他人のスキルを奪って強くなる。城を抜け出した王子は自由気ままに世界を放浪する

クマクマG

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【31】動かざる石

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 テレントに到着して3日目、今日もダンジョンに向かうことにする。

「今日はもう少しダンジョンの奥に行こうと思うんだけど、大丈夫かな?」

「えぇ、今の私達であれば、少々大変かもしれませんがダンジョンの中層までなら問題ないと思います」

 中層……。確か、中層は……。

 前日に教えてもらったことを思い出す。昨日行った上層はゴブリンやスライムなどのあまり強くない魔物が多かったが、どんどん降りていくにつれて魔物の強くなっていくのだという。テレントのダンジョンでは、中層にはホブゴブリンやビッグスライムなどの上層よりも上位の魔物が出てくるのだという。

「そっか、それじゃあ、今日は中階層まで行くことにしようか」

 ダンジョンにたどり着き、上層はそこそこにどんどん進んで行くことにする。前日は魔物を狩ることに注力するためにその場にとどまっていたりしていたが、今回は余計な戦闘を行わずにとにかく進むことに注力する。

 そして、上層を抜けて、ついに中層にたどり着いた。

「ここが中層か……」

 中層といっても特に構造に変わった所は見当たらない。ただ、上層とは違ってすれ違う冒険者はグッと少なくなっていた。すれ違う冒険者のステータスを覗いている限り、他の冒険者に比べるとベルセナやエリンは強い部類なのかもしれない。

「確かに大変かもな」

 中層だと魔物が強くなるのにも関わらず、魔物の数自体は変わらない。そのため、上層と比べると肉体的にも精神的にも疲労は何倍も増える。

 それにしても、エリンは成長したなぁ……。

 流石に1人で魔物を狩るよりも2人で狩った方がいいだろうということだったので、今はエリンとベルセナの戦いを見ているが、エリンの戦っている姿を見ると感動を覚える。初めて会ったときも強いと感じたが、それは奇襲を用いた戦いであったため、敵と正対している時の戦闘はあまり強くなかった。

 でも、今となってはホブゴブリンとも十分に戦えているんだよなぁ……。元々センスが良かったのかもしれないな。

 アリシアの言っていた暗殺者に向いているという言葉はその通りだったなと思いつつ戦闘を眺めていると、交代の時間が来たため、エリンとベルセナを後ろに下がらせる。



☆――――ベルセナ視点――――☆

 
 王族というものがどれほど戦えるのかは分からなかったが、こうしてラベオンのことを見ていると、やはり生まれや環境というものは人を成長させる大きな要因の1つなのだろうと思う。

「ラベオンが特別なのか、これが普通なのか……」

 ラベオンは明らかに自分よりも強い。1対1で戦ったとしても、自分は100戦やって10勝できればいい方だろう。ただ……。

「何者なんだ……。アリシア……」

 アリシアは別格だった。自分が冒険者になってまだ日が浅いとはいえ、明らかに自分よりも格上なのは傍か見ても分かる。100戦やって1勝できるかどうかすら怪しい。

 あの動き……。ただ者ではないな。ラベオンのメイドだったと言っていたが、本当にただのメイドなのか? アリシアが特別なのか、それとも、王城のメイド全員が戦闘技術に優れているのか……。

 以前、ラベオンにアリシアについて聞いたことがあったが、ラベオンもよく知らないのだという。どうしたらあそこまで強くなることができるのか是非とも教えて欲しいが、きっと教えてくれないのであろう。

 ラベオンとアリシアが戦ったら、100戦やってラベオンが20回ぐらい勝つぐらいだろうか……。

「なぁ、エリン」

「なに?」

「エリンはラベオンとアリシアが戦ったら、どっちが勝つと思う?」

 そう尋ねてみると、エリンはうーんとしばらく考えた後、首を横に振った。

「わからない」

「分からない……?」

 一回限りの勝負だと分からないということか?

「だったら、100回戦ったらどっちの方が多く勝つと思う?」

 すると、エリンは再びうーんとしばらく考えた後、首を傾ける。

「……わからないけど、ラベオンに勝って欲しい」

「そ、そうか……」

 どちらの方が強いのかを分析するのは、エリンにはまだ難しかったかもな。

 期待していた回答とは違ったが、ラベオンとアリシアには全力で戦ってみたらどうなるのかを妄想しながら、2人の戦闘を眺めることにした。

☆――――――――――――――☆


 魔物を狩りながら進んで行くと不思議な場所にたどり着いた。

「ここは……」

 そこは、大きな通路から少し外れた小さな通路進んだ先に存在する部屋だった。部屋の中央には祭壇のような物があり、その上には四角い透明な箱が浮かんでいて、中には赤色のひし形の宝石のような物が入っていた。

「これは、このダンジョンの謎の1つだ」

「謎の1つ? この石がか?」

「あぁ、この石はな――――」

 ベルセナが言うには、これは動かざる石と呼ばれている宝石なのだという。過去に何度もこの宝石を取ろうと挑戦した者達がいたが、今まで取れた者はいないのだという。箱を動かそうとしても全く動かず、箱を壊そうと試してみるも、傷1つつかない。そこから、動かざる石と呼ばれているのだという。ちなみに何故宝石ではなく、石と呼ばれているのかは、石と意志をかけているダジャレなのだとか。

「ふーん。この宝石がね……」

 ランプに照らされてキラキラと輝く宝石を見ていると、取ってみたい衝動に駆られる。それに、誰も取ったことが無いと言われると、尚更自分が取ってみたくなるのは仕方が無いことだろう。

 ……栄光の手ハンズ・オブ・グローリーなら、もしかして。

 モノを盗むことができる俺のスキル、栄光の手ハンズ・オブ・グローリー。他人にバレると厄介だからと、誰にも言うことなく黙っていたこのスキル。これであれば、この宝石を取れるかもしれないと手を伸ばす。

 箱に触れるか触れないかのところに手を持っていき、ベルセナ達がこちらの方を見ているのを感じながらも、意識を箱の中の宝石に集中する。右手で宝石を包み込むイメージをして、一気に……掴む!!

 すると、箱の中の宝石は消えた。

「えぇぇぇ!?」

 ベルセナ達の驚く声が聞こえた次の瞬間、視界が闇に包まれ、気が付いたときには見知らぬ部屋の中にいた。
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