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第一章
初デート
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「いい天気ですね」
雲一つない空を見上げた。目を細めているとディーは「そうですね」とぎこちなく返してくれた。
今日は二人で出掛ける日。デ…デート…の日。
ニコラが張り切ってお洒落をしようとするのを止めるのが大変だった。
着飾らなくていい。ディーならありのままの私を受け入れてくれると信じていたんだ。
全く何もしないのは失礼すぎるから、派手すぎないメイクをお願いした。
服は一度も袖を通したことのない新品のワンピース。空よりも薄い水色で、肌触りの良い一級品の布で作られている。
足が見えすぎるのが好きではない私は、スカート丈を膝下にしてもらう。
時間に余裕を持って早く出ようとしたのに、朝から絡まれて気分が下がった。
ヘレンの提案とディー。どちらが大切なのかと問われた瞬間、我が親ながらバカじゃないのかと思った。
思っただけで口にはしていない。ついうっかり、出そうにはなったけど。
良識さえあれば王族と貴族。どちらを優先すべきかは一目瞭然。
問われる内容から滲み出る頭の悪さに思考が止まってすぐには答えられなかった。
そんな私にお父様は「なぜヘレンと即答出来ないのか」と怒鳴り散らす。
あのとき私はどんな顔をしていたのか。呆れていたけど、何も言われなかったってことは笑顔を崩さなかった。
初めてだった。家族を煩わしいも思ったのは。
私の幸せを願っていると言いながらも私を支配しようとする。
操り人形になるしか私の幸せな未来はない。
私にはそう聞こえた。
死ぬことが決められた人生のどこに幸せがあるというの。
私よりも早く待ち合わせ場所にいたディーの姿に、なぜかホッとした。
面白いことに私もディーも、デートをよく理解していなく、どこに行き何をしたらいいのかわからない。
エドガーと婚約していたときは二人きりでどこかに出掛けたことは一度もなかった。必ずヘレンも一緒で、きっとエドガーは私ではなくヘレンとデートしてるつもりだった。
公に二人で出掛けることがよろしくないため、私のことを隠れ蓑にしていたんだと思う。
エドガーの隣にいるのは私ではなくヘレンだった。それは至極当たり前のことで私も気に留めたことはない。
手の平で踊らされていたのが悔しいな。
距離感もちょっとした矛盾も、そういうものだと信じて疑わなかった。
幾度となくシャロンが忠告してくれていたのに私は……。
「退屈……ではありませんか?」
不安そうな声。自分から誘った手前、私を楽しませなければと思っている。
広場の噴水で座ったままどちらとも動こうとせず、たまに顔を見合わせるだけ。
会話らしい会話もない。
親しい人や長い時間を共に過ごした人なら、自然と言葉は出てくるのに。
私はともかくディーは他人と接する時間は短かったはず。
もしかして比べているの?自分とエドガーを。
確かにエドガーなら話題が尽きることはない。でもねディー。安心して。
エドガーは私に“合わせていただけ”
私に選ばれるために、私の好みに無理やり合わせて運命だと勘違いさせた。
運命なんてものは誰かが意図的に作らない限りは起こりえない奇跡。
愛に飢えすぎたせいで私の目は曇っていた。
カルが嘘をついてくれたことを知っていると伝えれば照れを隠すように頬を掻きながらそっぽ向いた。
──可愛いところもあるのね。
何かに納得したように「やっぱりそうだよね」と呟いていた。
「ディーの好きなものを教えてくれますか。やはり婚約者たるもの、それぐらいは知っておきたいので」
「僕はアリーの好きなものが好きです」
「私に合わせた回答ではなく」
「本当です」
「そ、そうですか」
さっきまでの照れがなくなり真剣な眼差し。今度は私が恥ずかしくなってきた。
世の女性はこんなとき、どういう切り返しをしているの。
ヘレンなら腕にしがみついて上目遣いでお礼を言うのかしら。私がそれをやった頭がおかしくなったと思われそう。
シャロンはどうしてた?他の令嬢は?
そもそも、そんなプライベート空間に立ち入ったことがないため、記憶を探っても私の求める答えはない。
「あ、あの。一番好きなものはアリーです。僕はアリーが大好きです」
まただ。また心臓がうるさい。
このまま不整脈が続くようならディーに迷惑をかけてしまう。
主治医はダメね。診察を受けたことをお父様に報告されてしまう。病気かもしれないとわかれば療養を理由にアカデミーは休学となり家に閉じ込められる。
お見舞いは断固として拒否しながら、ヘレンに会いに来たエドガーが、ついでに私の部屋を訪ねるのはギリギリ問題はない。
目的はお見舞いではなく友達のヘレンに用事があっただけと証言すれば責められない。
かといってボニート家の主治医に診てもらうのは気が引ける。症状が続くようであれば観念して診てもらうしかない。
我が家の主治医は信用ないからと頼めば、快く引き受けてくれるだろう。そういう優しい人達が揃っている。ボニート家には。
痛みはないし、しばらくは様子見ね。
「迷惑でなければこれを貰ってくれますか」
青色のネックレス。頷くと付けてくれた。
こんなに私のことを想ってくれてると申し訳ない気持ちになるけど、ちゃんとディーに伝えておきたい。
誤解されたままだと、後々ディーの迷惑にもなる。
「私は青い花は好きですけど、それだけです。青色が好きというわけではありません」
「そうでしたか。次からは気を付けますね」
シュンと落ち込んだ。大型犬のように耳が垂れてるように見えるのは気のせいじゃない。
私の好みを知らずブローチをくれたことを反省してる。
真面目というか何というか。
好きじゃないとは言っても嫌いってわけでもないのに。
雲一つない空を見上げた。目を細めているとディーは「そうですね」とぎこちなく返してくれた。
今日は二人で出掛ける日。デ…デート…の日。
ニコラが張り切ってお洒落をしようとするのを止めるのが大変だった。
着飾らなくていい。ディーならありのままの私を受け入れてくれると信じていたんだ。
全く何もしないのは失礼すぎるから、派手すぎないメイクをお願いした。
服は一度も袖を通したことのない新品のワンピース。空よりも薄い水色で、肌触りの良い一級品の布で作られている。
足が見えすぎるのが好きではない私は、スカート丈を膝下にしてもらう。
時間に余裕を持って早く出ようとしたのに、朝から絡まれて気分が下がった。
ヘレンの提案とディー。どちらが大切なのかと問われた瞬間、我が親ながらバカじゃないのかと思った。
思っただけで口にはしていない。ついうっかり、出そうにはなったけど。
良識さえあれば王族と貴族。どちらを優先すべきかは一目瞭然。
問われる内容から滲み出る頭の悪さに思考が止まってすぐには答えられなかった。
そんな私にお父様は「なぜヘレンと即答出来ないのか」と怒鳴り散らす。
あのとき私はどんな顔をしていたのか。呆れていたけど、何も言われなかったってことは笑顔を崩さなかった。
初めてだった。家族を煩わしいも思ったのは。
私の幸せを願っていると言いながらも私を支配しようとする。
操り人形になるしか私の幸せな未来はない。
私にはそう聞こえた。
死ぬことが決められた人生のどこに幸せがあるというの。
私よりも早く待ち合わせ場所にいたディーの姿に、なぜかホッとした。
面白いことに私もディーも、デートをよく理解していなく、どこに行き何をしたらいいのかわからない。
エドガーと婚約していたときは二人きりでどこかに出掛けたことは一度もなかった。必ずヘレンも一緒で、きっとエドガーは私ではなくヘレンとデートしてるつもりだった。
公に二人で出掛けることがよろしくないため、私のことを隠れ蓑にしていたんだと思う。
エドガーの隣にいるのは私ではなくヘレンだった。それは至極当たり前のことで私も気に留めたことはない。
手の平で踊らされていたのが悔しいな。
距離感もちょっとした矛盾も、そういうものだと信じて疑わなかった。
幾度となくシャロンが忠告してくれていたのに私は……。
「退屈……ではありませんか?」
不安そうな声。自分から誘った手前、私を楽しませなければと思っている。
広場の噴水で座ったままどちらとも動こうとせず、たまに顔を見合わせるだけ。
会話らしい会話もない。
親しい人や長い時間を共に過ごした人なら、自然と言葉は出てくるのに。
私はともかくディーは他人と接する時間は短かったはず。
もしかして比べているの?自分とエドガーを。
確かにエドガーなら話題が尽きることはない。でもねディー。安心して。
エドガーは私に“合わせていただけ”
私に選ばれるために、私の好みに無理やり合わせて運命だと勘違いさせた。
運命なんてものは誰かが意図的に作らない限りは起こりえない奇跡。
愛に飢えすぎたせいで私の目は曇っていた。
カルが嘘をついてくれたことを知っていると伝えれば照れを隠すように頬を掻きながらそっぽ向いた。
──可愛いところもあるのね。
何かに納得したように「やっぱりそうだよね」と呟いていた。
「ディーの好きなものを教えてくれますか。やはり婚約者たるもの、それぐらいは知っておきたいので」
「僕はアリーの好きなものが好きです」
「私に合わせた回答ではなく」
「本当です」
「そ、そうですか」
さっきまでの照れがなくなり真剣な眼差し。今度は私が恥ずかしくなってきた。
世の女性はこんなとき、どういう切り返しをしているの。
ヘレンなら腕にしがみついて上目遣いでお礼を言うのかしら。私がそれをやった頭がおかしくなったと思われそう。
シャロンはどうしてた?他の令嬢は?
そもそも、そんなプライベート空間に立ち入ったことがないため、記憶を探っても私の求める答えはない。
「あ、あの。一番好きなものはアリーです。僕はアリーが大好きです」
まただ。また心臓がうるさい。
このまま不整脈が続くようならディーに迷惑をかけてしまう。
主治医はダメね。診察を受けたことをお父様に報告されてしまう。病気かもしれないとわかれば療養を理由にアカデミーは休学となり家に閉じ込められる。
お見舞いは断固として拒否しながら、ヘレンに会いに来たエドガーが、ついでに私の部屋を訪ねるのはギリギリ問題はない。
目的はお見舞いではなく友達のヘレンに用事があっただけと証言すれば責められない。
かといってボニート家の主治医に診てもらうのは気が引ける。症状が続くようであれば観念して診てもらうしかない。
我が家の主治医は信用ないからと頼めば、快く引き受けてくれるだろう。そういう優しい人達が揃っている。ボニート家には。
痛みはないし、しばらくは様子見ね。
「迷惑でなければこれを貰ってくれますか」
青色のネックレス。頷くと付けてくれた。
こんなに私のことを想ってくれてると申し訳ない気持ちになるけど、ちゃんとディーに伝えておきたい。
誤解されたままだと、後々ディーの迷惑にもなる。
「私は青い花は好きですけど、それだけです。青色が好きというわけではありません」
「そうでしたか。次からは気を付けますね」
シュンと落ち込んだ。大型犬のように耳が垂れてるように見えるのは気のせいじゃない。
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