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1話 女怪盗ジュエリー
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聞いた、あの話。うん、聞いた聞いた。そんな噂話が絶えない世界で、私は生きている。いつもはつまらないと適当に流してしまう彼女たちの噂話も、たまには役に立つ物だ。
「また貴族の犯罪を暴いたんですって、あの女怪盗」
「ああ、怪盗ジュエリーね。なんでも、怪盗なのに宝石や高価なものは盗まずに、悪事だけを暴いていくっていう」
私は同じ部屋の掃除をしている彼女たちの話を聞きながら、1人黙々と作業を続ける。とは言っても、耳は2人の方へ行ってしまっているけれど。
「三つ編みにされた長い黒髪に、真っ白な衣装。一度でいいから見てみたいわよね」
最近世間を騒がせている怪盗ジュエリー。貴族の家から盗んだ証拠を持ち、貴族たちの集まるパーティーに現れる彼女は、初めての犯行から随分と有名になった。もうかなりの数の悪事を暴いた彼女は、今どこで何をしているのだろうか……。
って言っても、私がその女怪盗なんだけどねっ。こんにちは、はじめまして。私は、王宮で王子様のお世話をしているメイドです。
誰に対してしているのかわからない自己紹介を心の中で繰り広げながら、綺麗に巻かれた長い黒髪を触る。この世界には黒髪の女性はかなりの数いるし、バレにくいだろうとは思っていたけれど……。まさか、未だにバレていないなんて。
本当は、何回かの犯行で正体がバレる物だと思っていた。だから、どうしても暴いておきたい悪事は最初に済ませておいたし、姿を大勢の人の前に表すことも躊躇わなかった。どれもこれも、捕まってしまうことが前提だったのだ。
それなのに、未だに無事な私……。捕まるか捕まらないか、スリルのある生活は今もなお続きます……。
私もまだまだ花の10代なのに、何してるんだか。でも、これであのお方の住む世界が少しでも良くなるなら……。
「リリィ。掃除は終わりましたか」
そう願っていても、私の力じゃあのお方を解放して差し上げるまでに至らなかった。だから、今もなおこんなことを続けているのだけれど。
「リリィ、どうかしましたか」
早くどうにかできるといいんだけれど。なんとしてでも、あの方には幸せを掴み取ってもらわないと。
「リリィ」
「は、はいっ」
考え事に耽っていたせいで、声をかけられていたことに気づけなかった。声の持ち主は、心配そうな顔をして私を見下ろしている。
少し伸びた金色の髪が揺れ、私の心は奪われてしまいそうな勢いだ。何度見ても、彼は美しい。
「リリィ、そろそろ勉強の時間だと思って来たのですが」
もうそんな時間かと部屋にかけられた時計の方へ目を向ける。ぼうっとしながら掃除をしていたせいで気がつかなかったけれど、あの2人のメイドもいなくなっている。一言ぐらい、声をかけてくれてもいいものを……。
「また貴族の犯罪を暴いたんですって、あの女怪盗」
「ああ、怪盗ジュエリーね。なんでも、怪盗なのに宝石や高価なものは盗まずに、悪事だけを暴いていくっていう」
私は同じ部屋の掃除をしている彼女たちの話を聞きながら、1人黙々と作業を続ける。とは言っても、耳は2人の方へ行ってしまっているけれど。
「三つ編みにされた長い黒髪に、真っ白な衣装。一度でいいから見てみたいわよね」
最近世間を騒がせている怪盗ジュエリー。貴族の家から盗んだ証拠を持ち、貴族たちの集まるパーティーに現れる彼女は、初めての犯行から随分と有名になった。もうかなりの数の悪事を暴いた彼女は、今どこで何をしているのだろうか……。
って言っても、私がその女怪盗なんだけどねっ。こんにちは、はじめまして。私は、王宮で王子様のお世話をしているメイドです。
誰に対してしているのかわからない自己紹介を心の中で繰り広げながら、綺麗に巻かれた長い黒髪を触る。この世界には黒髪の女性はかなりの数いるし、バレにくいだろうとは思っていたけれど……。まさか、未だにバレていないなんて。
本当は、何回かの犯行で正体がバレる物だと思っていた。だから、どうしても暴いておきたい悪事は最初に済ませておいたし、姿を大勢の人の前に表すことも躊躇わなかった。どれもこれも、捕まってしまうことが前提だったのだ。
それなのに、未だに無事な私……。捕まるか捕まらないか、スリルのある生活は今もなお続きます……。
私もまだまだ花の10代なのに、何してるんだか。でも、これであのお方の住む世界が少しでも良くなるなら……。
「リリィ。掃除は終わりましたか」
そう願っていても、私の力じゃあのお方を解放して差し上げるまでに至らなかった。だから、今もなおこんなことを続けているのだけれど。
「リリィ、どうかしましたか」
早くどうにかできるといいんだけれど。なんとしてでも、あの方には幸せを掴み取ってもらわないと。
「リリィ」
「は、はいっ」
考え事に耽っていたせいで、声をかけられていたことに気づけなかった。声の持ち主は、心配そうな顔をして私を見下ろしている。
少し伸びた金色の髪が揺れ、私の心は奪われてしまいそうな勢いだ。何度見ても、彼は美しい。
「リリィ、そろそろ勉強の時間だと思って来たのですが」
もうそんな時間かと部屋にかけられた時計の方へ目を向ける。ぼうっとしながら掃除をしていたせいで気がつかなかったけれど、あの2人のメイドもいなくなっている。一言ぐらい、声をかけてくれてもいいものを……。
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