ファンタジーはマジカルじゃない!

雉虎 悠雨

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訪問者C スー・ケイソウ 5

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「なんか泥棒騒ぎのおかげで売り上げ上がってる気がするな」

 業後カウンターで帳簿の整理をしているケマルは思わず声が出ていた。

「そうなんすか! 良いことっすね」

 本棚の整理をしていたショートンが近寄ってきて大きく尻尾を振る。

「良いことと言っていいのか、どうか。実際被害があったところはあるわけだし」

 ショートンはまじまじとケマルの顔を見上げてきた。

「なんだよ」
「ご主人はそういうところもちゃんとしてるっすよね」

 ケマルは眉間にしわを寄せショートンを見た。

「それはどういう意味だと捉えるか」

 カウンターに肘を付き、立ったまま足を組んで姿勢を崩したケマルは横のショートンを見下げる。

「そのままの意味っすよ。自分以外どうでもいい風なスタンスを装って、実はそうじゃない」
「褒めてねぇ気がする」
「褒めてやす。とてつもなく褒めてるでやんす」

 しばしショートンを眺めていたケマルはめんどくさそうにため息を吐いて、姿勢も視線も戻した。

 帳簿の整理の戻りつつケマルは口を開く。

「今更なんだが」
「へい」
「その話し方わざとなんだろ」
「ついに僕に興味もってくれたっすか!」

 カウンターに飛びつくように跳ねたのをケマルは見もしない。

「そうなるだろうから今まで聞かなかったんだけどな。興味じゃなくて確認だ。その妙な話し方が正されることはあるのか?」
「ないっす」

 一瞬の迷いもなく帰ってきた答えに、ケマルもそれ以上言うことはなかった。

「じゃあいいっす」

 ショートンはにっこりと微笑んでなぜかぴょこんと一跳ねした。

「ご主人意外とノリがいいっすよね」
「ついでに自分以外どうでもいいとも思ってない」
「はい、知ってやんす」

 気にせず楽しそうなショートンに、ケマルは溜息を一つ。

「それにしても捕まらねぇーな」
「そうっすねぇ、どこで手こずってるんすかね」
「手こずってるんかね」

 すでに半分適当な相槌になり始めたケマルの思考は帳簿に再び向かい始めていた。
 するとそこへカーテン裏からメイプルが現れる。

「お疲れ様っす」
「おつかれー」
「もう店閉まってんぞ、どうしたわざわざ」

 朝ちょっと顔を出していったきりこの日は来ていなかったメイプルの登場にケマルは驚きを隠さない。
 そんなケマルを気にする様子もなく、カウンターのケマルの前に腕を組んでメイプルは立った。

「捕まえてしまいましょう」
「はあ?」

 眉を顰めるケマルとは対照的にショートンは目を輝かせた。

「やりましょう。メイプルさん、どのような策を講じましょうか」
「じゃあこの店におびき寄せて、袋のねずみにするのでいいわ」
「はああ?」

 ケマルの声は届くわけない。
 むしろその反応さえ丁度いい相槌の様でショートンは話を進めていく。

「でもこのお店には結界が張ってありやすよ」
「一時的に穴を作ればいいのよ」

 その言葉にケマルも口を挟まずにはいられない。

「ちょ、ちょ、待てって。百歩譲って捕まえるのはいい。勝手にやってくれ。だが、店を使うとなれば話は別だ。そんなことして客に被害が出たらどうするんだ」
「空き巣なんだから誰もいないときに来るに決まってるでしょ」
「何でお前が乗り気なんだ。そんなの放っておけってのがお前だろ」

 ケマルのその言葉に反応したのは、まさかのメイプルだった。

「私、ちょっとこの青葉通りのおっちゃんおばちゃんたちにお世話になってのよね。だから心配事を減らせるなら私が少々骨折るくらい当然なのよ」

 初耳が故にケマルに驚愕の表情が浮かぶ。

「お前、いつの間に! 迷惑かけてないだろうな」

 メイプルは笑顔のまま、目線をわざとらしく流す。

「・・・・・・ちょっといろいろ、おかず分けてもらったりとか」
「はぁ、改めて御礼しとくから誰からどんな物もらったか後で教えろよ」

 重いため息にメイプルにも言い分があると、慌てる。

「ここの人たちからは粗方。でもでも私もちゃんとお礼しようとしたのよ! 簡易のものだけどお守りとか。でも必要な物はちゃんと買うからいらないって言われちゃって。私魔術以外役立てることないからどうしていいか分からなくて」
「大丈夫っす、メイプルさん! ちゃんとご主人がお返ししてやす」

 何がどう大丈夫なんだ。そう言う前に話は勝手に進んでいっている。メイプルはショートンの言葉に安堵の表情で益々張り切り出し、ショートンに至っては店主の視線は当然のように気にならない。
 ケマルは次々進む話に加わる以前のことを問題にしているので、口を挟む余地がない。
 そして得意の諦めるのコマンドを選択した。
 目の前にそろっている顔見て、そうするのが一番近道で安全でもあると分かっているからできることだった。
 作戦会議を白熱させてる場所から離れ、倉庫の整理をすることにした。
 届いていた箱を開けて、伝票と照らし合わせたり、在庫の確認をしたり、毎日同じようなことを繰り返しても終わることはない。

 ケマルはいつからか本を読むのが好きだった。今でもずっと好きで、隙があれば本を開いている。
 そして本という存在そのものが好きだった。
 ケマルは本を読み始めたのは最初は逃避のためだった。子供のころ家に居場所がなくて、勉強だけがケマルの味方で、資料としての手近にあったのが本。知識を補う道具はすぐにケマルに違う世界を見せてくれるようになった。そうやって読めるものならどんなものでもという時期を過ぎると、ケマルは自分から物語を求めるようになった。ファンタジーは一刻、ケマルには薬のようになっていて、それさえあれば生きていけると思うほどだった。
 けれど、そんな風に排他的に過ごすケマルはその時不思議といろんな人たちに出会った。
 それまで生きてきた世界がいかに狭かったか、それをいろんな形で知ることになり、ケマルはファンタジーだけに依存せずに済むようになった。

「大切なのは、守ること。人と場所。大切な人が傷つかない、傷つかせない。居場所を失わせない。本はそれを守ったり作ることができるけど、所詮は物だ。失われても新たに生まれてくる。大切なのは出会うこと」

 ケマルが唯一、自分だけに効果がある魔法。
 暗示の呪文。
 この場所を残してくれた祖父がケマルに教えてくれた事たちだ。人と触れ合うことを心の奥で弱腰になっていたケマルを飄々と変えていってくれた。
 そしてもう一つ教えてくれた事がある。

「背負うのは背負われる者に気を遣わせないほどになってからでいい。もたれ合うくらいに信用されるように」

 それが難しいことを知っていて、でも知っているからこそ目指す信条だ。

「俺は日常を守るだけ、あいつらが非常事態を治めるだけ。問題なし」


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