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第一章
殺傷事件【シャロン】
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アカデミーでは朝から大騒ぎ。教室に入ったばかりの私でも状況が理解出来てしまう。
無視して机に荷物を置くと、男爵子息に胸ぐらを掴まれた。
紳士にあるまじき行動。カルロ様がカッと目を見開いた。騎士からしてみれば、いかなる理由があろうとも男が女に手を上げるのは許されざる行為。
──助けは不要ですよ。カルロ様。
心の中で呟いた。
ニッコリと笑って男爵子息の腕を掴み、足を払い派手に転ばせた。
背中を強打した男爵子息は痛がりながら立ち上がる。
「随分と弱いのね?そんなんじゃ好きな人も守れないんじゃ……?」
「ハッ。やっぱりお前が犯人か。この暴力女」
「おい貴様。言葉には気を付けろ。たかが男爵家の息子風情が伯爵家の令嬢に随分な口の利き方だな」
剣を持っていれば斬りつけてしまいそうな雰囲気。
私にはあんな強気だったのに、カルロ様に睨まれ弱腰になる。
情けない男。性別だけで相手を見下して。
ここにクローンがいたら首と体が永遠に別れてた。良かった。クローンがいなくて。
階級を無視して突っかかってくるのは気にはしない。やり返すし。
カルロ様は証拠がない以上、私を追求することは出来ないと庇ってくれた。
騒ぎを聞きつけたアリーは息を切らせるほど急いで来てくれた。ディルク殿下との貴重な時間を割いてまで私を優先してくれたんだ。
それだけで嬉しい。
「シャロンがヘレンを襲ったと聞いたのだけど」
「本当よアリアナ!ほら見て!突然ナイフで切られたの」
見せつけるように腕をグッと出した。
残念なことにアリーは私に聞いたらしく、ジーナ令嬢には見向きもしない。
「本当なの?」
「まさか」
「そう」
それだけだった。疑ってすらない。
駆け付けてくれただけでも嬉しいのに、無条件で信じてくれているなんて。
同情さえしてもらえないジーナ令嬢は肩を震わせながら、必死にか弱い女の子を演じていた。
「そんなに冷たい女だったとは思わなかったよ。アリアナ。友であるヘレンが怪我をしたのに心配の一つもないとは」
「沢山の殿方に心配してもらっているのに、私にも心配して欲しいと?」
「ローズ家はヘレンの後見人だろ!?」
「いいえ。不憫に思ったお父様が連れ帰った、ただの居候です」
「薄情だな。なぜそんなにも冷たく当たれるんだ?」
「私の親友を陥れようとしたヘレンは友達でも何でもありません」
第二王子私物の窃盗の件から、まだそんなに日が立っていない。
簡単に信じられるわけもなく。
物事を首尾よく進めるには、ある程度の準備が必要だ。あの二人はそれをやっていない。思いついた作戦を、リスクを計算せずに実行しているだけ。
味方となるべき生徒がいるとはいえ杜撰すぎる。
男だけでなく女も魅力香で従わせておくべきだったんじゃ?
女は家を継げない役立たず、とでも思っているのなら男だけを駒に選ぶのも仕方ない。
さっきから集団の陰に隠れて、口元を抑えながら震える令嬢を気にかけていると、同じく気にしていたアリーが声をかけた。
彼女はアリーを慕うあまり、侍女になって四六時中、傍にいたいと漏らしていた子だ。
憧れのアリーに声をかけられて不自然に目が泳ぐ。
「彼女は事件の目撃者だ。さぁ、見たことをありのまま話せ」
へぇ。珍しく計画性があった。
こんな派手に事件を起こすなら当然、目撃者はいる。
頭を使ったねと褒めたらどんな反応するんだろ。
…………バカにするなとキレるか。
「ジーナ令嬢が刺された場所から、その……シルバーブロンドの女子生徒が走って行くのが見えて……。それで……」
全校生徒の中でシルバーブロンドの髪色をしているのは私だけ。
それだけで犯人扱いされるのは心外だけど、私の髪は普通とは少し違っていて、陽の光に当たると濃いグレーの色に見える。
詳しくはわからないけど母さんの家系はみんなそうらしい。
呪いじゃないかと不安がる声は多々あったけどクローンに確認すると「違う」と即答した。クローンの家は呪いの類にも詳しい一族で、その判断には信頼を置ける。
知りたいなら調べるとは言ってくれたけど、私も母さんもそこまで興味ないし、真剣に向き合ってもいない。
それにこんな髪でも“あの人”は綺麗だと言ってくれた。お世辞でも同情なんかでもなく、本音だったから私は自分の髪を嫌いにならずに済んだ。
「で、でも!あれがボニート令嬢だったかは……」
青ざめる彼女を落ち着かせて、確認のため再度聞いた。
「走って逃げたのは私と同じ髪色で間違いありませんか?」
「は、はい……」
これ以上ない証拠だと誰かが言った。
アリーが心配そうに見てくる。下手に口を出して私が不利にならないように耐えてくれていた。
クラウス様の魔法なら一発で犯人が見つけられるのに、生憎、帰国していた。王太子だし色々とやること多いんだろうな。
だからこのタイミングなんだ。
真実を映し出す魔法は当日の出来事でなければ使えない難点がある。
「どうしたんですか」
「小公爵様。いえ、何でもありません」
「誤魔化すな!ちゃんと言え!!アルファン様。この女!ヘレンを刺したくせにしらばっくれてるんですよ!?」
「ボニート令嬢が?」
ジーナ令嬢を見たあと何を不思議に思ったのか首を傾げた。
「絶対に違うから、もうそんなことは言わないほうがいい」
根拠のない否定。
目撃者がいる有利な立場であるジーナ令嬢はか弱さアピールをするようにまた泣いた。
小公爵は私を信頼して言ってくれているのではなく、ただ……断言出来るだけ。
私ではないと。
その理由は私の考えと同じで、それを今、口にするのは私の評判を更に落とすことになるため口を噤んだ。
「ボニート令嬢。ボニート令嬢にはきっと特別な理由があってこんなことをしたんですよね?だから私は謝って欲しいなんて言いません」
「そうですか。私もやってもないことで謝罪するのは嫌だったので良かったです」
予想外の返しに目をパチパチさせ、聞き間違いではないかと耳を疑っていた。
私の性格から謝らないことなんて容易に想像出来なかったかしら?
そういうとこが抜けてるのよ。
慈悲深い姿で女子生徒を取り込もうとしたみたいだけど逆効果。心優しく慈愛に満ちた天使になるには、印象が大事。
貴女にはそれが欠けている。
可愛い顔で醜い素顔を隠した貴女は駆除すべき害虫と同じ。
私の課題はこの事件をどうやって外に広めないかだ。
クローンには何でもかんでも報告しているわけじゃないし、教室内あるいはアカデミー内だけで留まってくれると有難い。
アリーと小公爵にお願いしたらどうにかなるかな?どうにもならないよね。
口止めをしてもジーナ令嬢がローズ家で意味ありげに傷を隠せば、無駄に権力を使って脅しをかけるに違いない。
なにか良い案ないかな。
いっその事、自分でバラして三人でクローンを抑えて……いや、無理だ。力の差がありすぎる。
三人の魔力増幅はクローンのおかけであり、与えた分の魔力はいつでも自分に戻せる。
クラウス様は規格外だと言っていたけどクローンだって充分規格外。
無視して机に荷物を置くと、男爵子息に胸ぐらを掴まれた。
紳士にあるまじき行動。カルロ様がカッと目を見開いた。騎士からしてみれば、いかなる理由があろうとも男が女に手を上げるのは許されざる行為。
──助けは不要ですよ。カルロ様。
心の中で呟いた。
ニッコリと笑って男爵子息の腕を掴み、足を払い派手に転ばせた。
背中を強打した男爵子息は痛がりながら立ち上がる。
「随分と弱いのね?そんなんじゃ好きな人も守れないんじゃ……?」
「ハッ。やっぱりお前が犯人か。この暴力女」
「おい貴様。言葉には気を付けろ。たかが男爵家の息子風情が伯爵家の令嬢に随分な口の利き方だな」
剣を持っていれば斬りつけてしまいそうな雰囲気。
私にはあんな強気だったのに、カルロ様に睨まれ弱腰になる。
情けない男。性別だけで相手を見下して。
ここにクローンがいたら首と体が永遠に別れてた。良かった。クローンがいなくて。
階級を無視して突っかかってくるのは気にはしない。やり返すし。
カルロ様は証拠がない以上、私を追求することは出来ないと庇ってくれた。
騒ぎを聞きつけたアリーは息を切らせるほど急いで来てくれた。ディルク殿下との貴重な時間を割いてまで私を優先してくれたんだ。
それだけで嬉しい。
「シャロンがヘレンを襲ったと聞いたのだけど」
「本当よアリアナ!ほら見て!突然ナイフで切られたの」
見せつけるように腕をグッと出した。
残念なことにアリーは私に聞いたらしく、ジーナ令嬢には見向きもしない。
「本当なの?」
「まさか」
「そう」
それだけだった。疑ってすらない。
駆け付けてくれただけでも嬉しいのに、無条件で信じてくれているなんて。
同情さえしてもらえないジーナ令嬢は肩を震わせながら、必死にか弱い女の子を演じていた。
「そんなに冷たい女だったとは思わなかったよ。アリアナ。友であるヘレンが怪我をしたのに心配の一つもないとは」
「沢山の殿方に心配してもらっているのに、私にも心配して欲しいと?」
「ローズ家はヘレンの後見人だろ!?」
「いいえ。不憫に思ったお父様が連れ帰った、ただの居候です」
「薄情だな。なぜそんなにも冷たく当たれるんだ?」
「私の親友を陥れようとしたヘレンは友達でも何でもありません」
第二王子私物の窃盗の件から、まだそんなに日が立っていない。
簡単に信じられるわけもなく。
物事を首尾よく進めるには、ある程度の準備が必要だ。あの二人はそれをやっていない。思いついた作戦を、リスクを計算せずに実行しているだけ。
味方となるべき生徒がいるとはいえ杜撰すぎる。
男だけでなく女も魅力香で従わせておくべきだったんじゃ?
女は家を継げない役立たず、とでも思っているのなら男だけを駒に選ぶのも仕方ない。
さっきから集団の陰に隠れて、口元を抑えながら震える令嬢を気にかけていると、同じく気にしていたアリーが声をかけた。
彼女はアリーを慕うあまり、侍女になって四六時中、傍にいたいと漏らしていた子だ。
憧れのアリーに声をかけられて不自然に目が泳ぐ。
「彼女は事件の目撃者だ。さぁ、見たことをありのまま話せ」
へぇ。珍しく計画性があった。
こんな派手に事件を起こすなら当然、目撃者はいる。
頭を使ったねと褒めたらどんな反応するんだろ。
…………バカにするなとキレるか。
「ジーナ令嬢が刺された場所から、その……シルバーブロンドの女子生徒が走って行くのが見えて……。それで……」
全校生徒の中でシルバーブロンドの髪色をしているのは私だけ。
それだけで犯人扱いされるのは心外だけど、私の髪は普通とは少し違っていて、陽の光に当たると濃いグレーの色に見える。
詳しくはわからないけど母さんの家系はみんなそうらしい。
呪いじゃないかと不安がる声は多々あったけどクローンに確認すると「違う」と即答した。クローンの家は呪いの類にも詳しい一族で、その判断には信頼を置ける。
知りたいなら調べるとは言ってくれたけど、私も母さんもそこまで興味ないし、真剣に向き合ってもいない。
それにこんな髪でも“あの人”は綺麗だと言ってくれた。お世辞でも同情なんかでもなく、本音だったから私は自分の髪を嫌いにならずに済んだ。
「で、でも!あれがボニート令嬢だったかは……」
青ざめる彼女を落ち着かせて、確認のため再度聞いた。
「走って逃げたのは私と同じ髪色で間違いありませんか?」
「は、はい……」
これ以上ない証拠だと誰かが言った。
アリーが心配そうに見てくる。下手に口を出して私が不利にならないように耐えてくれていた。
クラウス様の魔法なら一発で犯人が見つけられるのに、生憎、帰国していた。王太子だし色々とやること多いんだろうな。
だからこのタイミングなんだ。
真実を映し出す魔法は当日の出来事でなければ使えない難点がある。
「どうしたんですか」
「小公爵様。いえ、何でもありません」
「誤魔化すな!ちゃんと言え!!アルファン様。この女!ヘレンを刺したくせにしらばっくれてるんですよ!?」
「ボニート令嬢が?」
ジーナ令嬢を見たあと何を不思議に思ったのか首を傾げた。
「絶対に違うから、もうそんなことは言わないほうがいい」
根拠のない否定。
目撃者がいる有利な立場であるジーナ令嬢はか弱さアピールをするようにまた泣いた。
小公爵は私を信頼して言ってくれているのではなく、ただ……断言出来るだけ。
私ではないと。
その理由は私の考えと同じで、それを今、口にするのは私の評判を更に落とすことになるため口を噤んだ。
「ボニート令嬢。ボニート令嬢にはきっと特別な理由があってこんなことをしたんですよね?だから私は謝って欲しいなんて言いません」
「そうですか。私もやってもないことで謝罪するのは嫌だったので良かったです」
予想外の返しに目をパチパチさせ、聞き間違いではないかと耳を疑っていた。
私の性格から謝らないことなんて容易に想像出来なかったかしら?
そういうとこが抜けてるのよ。
慈悲深い姿で女子生徒を取り込もうとしたみたいだけど逆効果。心優しく慈愛に満ちた天使になるには、印象が大事。
貴女にはそれが欠けている。
可愛い顔で醜い素顔を隠した貴女は駆除すべき害虫と同じ。
私の課題はこの事件をどうやって外に広めないかだ。
クローンには何でもかんでも報告しているわけじゃないし、教室内あるいはアカデミー内だけで留まってくれると有難い。
アリーと小公爵にお願いしたらどうにかなるかな?どうにもならないよね。
口止めをしてもジーナ令嬢がローズ家で意味ありげに傷を隠せば、無駄に権力を使って脅しをかけるに違いない。
なにか良い案ないかな。
いっその事、自分でバラして三人でクローンを抑えて……いや、無理だ。力の差がありすぎる。
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