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第一章
メイド姿のあの子
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「もう許せません!!お嬢様の顔にこんな……。痕が残ったらどうするつもりなんですか!!」
部屋に戻るなり、ニコラがすぐ駆け付けてくれた。
ウォン卿とラード卿は殺気にも似たオーラを出しながら扉を死守する。
中にいても感じてしまう威圧。
廊下の端にいても不穏な空気は漂う。誰も近付こうとはしない。
「落ち着いてニコラ。どうせ私の不注意だと口裏を合わせるに決まっているわ」
目撃者はヨゼフだけ。ウォン卿が見たのは私が殴られる寸前。
実際に手を上げているとこを見ていないウォン卿の証言は弱い。
親が子供に手を上げるのは躾。そう言われてしまえば周りは口を噤む。
体裁を気にするお父様が、自分がやったと素直に白状するとは思えないけど。
そもそも家族内における暴力沙汰は第三者が介入するのは難しいし、裁判も開けない。命が狙われたとかなら別だけど。
「それはそうかもしれませんが」
「お嬢様。手当てをしているので動かないで下さい」
「悪いわねヨゼフ。手を煩わせて」
「何を仰いますか。十六年前。お嬢様が生まれてから私はずっと忠誠を誓っております」
「私もです!!お嬢様と会ったその日から全てを捧げることを決めたんです」
嬉しくて涙が出そう。近頃、涙腺が脆くなってきたかも。
意味もなく泣いてしまったら二人を困らせてしまう。楽しいことを思い浮かべるのよ。
「お、お嬢様?どうなさいました?」
好意的な二人が引いてる。私ったら一体どんな顔をしたのかしら。
いい顔でないのは確かね。
手当てが終わると空気の入れ替えに窓を開けた。
ニコラには言ってくれたら開けたのにと、ちょっと文句を言われたけど、わざわざ窓を開けるぐらいで人を動かしたりはしない。
何でもかんでもやってもらのは性にあわない。
私はヘレンではないのだから。
外の景色を眺めていると、メイドの服を着たヘレンを見つけた。
──あんな恰好で何をしているの?
着る物がなくなったとは考えにくい。あの子の自室のクローゼットに入り切らないほどのドレスがある。
ヘレンは時々、理解不能な行動をとる。理解したいわけではないから、今では私の害になりそうにならなかったら放っておくことにした。
何をしているのか気になって観察していると、コソコソと正門から出て行った。
──………バカなのかしら。
いけない。思わず本音が隠しきれなかった。
なるほどね。愛しのエドガーの元に行きたかったのか。
いくら友人といえど、頻繁に何度も会っていれば、どこかでボロは出る。
特にヘレン相手だと、いくら気を付けていても意味がないときがある。
知らないとこで勝手に誤爆するから、こっちが後からフォローしてどうにか事なきを得る。
私の婚約者の座を望むエドガーと密会なんて醜聞、人々が放っておくわけがない。
付け回されるだけでなく、徹底的に調べ上げられる。そんなことになったら全ての苦労が水の泡。
醜聞を防ぐ方法があるとすれば、エドガーはヘレンと密会していないという事実がいる。
エドガーの元を尋ねたのがメイドなら後からいくらでも言い訳がたつ。
王族が侯爵家のメイドに手を出すなんて、絶対にありえないからだ。
変装するにしてももっとマシな恰好があったはずなのに。そもそもメイドがあんなに挙動がおかしかったら盗みを働いたと通報される。
いえ、私が通報したいぐらいだわ。
エドガーと密会するためとはいえ、プライドの高いヘレンがメイドの服を。
ヘレンだけでなく、貴族令嬢が使用人の服に袖を通すなんて常識では考えられない。
嬉々として侍女になったニコラは例外というか……特別。
公爵家三女のニコラなら王妃付きの侍女に選ばれる可能性はあっただろうけど、それよりも早く自分の意志で侍女になりたがった。
仕える相手も自分で決めたいと懇願までして。
裏を返せば王妃には仕えたくなかったということになる。
貴族令嬢にとって政略結婚は避けられない道の一つではあるけど、王妃付きの侍女になるのだって魅力がある。
志願する令嬢全員が選ばれるわけではない。ちゃんと試験はある。
そこで合格した優秀な者だけが、侍女へと選ばれるのだ。
国で二番目に偉いお方。媚びを売って損はない。
侍女になるだけでなく、王妃のお気に入りとなれば色々と融通を効かせてもらえる。
甘い蜜を狙ってか、侍女にするためだけに女児を産む家もあるぐらいだ。
貴族に仕える侍女と屋敷の手入れを専門とするメイド。
下働きで苦労も多く、汚れ仕事を担うメイドの服は見た目が可愛くても着たい令嬢はいない。
侍女とメイドは別物だし、一緒にするのは良くなかった。
涙ぐましい努力は認めてあげる。
あれって誰のアイデアなのかしら。メイド服ってとこが盲点をついてる。
まぁ、ヘレンがそこまで深く考えられるわけはないから、誰かの入れ知恵であることは間違いない。
ヘレンを説得して服を着せられる人物といえば……カスト。
へぇー。ヘレンのためになら優秀な頭をフルに使ってくれるんだ。
「お嬢様?どうかなさいましたか?」
「何でもないわ。風が気持ち良かったから」
きっと前世でもこうやって屋敷を抜け出していたのね。
我が家には秘密の抜け道なんて存在しないから、門から出るしかない。
部屋に戻るなり、ニコラがすぐ駆け付けてくれた。
ウォン卿とラード卿は殺気にも似たオーラを出しながら扉を死守する。
中にいても感じてしまう威圧。
廊下の端にいても不穏な空気は漂う。誰も近付こうとはしない。
「落ち着いてニコラ。どうせ私の不注意だと口裏を合わせるに決まっているわ」
目撃者はヨゼフだけ。ウォン卿が見たのは私が殴られる寸前。
実際に手を上げているとこを見ていないウォン卿の証言は弱い。
親が子供に手を上げるのは躾。そう言われてしまえば周りは口を噤む。
体裁を気にするお父様が、自分がやったと素直に白状するとは思えないけど。
そもそも家族内における暴力沙汰は第三者が介入するのは難しいし、裁判も開けない。命が狙われたとかなら別だけど。
「それはそうかもしれませんが」
「お嬢様。手当てをしているので動かないで下さい」
「悪いわねヨゼフ。手を煩わせて」
「何を仰いますか。十六年前。お嬢様が生まれてから私はずっと忠誠を誓っております」
「私もです!!お嬢様と会ったその日から全てを捧げることを決めたんです」
嬉しくて涙が出そう。近頃、涙腺が脆くなってきたかも。
意味もなく泣いてしまったら二人を困らせてしまう。楽しいことを思い浮かべるのよ。
「お、お嬢様?どうなさいました?」
好意的な二人が引いてる。私ったら一体どんな顔をしたのかしら。
いい顔でないのは確かね。
手当てが終わると空気の入れ替えに窓を開けた。
ニコラには言ってくれたら開けたのにと、ちょっと文句を言われたけど、わざわざ窓を開けるぐらいで人を動かしたりはしない。
何でもかんでもやってもらのは性にあわない。
私はヘレンではないのだから。
外の景色を眺めていると、メイドの服を着たヘレンを見つけた。
──あんな恰好で何をしているの?
着る物がなくなったとは考えにくい。あの子の自室のクローゼットに入り切らないほどのドレスがある。
ヘレンは時々、理解不能な行動をとる。理解したいわけではないから、今では私の害になりそうにならなかったら放っておくことにした。
何をしているのか気になって観察していると、コソコソと正門から出て行った。
──………バカなのかしら。
いけない。思わず本音が隠しきれなかった。
なるほどね。愛しのエドガーの元に行きたかったのか。
いくら友人といえど、頻繁に何度も会っていれば、どこかでボロは出る。
特にヘレン相手だと、いくら気を付けていても意味がないときがある。
知らないとこで勝手に誤爆するから、こっちが後からフォローしてどうにか事なきを得る。
私の婚約者の座を望むエドガーと密会なんて醜聞、人々が放っておくわけがない。
付け回されるだけでなく、徹底的に調べ上げられる。そんなことになったら全ての苦労が水の泡。
醜聞を防ぐ方法があるとすれば、エドガーはヘレンと密会していないという事実がいる。
エドガーの元を尋ねたのがメイドなら後からいくらでも言い訳がたつ。
王族が侯爵家のメイドに手を出すなんて、絶対にありえないからだ。
変装するにしてももっとマシな恰好があったはずなのに。そもそもメイドがあんなに挙動がおかしかったら盗みを働いたと通報される。
いえ、私が通報したいぐらいだわ。
エドガーと密会するためとはいえ、プライドの高いヘレンがメイドの服を。
ヘレンだけでなく、貴族令嬢が使用人の服に袖を通すなんて常識では考えられない。
嬉々として侍女になったニコラは例外というか……特別。
公爵家三女のニコラなら王妃付きの侍女に選ばれる可能性はあっただろうけど、それよりも早く自分の意志で侍女になりたがった。
仕える相手も自分で決めたいと懇願までして。
裏を返せば王妃には仕えたくなかったということになる。
貴族令嬢にとって政略結婚は避けられない道の一つではあるけど、王妃付きの侍女になるのだって魅力がある。
志願する令嬢全員が選ばれるわけではない。ちゃんと試験はある。
そこで合格した優秀な者だけが、侍女へと選ばれるのだ。
国で二番目に偉いお方。媚びを売って損はない。
侍女になるだけでなく、王妃のお気に入りとなれば色々と融通を効かせてもらえる。
甘い蜜を狙ってか、侍女にするためだけに女児を産む家もあるぐらいだ。
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涙ぐましい努力は認めてあげる。
あれって誰のアイデアなのかしら。メイド服ってとこが盲点をついてる。
まぁ、ヘレンがそこまで深く考えられるわけはないから、誰かの入れ知恵であることは間違いない。
ヘレンを説得して服を着せられる人物といえば……カスト。
へぇー。ヘレンのためになら優秀な頭をフルに使ってくれるんだ。
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きっと前世でもこうやって屋敷を抜け出していたのね。
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