34 / 34
34
しおりを挟む
ヨシオの家にはドラムが置いてあった。父親が買った物だというが、ほとんど使用していないと言っていた。今ではケイコの家にある。ケイコの家はヨシオの家ほど大きくはないが、父親の趣味である映画鑑賞のための地下室があり、そこに置かれているんだ。
楽器を持っていないのは俺だけだった。ヨシオの家にもカナエの家にも、ベースはなかった。仕方なしに俺は、四人を引き連れて楽器屋に行ったんだ。そしてまずは手頃な価格のベースを試奏した。俺としては、それでも満足だったんだ。そのまま会計をすればよかったとも思うが、今のベースには満足もしている。きっとだが、一生物を手に入れたとの実感があるんだ。
俺がベースの音を出して楽しんでいると、ケンジが店員に店で一番のオススメは? と尋ねたんだ。予算は無限だよ。なんて付け加えてね。
その店員が持ってきたベースは、真ん中に浮かぶ黒い楕円形が特徴的だった。木目が綺麗で、手に持つととてもしっくりとくる。弦を弾くと、その音に衝撃を感じた。その前に手にしていた安物とはまるで違う重みのある音が胸に響いた。
物凄くいい楽器だって感じたよ。値段を聞いても、驚くほどの高値ではなかった。まぁ、最初に手にしたのとは十倍近い差があったんだけど、それ以上の価値を感じられたよ。
けれど俺には、なんだかしっくりとこない点が一つあった。立ち上がってその姿を鏡で見たけれど、俺らしくないっていうのが素直な感想だったんだ。ケンジたちも揃って微妙な顔を俺に向けていた。
タケシにはさ、こっちの方が似合うんじゃない? そう言ってケイコが一つのベースを指差した。同じような木目調ではあったけれど、色の濃さはもっと薄く、その形はまるで違っていた。似ている部分もなくはないが、抱えたときの胸に飛び込む角の形が印象的で、抑えた丸みも好印象だった。俺はその見た目だけで惚れていたよ。俺にとってはだが、音が想像できる見た目をしていたのは、そいつ一つだけだったんだ。
手に持った感じも最高だった。しっくりと来るんだよな。ネックは手に、ボディは身体に馴染む。立ち姿も完璧だった。ケンジたちだけでなく、店員でさえ感慨のため息をこぼしていた。
音を鳴らすと、俺の鼓動が喜んだんだ。楽しい音を出す楽器なんだ。俺の感情が、もろに伝わるんだよ。こんな音がするなんて私も知りませんでしたよと、店員が言う。俺も買おうかななんて呟きを漏らしていたよ。
買うしかないでしょ。そう言ったのはヨシオだった。そうだよなぁ・・・・ 俺の言葉だ。
結局俺は、その場でローンを組んだ。未成年者は親の承諾が必要だと言われ、電話で母を説得した。案外に話が分かる親で助かるよ。まぁ、金は全部俺が払うんだけどな。少しくらい助けてくれてもいいと思うんだが、まぁ仕方がないな。俺の家はあまり金に余裕がないんだ。
こんなことをここで話すのは恥ずかしいんだが、俺はバイトを始めてからお小遣いを貰っていない。もちろん、俺から拒否をするはずはない。アルバイトをしているんだから、自分のことは自分でしなさいよ。本当なら食費を払って欲しいくらいなんだからね。そう言われてもいる。
楽器を持っていないのは俺だけだった。ヨシオの家にもカナエの家にも、ベースはなかった。仕方なしに俺は、四人を引き連れて楽器屋に行ったんだ。そしてまずは手頃な価格のベースを試奏した。俺としては、それでも満足だったんだ。そのまま会計をすればよかったとも思うが、今のベースには満足もしている。きっとだが、一生物を手に入れたとの実感があるんだ。
俺がベースの音を出して楽しんでいると、ケンジが店員に店で一番のオススメは? と尋ねたんだ。予算は無限だよ。なんて付け加えてね。
その店員が持ってきたベースは、真ん中に浮かぶ黒い楕円形が特徴的だった。木目が綺麗で、手に持つととてもしっくりとくる。弦を弾くと、その音に衝撃を感じた。その前に手にしていた安物とはまるで違う重みのある音が胸に響いた。
物凄くいい楽器だって感じたよ。値段を聞いても、驚くほどの高値ではなかった。まぁ、最初に手にしたのとは十倍近い差があったんだけど、それ以上の価値を感じられたよ。
けれど俺には、なんだかしっくりとこない点が一つあった。立ち上がってその姿を鏡で見たけれど、俺らしくないっていうのが素直な感想だったんだ。ケンジたちも揃って微妙な顔を俺に向けていた。
タケシにはさ、こっちの方が似合うんじゃない? そう言ってケイコが一つのベースを指差した。同じような木目調ではあったけれど、色の濃さはもっと薄く、その形はまるで違っていた。似ている部分もなくはないが、抱えたときの胸に飛び込む角の形が印象的で、抑えた丸みも好印象だった。俺はその見た目だけで惚れていたよ。俺にとってはだが、音が想像できる見た目をしていたのは、そいつ一つだけだったんだ。
手に持った感じも最高だった。しっくりと来るんだよな。ネックは手に、ボディは身体に馴染む。立ち姿も完璧だった。ケンジたちだけでなく、店員でさえ感慨のため息をこぼしていた。
音を鳴らすと、俺の鼓動が喜んだんだ。楽しい音を出す楽器なんだ。俺の感情が、もろに伝わるんだよ。こんな音がするなんて私も知りませんでしたよと、店員が言う。俺も買おうかななんて呟きを漏らしていたよ。
買うしかないでしょ。そう言ったのはヨシオだった。そうだよなぁ・・・・ 俺の言葉だ。
結局俺は、その場でローンを組んだ。未成年者は親の承諾が必要だと言われ、電話で母を説得した。案外に話が分かる親で助かるよ。まぁ、金は全部俺が払うんだけどな。少しくらい助けてくれてもいいと思うんだが、まぁ仕方がないな。俺の家はあまり金に余裕がないんだ。
こんなことをここで話すのは恥ずかしいんだが、俺はバイトを始めてからお小遣いを貰っていない。もちろん、俺から拒否をするはずはない。アルバイトをしているんだから、自分のことは自分でしなさいよ。本当なら食費を払って欲しいくらいなんだからね。そう言われてもいる。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる