愛してください!〜前世で元親友と元婚約者に殺されましたが、今世の親友と婚約者と共に復讐します〜

あいみ

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第一章

愛ある結婚

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 テーブルにはお茶とお菓子が用意してある。手紙に書かれていたように、話をするために。

 女の子が好きそうな可愛らしいお菓子。陛下が詳しいわけもないし、調べてくれたのかな。

 不慣れなことに一生懸命なとこはディーとそっくり。

 私としては流行りのお菓子よりアップルパイのほうが嬉しいんだけどね。

 作る人が違うだけで味が違ったりするため、食べ比べるのは好きだ。

 一番は我が家の料理長が作るアップルパイなんだけど。

 席につき勧められたお菓子を一口食べた。

 これは……甘い。

 甘い物は嫌いではないけど、甘すぎる。

 確かに女の子は甘い物が好きだけど、限度というものがある。

 渋い紅茶はあまり好んでは飲まないけど今だけは欲しくてたまらない。

 これで紅茶も甘かったら陛下からの嫌がらせと認識しよう。

 顔には出さず紅茶を飲むと口の中に広がった甘さがリセットされた。スッキリとした味わい。

 こんなにも合う紅茶を出してくれるのは陛下もお菓子を味見したからに違いない。

 カップを置いて、しばらく陛下と目が合う。

 世間話で呼ばれたわけではないにせよ、こちらから要件を聞くつもりもなかった。

 王妃の推測は半分は当たっていた。陛下から直々に呼ばれ出向かないわけにはいかなかったけど、ディーに会えるのをほんの少しだけ期待していた。

 勝手に出歩いてあの男と顔を合わせるのは嫌だから、大人しく従者の後ろをついて行っただけ。

 ──そしたら待ち構えていたのが王妃。どちらにせよ最悪ではあった。

「アリアナ嬢はなぜ第一王子を選んだ?エドガーと仲が良かったはずだが」

 沈黙に耐えきれなくなった陛下が口を開いた。

「誠実で、純粋に私を愛してくれているからです」

 嘘は言っていない。

 陛下は小さく息をつき、クッキーを一枚食べては「美味しいだろう?」と確信したように聞いた。

 確かに美味しい。流行りの甘すぎるお菓子よりもずっと。

 ついつい手はクッキーにばかり伸びていることに気が付き、恥ずかしくなった。

 ──食い意地が張っていると思われたかも。

 これは王都で売ってるものじゃない。この味を作れるなら職人がいるなら貴族の間でも人気になっている。

 ──もしかして手作り?

「これはソフィアが作ってくれたんだ」

 ソフィア様は陛下の側室。婚姻関係があろうとも、正室以外の子供は認められないのがこの国で、側室の子供は無条件で私生児となる。。

 平民とはいえ元貴族。辛い思いをしながらも生きるために酒場で踊り子として働いていた。

 銀色の長い髪は見る人を虜にしたとか。陛下も虜になった一人だったわけね。

 待って。シャロンによるとソフィア様が働いていたのは、貴族が足を踏み入れないような下町の中でも荒れた地域。国のトップが何用でそんな所に?

「私はね。ソフィアを愛していた。心の底から」

 陛下は語った。秘められた想いを。

 ソフィア様が男爵家だったことから婚約は認められず王妃が選ばれた。

 一度芽吹いた想いは簡単に消えるはずもなく、アカデミーで後輩だったソフィア様をいつも目で追う日々。

 当時、王太子であった自分に媚を売らず、次期国王陛下になるお方として、きちんと線引きをされた態度は心を揺れ動かすには充分。

 一方的な片想いにケリをつけると決めたのはアカデミー卒業を控えた一ヵ月前。

 結果がどうであれ、伝えなければ好きだったことが嘘になる。

 そこで、事件が起きた。ソフィア様の家が没落。

 それはあまりにも突然の出来事。

 貴族でなくなったソフィア様はアカデミーを退学。そのまま行方を眩ませた。

 シャロンが調べたところによると王妃の実家、キルマ侯爵家が原因。

 嫉妬からだった。婚約者である自分に関心さえ示さない陛下の恋焦がれる姿。

 作られた物語なら王妃は悪役で、裁かれる。ソフィア様と陛下が結ばれハッピーエンド。

 現実はそんなに甘いものではなくて、上級階級の貴族が罰せられることはまずほとんどない。

 当時はキルマ侯爵家が関与した証拠さえ見つからなかった……いや、関わった人間が皆、口を封じられてしまったことにより裏付けが出来なかったと言ったほうが正しい。

 疑わしきは罰せず、を利用されたわけだ。

 陛下は結婚し、王になっても諦めずソフィア様を捜し、そして見つけ側室へと迎えた。

 後ろ盾のない平民を王宮に入れることが、どれだけ危険かわかっていながら。

 それでも選んだ。また失わないように、ただ傍にいて欲しくて。

 話を聞いてソフィア様の扱いがいじめだけで済んでいたことも納得がいった。

 殺さなかったのではなく、殺せなかった。

 無関心だった陛下に憎まれ、死刑ではなく離縁されることを恐れて。王妃にとっては殺されることよりも愛されないと確証を得てしまうほうが耐えられない。

 陛下が口にさえしなければ、もしかしたら、万が一にでも、それこそいつかは……自分を愛してくれると信じてもらいたくて。

 現実から目を背ける。

 本当は全て、わかっているのに。

 愚かな王妃が私と重なった。滑稽なのは私も同じ。



『嫌な役目は全部、私が引き受けるから』



 不意に思い出した。

 あれはヘレンに対してだけって意味よね?

 覚えのない罪を着せられて、私の代わりに殺されるわけじゃないよね、シャロン。
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