白鬼

藤田 秋

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第二章 巫女さんになった私ですが

2-7 大和撫子は透明度が変動する

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「天ちゃーん、どこぉ……」
 私は半泣きになりながら、天ちゃんの捜索を進めた。
 おっさんオチが怖いから、今度は慎重に物影を攻めてみる。祭壇の裏にはいないみたい。

『千真様、泣かないでくださいませ。私は意外と近くにおりますよ』
 宥めるような、天ちゃんの言葉が伝わってきた。私は目に浮かんだ涙を拭った。

 そうは言っても、どこにもいない。隠れられそうな場所(おっさん入り)だって大体見たし……。

「見つからないよ?」
『大丈夫です。そろそろ、私が頃なのです』
「それってどういう——」
 こと? と問い掛けようとした瞬間、ピンと空気が張り詰め、辺りに緊張が走った。

「っ!?」
 誰かが近づいてくる、そんな気がした。
 そのただならぬ空気に、ごくりと唾を飲む。身体が固まって、動けない。

「千真様、そんなに身構えなくても大丈夫ですよ?」
 天ちゃんは可笑しそうに、少し楽しげな口調で言った。彼女はこの気配を何とも思わないのだろうか?

「あれ?」
 今、天ちゃんの声が耳を通して伝わってきた気が。

 声が聞こえた方向を見ると、今にも消えそうなくらい儚く輝いている天ちゃんがいた。多分見間違えだとは思うけど……。

「薄くない?」
 向こう側の景色が透けてる。透けてる。透けて……え?
 殆ど透明に近く、かろうじてシルエットが見えるくらいだ。

「うふふ」
 天ちゃんはお得意の『お袖で口を覆う笑み』を見せた。
 先ほどから楽しそうだけど、あなたの身体が大変なことになってるよ!

「あわわわわ、天ちゃん! 大丈夫!?」
「えぇ、平気なのです」
 慌てふためく私に対し、天ちゃんは至って冷静だ。

「ほら、私をよくご覧ください」
「へ?」
 頭を抱えるのを止め、天ちゃんを見ると、先ほどよりも色が濃くなっていた。

「お、おぉっ!?」
 天ちゃんの姿は徐々にハッキリとしてゆき、向こう側の景色も殆ど透けなくなってきた。

「っ!」
 あの気配がすぐそこまで来ている。少し急ぎ気味な足取りで。

 天ちゃんは、アレが近づくほど姿がハッキリと見えてきた。一体、何なんだろう。まさか、最近よく出くわす……化け物?

「来たのです」
「なっ!」
 天ちゃんは完全に不透明になっていた。 
 段々と近付いてきた衣擦れの音が止まり、戸に手が掛けられた。

 心臓の鼓動が早くなる。喉はカラカラに乾き、額には嫌な汗が浮かんだ。身体が更に強張り、足が竦む。押さえ付けるような緊張感が、私を襲った。
 天ちゃんに視線を送ると、彼女はまたクスクスと笑った。

 戸がゆっくりと開く。ほんの数秒の間かもしれなかったが、私にはとてつもなく長い時間に感じた。
 そして、とうとうが姿を現した。

「ごっめーん、遅れちゃったぁ~。待ったー?」
「ううん、今来たとこー! ……って何でだ!!」
 登場していきなりボケを繰り出してきた、見慣れた人の鳩尾に頭突きを食らわせた。
 彼は持っていたお盆を守るように、バランスをとって体勢を整える。

「あたた、いきなり頭突きなんてひどいなぁ」
 珀弥君は顔を少々歪ませながらも、すぐに笑顔を作った。

「うるさいうるさいっ! 重々しい登場の仕方しといて、何その軽いノリは! やる気あんの!?」
「えへへ」
「もーっ、このお茶目さん! って許さねえよ?」
 何故かドヤ顔をする珀弥君に、私はノリツッコミをしながら掴み掛かった。
 この人はシリアスを一ページも保たせられないのか。

「仕方ないよ、半ばコメディだもの。はくや」
「いや開き直るんじゃない。ちさな」
「はははゴメンネ」
 謝罪の言葉を口にしているが、珀弥君は全く意に介していないようだ。ぐぬぬ。 

「あぁ、天。帰ってきてたんだ。楽しかった?」
 珀弥君は私から天ちゃんへ視線を移し、しゃがんでお盆を置いた。天ちゃんは満面の笑みを浮かべ、アホ毛をくるくると回す。

「はいっ! 珀弥もお帰りなさい。千真様が怖がってらっしゃいましたよ?」
「へ?」

「全くもーっ、何であんな重々しいオーラ出しながら来たのー」
 私は唇を尖らせ、態勢を低くした珀弥君の頭をを拳でポカポカと叩いた。
 尚、このときも彼は笑顔である。

「えー、僕は普通に歩いてきただけなんだけどなぁ」
「そんなわけ無いよ! 何か凄かったもん」
 珀弥君はさり気なく私の両手首を捕まえた。ぐ、動けない。

 そして、彼は立ち上がる。同時に私の足が宙に浮いたり、地面に着いたりした。このとき、私はバンザイの格好であり、珀弥君に宙ぶらりんにされて完全に弄ばれていたのである。

「さっきから何してるんですか?」
「あれ、バレちゃった?」
「バレないわけないでしょ! もう一回お願いします」
「さり気に楽しんでるんだね」
 珀弥君のささやかなツッコミを受けつつ、私は再び宙ぶらりんになった。これ、意外と楽しい。

「いやいや、こんなことしてる場合じゃないの! さっき天ちゃんが透明だったんだけど、珀弥君が来たら不透明になったの! 千真さんびっくりなの!!」
 話を戻し、宙ぶらりんになりながらも、先程の不可解な現象を珀弥君に訴えた。

「……もう一度お願いします?」
 彼は動きをピタリと止めた。

「天ちゃんは透明でしたが、不透明になりました。私はとても驚きました」
 あれ、何これ、英文訳?

「あはは、そうかぁ、天が……」
 珀弥君は天ちゃんの方に勢い良く顔を向けた。

「ご説明願おうか?」
 マジトーンである。
 顔を引きつらせた珀弥君に対して、天ちゃんは愉しげに笑うだけ。

「こら、笑ってないで答えて」
 珀弥君は私を降ろし、天ちゃんに問い掛けた。

「私は千真様のお側に居ただけなのです」
「つまり、私は何もやっていませんってこと?」
「そういうことなのです」
 珀弥君は少し考えた後、何かに気付いた様で、片手で髪をくしゃっと掴んで頭を抱えるようなポーズを取った。

 完全に『あちゃー』って雰囲気を醸し出しているんだけど、どうしたのだろうか。

「はぁ……まぁ、見ちゃったなら仕方ないか」
 珀弥君は一旦息をつき、もう一度しゃがんで天ちゃんの頭に手を乗せた。
 天ちゃんは不思議そうに珀弥くんを見上げる。

「千真さん、天はね……」
「な、なんだってー!」

「まだ何も言ってないよね」
「えへへ」
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