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第二章 第二節 マイトの選んだ道(2)
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いつも同じ方角から、この村に攻め入ろうとする不届き者、もしくは馬鹿がいる。彼らは定期的に湧いてくる。それこそ、ちょうどよく配膳された食卓のように。少し食器を扱えば、好物を取り、食べられるように。馬鹿どもはもちろん、この村の食べ物を求めて攻めてきている訳だが、少し裏を返して考えたならばおそらく、馬鹿どもの地元で飢餓か何かが起こっていると、容易に想像ができるはずだ。助けてやればいい、と言う者もいるだろうが、いくら豊富な資源があるとはいえ、侵略されるたびに撒き散らしていたならば、底を尽きて、自身の生活すらままならなくなるだろう。虚しい未来を避けるためにも、一種の汚れ役が必要だった。その汚れ役についている者が、丁度マイトである。いつもいつもよく飽きずに進軍してくる馬鹿どもの人生を、マイトは自由に扱ってよい、その権利がある。
そして、今日の馬鹿軍隊は、村に辿り着くまでもなかった。行き倒れが何人か発生し、草原の中で立ち往生していた。
「あぁ……僕たちでついに辿り着けなかったら、スティルの人間はもうおしまいだ……!」
「気を強く持って! このまま歩き続けたらきっと、あの素敵な場所に……天国に……」
「……ももうだめか、しばらく横になってろ、その方が食料を抑えられる……無謀に動き回るから、こうやって、自然に殺されるんだ……」
「……二人きりになっちゃったね、私の愛おしい……もし私が死んじゃったら、私の肉を食べてね。あなただけでも、生きてね」
「……さん……僕にはまだ……がいないといけないんだ……が死んだら、なんて、考えたくない……」
周りの草はどれも食に適さない、もしくは毒のある草ども。いくら馬鹿であったとしても、『私の肉を食べろ』との発言には素直に感心した。ちゃんと、わかっているじゃないか。
ただ、自然に殺されるわけではない。今からその命を消す者は、殺す者は。人間。カルライン=マイト。
「誰かが近づいているぞ……助けだ……助けが来たぞ……」
馬鹿は、自分の首に気づかない。その麓に金属が振るわれている現実を知らない。
程なくして、首を取られた人間が倒れた。知性が無くなった人間など、ただの美味しい肉袋だ。もちろん飢餓の世界から来たから、痩せこけていて量もない。しかし、太腿ならどうだろうか。ある。堅い肉。噛めばおいしい、筋肉が実っている。マイトは慣れた手つきで人間を解体して、倒れていた女に、かつて仲間だった人間の、残骸を食べさせる。
「ぁ、ありがとうございます……久しぶりのおいしいお肉……ちょっと硬いけど、今は生きているだけでいいかな……」
浅ましい。死にかけで弱っていた事実を考えても、浅ましい。それは仲間だった。それは一緒に苦楽を共にした仲だった。それは息子だったかもしれない。それは孫だったかもしれない。それは父親だったかもしれない。何らかの関係性があったかもしれない。けれど死んだらただの肉。ただの食料。ここで食わずにいたならば、また世界に価値が増えたはずなのに、それなのに。
この馬鹿は、人間を食べた。
「すみません、お礼が言いたくて……このおいしいお肉、まだ残ってますか? せっかくですし、一緒に食べましょう?」
あーあ。墓穴を掘ったな。
「本当に、知らなかったんだな。何の肉か……それほどまでに飢えるなら、その未来が聞こえたなら、一時の快楽に身を任せずにただ、律し続けていればよかったがな」
「え……すみません、私たちの故郷の現状を知っておられるなら、どうか救いの手を……」
「この愚者が。
今、お前がおいしそうに貪っている肉は、お前の仲間だったんだよ。
変にどこかに攻め込んで、あわよくば養ってもらおうと考えているなら。最初から動かないべきだったな。動かずに、倒れた役立たずの肉を食らう。お前らの繁栄した、無駄に人間の多い社会なら、それが一番いい作戦なんだよ。わかったなら、お前だけでも住処へ、帰れ」
また悪癖が発動してしまった。しかも、あの弓矢の彼女ではなく、非常にどうでもいい彼女に対して。こいつが逃げ帰ったところで、特に何か影響はないだろう。そう思うと、どうせ会って話せる最後だからと、逆に何か言ってやりたくなる。従って、悪癖ではなく、ただの癖と化した。彼女は全てを把握して、自身の喉に指を突っ込んで、必死に吐き出そうとする。同じく必死の状態で腹に入れたからか、胃袋も人肉をつかんで離さない。マイトは彼女の指だけ切り落とし、一緒の胃袋に入れてやる。息子と一緒に解かされない現実は、さみしいだろうから。
「なんで……なんで私の指まで食べなきゃいけないの……もう食事はこりごり……もう生きたくない……殺してください……私を追放してください……」
「一度はおいしいと言って、喜んでいたくせに。可哀想だろ? お前の息子が。あんなに可愛がられたのに、あんなに愛されていたのに、それが死んで、肉になった瞬間、お前は吐き出そうとした。受け入れてやれよ。愛してるなら、できるはずだろ? 受け入れて生きろ。死に逃げるな」
死に逃げるな、とマイトが言った瞬間、彼女は走り去っていった。おそらく彼女は、生に逃げたと思われる。マイトは少し安心しつつも、弓の彼女に顔を合わせられないほど、血に塗れた自身を感じている。嫌われたりしないだろうか。そもそも、彼女は俺を覚えているだろうか。今日も罪を犯したならば、その分清らかに生きねばならない。マイトは大騒ぎになっている道を、難なく通り抜けて、訓練所の宿に備えられた、自身に割り振られた部屋に戻った。
補遺:スティル群地のその後について
『サーファン群地の豊穣な村に向かったら、同行していた息子を殺され、しかも息子の肉を食わされ、自分の指さえ食わされた』と報告してきた、一人の錯乱した女性がいた。彼女はあまりの衝撃に、一部始終の情報を落としてはいるが、飢えに飢えて共食いを薦め始めた政府には追い風。程なくしてスティル群地民の3人に2人は『人間を食べた経験がある?』との問いに『はい』と答えるほどに、人肉食が流行した。しかし、人肉食によって余計な人口が間引かれ、スティル群地は元々の活気を取り戻す。全ての文化が復活し、人肉食政府は倒された。設立されてからわずか5ヶ月だった。
それから、人口が過剰に増える原因として、『性交以外に娯楽がない』現状を打破し、ついでに性欲の悪魔も創ったと言う。これにより、スティル群地の飢饉は終わり、もう一度新しい道を選べるまでに回復したとされる。意外な事実、マイトの(自身では悪癖だと思い込んでいる)助言が、他にもいろいろな歴史を変えているそうだ。
そして、今日の馬鹿軍隊は、村に辿り着くまでもなかった。行き倒れが何人か発生し、草原の中で立ち往生していた。
「あぁ……僕たちでついに辿り着けなかったら、スティルの人間はもうおしまいだ……!」
「気を強く持って! このまま歩き続けたらきっと、あの素敵な場所に……天国に……」
「……ももうだめか、しばらく横になってろ、その方が食料を抑えられる……無謀に動き回るから、こうやって、自然に殺されるんだ……」
「……二人きりになっちゃったね、私の愛おしい……もし私が死んじゃったら、私の肉を食べてね。あなただけでも、生きてね」
「……さん……僕にはまだ……がいないといけないんだ……が死んだら、なんて、考えたくない……」
周りの草はどれも食に適さない、もしくは毒のある草ども。いくら馬鹿であったとしても、『私の肉を食べろ』との発言には素直に感心した。ちゃんと、わかっているじゃないか。
ただ、自然に殺されるわけではない。今からその命を消す者は、殺す者は。人間。カルライン=マイト。
「誰かが近づいているぞ……助けだ……助けが来たぞ……」
馬鹿は、自分の首に気づかない。その麓に金属が振るわれている現実を知らない。
程なくして、首を取られた人間が倒れた。知性が無くなった人間など、ただの美味しい肉袋だ。もちろん飢餓の世界から来たから、痩せこけていて量もない。しかし、太腿ならどうだろうか。ある。堅い肉。噛めばおいしい、筋肉が実っている。マイトは慣れた手つきで人間を解体して、倒れていた女に、かつて仲間だった人間の、残骸を食べさせる。
「ぁ、ありがとうございます……久しぶりのおいしいお肉……ちょっと硬いけど、今は生きているだけでいいかな……」
浅ましい。死にかけで弱っていた事実を考えても、浅ましい。それは仲間だった。それは一緒に苦楽を共にした仲だった。それは息子だったかもしれない。それは孫だったかもしれない。それは父親だったかもしれない。何らかの関係性があったかもしれない。けれど死んだらただの肉。ただの食料。ここで食わずにいたならば、また世界に価値が増えたはずなのに、それなのに。
この馬鹿は、人間を食べた。
「すみません、お礼が言いたくて……このおいしいお肉、まだ残ってますか? せっかくですし、一緒に食べましょう?」
あーあ。墓穴を掘ったな。
「本当に、知らなかったんだな。何の肉か……それほどまでに飢えるなら、その未来が聞こえたなら、一時の快楽に身を任せずにただ、律し続けていればよかったがな」
「え……すみません、私たちの故郷の現状を知っておられるなら、どうか救いの手を……」
「この愚者が。
今、お前がおいしそうに貪っている肉は、お前の仲間だったんだよ。
変にどこかに攻め込んで、あわよくば養ってもらおうと考えているなら。最初から動かないべきだったな。動かずに、倒れた役立たずの肉を食らう。お前らの繁栄した、無駄に人間の多い社会なら、それが一番いい作戦なんだよ。わかったなら、お前だけでも住処へ、帰れ」
また悪癖が発動してしまった。しかも、あの弓矢の彼女ではなく、非常にどうでもいい彼女に対して。こいつが逃げ帰ったところで、特に何か影響はないだろう。そう思うと、どうせ会って話せる最後だからと、逆に何か言ってやりたくなる。従って、悪癖ではなく、ただの癖と化した。彼女は全てを把握して、自身の喉に指を突っ込んで、必死に吐き出そうとする。同じく必死の状態で腹に入れたからか、胃袋も人肉をつかんで離さない。マイトは彼女の指だけ切り落とし、一緒の胃袋に入れてやる。息子と一緒に解かされない現実は、さみしいだろうから。
「なんで……なんで私の指まで食べなきゃいけないの……もう食事はこりごり……もう生きたくない……殺してください……私を追放してください……」
「一度はおいしいと言って、喜んでいたくせに。可哀想だろ? お前の息子が。あんなに可愛がられたのに、あんなに愛されていたのに、それが死んで、肉になった瞬間、お前は吐き出そうとした。受け入れてやれよ。愛してるなら、できるはずだろ? 受け入れて生きろ。死に逃げるな」
死に逃げるな、とマイトが言った瞬間、彼女は走り去っていった。おそらく彼女は、生に逃げたと思われる。マイトは少し安心しつつも、弓の彼女に顔を合わせられないほど、血に塗れた自身を感じている。嫌われたりしないだろうか。そもそも、彼女は俺を覚えているだろうか。今日も罪を犯したならば、その分清らかに生きねばならない。マイトは大騒ぎになっている道を、難なく通り抜けて、訓練所の宿に備えられた、自身に割り振られた部屋に戻った。
補遺:スティル群地のその後について
『サーファン群地の豊穣な村に向かったら、同行していた息子を殺され、しかも息子の肉を食わされ、自分の指さえ食わされた』と報告してきた、一人の錯乱した女性がいた。彼女はあまりの衝撃に、一部始終の情報を落としてはいるが、飢えに飢えて共食いを薦め始めた政府には追い風。程なくしてスティル群地民の3人に2人は『人間を食べた経験がある?』との問いに『はい』と答えるほどに、人肉食が流行した。しかし、人肉食によって余計な人口が間引かれ、スティル群地は元々の活気を取り戻す。全ての文化が復活し、人肉食政府は倒された。設立されてからわずか5ヶ月だった。
それから、人口が過剰に増える原因として、『性交以外に娯楽がない』現状を打破し、ついでに性欲の悪魔も創ったと言う。これにより、スティル群地の飢饉は終わり、もう一度新しい道を選べるまでに回復したとされる。意外な事実、マイトの(自身では悪癖だと思い込んでいる)助言が、他にもいろいろな歴史を変えているそうだ。
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