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4話 私のためだから
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静かな時間が流れる。それは一瞬のことだったのに、私にはとても長く感じられた。格好つけて、何日もかけて手を渡して、そしてその手を差し出して。これで手を取ってもらえなかったら、全ては水の泡だ。私が自主して終わる。ただ、それだけの話。
でも、それでもいいと思ったから。貴方が選んだ道なら、それでもいいと思ったから。だから、私は行動した。貴方に選択の余地を与えるために。
どんな宝石よりも大切な、私の宝石。私は今、貴方の後ろではなく正面に立っている。怪盗という偽りの姿でも、どんなに幸せか。
私は馬鹿だ。結局は私も、この時を楽しみに待っていたんだ。王子という絶対的な拘束が解かれ、貴方を攫ってしまえるこの時を。軽蔑してくれても構わない。結局は私も、あの醜い貴族たちと変わらないのだから。
差し出した手が、緊張のせいか震える。それでも、最後の瞬間まで貴方から目を離したくないから。
私の手に、そっと温かい何かが重ねられる。それは紛れもない、ルーカス様の手だった。
そして、私たちはその場から消えた。まるで、海に消えていく泡のように。そこにいた痕跡なんて何も残さず、私たちは綺麗さっぱりと表舞台から姿を消したのだ。
「あ、の。ジュエリー、私はこれからどこに……」
ルーカス様は、不安そうな、でもどこか楽しそうな表情で私を見ている。本当は抱きかかえて空を飛んだりしたかったのだけれど、残念ながら私にそんな力があるわけもなく。私たちは、黒いマントに身を包んで王城を抜け出し、町まで降りてきていた。私の用意した家まで、後少しだ。
私はまだ、仮面を外していない。なんだか少し、怖かったから。
「……その仮面、外してもいいですか、リリィ」
……驚きは、しなかった。私の心から溢れ出そうになったのは、ただ単純な喜びだけ。
「もちろんです、ルーカス様」
ルーカス様の手によって外されたその仮面は地面に落ち、役割を終えたとでもいうように割れてしまった。謝るルーカス様の声を聞きながら、割れてしまった画面を見下ろす。特段大切なものでもなかったのに、なんだか少し寂しい。当たり前だ。怪盗ジュエリーも、紛れもない私だったのだから。それと、もうお別れするということなのだから。
「ルーカス様、実は今日、ジュエリーの最後の劇だったんです。ですから、お気になさらず」
つまりは、私はもうジュエリーを引退するということ。ルーカス様は驚いたような顔で私を見ていた。それでも、私の中に迷いはなかった。もともとルーカス様をお守りするためだけに作られた「私」だったのだから、彼女も本望だろう。
「さあ、行きましょう、ルーカス様。メイドの辞表も、実はこの前出してるので、バッチリですよ」
これからどうなるかなんて、誰にもわからない。怪盗として悪事を暴いてきたこの私にも、未来まではわからないのだから。それでも、貴方だけは幸せにするよ。だって、貴方は私が攫った、私だけのジュエリー。私の宝箱に入ったからには、たとえ元王子様であろうと、もう逃がさないんだから。
でも、それでもいいと思ったから。貴方が選んだ道なら、それでもいいと思ったから。だから、私は行動した。貴方に選択の余地を与えるために。
どんな宝石よりも大切な、私の宝石。私は今、貴方の後ろではなく正面に立っている。怪盗という偽りの姿でも、どんなに幸せか。
私は馬鹿だ。結局は私も、この時を楽しみに待っていたんだ。王子という絶対的な拘束が解かれ、貴方を攫ってしまえるこの時を。軽蔑してくれても構わない。結局は私も、あの醜い貴族たちと変わらないのだから。
差し出した手が、緊張のせいか震える。それでも、最後の瞬間まで貴方から目を離したくないから。
私の手に、そっと温かい何かが重ねられる。それは紛れもない、ルーカス様の手だった。
そして、私たちはその場から消えた。まるで、海に消えていく泡のように。そこにいた痕跡なんて何も残さず、私たちは綺麗さっぱりと表舞台から姿を消したのだ。
「あ、の。ジュエリー、私はこれからどこに……」
ルーカス様は、不安そうな、でもどこか楽しそうな表情で私を見ている。本当は抱きかかえて空を飛んだりしたかったのだけれど、残念ながら私にそんな力があるわけもなく。私たちは、黒いマントに身を包んで王城を抜け出し、町まで降りてきていた。私の用意した家まで、後少しだ。
私はまだ、仮面を外していない。なんだか少し、怖かったから。
「……その仮面、外してもいいですか、リリィ」
……驚きは、しなかった。私の心から溢れ出そうになったのは、ただ単純な喜びだけ。
「もちろんです、ルーカス様」
ルーカス様の手によって外されたその仮面は地面に落ち、役割を終えたとでもいうように割れてしまった。謝るルーカス様の声を聞きながら、割れてしまった画面を見下ろす。特段大切なものでもなかったのに、なんだか少し寂しい。当たり前だ。怪盗ジュエリーも、紛れもない私だったのだから。それと、もうお別れするということなのだから。
「ルーカス様、実は今日、ジュエリーの最後の劇だったんです。ですから、お気になさらず」
つまりは、私はもうジュエリーを引退するということ。ルーカス様は驚いたような顔で私を見ていた。それでも、私の中に迷いはなかった。もともとルーカス様をお守りするためだけに作られた「私」だったのだから、彼女も本望だろう。
「さあ、行きましょう、ルーカス様。メイドの辞表も、実はこの前出してるので、バッチリですよ」
これからどうなるかなんて、誰にもわからない。怪盗として悪事を暴いてきたこの私にも、未来まではわからないのだから。それでも、貴方だけは幸せにするよ。だって、貴方は私が攫った、私だけのジュエリー。私の宝箱に入ったからには、たとえ元王子様であろうと、もう逃がさないんだから。
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