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③
しおりを挟む「…ってことになってるのはサンドラの早とちりでも勘違いでもなかっんだ、すまねぇなトキ…!」
息を切らして駆け込んだジルドさんが、すまないすまないと言いながら頭を下げた。
どうやらサンドラさんだけでなく、町中の人たちがジルドさんと薬師がデキていると思っていて、それはジルドさんの行動のせいだと聞かされたらしい。だから大慌ててやって来た。会いに来てくれたんだと思ってたのでシュンとしてしまう。
そんな俺には気付かず「俺のせいでトキに女が寄り付かない!」としきりに謝ってくる。
ジルドさんは知らない。
二人で買い物に行くときだけでなく、普段一人で買い物をするときも『二人で食べます』『これジルドさんが美味しいって言ってました』とか言って嫁面していたのはこの俺なのだ。
「トキは、いいんです」
ごめんなさいジルドさん!俺のせいですそれ!
生まれも育ちもこの町のジルドさんにとって、背も高くて普通に男に見える薬師とデキてるなんて噂は良くないのではないかと、この時になって気付いた。実際ジルドさんは「そんな風に思われてたなんて気が付かなかった。町に出たらトキのことばっかり聞かれて変だと思っていた」と苦笑いだ。
「ジルドさんは…気にしないで」
サンドラさんがトキを女だと思い込んだのは、きっと『兄はゲイではない』とわかっていたからだろう。
兄が甲斐甲斐しく世話を焼き、自分にまで紹介する相手だ。そう決め込んでいたところに絶妙にどっちかわからない俺のような相手がきたら女だと思い込みたくなるのもわかる。
「いいや、俺よかトキだ。おめぇがやな思いすんのが許せねぇんだ。その原因が自分ってえのが救えん…」
何度も「俺はいいけどお前が」と言う。それって自分が嫌なことを伝えるときに使う言い回しに聞こえてくる。俺が卑屈すぎなのかもしれないけど。
つい楽しくなって出来心でジルドさんとの仲をにおわせる素振りをしていたが、これは俺が嫁を見付けられないのではなく、ジルドさんにお嫁さんが来なくなってしまうのと同じ。そりゃ迷惑だよな。
ああ、恥ずかしい……。
自分の容姿に自信もあったし、思い上がってイタイいことしてたよ俺!
この世界の男の平均よりデカくて生活もままならない貧乏な薬師が女の代わりになるわけない。そんな好きでもない奴に彼女面されるのってかなりキツいわ。
血の気が引いて、逆に冷静になる。そしてもうどうにでもなれとも思った。どうせトキの体は男だか女だかわからないし、精神にはジルドさんより年上の男の俺が居るし、それを打ち明けるのも困難だ。
ジルドさんは天性の世話好き。食っていけない薬師を見て心配になり、純粋に友人として付き合ってくれていたのだろう。
どうせ恋人になれないなら、もういいか。
「いやなことないです。トキはここに来てずっと、幸せで…」
告白してしまえ。
「ジルさんがいないときも、思い出すと楽しくて」
ジルドさんが居たから、騙されて大事なものを失い、情けなくて絶望した時を乗り越えられた。
あの日、誰もお客さんが来なかったら……。
いや、ジルドさんじゃなかったらもう俺はここにいないし薬師でもなかった。借金が返せなくて自暴自棄になって男娼の真似事でもしてたんじゃないかな。ゾッとするけど、あり得たルートだ。
「いいです。トキは、勘違いで。ジルドさんの好い人、思われる。嬉しい…」
好きだとハッキリ言えばいいのに、これが精一杯の俺の告白だった。
はっと息を飲んで固まったジルドさん。
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