貴方の愛に価値があるとでも?〜婚約破棄を望む公爵令嬢、ナルシスト王子と親友の浮気、知っていましたが何か?〜

あいみ

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いらない招待状

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 数日後。

 ナターシャと殿下、二人の名前で招待状が届いた。

 読まずに燃やしたいなぁ。それか捨てたい。

 届いた事実を抹消するにはどうすればいいのか。

 「こらこらナターシャ。やめろ」

 無意識に破ろうとしていたらファルバトお兄様に止められた。

 お父様と領地の視察に行っていて、もうしばらくは留守にするはずだったのに。

 お兄様がいるなら当然、お父様もいる。

 手紙を出してくれたら出迎えたのに。

 長い間、馬車に乗っていたお兄様は背伸びをしたがら体を解す。
 体が大きいから馬車の中は窮屈なのよね。

 すぐにお父様とお母様が部屋を訪ねて来た。

 「婚約破棄をしたと噂を耳にしたが本当か?」
 「はい。殿下は新たにミリアと婚約したわ」
 「それはどうでもいい」
 「アナタの代わりに私がサインしたけど、問題はないわよね?」
 「あぁ」

 当主が不在の場合、必要書類へのサインは夫人、もしくは次期当主でもいいと法が改正された。

 今回みたいに領地に赴いていたり、病気で倒れ何日も目を覚まさなかったりで、色々と支障が出てしまったことで早急に見直された。

 代理とはいえ、当主の代わりにサインをするのだ。法律上は有効だし、不備にもならない。

 婚約破棄の手続きは受理され、私と殿下を縛るものはなくなった。

 自由って素晴らしい。
 この気持ちをなんと表現すればいいのか。

 心が晴れやかで、希望に満ちた未来が待っているはず。

 「それで?婚約破棄の理由は噂通りでいいのか」
 「いいよ」

 噂は至ってシンプル。

 ミリアが親友の婚約者を寝取った。殿下はハニートラップにまんまと引っかかった。

 本来、婚約破棄ってすごく体裁が悪い。醜聞として尾ヒレが付いて国中に広がっていくのに、今回は別。

 私への同情が多く、二人への批判は圧倒的。

 持つべきものは優しい友達。

 なんと、二人の不貞の証拠を集めてくれていた。私は頼んでいない。全ては彼女達の厚意。

 殿下は円満に解決したもさと思っているみたいだけど甘い。

 浮気や不倫をされた側には慰謝料を請求することが出来る。婚約者、恋人、夫。そして浮気相手に。

 殿下は倍の額を支払ってくれるとして、ミリアは絶対に無理だ。

 その理由は……。

 「そうそう。ホールソン公爵からお父様が帰り次第、会いたいって手紙がきてた」
 「なら、行ってくるとしよう」

 ホールソン家はミリアの実家。公爵はとても誠実な人。

 お母様に宛てられた手紙の字は震えていて、これから待つ未来を想像してしまったのだろう。

 ──可哀想なミリア。

 略奪するのはいいけど、寝取るのは良くないよ。

 単細胞の殿下を惚れさせる手段なんて他にもあっただろうに。体の関係を持ってしまったら、真実の愛とか清いお付き合いなんて、誰も信じてくれない。

 ミリアに待ち受ける未来は決まってしまった。

 可哀想と思っても同情するつもりはない。

 「お兄様。お友達にまだパートナーが決まっていない人いない?」

 招待状には必ずパートナー同伴と強調されている。

 必ずしも意中の相手である必要はない。お兄様とでも問題はいんだろうけど……。

 要は私にはエスコートをしてくれる男性がいないのだと見下したいんだろうな。

 バカにされるのは癪なので、パートナーを連れて行きたいけど誘いを受けてくれる殿方がいるかどうか。

 「だったらライゼロック殿下にお願いすればいいじゃないか」
 「帰ってきてるの」
 「領地にいた俺のほうが詳しいって、どういうことだよ」

 ライゼロック殿下は第二王子で、懇意にしている国に留学中。

 帰りがいつになるかわからないため、殿

 何も問題を起こさなければ、帰国後もそのままエルリック殿下は王太子の座を外されずに済んだものを。

 婚約破棄というより浮気をしたことが大問題であり近々、国民への報告があるだろう。

 ライゼロック殿下は昔から私に好意を抱いている。隠しきれないほどに態度や表情に表れていた。

 本人は隠すつもりもなかったみたい。

 今でも留学先からマメに手紙をくれる。

 その手紙に帰ってくるなんて一言も書かれてなかったんだけど。

 サプライズのつもりだったのかな。

 「お話中、失礼致します。ライゼロック殿下がお見えです」

 噂をすれば何とやら。

 急な訪問にも関わらずもてなす準備は完璧。

 ──どうやら私だけだったようね。知らなかったのは。

 「お、随分と早く着いたな」

 ニヤリと笑うお兄様は悪人にしか見えない。

 応接室……はダメね。お兄様が勝手にこっちに連れて来そうな雰囲気。

 それならばいっそ、私の部屋に通してもらったほうが早い。

 「久しぶり。ナターシャ」

 最後に会ったときから七年近く経っている。

 背が伸びた。子供のときのような可愛い雰囲気はなくなり、頼りがいのある強い男性に成長。

 声も低い。

 笑うと昔の面影が見えてホッとする。見ないうちに別人のように変わってしまっていたから、内心ではドキドキしていた。

 お兄様は用事を思い出したからと風の速さで部屋を出て、使用人もお茶を用意したらすぐにいなくなる。

 部屋には殿下と二人きり。

 完全な密室を避けるために扉は閉め切っていない。

 「殿下。帰ってくるなら一言ぐらいあっても良かったのではありませんか」
 「ナターシャ。そんな堅苦しいのはやめてくれ」
 「わかったわ。ライ」

 手紙のやり取りが増えていくうちに私達は友達となった。愛称で呼ぶ許可を得て、敬語も必要ないと。

 手紙の中だけだと思っていたけど、現実でもとは。

 命令ではなくお願いだったからこそ、私は受け入れた。

 「早速だけど。披露宴パーティー。ナターシャをエスコートする役を僕に任せてはくれないだろうか」
 「ライに?」
 「他の男にそんな大役を取られたくないんだ」
 「そんな大袈裟な。たかがエスコートよ」
 「僕にとっては、たかがじゃない」

 真剣な眼差し。

 殿下と同じ薄いグレーの瞳。人が変わるだけでこうも印象が違ってくる。

 溢れんばかりの私への好意。

 誘いを断っても不敬にはならない。

 ライはそこまで器が小さくないからだ。

 「わかった。ライにお願いしてもいい?」
 「もちろんだ」

 これでパートナーの心配はなくなった。

 残る問題は……パーティーに出席したくない心の問題ただ一つ。
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