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第二章 巫女さんになった私ですが
2-6 大和撫子とかくれんぼ
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***
着替え終わった私は、珀弥君と共に神様を祀っている神殿へ向かっている。
神殿へ向かう前、私の巫女服姿を見た珀弥君は『似合うよ』って言ってくれた。お世辞でも褒められると嬉しいな。
「この神社って、おっとりした鬼の神様を祀ってるんだっけ?」
私の質問に、珀弥君は頷いた。
「そうだよ。狐珱から聞いたの?」
「うん。えーと、白天童子だっけ」
「正解。拝んだら百円を拾う程度の幸運をもたらしてくれるかも?」
彼は冗談っぽく笑って見せるが、私にとっては大事件だ。
「う、うわあ! 拝むだけで百円も儲かるとか凄すぎる! 白天童子様を信仰します!」
「えっ」
私のリアクションに、珀弥君は『予想外だ』と云わんばかりの表情を見せた。珍しく現代仮名遣いの『え』を使っている。そこまで驚いたのかしら。
「うん、いいと思うよ」
珀弥君は目を細め、私の頭に手をポンポンと置き、先を行った。
「今、馬鹿にした? したよね?」
「してないしてない」
「をい、何でこっち見ないの? 今絶対笑ってるでしょ!? 肩震えてるのわかってるんだからね!」
「それでも僕は悪くない」
「悪くなくないね!」
……なんてやり取りをしながら、私たちは神殿に辿り着いた。
しっかり手入れされているのだろう、質素な祭壇は奇麗に整えられ、埃が全く無い。
「……あっ」
「どうしたの、珀弥君?」
私は急に声を上げた珀弥君を振り返った。
「お供え物忘れて来ちゃった……」
彼は、それはそれは絶望的な表情をしていた。
此処まで来るのに、物凄く長い廊下を渡ってきたのだ。忘れ物をするなど、『髪が後退したおじさんが、頭に間違って脱毛剤つけちゃった』くらいの絶望だと思う。いや知らないけど。
「じゃあ取ってくるから、適当にくつろいでて……」
珀弥君は非常に億劫そうな顔で元来た道を引き返そうとした。
「え、私も手伝うよ?」
「ううん、大丈夫だよ。一人で十分だから。ありがとうね……」
彼は弱々しく微笑むと、さっさと道を引き返した。
「こき使ってくれて良いのに……」
珀弥君の認識では、私はまだ『お客さん』なのだろう。
この分だと、巫女さんになってもあんまり仕事させてもらえなそうだなぁ。
「そうだ」
私は祭壇の前まで行き、手を合わせた。
「神主さんがちゃんと仕事をくれますように」
どんな願いだ。厚かましいにも程があるだろうに。ここの神様にお願いすることじゃないだろう。
「なんちゃって……」
その時だ。
チャリンと何かが落ちる音が聞こえた。その突然の音の主は、私の足元にあった。銀色に光る丸い物体。これは、いやまさか……?
「百円?」
拾い上げてみると、確かに百円だった。しかも製造年は今年。くすみも無く艶やかで奇麗だ。
え、これは祈ったから?
「す、すごいっ! 珀弥君ったら冗談じゃなかったんだ!」
私は百円を頭上に掲げ、半径一メートルの円を描くようにぐるぐると走り回った。
「ありがとうございます! 白天童子様!」
百円を掲げたまま膝を着き、神棚の前で頭を深々と下げた。
端から見たらシュールだろうな、この光景。そんなの百も承知だから放っておいて。
それよりも、この神々しく銀色に光り輝く百円様の使い道を考えよう。神様からの授かり物だ。大切に使わなきゃ……!
「むむっ!」
ふと、神棚の前の賽銭箱が目についた。
お賽銭なんか、いつも一円くらいしか入れられなかったなぁ。一回くらい『ご縁がありますように』って五円玉だって入れてみたいし、奮発して百円とか、ちょっと憧れてたんだ……。
心は決まった。
「そぉいっ」
私は賽銭箱に向かって百円を投げた。
小さな銀色のコインは放物線を描いて宙を舞い、賽銭箱のギザギザのアレに数回弾かれ、中に滑り落ちる。
チャリン、チャリン、と小銭がぶつかる音が聞こえ、百円は賽銭箱に入ったのだと確認できた。
心に満足感が広がり、同時に顔に笑みが浮かんだ。
『おや、まぁ』
「ヱっ」
突然、驚きを孕んだ声が聞こえ、私は歴史的仮名遣い(しかも片仮名)でリアクションをとってしまった。
「だ、誰?」
少し間を置き、動揺しながら声を張り上げた。先程のタンスと同じ類かもしれない、と少しびくびくしている。
『怖がらないで下さいませ。私ですよ?』
クスクスと笑う声の後、おっとりとした聞き覚えのある口調が頭に入ってきた。
「天……ちゃん……?」
恐る恐る、思い浮かんだ人物の名を口にしてみた。
『ご名答なのです』
天ちゃんの明るい言葉が、耳を介さず直接脳内に伝えられた。この感覚は……。
「天ちゃん、どこにいるの?」
辺りを見ても、人影など一切目に入らない。
『私は千真様の近くにおります』
楽しげな彼女の言葉は、また脳内に伝えられる。
近くにいるはずなのに、声で距離が測れない。いや、それ以前に測れる『音』が無い。
彼女の言葉は、音を成さずして情報が伝わるのだ。
これは頭の中で知っている曲を再生する感覚と同じだ。実際に音は鳴らないけれど、その『音』だと認識できる。
つい最近、同じような体験をした。
天ちゃん、あなたは一体、何者なの?
『ふふ、珀弥が帰ってくるまでのかくれんぼなのです』
「え?」
『千真様が鬼なのですよー』
天ちゃんは楽しげに笑った。
「ちょっと天ちゃん!?」
キョロキョロと再び周りを見回すが、やっぱり誰もいない。隠れるような物音もしなかったし。
いやいや、もしかしたら、かくれんぼの達人かもしれない。
うーん。とりあえず捜そうか。
「おーい、天ちゃんやーい」
試しに、部屋の隅にあった大きめの壺の蓋を開けて覗いてみた。
天ちゃんくらいなら入れそ……。
「何だよ」
「……」
何、これ。
目がギョロっとして大きい、三頭身くらいのおっさんが体育座りして私を睨んでいた。夢に出てきそう。
「……間違えましたー」
私はそっと、壺の蓋を閉じた。あぁ、疲れてるのかしら。
と、とにかく次よ。
「ここかなー?」
次は隣の古そうな箱を……。
「何だよ」
「……」
私は、無言で蓋を閉じた。いけない、やっぱ疲れてるのかも。
次は、そうだなぁ。
「また壺だ」
隣にもまた壺があった。なんとか鑑定団に出せばトンデモ価格がつきそうなお宝感がある。ここ、壺がありすぎでは? とりあえず、これも天ちゃんくらいなら入……。
「なん……」
スパアァン! と私は間髪入れずに蓋を叩きつけた。
何で……。
「何でおっさんしか居ないの!」
「うるせぇ!!」
「すみません!!」
私が頭を抱えて叫ぶと、小さいおっさん三人が一斉に蓋を開けて怒鳴ってきた。別個体だったのかよ!
着替え終わった私は、珀弥君と共に神様を祀っている神殿へ向かっている。
神殿へ向かう前、私の巫女服姿を見た珀弥君は『似合うよ』って言ってくれた。お世辞でも褒められると嬉しいな。
「この神社って、おっとりした鬼の神様を祀ってるんだっけ?」
私の質問に、珀弥君は頷いた。
「そうだよ。狐珱から聞いたの?」
「うん。えーと、白天童子だっけ」
「正解。拝んだら百円を拾う程度の幸運をもたらしてくれるかも?」
彼は冗談っぽく笑って見せるが、私にとっては大事件だ。
「う、うわあ! 拝むだけで百円も儲かるとか凄すぎる! 白天童子様を信仰します!」
「えっ」
私のリアクションに、珀弥君は『予想外だ』と云わんばかりの表情を見せた。珍しく現代仮名遣いの『え』を使っている。そこまで驚いたのかしら。
「うん、いいと思うよ」
珀弥君は目を細め、私の頭に手をポンポンと置き、先を行った。
「今、馬鹿にした? したよね?」
「してないしてない」
「をい、何でこっち見ないの? 今絶対笑ってるでしょ!? 肩震えてるのわかってるんだからね!」
「それでも僕は悪くない」
「悪くなくないね!」
……なんてやり取りをしながら、私たちは神殿に辿り着いた。
しっかり手入れされているのだろう、質素な祭壇は奇麗に整えられ、埃が全く無い。
「……あっ」
「どうしたの、珀弥君?」
私は急に声を上げた珀弥君を振り返った。
「お供え物忘れて来ちゃった……」
彼は、それはそれは絶望的な表情をしていた。
此処まで来るのに、物凄く長い廊下を渡ってきたのだ。忘れ物をするなど、『髪が後退したおじさんが、頭に間違って脱毛剤つけちゃった』くらいの絶望だと思う。いや知らないけど。
「じゃあ取ってくるから、適当にくつろいでて……」
珀弥君は非常に億劫そうな顔で元来た道を引き返そうとした。
「え、私も手伝うよ?」
「ううん、大丈夫だよ。一人で十分だから。ありがとうね……」
彼は弱々しく微笑むと、さっさと道を引き返した。
「こき使ってくれて良いのに……」
珀弥君の認識では、私はまだ『お客さん』なのだろう。
この分だと、巫女さんになってもあんまり仕事させてもらえなそうだなぁ。
「そうだ」
私は祭壇の前まで行き、手を合わせた。
「神主さんがちゃんと仕事をくれますように」
どんな願いだ。厚かましいにも程があるだろうに。ここの神様にお願いすることじゃないだろう。
「なんちゃって……」
その時だ。
チャリンと何かが落ちる音が聞こえた。その突然の音の主は、私の足元にあった。銀色に光る丸い物体。これは、いやまさか……?
「百円?」
拾い上げてみると、確かに百円だった。しかも製造年は今年。くすみも無く艶やかで奇麗だ。
え、これは祈ったから?
「す、すごいっ! 珀弥君ったら冗談じゃなかったんだ!」
私は百円を頭上に掲げ、半径一メートルの円を描くようにぐるぐると走り回った。
「ありがとうございます! 白天童子様!」
百円を掲げたまま膝を着き、神棚の前で頭を深々と下げた。
端から見たらシュールだろうな、この光景。そんなの百も承知だから放っておいて。
それよりも、この神々しく銀色に光り輝く百円様の使い道を考えよう。神様からの授かり物だ。大切に使わなきゃ……!
「むむっ!」
ふと、神棚の前の賽銭箱が目についた。
お賽銭なんか、いつも一円くらいしか入れられなかったなぁ。一回くらい『ご縁がありますように』って五円玉だって入れてみたいし、奮発して百円とか、ちょっと憧れてたんだ……。
心は決まった。
「そぉいっ」
私は賽銭箱に向かって百円を投げた。
小さな銀色のコインは放物線を描いて宙を舞い、賽銭箱のギザギザのアレに数回弾かれ、中に滑り落ちる。
チャリン、チャリン、と小銭がぶつかる音が聞こえ、百円は賽銭箱に入ったのだと確認できた。
心に満足感が広がり、同時に顔に笑みが浮かんだ。
『おや、まぁ』
「ヱっ」
突然、驚きを孕んだ声が聞こえ、私は歴史的仮名遣い(しかも片仮名)でリアクションをとってしまった。
「だ、誰?」
少し間を置き、動揺しながら声を張り上げた。先程のタンスと同じ類かもしれない、と少しびくびくしている。
『怖がらないで下さいませ。私ですよ?』
クスクスと笑う声の後、おっとりとした聞き覚えのある口調が頭に入ってきた。
「天……ちゃん……?」
恐る恐る、思い浮かんだ人物の名を口にしてみた。
『ご名答なのです』
天ちゃんの明るい言葉が、耳を介さず直接脳内に伝えられた。この感覚は……。
「天ちゃん、どこにいるの?」
辺りを見ても、人影など一切目に入らない。
『私は千真様の近くにおります』
楽しげな彼女の言葉は、また脳内に伝えられる。
近くにいるはずなのに、声で距離が測れない。いや、それ以前に測れる『音』が無い。
彼女の言葉は、音を成さずして情報が伝わるのだ。
これは頭の中で知っている曲を再生する感覚と同じだ。実際に音は鳴らないけれど、その『音』だと認識できる。
つい最近、同じような体験をした。
天ちゃん、あなたは一体、何者なの?
『ふふ、珀弥が帰ってくるまでのかくれんぼなのです』
「え?」
『千真様が鬼なのですよー』
天ちゃんは楽しげに笑った。
「ちょっと天ちゃん!?」
キョロキョロと再び周りを見回すが、やっぱり誰もいない。隠れるような物音もしなかったし。
いやいや、もしかしたら、かくれんぼの達人かもしれない。
うーん。とりあえず捜そうか。
「おーい、天ちゃんやーい」
試しに、部屋の隅にあった大きめの壺の蓋を開けて覗いてみた。
天ちゃんくらいなら入れそ……。
「何だよ」
「……」
何、これ。
目がギョロっとして大きい、三頭身くらいのおっさんが体育座りして私を睨んでいた。夢に出てきそう。
「……間違えましたー」
私はそっと、壺の蓋を閉じた。あぁ、疲れてるのかしら。
と、とにかく次よ。
「ここかなー?」
次は隣の古そうな箱を……。
「何だよ」
「……」
私は、無言で蓋を閉じた。いけない、やっぱ疲れてるのかも。
次は、そうだなぁ。
「また壺だ」
隣にもまた壺があった。なんとか鑑定団に出せばトンデモ価格がつきそうなお宝感がある。ここ、壺がありすぎでは? とりあえず、これも天ちゃんくらいなら入……。
「なん……」
スパアァン! と私は間髪入れずに蓋を叩きつけた。
何で……。
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