[完]婚約破棄?喜んで!復縁?致しません!浮気相手とお幸せに〜バカ王子から解放された公爵令嬢、幼馴染みと偽装婚約中〜

あいみ

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婚約破棄、ありがとうございます

 「「…………」」

 翌朝。私とギルは固まった。

 いや……なんかもう。うん、わからない。目の前の光景が。

 門の前で殿下が花束を持って立っているのだ。茂みには隠れきれていないクラッサム嬢が。

 えーっと、これは何?

 昨日と同じ展開になりそうなんだけど。

 え、待って。まさか昨日をループしてる?ギルも今日という日に自信はなさそう。

「おはようございます。アン様、ギル」
「お、おはよう」

 昨日はタナールに話しかけられたなかった。つまり今日は昨日ではない。

 それが証明されただけでも安心する。

 私達がこの場を動かないことを不審に思い、門を見たらすぐ納得した。タナールの瞳に影が落ちる。

 幻滅なんて言葉では表せないほどの失望感。

 仮にも仕えていた君主がここまで酷かったなんて認めたくないだろう。私もあんなのが元婚約者だったなんて、死んでも認めたくない。

 もし叶うなら、過去に戻って婚約をなかったことにしたいぐらいだ。
  
「裏門から入りますか?」
「そうしようかしら」

 ただ、裏門は開いていないから超えなければならない。はしたないとか、そんなことを言っている場合ではない。

 殿下に見つかったらまた、あんな茶番に付き合わされる。そんなの真っ平よ。

「アンリース」

 見つかってしまった。最悪。

「昨日は花の色が嫌だったんだよね。今日は赤色にしたよ」

 だから?

 そう言いたいけど……。

 昨日はクラッサム嬢の髪の色。今日はクラッサム嬢の瞳の色。

 せめて白か青なら、本気度が伺えるのに。ま、復縁なんて絶対しないけど。

 「いりません。そもそも授業を受けるのに花は邪魔です」
 「遠慮しないで」
 「言葉の意味を理解していないようなので、もう一度申し上げます。殿下の気持ちなど欲しくはありません」
「殿下。アンに付きまとうのはお止め下さい。お二人は既に赤の他人です」

 ギルが一歩前に出てくれた。

「一方的に婚約破棄を告げたのは貴方ですよ」

 タナールもギルの横に並ぶ。

 私を守ってくれようとしているんだ。

 それではダメだ。私から殿下に伝えないと意味がない。

 「ギルの言う通りです。殿下は真実の愛を選んだのですよ。私は殿下とやり直すつもりはありませんし、やり直す理由だってありませんよね?」
「うん。だから、アンリースを側室として娶ってあげるんじゃないか」

 どういうこと?

 断ったのに、私が側室になることが決定しているのはなぜ?

 婚約破棄をされた側が側室にならなければいけない法律なんて存在しない。

 会話が成り立たなすぎて目眩が……。ギル達も頭を抱えたそう。

「アンリースは僕のことが好きなんだろう?」

 鳥肌が立った。全身が凍り付く。

 ──この人は、何を言っているの?

 言葉が通じないだけではない。私が殿下に好意を抱いていると勘違いしている。

 そんな素振り一度だって見せたことはないのに。

 これでも記憶力には自信あったんだけど、今回の件で一気に自信失くした。 

 ──あんたを好きなのはクラッサム嬢でしょうが!! 

 私と同じぐらい殿下の傍にいた二人でさえ必死に記憶を辿る。私が殿下に好意を寄せたことは一瞬足りともなかったらしく、それが余計に二人を悩ませていた。

 夢?夢の話?うん。絶対そうだ。

 殿下は私達の婚約が王命であったと聞かされていないのだろうか。

 例え聞いてても忘れてそうだな。

 なにが嫌って、私が殿下を好きって思われているところ。好きでもければ興味もない。いや、興味を持ちたいと思ったこともない。

 昨日、ハッキリと断ったはずなのにめげずに再チャレンジしてくるとは。

 私を側室に迎えても王にはなれないと言うべきかどうか。殿下の頭で理解出来るかは別として。

 何を言っても私がクラッサム嬢に嫉妬しているからと解釈されそうで怖い。

 黙っていても都合の良いように脳内変換されていくから、すぐにでも否定しないと。

 「違います!私は殿下を好きだったことは一度もありません!!クラッサム嬢と勘違いしているのではありませんか」

 ここまでハッキリ言えば流石に伝わる……よね?

 でも、殿下はまたも見当違いなことを言い出す。

「そう、か。やっぱり、そうだったんだね」

 突然、悲しげな表情を浮かべる。

 めんどくさいことになりそうな予感。

 今すぐにでもここを立ち去りたい。

「薄々感じてはいたんだ。アンリース。君は、ギルと浮気していたんだね」

 ──……………………はぁ?

 浮気していたのは貴方ですよね?

 火の粉が飛んできたことによりギルのストレスは上昇。

 耐えてギル。私も我慢してるんだから。

「二人は確か幼馴染みだったよね。距離が近いなとは思っていたけど、まさか……。時々、密会していたのも、そういうことだったのか」

 密会なんてした記憶ないし、ギルと二人きりになったこともない。

 それは学園での話ですか?だとしたら絶対にありえませんよ。だってギルは、四六時中殿下の傍にいたんだから。

 学園の外での話だとしたら、私の行動を見張るなんてストーカー紛いなことをして何をしようとしていたのか。

「でも!僕はそんな君の不貞も許してあげるよ」

 キレるな。頑張れ私!

 胸ぐらを掴んで殴りたい衝動に駆られるけど、そんなことをしたら終わり。殴ったことを不問に処す代わりに側室になれと言われるに決まっている。

 自分の浮気を棚に上げて冤罪で私の価値を落とそうとする殿下には腹が立つ。

 浮気したのも婚約破棄したのも全部、向こうなのに被害者ぶれる精神力がすごい。

 「人間、つい魔が差してしまうことはある」
 「殿下」

 冷静になれ。冷静に。

 小さく息を吸って気持ちを整えた。

 殿下と目を合わすと頬を一瞬だけ引き攣らせ、半歩足が後ろに下がる。

 これでも私はお父様の血を引いているわけで。同じ目をするなんて訳ない。

 「私は不貞などしておりません」
 「他の人は誤魔化せても僕の目は誤魔化せないよ」
 「証拠はあるのですか?私とギルが……」
 「それだよ!!」
 「はい?」
 「君は親しくもいない赤の他人を愛称で呼ぶのかい?」

 してやったりと、ニヤリと笑う。

 「殿下が先程仰られたように、私とギルは幼馴染みです。家同士でも交流があります。もし、愛称で呼んだだけで不貞を疑われているのでしたら随分と幼稚……いえ。証拠としては薄いと思いませんか?」

 私とギルは幼馴染みではあるけど、殿下の前では常に線を引いて接していた。

 そのことはタナールだけではなく他の人達も証言してくれる。

 「特別な人を特別な名前で呼ぶ。立派な証拠じゃないか」

 どこからかプツンと糸が切れる音がした。

 ギルは爽やかな胡散臭い笑顔を浮かべている。

 私の肩に手を置き抱き寄せては

「申し訳ありませんが殿下。アンは俺の婚約者です。ですので、そのような誤解をされるような行動は謹んで下さい」
「や、やっぱり君達は……」
「違います」

 殿下が言い切る前に否定した。

 悪意などない、純粋な笑顔と思わせる顔を作ったままギルは

「アンは殿下と違って婚約者がいる身で他の男に言い寄ったりはしません。殿下と違って相手の名誉を傷つけることも致しません。殿下と違って自分都合で周りを振り回すなんてありえない」

 ギルが完全に頭にきていることだけは充分にわかった。

 不敬なんて関係なく、殿下が先に裏切り、人としていかに最低であるかを語る。

 登校していた生徒達の足は止まり、ギルの言葉に耳を傾け始めた。

 二人が出会ったことを咎める理由はない。遅かれ早かれ貴族ならばいずれ学園で顔を合わせる。同い歳なら確率も高い。

 問題があるとしたらその後。

 私の存在を隠し、告白して付き合いを始める。デートはほとんど毎日。プレゼントもドレスや高価な宝石を与え、私には花の一本も渡さない。

 挙げ句の果てに、婚約者のために主催した誕生日パーティーで婚約破棄宣言。更には他の女性、もとい、浮気相手と婚約。

 ここまで語れば殿下がいかに最低か、みんなにもよく伝わった。

 元々、そういう人間だと知っていたけど、近くにいたギルからの証言で、より殿下のクズっぷりが増す。

 ついでに、クラッサム嬢が婚約者がいると知っていながら別れないどころか、殿下に愛されなくて可哀想などと私を見下す発言をしていたことを明かした。

 ただでさえ評判がよろしくないクラッサム嬢はこれを機に周りから白い目で見られるかもね。

「殿下には感謝しております。アンを自由にしてくれたおかげで、こうして婚約することが出来たのですから」

 嫌味をたっぷり含んだ発言。

 そうか。これはギルの作戦だ。殿下が鬱陶しい……あまりにもしつこいから。

 私の知らないとこでお父様と計画していたのか。

 それなそうと事前に言ってよ。私までポカンとしちゃったじゃない。

 「で、では!僕と婚約破棄した直後に、ギルと婚約したことはどう説明する!?」
 「殿下と婚約破棄したからですよ。傷物となった私を受け入れてくれたのです」
 「僕が君を貰ってあげると言ってるじゃないか」
 「ギルと婚約している私が殿下と復縁なんてありえません。何度でも言います。私は殿下とやり直すつもりは、これっぽちもありません」

 石のように固まった殿下を置いて校内に入る。

 茂みから出てきたクラッサム嬢は全部デタラメだと否定するも誰にも聞き入れてもらえない。

 実は私の耳に入ってなかっただけで、ほとんどの人は殿下の浮気を知っていたそうだ。

 忍ぶことなく堂々としていれば、目撃されて当然。

 ──みんなして私が殿下のこと好きだって思っていたのかな。

 誤解は早めに解かないと。

 お茶会を開くより手っ取り早く、数人の友達に話して、それとなく他の人にも真実を伝えてもらおう。

「ごめんアン!!」

 殿下達が見えなくなるとギルは私から手を離し、勢いよく謝ってきた。

「勝手にあんな……。アンの気持ちも考えないで、ほんとごめん!!」
「気にしてないよ。だって殿下を諦めさせる作戦なんでしょ?」
「あ……あぁ」

 妙に歯切れが悪い。視線も宙を彷徨う。

 まさか!ギルには好きな人がいるけどお父様に無理やり、やらされているんじゃ!?

 その手の話はしてこなかったけど、ギルはかなり人気がある。

 外見も中身も良くて、次期公爵。驕ることなく誰にでも優しいし。

 好意を持たれるだけではなく、誰かを好きになっていても不思議はない。

「私は助かるけどギルはいいの?もし好きな子がいたら迷惑じゃない?」
「いるにはいるけど……大丈夫。どうせ何とも思わないから」
「思うでしょ!だって婚約よ!?」
「いいんだ。絶対に俺の気持ちに気付いたりしない鈍感なんだから」

 気のせいだろうか。最後ちょっと拗ねてるというか、怒っていたような。

 タナールは小さく笑っている。

 私だけが蚊帳の外って感じ。

 「私からお父様に言って、この件はなかったことにしてもらおうか?」
 「いい!嘘だから!好きな人いるとか」
 「え?そうなの?」

 なんで嘘つかれたんだろう。

 首に手を当て空を見上げたギルは眩しそうに目をを細めた。

 背を向けたギルが小さなため息をついた理由を、私は知らない。

 ギルの作戦のおかげで、殿下とクラッサム嬢に絡まれることなく平穏な一日を過ごせた。

 明日からも続けばいいんだけど。
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