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【28】テレステロンでは

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「これは……いささか予想外ですねぇ」

 サムフラはそう呟きながら、頭を掻いた。



 時はさかのぼること数十分前、サムフラは空阿同様テレステロンを襲撃して領主館を占領したのだが、領主の姿はすでになかった。

「うーん、逃げられてしまいましたか……まぁ、運が良ければ捕まえてくれるでしょう」

 サムフラは領主館内に取り残された人間の拘束を下級悪魔に命令して、自身は何か情報が残されていないか探していたのだが、

「特に面白そうな情報はなさそうですねぇ」

 面白そうな情報はほとんどが処分されており、情報を得ることはできずにいた。それでも、何かあるかもしれないと領主の部屋に残された資料をペラペラとめくりながら流し見していると、ドアがノックされ、開けられた。

「おや、これはこれは、えーと……」

 サムフラは入っていた者のことを知っていた。

「空阿様よりフルルの名を与えていただきました」

「そうでしたか、よろしくお願いしますね。フルル」

 そう言うと、サムフラはよっこいしょと椅子から立ち上がる。

「それで、ここに来たのはどういった要件で?何か問題でもありましたか?」

「サムフラ様のサポートをするように言われて参りました。それと、色々伝言を受け取っていまして、まずは伝えるように言われたのは、民衆はなるべく殺さぬようにとのことです」

 フルルがそう言うと、サムフラはやれやれと頭を振った。

「まったく……空阿様は心配性なお方だ。信頼していただいてもいいのに……」

 フルルは苦笑いをする。

「他には何か言っていましたか?」

「はい。他には……」

 フルルはサムフラにテレステロン占領後の指示を伝えた。

「……なるほど、分かりました。報告ありがとうございます」

 そう言うと、サムフラはドアの方へと歩き出し、ドアの前に立つと後ろを振り返る。

「恐らく、もうそろそろディアヘルを攻めていた兵士達が戻ってくる頃だと思うので、門の外で待っといてあげましょうか」

「分かりました」

 フルルとサムフラは領主の部屋を後にして、街の門まで歩いていく。門に行くまでの道中、フルルとサムフラはお互いに情報を交換しながら向かっていた。

「あなたの他にも誰か召喚されたのですか?」

「ドロマが召喚されまして、ドロマはプッセ様の方に送られましたね」

「ドロマ……?」

 聞き覚えの無い名前を聞いたサムフラは頭をかしげた。

「あぁ……。あのー……、ほら、大蛇を飼っているあの女ですよ」

 フルルは何とかドロマの特徴を伝えようとしたが、蛇しか特徴を思いつかず変な説明になってしまった。

「蛇を飼ってる女?蛇……蛇……」

 サムフラは自身の記憶を思い起こし、蛇と関係している女を思い起こして、しばらく思い浮かばずにいたが、

「あぁ……!!あの人ですか。ククク、空阿様も面白いのを選びなさる」

 誰のことを指しているのか把握したサムフラは笑いを抑えようとしたのだが、ついつい漏れてしまった。そんなことを話しながら歩いいると、いつの間にか門にたどり着いたため、外に出て兵士が戻ってくるのを待った。

 情報交換をしながら待っていると、遠くの方から土ぼこりを上げて街に近づいてくる影が見えた。

「おや、あれですかね?」

 その影がハッキリしていくと、鎧を身にまとった兵士であることが確認できた。兵士達はどんどん街に近づいてきて、ついにサムフラとフルルと対峙した。

「皆さん、この街は私が……あれ?」

 サムフラが兵士に話しかけたが、全てを言い終わる前に鐘の音と共に方向転換をしたかと思うと、街から離れていく。

 サムフラはあっけにとられながらも、兵士達が引いていくのを見ている。

「……決断がお早いことで」

 兵士達は完全に街から離れてしまい、もうその姿を確認することは出来なくなっていた。サムフラは、はぁ、とため息を吐くと、

「わざわざ来ていただいたのに申し訳ないですね」

 フルルに向かってそう言った。

「いえ、スムーズに進むので良かったのかもしれません」

「それもそうですね。それでは、街に戻りますか」

 サムフラは戦闘ができるかとワクワクしていたのだが、まさか撤退するとは思っていなかったため、トボトボと歩きながら街の中へと戻っていった。



 テレステロンから撤退したラシウールの軍勢には動揺が走っていたが、ラシウールの命令の元、テレステロンから離れた別の街を目指して歩みを進めていた。

「……撤退してよろしかったのですか?」

 ラシウールの行動を疑問に思い、そばにいた兵士が恐る恐る尋ねてみる。

「あぁ、街の外で待ち構えていたということは、恐らくもうすでに街が落とされた後なのだろう」

「何と!!」

 その話を聞いていた別の兵士が神妙な顔をして尋ねた。

「……しかし、よろしかったのですか?家族のいる者もいますので、反発があるかと思いますが……」

 ラシウールは難しい顔をすると、後方を確認する。

「追ってきたのであれば、戦う必要があったが、追ってこないということはそれほど殲滅は重要視していないのだろう。恐らく、街の住人も無事だとは思うが……」

 確信は持てないといった様子でそう答えた。尋ねた兵士も納得した顔ではないが、仕方ないかとそれ以上言及することは無かった。

「ご家族はどうなさるおつもりで?」

「……父達も恐らくあの街を脱出しているはずだ」

 ラシウールは周りに辛うじて聞こえるような声でボソッと呟くと、大きく息を吐いた。

「あのまま戦っていても恐らく全滅か、捕虜になるしかなかっただろうな」

「なるほど……」

 撤退を続けるラシウールであったが、

「しかし、あのレベルの兵士が何体いるというのだ……。やはり、全街で攻めるしかあるまいか……」

 ディアヘルの底知れぬ力を感じ、どうしたものかと対策を考えていた。


「しかし、予想外ですねぇ」

 サムフラとフルルはラシウールが撤退した後、下級悪魔に街の外の見回りを任せると領主館に戻った。

「敵の大将は中々のやり手のようですね」

「そのようですね。私達の姿を見てすぐに撤退するとは、判断がお早いことで……」

 サムフラは領主館から得られた情報を1つにまとめていた。

「名前は確か……、ラシウール・エストリアですか」

 ラシウール・エストリア。ウェズ・エストリア家の長男であり、そのまま順調に進んでいればテレステロンの領主となっていた男であった。

「……この者のことも一応報告しておきますか」

 サムフラはテレステロンの人口、領主についての情報、他の街とのやり取りなど様々な情報を資料にまとめたあげた。

 ふぅと一息ついたサムフラは資料をトントンと整える。

「こんなところですかね。では、空阿様によろしくお願いしますね」

「はい。お任せください」

 サムフラから資料を受け取ったフルルは一礼すると、部屋から出て空阿の所へと戻ることにした。

 サムフラはフルルを見送ると、机の上に町全体の形状が記された地図を広げ、

「街の管理は任せるとのことでしたが……。どうしたものですかねぇ」

 ニヤニヤと笑いながら眺め、指で机をコンコンと叩いた。
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