々な二つ名が有るのだ。畏怖の念しかない。
「マリアンヌ様、お聞きになられたでしょう。
この若造の罵詈雑言を」
『わ、若造とは私のことか?!』
そうだよ、お前だよ...は貴賓室にいる者の総意。
サイモンはひと睨みでニコラスを黙らせた。
『ぐっ』
「この状況で此奴と縁を結ぶなど天地がひっくり返ってもあり得ない」
候爵家のボンボンを此奴と言い切るサイモン。
『それはこちらの台詞だ!誰が傷物令嬢など...』
「ニコラス!黙りなさい!」マリアンヌの叱咤が飛ぶ。
『叔母様...』
怒りからか緊張からかマリアンヌの声は少し震えていた。
「私の家門から、この様に不躾で高慢な者を出すなど...恥ずかしくて、申し訳なくてサイモン殿に顔向け出来ぬわ。
二人に謝罪して、この部屋を出ていきなさい。
今すぐに!!」
この時とばかりは王妃の貫禄を見た気がした。
ブライオニーがニコラスを見る。
『元はと言えば叔母様が余計なことをしたからでしょう。私は謝罪などいたしません。傷物を傷物と、目に見えたものを形容しただけです。悪いのは己の立場も弁えず登城した辺境伯の方だ!
傷があろうが無かろうが、辺境の女など興味は無い!
私の横に田舎娘などあり得ぬ!』
ふん!と鼻を鳴らして、しかし不適に笑ったサイモンに対しては恐怖も覚えたのであろう。
目を逸らし虚勢を張って、ニコラスは貴賓室を出て行くのであった。
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