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第15話「夏の腐臭」
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夢の中でナムちゃんは上手に木を登る。私が危ないからやめるようにと言っても、体を反らして見上げるほどの高さまで彼女は登ってしまった。
ナムちゃんは笑顔で私を見下ろす。得意げな顔だった。
それから彼女はするりと、真っ直ぐに伸びた杉の木を、滑るようにおりてくる。
そうだ、ナムちゃんが死ぬはずがないんだ──そう思ったところで私は目が覚めた。
私のスマートフォンが鳴っていた。あまり使わないから、使い方がよくわからない。画面を見るとピコちゃんからの電話だった。朝の七時二十八分。
約束のとおりに、ピコちゃんが迎えにきた。
ヤグチさんはピコちゃんに、私を迎えにいくように言った。私が道に迷ったりしないように。本当は私が逃げないように、ピコちゃんに監視させようとしたのかもしれない。
もしもピコちゃんが迎えにこなかったら、私はどうしていただろうか。待ち合わせの場所に行かなかっただろうか。
私たちは朝八時に、森の前のフェンスのところで待ち合わせをした。あんなことをあと二十六回もするらしい。
駐車場の裏にナムちゃんの自転車が、昨日と同じようにとめてあった。フェンスの前にはヤグチさんとセリちゃんがすでにきていた。時間になって、しばらく待ったけれどササちゃんはこなかった。
「ササちゃんに通話したんだけど出ない。返信もこない」
そうセリちゃんが言った。
「あいつはもうダメだ。ほうっておこう」
ヤグチさんはササちゃんのことをあきらめたようだった。
私たちは四人で森に入る。
* * *
ナムちゃんが死んで二日目──
私はナムちゃんが死んだのは夢で、次の日にはなにごともなかったように、彼女が元気に生きていることを祈っていた。けれどもナムちゃんは昨日と同じように、あの岩の上に寝ていた。裸で、全身に植物のツルが巻きつけられている。邪悪な何かに捧げられた供物のようだった。
セリちゃんが、ナムちゃんの顔にコバエがたかっていたり、飛んでいるのを、虫よけスプレーをかけて追い払う。
ピコちゃんが木陰に置いていたリュックサックから道具を取り出し、ヤグチさんがまたお香を焚く。
ナムちゃんの顔は、昨日と変わらないか、深い眠りについたような、より表情がなくなっているように感じられた。朝の鈍い光の中で、唇が白く、透けそうに見えた。
私たちはナムちゃんを囲んで、あの儀式を行う。ひとりいなくなった分は、ヤグチさんと私が多くもった。私がもうひとつのゴムボールをもって、ヤグチさんがストールをもつ。
三日目──
昨日と変わらないように見えた。
ヤグチさんが焚いたお香の甘い匂いに、生臭いような、微かに甘酸っぱい臭いが混ざっていた。
私は少し気分が悪くなって吐きそうになった。
四日目──
ナムちゃんのお腹が膨らんでいた。
肌がかすかに青みを帯びていた。
果物を棚に入れたまま、忘れていて、腐っていたときのような、甘ったるい生ゴミの臭いがした。
五日目──
ナムちゃんの全身が膨らみ、血管のような網目状の黒い線が肌に浮かびあがっていた。白く濁った目が突き出て、唇が裏返っているように見えた。
温泉卵の腐ったような臭いや、魚が売っている市場の排水溝のような、鼻をつき、吐き気をもよおす臭いがした。それはヤグチさんが焚くお香に混ざって、余計に気持ち悪かった。ピコちゃんもセリちゃんも口元をおおっていた。私は儀式のとき、少しでも空気を吸わないように、細く呼吸した。
儀式がおわったあと、ナムちゃんのまぶたが動いた、と思った。よく見ると、ナムちゃんの目の裏から、米粒ぐらいの大きさの蛆虫が這い出てきた。私は悲鳴をあげそうになったけれど、セリちゃんが無言で虫よけスプレーをかけた。
家に帰って顔を洗って、入りたくないお風呂にも入って、寝るころになっても、あの臭いがした。
ナムちゃんがそばにいるような気がして、怖くてなかなか眠れなかった。
六日目──
朝は雨が降った。ピコちゃんは迎えにこなかった。着信だけあったけれど、かけ直し方がよくわからなくて、そのままにした。
小雨だったので、レインコートを着て向かった。田畑の中を走るとき、風が強くて転びそうになった。
待ち合わせの場所にはピコちゃんもいた。
ナムちゃんは、目が突き出して、唇がめくれ、口が開いて、舌が飛び出ていた。肌は青黒く、お腹は大きく膨れあがり、その中に無数の蛆虫がいるような気がして怖かった。
また目や口から黒い液体が流れていて、まるで泣いているように見えた。
七日目──
昼から雨の予報だった。
ナムちゃんは昨日とそんなに変わらなかった。
巻きつけられたツルが枯れたように、うっすらと白くなり、黄色みを帯びているのに気づいた。
八日目──
木の蜜を吸うように虫がナムちゃんに群がっていた。
どれだけ虫よけスプレーをかけても、まったく意味がなかった。虫はナムちゃんの中からわいているようだった。
ナムちゃんの肌は黒くなっていて、少し紫色にも見えた。皮膚が裂けて、そこから赤黒い内側が見えていた。
お腹は少し凹んだような気がする。顔も痩せたような気がしたけれど、いつの間にか目がなくなっていて、黒い穴になっていた。
バターやチーズを焦がしたような臭いがして、ピコちゃんが吐いた。
九日目──
セリちゃんがマスクをもってきてくれたので、私たちはそれを借りた。ヤグチさんは自分のをもってきていた。
ナムちゃんは、夜のうちに動物にやられたのか、お腹が破れていて、腸のようなものが引きずり出されていた。
それを見てセリちゃんが泣いて叫んで、私も怖くてまっすぐに見ることができなかった。
とても囲んで立って、あの儀式をできる気がしなかった。それはヤグチさんも同じだったようで、私たちは三歩ほど離れて、横並びになって儀式を行った。
夜は雨の予報だった。
十日目──
近くに寄って確かめるのが怖かった。
ナムちゃんの手や足の指、顔の骨が見えているような気がした。また彼女から黒い液体が染み出して、岩を濡らしていた。
ナムちゃんは痩せて、もとの体型ぐらいに戻ったか、お腹の中身がない分、もっと細くなっていた。
「もうやめようよ……」
そうセリちゃんが言った。セリちゃんは顔色が白く、疲れたような目をしていて、彼女も眠れていないのかもしれない。ピコちゃんもヤグチさんもそんな顔をしていたから、私も同じ顔をしているかもしれない。
「まだ十日目だ」
「だって、これはもうナムちゃんじゃないでしょ!」
岩の上に横たわる黒い塊は、人の形をしていたけれど、それがナムちゃんであるということは、もしも知らなければ信じられなかっただろう。
彼女のいくつもピアスのついた耳も、いつの間にかなくなっていた。
十一日目──
八時になってもセリちゃんはこなかった。
仲のいいピコちゃんも、電話で呼ぼうとはしなかった。ヤグチさんも何も言わなかった。
ナムちゃんは、胸や肋の白い骨がかすかに見えた。ナムちゃんだったころの半分ぐらいがなくなっていそうなのに、相変わらずすごい臭いがした。
セリちゃんの道具はコンパクトだったので、開いて地面に置いた。
十三日目──
ナムちゃんの死体は黒く、細く、ミイラのようだった。彼女から流れ出した、彼女だったものが、岩に黒く染みこんでいた。
ツルは枯れたまま巻きついている。
十五日目──
鼻がなくなっていた。
腕や足の骨が見えた。
十八日目──
ピコちゃんはこなかった。
私もヤグチさんも、十五分だけ待った。
ピコちゃんの道具も地面に置いた。
二十日目──
あの強烈な臭いがしなくなってきた。土のような、お財布や鞄の乾いた革のような臭いがした。
虫の数が減ってきた。もう食べるところがないのかもしれない。
ヤグチさんはまだ続けるつもりのようだった。彼女は本当に生き返ると信じているのだろうか。
もしも生き返るのなら、なくなった部分はどうなるのだろうか。
二十四日目──
指の骨のような細かいところは、ずっと雨は降っていなかったので、風に飛ばされたのかなくなっていた。
二十五日目──
私はいかなかった。
フリースクールのときに仲良くしてくれた子と会うことになったから。彼女の母親と私の母が親しくて、断ることができなかった。
二十六日目──
大雨が降った。風も強かった。台風が近づいているらしい。
私は今日もいかなかった。この天気の中でも、ヤグチさんはひとりでもあそこへいっているのだろうか。
二十七日目──
ヤグチさんが言った最後の日だった。
朝からずっと雨が降っていた。町の方にはこないけれど、台風が南の方を通り過ぎていっているらしい。
私は灰色の朝の中、雨と風の音を聞いていた。
母は私の様子を心配していた。私は母に知られることよりも、母の口からナムちゃんの名前が出ることが怖くて、あまり顔をあわせないようにしていた。
ただ一ヶ月近くもナムちゃんがいないのに、騒ぎになっている様子はなかった。彼女の母親が探しているという話も聞かなかった。
もともと彼女なんていなかったように、この静かな町はいつもどおりだった。
私はどうしたらよかったのだろうか。ナムちゃんが死んだとき、すぐに母に言って、怒られたらよかったのだろうか。
私が秘密にして、ヤグチさんに従っていたのは、怒られることが怖かったわけではない。ヤグチさんが「生き返らせよう」と言ったとき、信じていなかったけれど、信じたい気持ちがあった。
私が怒られてもナムちゃんは生き返らない。私はナムちゃんに生き返ってほしかった。また一緒に遊びたかった。
ヤグチさんが二十七日と決めたのも、私たちが親や大人に、このことを言わせないための嘘だったのかもしれない。
子供だけで入ることを禁止されている森に入って、そのせいでナムちゃんが死んだことを隠すための共犯者にされた。
私は何に対してかわからないけれど、心の中で何度もナムちゃんに謝りながら、彼女の死ぬ瞬間を繰り返し夢に見る。
ナムちゃんは笑顔で私を見下ろす。得意げな顔だった。
それから彼女はするりと、真っ直ぐに伸びた杉の木を、滑るようにおりてくる。
そうだ、ナムちゃんが死ぬはずがないんだ──そう思ったところで私は目が覚めた。
私のスマートフォンが鳴っていた。あまり使わないから、使い方がよくわからない。画面を見るとピコちゃんからの電話だった。朝の七時二十八分。
約束のとおりに、ピコちゃんが迎えにきた。
ヤグチさんはピコちゃんに、私を迎えにいくように言った。私が道に迷ったりしないように。本当は私が逃げないように、ピコちゃんに監視させようとしたのかもしれない。
もしもピコちゃんが迎えにこなかったら、私はどうしていただろうか。待ち合わせの場所に行かなかっただろうか。
私たちは朝八時に、森の前のフェンスのところで待ち合わせをした。あんなことをあと二十六回もするらしい。
駐車場の裏にナムちゃんの自転車が、昨日と同じようにとめてあった。フェンスの前にはヤグチさんとセリちゃんがすでにきていた。時間になって、しばらく待ったけれどササちゃんはこなかった。
「ササちゃんに通話したんだけど出ない。返信もこない」
そうセリちゃんが言った。
「あいつはもうダメだ。ほうっておこう」
ヤグチさんはササちゃんのことをあきらめたようだった。
私たちは四人で森に入る。
* * *
ナムちゃんが死んで二日目──
私はナムちゃんが死んだのは夢で、次の日にはなにごともなかったように、彼女が元気に生きていることを祈っていた。けれどもナムちゃんは昨日と同じように、あの岩の上に寝ていた。裸で、全身に植物のツルが巻きつけられている。邪悪な何かに捧げられた供物のようだった。
セリちゃんが、ナムちゃんの顔にコバエがたかっていたり、飛んでいるのを、虫よけスプレーをかけて追い払う。
ピコちゃんが木陰に置いていたリュックサックから道具を取り出し、ヤグチさんがまたお香を焚く。
ナムちゃんの顔は、昨日と変わらないか、深い眠りについたような、より表情がなくなっているように感じられた。朝の鈍い光の中で、唇が白く、透けそうに見えた。
私たちはナムちゃんを囲んで、あの儀式を行う。ひとりいなくなった分は、ヤグチさんと私が多くもった。私がもうひとつのゴムボールをもって、ヤグチさんがストールをもつ。
三日目──
昨日と変わらないように見えた。
ヤグチさんが焚いたお香の甘い匂いに、生臭いような、微かに甘酸っぱい臭いが混ざっていた。
私は少し気分が悪くなって吐きそうになった。
四日目──
ナムちゃんのお腹が膨らんでいた。
肌がかすかに青みを帯びていた。
果物を棚に入れたまま、忘れていて、腐っていたときのような、甘ったるい生ゴミの臭いがした。
五日目──
ナムちゃんの全身が膨らみ、血管のような網目状の黒い線が肌に浮かびあがっていた。白く濁った目が突き出て、唇が裏返っているように見えた。
温泉卵の腐ったような臭いや、魚が売っている市場の排水溝のような、鼻をつき、吐き気をもよおす臭いがした。それはヤグチさんが焚くお香に混ざって、余計に気持ち悪かった。ピコちゃんもセリちゃんも口元をおおっていた。私は儀式のとき、少しでも空気を吸わないように、細く呼吸した。
儀式がおわったあと、ナムちゃんのまぶたが動いた、と思った。よく見ると、ナムちゃんの目の裏から、米粒ぐらいの大きさの蛆虫が這い出てきた。私は悲鳴をあげそうになったけれど、セリちゃんが無言で虫よけスプレーをかけた。
家に帰って顔を洗って、入りたくないお風呂にも入って、寝るころになっても、あの臭いがした。
ナムちゃんがそばにいるような気がして、怖くてなかなか眠れなかった。
六日目──
朝は雨が降った。ピコちゃんは迎えにこなかった。着信だけあったけれど、かけ直し方がよくわからなくて、そのままにした。
小雨だったので、レインコートを着て向かった。田畑の中を走るとき、風が強くて転びそうになった。
待ち合わせの場所にはピコちゃんもいた。
ナムちゃんは、目が突き出して、唇がめくれ、口が開いて、舌が飛び出ていた。肌は青黒く、お腹は大きく膨れあがり、その中に無数の蛆虫がいるような気がして怖かった。
また目や口から黒い液体が流れていて、まるで泣いているように見えた。
七日目──
昼から雨の予報だった。
ナムちゃんは昨日とそんなに変わらなかった。
巻きつけられたツルが枯れたように、うっすらと白くなり、黄色みを帯びているのに気づいた。
八日目──
木の蜜を吸うように虫がナムちゃんに群がっていた。
どれだけ虫よけスプレーをかけても、まったく意味がなかった。虫はナムちゃんの中からわいているようだった。
ナムちゃんの肌は黒くなっていて、少し紫色にも見えた。皮膚が裂けて、そこから赤黒い内側が見えていた。
お腹は少し凹んだような気がする。顔も痩せたような気がしたけれど、いつの間にか目がなくなっていて、黒い穴になっていた。
バターやチーズを焦がしたような臭いがして、ピコちゃんが吐いた。
九日目──
セリちゃんがマスクをもってきてくれたので、私たちはそれを借りた。ヤグチさんは自分のをもってきていた。
ナムちゃんは、夜のうちに動物にやられたのか、お腹が破れていて、腸のようなものが引きずり出されていた。
それを見てセリちゃんが泣いて叫んで、私も怖くてまっすぐに見ることができなかった。
とても囲んで立って、あの儀式をできる気がしなかった。それはヤグチさんも同じだったようで、私たちは三歩ほど離れて、横並びになって儀式を行った。
夜は雨の予報だった。
十日目──
近くに寄って確かめるのが怖かった。
ナムちゃんの手や足の指、顔の骨が見えているような気がした。また彼女から黒い液体が染み出して、岩を濡らしていた。
ナムちゃんは痩せて、もとの体型ぐらいに戻ったか、お腹の中身がない分、もっと細くなっていた。
「もうやめようよ……」
そうセリちゃんが言った。セリちゃんは顔色が白く、疲れたような目をしていて、彼女も眠れていないのかもしれない。ピコちゃんもヤグチさんもそんな顔をしていたから、私も同じ顔をしているかもしれない。
「まだ十日目だ」
「だって、これはもうナムちゃんじゃないでしょ!」
岩の上に横たわる黒い塊は、人の形をしていたけれど、それがナムちゃんであるということは、もしも知らなければ信じられなかっただろう。
彼女のいくつもピアスのついた耳も、いつの間にかなくなっていた。
十一日目──
八時になってもセリちゃんはこなかった。
仲のいいピコちゃんも、電話で呼ぼうとはしなかった。ヤグチさんも何も言わなかった。
ナムちゃんは、胸や肋の白い骨がかすかに見えた。ナムちゃんだったころの半分ぐらいがなくなっていそうなのに、相変わらずすごい臭いがした。
セリちゃんの道具はコンパクトだったので、開いて地面に置いた。
十三日目──
ナムちゃんの死体は黒く、細く、ミイラのようだった。彼女から流れ出した、彼女だったものが、岩に黒く染みこんでいた。
ツルは枯れたまま巻きついている。
十五日目──
鼻がなくなっていた。
腕や足の骨が見えた。
十八日目──
ピコちゃんはこなかった。
私もヤグチさんも、十五分だけ待った。
ピコちゃんの道具も地面に置いた。
二十日目──
あの強烈な臭いがしなくなってきた。土のような、お財布や鞄の乾いた革のような臭いがした。
虫の数が減ってきた。もう食べるところがないのかもしれない。
ヤグチさんはまだ続けるつもりのようだった。彼女は本当に生き返ると信じているのだろうか。
もしも生き返るのなら、なくなった部分はどうなるのだろうか。
二十四日目──
指の骨のような細かいところは、ずっと雨は降っていなかったので、風に飛ばされたのかなくなっていた。
二十五日目──
私はいかなかった。
フリースクールのときに仲良くしてくれた子と会うことになったから。彼女の母親と私の母が親しくて、断ることができなかった。
二十六日目──
大雨が降った。風も強かった。台風が近づいているらしい。
私は今日もいかなかった。この天気の中でも、ヤグチさんはひとりでもあそこへいっているのだろうか。
二十七日目──
ヤグチさんが言った最後の日だった。
朝からずっと雨が降っていた。町の方にはこないけれど、台風が南の方を通り過ぎていっているらしい。
私は灰色の朝の中、雨と風の音を聞いていた。
母は私の様子を心配していた。私は母に知られることよりも、母の口からナムちゃんの名前が出ることが怖くて、あまり顔をあわせないようにしていた。
ただ一ヶ月近くもナムちゃんがいないのに、騒ぎになっている様子はなかった。彼女の母親が探しているという話も聞かなかった。
もともと彼女なんていなかったように、この静かな町はいつもどおりだった。
私はどうしたらよかったのだろうか。ナムちゃんが死んだとき、すぐに母に言って、怒られたらよかったのだろうか。
私が秘密にして、ヤグチさんに従っていたのは、怒られることが怖かったわけではない。ヤグチさんが「生き返らせよう」と言ったとき、信じていなかったけれど、信じたい気持ちがあった。
私が怒られてもナムちゃんは生き返らない。私はナムちゃんに生き返ってほしかった。また一緒に遊びたかった。
ヤグチさんが二十七日と決めたのも、私たちが親や大人に、このことを言わせないための嘘だったのかもしれない。
子供だけで入ることを禁止されている森に入って、そのせいでナムちゃんが死んだことを隠すための共犯者にされた。
私は何に対してかわからないけれど、心の中で何度もナムちゃんに謝りながら、彼女の死ぬ瞬間を繰り返し夢に見る。
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