愛してください!〜前世で元親友と元婚約者に殺されましたが、今世の親友と婚約者と共に復讐します〜

あいみ

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第一章

先に嵌めようとしたから

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 私がいない間にあんなことがあったなんて。

 思い通りにならない私よりも先にシャロンをどうにかしたいんだ。

 きっと私がシャロンに唆されているとでも勘違いしてるのね。

 この先も似たようなことが起きるなら対策を練らないと。

 あれだけの騒ぎを起こしておきながら当の本人は謝るどころか、シャロンを敵視している。

 授業の途中で戻ってきたシャロンは機嫌が良かった。それが逆に怖い。

 鼻歌でも歌いそうな雰囲気。

 休み時間になると不機嫌なディーが来た。

 今日は特別授業はないから、次に来るのは昼休みのはず。

 私に会いに来てくれた……みたいではなさそう。

 ディーは一直線にあの子の元に行き、机に手紙と瓶を置いた。

「これは返す。二度と変な真似はしないでくれ」

 わからないと言うように首を傾げた。

 ──あれって香水じゃない。まさかあれをディーに!?

 何を考えているのよ。

 女性が男性に香水に贈る意味は一つだけ。自分の好みの香りを身に付けて欲しい。

 同性同士なら贈り物としては最適。

 よりにもよって婚約者のいる男性に贈る代物ではない。

「私は知りません!!」
「手紙には君の名前が書いてあるが?」
「偽造に決まってます!どうして私が貴方なんかに」

 聞き捨てならない。今の発言。

 私よりも先にカルがあの子に

「今のは殿下に対する侮辱です」
「先に失礼なことを言ったのは向こうよ!?」

 カルはディーから手紙を借り、私に見せた。あの子の字か確認して欲しいのね。

 子供のような文字。間違いなくあの子の字。

 偽造でないことを証明するために、クラス全員が自分の名前を書いて、見比べた。

「アリアナ様の字はいつ見ても美しいわ」
「私もあんな風に書けたらな」

 どの字も似ていない。どれだけ崩した字で書いたとしても、完璧に真似られはしない。

 世話になっている友人の婚約者に香水を贈った最低な女。

 そんなレッテルが貼られた。

 香水を陽の光に当てたあの子は何を思ったのか

「あんまりだわ!ボニート令嬢!!私のあげた香水を悪用するなんて!!そんなに私が嫌いなんですか!!?」

 嫌っているのは貴女でしょうが。シャロンも貴女なんて大嫌いだけど。

 初めからこうなることをわかっていたかのように、シャロンは驚きはしなかった。

 その態度から仕組んだのはシャロンだった。それなら庇わなくても、どうにかなりそうね。

 何もわかっていない私が下手に口を出して邪魔をするのはよくない。

 つい一時間前に助けてくれたシャロンを、別件の犯人扱いする神経がすごかった。

 呆れるべきか怒るべきか。誰も正解がわかなくなってきた。

「とんだ言いがかりですね」
「ならこれは!?私があげた物ですよね!?」
「へえー。ジーナ令嬢には香水の違いがわかるんですか。自分で作った物ならともかく、売っている物なのに。余程、香水に精通しているんですね」
「しらばっくれないで」
「貴女から頂いた物は家に置いてます。疑うなら放課後、見に来ますか?証人が必要なので皆さんもご一緒に」

 その香水に秘密があるのね?シャロン。

 証拠がない上に二度の冤罪。あの子の立場はないに等しい。

「(それはクローンが作った偽物。貴女には本物に見えたでしょうけど)」

 あの二人は物をあげるような仲じゃない。あの子の企みを、ディーを巻き込み利用することで阻止した。

 貴族が王族を利用するはずがないという思い込みしんりを逆手に取った。

「私は君に謝罪を要求しているわけじゃない。が、もしまた同じことを繰り返すのであれば相応の対処をさせてもらう」
「お言葉ですが兄上。ヘレンは」
「エドガー。今はジーナ令嬢と話をしているんだ。少しの間、黙っていてくれるか?」
「はい……」

 いい気味、と思うのは性格が悪いかしら?

 早くディーをとめろと催促の視線が飛んでくる。

 部外者の私にどうしろと言うの。

 先に仕掛けたのは貴方達なのだから、自分達で解決するべきでは。

 アカデミーでくらい大人しくしておけば良かったものを。やらかしすぎなのよ、貴女。

 毅然と振る舞うディーだけど、予期せぬ事態とは言え女性からプレゼントを贈られたことに動揺していた。

 シャロンの罠だとわかっているし私は嫉妬したりしない。

 ──……まただ。名もない感情が私の中で大きくなっていく。

 泣いてこの場を切り抜けようとするあの子に、ディーはいつものように優しく問いかけるわけもなく返答を待つ。

 いくらディーが私生児だとしても、第一王子の肩書きは偽りではない。

 弟に発言さえ許さないのに、あの子の味方である彼らが口出しすればどうなるか……。

 いつでも何処でも泣けるのは最早特技。

 反論したところで手紙しょうこがある以上、あの子の無実は晴れない。

 休み時間は十分しかないのに、時間の流れが遅く感じる。それは私だけではないようで、何人かがチラチラと時計を気にしていた。

 仮にも貴族なら、不測の事態に対応したらどうなの。

 他人の背中に隠れてばかりいるから周りに見下され笑われるのよ。

 それともそれが貴方の望んだ王妃の在り方なの。エドガー・リンデロン。

 愛を求め、望むだけの王妃に価値はない。

「私じゃないのにぃ…」

 この期に及んでまだ否定を続ける。

「かしこまりました」と一言言えば、この場は丸く収まったのに。自分から延長してどうするの。

 私は助けないわよ。

 大嫌いな謝罪をしない代わりに騒動の元凶だと認めれば、事の追求はしないと言ってくれたのに。

「そうだ!私はエドとずっと一緒にいたのにどうやって貴方なんかの机に入れるんですか。証人は、正真正銘王族のエド……」
「ヘレン!いい加減にしなさい!!」

 一度ならず二度の侮辱。

 頬をぶつと、じんわりと赤くなり教室が静まり返った。

 痛みと驚きで涙は止まり、そっと赤くなった箇所に触れた。

 嫌な役目は引き受けると言ってくれたけど、やはり私はシャロンにだけ重荷を背負わせたくない。

 居候を叱るのは私の役目。

 この国の第一王子であるディルク・リンデロンに対して無礼な物言い。

 天使のような顔の下が悪魔だったとしても、ディーは権力を振りかざし咎めたりしない。

「(僕が荒立てたせいでアリーに手を上げさせてしまった)」

 ディーが辛そうな目をしていた。私があの子をぶったことに心を痛めてくれている。と、同時に反省しているようでもあった。

 人前で問い詰めるのではなかったと。

 あの手紙を握り潰して、この一件をなかったことにしたいみたい。

「ディーは私の婚約者である前に王族なのよ?身分を弁えなさいっ!!」
「だってその人が……」

 ここまで言ってもわかろうとしない態度に、もう一度手を振り上げると深く目を閉じた。

「アリー。僕のせいでごめん」

 ディーが私の手を掴んで止めた。

「ありがとう。僕のために怒ってくれて。ジーナ令嬢。さきも言った通り、謝罪はしなくていい」

 護衛騎士のカルは女性に手を上げることはしない。以前、一度だけ腕を捻り上げたことはあったけど、あれにはちゃんとした理由があった。

 今回もあるにはあるのだけれど、あからさまな暴力は不評を買うだけ。それがカル自身が受けるものなら躊躇いなくするんだろうけど、ディーの護衛騎士として、振る舞いには充分気を遣っている。

 仕えるべき主が誠実なら騎士も従者も誠実。傲慢なら従者も騎士も傲慢な性格になる。

 正論ことばが通じるわけでもないから困り果てていた。

「この香水と手紙はこちらで預からせてもらう。もし本当に令嬢の名を語っているのなら大変だからね。真犯人がわかり次第、報告しよう。そんなものがいれば、だけど」

 すぐ斜め後ろにいる。

 平然としていて焦る様子はない。

 バレない自信があるのか、後で告白するつもりなのか。シャロンなら迷惑をかけて黙っておくなんてするわけもなく、きちんと謝罪をするはず。

 他クラスの生徒が面白がって見物していたこの茶番劇の完全収拾はほぼ不可能に近く、真犯人は見つからなかった、と言う筋書きになる。

 身分が高い者ほど秘密を抱えるものだけど、ディーはそれを受け入れてくれるかしら。こんな騙し陥れるやり方はディーには堪えるかもしれない。

 それでも慣れてもらわなければ困る。

 私はその卑怯なやり方で殺されたのだから。

 時に綺麗事だけでは何も成し遂げられはしない。

 ディーの計らいにより外部に漏れることはないとは言え、あの子はとんだ赤っ恥をかかされた。

 箝口令も敷かれ、掘り返す者がいない限りこれでこの件はこれで終わり。

「お咎めなしなんてディルク殿下はお優しいのね」
「それはそうよ。アリアナ様が選んだお方なのよ」

 ディーの株がまた上がった。

 不快にさせられた相手にも情けをかけ、侮辱されたのに罰することなく忠告だけでこの場を収めた。

 終わらせてくれたディーに感謝するどころから、恥をかかされたことに不満を持ってた。




 ※  ※  ※



 昼休み、屋上でお弁当を食べながらシャロンは、例の香水のことを教えてくれた。

 魅了香。前世では使った記憶はない。あんな物がなくても私を手の平で操れていた。

 どこまで汚く卑怯なの。人の心を弄ぶだけでは飽き足らず、壊そうとするなんて。

 シャロンが被害を買ってくれたおかげで、確固たる地位を築いていたあの男の信頼まで揺らいできた。

 それが目的だったのね。

 常識のないあの子との友情を続ければ、憧れは軽蔑に、信用は不信と疑惑に。

 昔のあの男ならそのことに気付き、策を講じていたはず。

 私と同じで変わってきている。それも悪いほうに。

 シャロンは食べる手を止めたかと思えばゆっくりと立ち上がり、ディーに深く頭を下げた。

「ディルク殿下。誠に申し訳ございませんでした」

 騒動の元凶は自分であると告白して認めた。

 聞こえていたはずなのに、現実逃避をするかのように空を舞う鳥を見つめた。

 わかる。わかるよ、その気持ち。

 疑問点が残る。まず筆跡。あれは完全にあの子のものだった。手紙代筆の職は下町にいくつかあるけど、あそこまで完璧に真似られるものじゃない。文字にはその人の癖が必ず残る。

 次に、どうやって同じものを用意したか。本物の魅了香は陽に当てるとキラキラした物子が浮かぶ。特別な作り方故に、特別な物に仕上がる。

 製造方法さえわかっていないのに、偽物とは言え短時間で作れる物かしら。

 最大の謎はどうやって香水をディーの元へ届けたか。

 シャロンが一人になったのは医務室に手当てをしに行ったとき。それも授業が始まる数分前。

 教室にはディーを含めた生徒がいた。誰にも見られずに置くなんてこと、まず絶対にありえない。

 詳しいことは今はまだ話せないと言うシャロンの意志を尊重して、これ以上の問いかけはしなかった。
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