支配者は深淵の扉をこじ開ける

舞米

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60【壊れた境界線と、求められた熱】

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俺の指が、彼の体の中心、熱く疼く場所に触れた瞬間、ノアは甲高い声を上げ、弓なりに体を反らせた。涙が止めどなく溢れ、シーツを濡らす。快感と、薬による混乱が彼の精神を完全に支配していた。


「―――っ!!!」
その反応は、俺の奥底にある何かを強く刺激した。支配欲、所有欲、そして、この壊れそうな存在を俺だけの色に染め上げたいという、暗い渇望。

これは『処置』だ。そう自身に言い聞かせながらも、俺は、この状況に抗いがたい悦びを感じていることを自覚していた。

俺は、彼の反応を確かめるように、ゆっくりとその場所に触れ続けた。彼の体が、俺の指の動きに合わせてビクビクと震え、甘い喘ぎ声が途切れ途切れに漏れ出す。


「……あ……ぁ……がいぜ、る……や……だめ……っ……」
言葉とは裏腹に、彼の体は正直だった。俺の指から逃れようとするどころか、むしろ腰を微かに動かし、より深い接触を求めるかのように擦り寄ってくる。薬が、彼の羞恥心という最後の砦を打ち砕き、剥き出しの本能だけを残していた。


「……何が、だめだ」
俺は、低い声で尋ねた。彼の耳元で。

「……何をしてほしい」

「……わか、らな……ぁ……でも……熱い……苦し、……」
彼は、涙に濡れた瞳で俺を見上げ、懇願するように言った。

「……がいぜる……おまえが……触れると……少し……楽に……なる……から……」
その言葉は、俺の心を強く打った。


俺だけが、彼の苦痛を和らげることができる。
俺だけが、彼にこの快楽を与えることができる。
その事実が、俺の独占欲をさらに燃え上がらせた。

「……もっとか?」
俺は、囁いた。

「……もっと、俺に触れてほしいか?」

「……ん……ぅん……」
彼は、子供のように、こくりと頷いた。
そして、震える手で、俺の腕を掴み、自分の体へと導こうとする。

「……お願い……だから……もっと……」
その、なりふり構わぬ、必死の懇願。


普段の生意気な彼からは想像もつかない、無防備な姿。

俺は、もはや自身を抑えることができなかった。
俺は、彼の体を抱き起こし、自分の膝の上に座らせた。彼の背中が、俺の胸にぴったりと触れる。彼の金色の髪が、俺の顎をくすぐった。

この体勢なら、彼の全身を、俺の腕と体で包み込むことができる。俺の所有物だと、彼自身にも、そしてこの世界の全てにも、示すことができる。

「……あ……」
体勢が変わったことで、彼の体が再び敏感に反応する。俺の胸板に背中を擦り付け、甘い声を漏らす。

俺は、空いている方の手で、彼の前から、再び中心の熱へと触れた。今度は、より大胆に、より深く。


「―――ひぅっ!?」
彼が、息を呑む。
だが、すぐに、苦痛ではなく、強い快感を訴えるように、俺の腕にしがみついてきた。


「……がいぜる……そこ……もっと……!」
彼の要求は、ますます大胆になっていく。薬が、彼の欲望のタガを完全に外してしまったのだ。
彼は、自ら腰を動かし、俺の手に自身を押し付けてくる。

「……ぁ……ん……はやく……して……」
俺は、彼のその言葉に、わずかに眉をひそめた。
これは『処置』だ。快楽を与えるためのものではない。


だが、彼の苦しそうな喘ぎ声と、熱に浮かされた瞳を見ていると、俺の中で何かが軋む音がした。

こいつを、早く楽にしてやりたい。
この苦しみから、解放してやりたい。
たとえ、それが俺自身の欲望を満たす形であったとしても。

俺は、彼の要求に応えるように、指の動きを速めた。
彼の喘ぎ声が、さらに高くなる。


「……あ……! もう……だめ……!」
彼の体が、大きく痙攣した。
熱いものが、俺の手に迸る。

彼は、俺の肩に顔を埋め、荒い息を繰り返しながら、小さく震えていた。
薬による強制的な昂りは、一応の決着を見たようだった。
だが、彼の体はまだ熱く、意識は朦朧としたままだ。


「……はぁ……はぁ……がいぜる……」
彼は、燃え尽きたように、ぐったりと俺に凭れかかった。
その無防備な姿は、俺の庇護欲を強く刺激した。
俺は、彼を抱きしめたまま、ベッドに横たわらせた。

彼の汗ばんだ額にかかる金色の髪を、指で優しく払う。
その顔は、疲労と、まだ残る薬の気配で、苦しげに歪んでいた。

これは、『処置』だった。
そう、俺は自身に言い聞かせた。

だが、俺の心の奥底では、別の感情が渦巻いていた。
彼を、完全に自分のものにしたという、暗い満足感。
そして、彼を傷つけ、利用したことへの、微かな罪悪感。

俺は、彼の隣に腰を下ろし、彼の寝顔を、ただ黙って見つめていた。
彼が再び目を覚ました時、俺は、どんな顔をして彼に向き合えばいいのか。

俺たちの間に引かれていたはずの境界線は、もう、どこにも見当たらなかった。

夜は、静かに更けていった。
ただ、俺の腕の中に残る、彼の熱の感触だけが生々しく、俺の思考を支配していた。







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