暗殺ヘン 〜聞き屋番外編〜

はやしまさひろ

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 一週間後、あいつは俺の前に顔を出した。
 試し撃ちは完璧だったよ。いい場所を教えてくれて本当に助かった。
 あいつは笑顔でそう言った。
 後は本番をどうするかなんだけれどさ、なにかいい案はあるかな? 僕は本気なんだよ。世間にこの世界の真実を伝えたいんだ。そのためには犠牲が必要だろ。悪いけれど、誰かが犠牲にならくちゃね。
 俺は適当に相槌を打ち、次の試し打ちを誘導する。そしてその場に付いていくことにした。
 俺はあいつの過去をあいつの口から聞きたかった。その為の時間が必要だったんだ。あいつが運転する車での往復は、まさに最適の時間だと感じた。
 あいつは自らの意志で過去を語り出す。
 この世界は狂っているんだ。政治家は詐欺師やヤクザと繋がっている。天皇一家なんてまさにその象徴だ。あいつらになにか一泡吹かせたいんだ。そのためにこいつを作成した。
 その日のあいつは車の後部座席に鞄を置いていた。
 行きの車ではあいつが一方的に話をするだけで俺は一切の質問をしなかった。
 僕の母はさ、ある宗教に嵌っていたんだ。お陰で数億も騙し取られている。こう見えても元々はお坊ちゃんだったんだ。父も母も金持ちの一人っ子だよ。祖父母は僕が生まれる前に死んでいる。父親も中学生の頃に事故死だよ。そのときの保険金は億だったらしい。まぁ、その時点ではまだ宗教にどっぷりとは嵌っていなかった。嵌ったのは、兄貴が自殺をしてからだ。
 あいつの兄貴は障害を持って生まれてきた。下半身麻痺ってやつだそうだ。長年の苦労の甲斐あって車椅子生活ながら一人でも生活ができるようにはなったらしいが、母子共に色々と悩みがあったそうだ。父親が死ぬとほぼ同時に母親は入信した。そのときはまだ気を紛らわせる程度だった。献金は多くしていたけれど、正規会員ではなかった。ただの金持ちの道楽程度で済んでいた。それが兄貴の死で完全に狂い出したという。
 兄貴が自殺をしてから母親は宗教にのめり込んだ。というよりも、宗教側がそうさせたんだ。信者同士での情報はすぐに幹部にまで伝わってしまう。それが不幸な情報ならばその速度も早いようだ。そりゃそうだよな。いいカモになるわけだから。
 そしてあいつの母親はカモにされた。
 あいつは必死に母親を止めたようだけれどどうにもならなかった。頼りになる親戚もいない。財産の全てを失うまでに、二年もかからなかったという。相当な額を吸い取られたってわけだ。
 あいつは住む家を無くしたけれど、母親は教団の勧めで韓国に渡っている。今でも韓国にいるのかどうかは分からないとあいつは言う。完全に縁を切っているから連絡先も知らないし興味もないそうだ。
 全てを無くしたあいつだけれど、結果的にはそれでよかったんだと笑っていたよ。
 目的地に着くとあいつは自作の銃の入った鞄を抱えて山の中を歩いて行った。
 俺はほんの少し距離をとって着いていく。別に尾行をしているわけでも警戒をしているわけでもない。けれど、あいつは面白い。俺の想像を超える行動をとってきた。
 歩きながら鞄の中から手製の銃を取り出したあいつは、立ち止まるとその銃を構えて振り返った。
 ここで人体実験をするってのはどうかな?
 あいつはニヤッとすると引き金に手をかけた。
 ・・・・なんだぁ、つまらないなぁ。あんたには脅しなんて通じないようだね。それじゃあ、はい。
 あいつはそう言いながら構えていた銃を回転させて俺に手渡してきた。俺は見逃さなかったよ。数歩動かすその足が、震えていた。
 俺はそのズッシリと重たい銃を受け取った。そして三百六十度回転させながら舐め回すように眺めたよ。造りは単純だが丁寧に作り込んでいる印象だった。あいつの本気度が伝わってきた。
 大きめの銃口は二つある。二連式のようだ。俺は冗談でもそいつを誰かに向ける気なんて起きなかった。銃口を向けるときは、その覚悟があるときだけと決めている。
 ここで練習するのか?
 俺は銃口を握りながらあいつに差し出した。
 その場所は以前あいつが試し打ちをしていた場所で、誰も利用していないはずの建物が十数メートル先に見える。ここからでも命中できるとしたなら、たいした銃だよ。
 あいつは徐に建物に向けて銃を構え、引き金を引いた。
 バンッ! という音は間近で聞くと耳に効く。あいつはいつの間にか耳栓をしていた。
 建物まで歩いて行き、あいつは壁に手を当てて確認していた。無数ともいえる小さな穴が空いている。その中で煙が上がっている穴が数個ある。
 俺は驚いたよ。程よい散らばりようだった。人の身体を模した輪郭線がチョークで描かれている。あいつはそれを見て狙ったようだ。俺にはそんな輪郭線は近付くまで見えなかった。
 調整してきたから、まぁこんなもんだよ。
 あいつが見せた笑顔はまるで子供のようだった。
 六つの穴が心臓の位置を中心に首や肩、腹部へと散らばっている。
 散弾銃でこれだけの精度を自作するのは職人技だよ。後で知ったところによると、試作に試作を重ねた結果だそうだ。
 あいつの練習はすぐに終わったよ。用意していた銃は三丁あった。全てを一回ずつ試してお終いだ。結果として最初の銃が威力も精度も抜群だった。他の二丁も悪くはなかったが、本気で誰かを殺すなら最初のが最適だと思ったね。あれならわざと的を外すことも出来る。
 帰りの車内であいつは銃の作り方とどうやって調べたかを教えてくれた。相変わらずの饒舌さだよ。まぁ、よく喋る奴は扱いやすくて助かるんだけれどな。
 俺が聞きたかったのは今の家族のことについてだった。そして心情だ。上辺だけではない真実を知りたかった。
 あいつは家を失った後の自衛官時代に結婚をしている。あいつが自衛官なんだよ。驚きだよな。自衛官だからといって銃器に詳しいっていうのは偏見だけれど、自衛官だから銃器に抵抗がないっていうのは事実だよ。
 あいつの妻がなにも気付いていないとは思えない。火薬の匂いで溢れている鞄、時折見せるあいつの表情。俺でさえ気がつける。
 あいつの妻は休職中の自衛官だ。気が付いていてながら間抜けなふりをしていたのは、あいつを信頼していたからだと思われる。
 巻き込んでしまったことはすまないと感じている。
 あいつは今の幸せを捨てるような奴じゃない。今の幸せを守るために行動を起こしたんだ。まぁ、現実はほんの少し捻れてはいるけれどな。
 それでも俺は自分のしたことに後悔なんてしていない。
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