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しおりを挟む俺は久し振りのため息をこぼしてポケットから封筒を取り出した。
札束じゃないのは分かっている。小切手かとの予想は外しようがない。けれどそれとは別の紙切れには驚いたよ。二枚の便箋にはビッシリと文字が埋まっていた。達筆な手書きなんて久し振りに拝むよ。やっぱり文字は手書きが心地いい。しかも本物の筆で書かれているようだ。パソコンで書く文字とはその趣から違ってくる。
まぁ、中身にはそれほど驚きはなかった。差出人は書かれていないが、想像はつく。この国には総理大臣よりも偉い人物がいる。面識はないがお互いに存在は知っていた。この先もきっと、顔を合わすことはないだろう。まぁ俺は一応の下調べは随分と前からしている。あちらさんはそれ以上に調べ尽くしているだろうがな。
今回は貴殿の情報を元に創り出したフィクションが功を奏したようであります。
そんな言葉から始まった手紙には、当然事件の真相なんて書かれてはいない。俺への感謝は伝わった。けれど、この件の深掘りは許されないことが暗に記してもあった。この先は大きく変わっていく政治の世界に余計な手出しはするなってことらしい。そのための報酬も仕込みも済んでいる。俺はここで普段通りにしていればいいってことだ。
まぁ、何の問題もない。小切手の額は期待以上だったしな。これを使えば俺の心配は消えることだろう。
長々とした手紙はとても読みやすかったよ。日常の挨拶に真意を混ぜ込む技術は流石だよな。あれはゴーストじゃ書けない技だよ。プロの作家でも難しいだろうな。俺はいつか会ってみたいものだと何度か打診はしているんだ。当然無理だと分かった上でだけどな。
ここに座っていて得られる情報は大部分が表面的で何処でも得られるものだ。けれどまぁ、テレビで見るよりも情報は濃くなる。本来のニュースは客観的事実を伝えるものだけれど、テレビは大概主観的なのが現実だ。アナウンサーが笑顔で物真似をする姿には驚いたよ。それも殺人事件を伝えた後にだ。
暗殺犯っていう言葉はもう消えている。容疑者って呼ばれていることへの違和感は、テレビの中では報じない。どう見てもそいつが実行犯であることに疑いはない。映像まで残されているんだ。それなのに容疑ってどういうことだ? 殺人を犯したことについての疑いなんて一切ないのにな。
そんなことはまぁいいとして、そいつの背景が分かり始めた。宗教団体の名前も公表されいる。まぁ思った通りではある。元首相が深く関わっていると言えばすぐに分かるってものだ。
犯行理由が分かりだすと、世間の流れが変わっていく。殺された元首相に対する悲しみが徐々に薄れ、そいつへの同情が高まっていく。
メディアは当初戸惑っていた。当初は元首相を神様にでも祀りあげる勢いだったが、今では宗教団体と政治家の繋がりを叩くことに必死になっている。元から存在感の薄い元首相ではあったから違和感はないけれどな。
けれどこの国には一定数の政治家信者が存在している。そこへの対応も忘れないのは流石だよな。元総理大臣が元首相の国葬を発表した。まぁ、世間の目を混乱させるには上策だよ。
俺は日々、ここでそう言った情報を聞いていた。家には当然帰っているが、テレビはつけない。携帯でもニュースは見ない。新聞なんてここ数年触ってもいないよ。手に付くあのインクの汚れが懐かしく感じることはあるけれどな。
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