愛してください!〜前世で元親友と元婚約者に殺されましたが、今世の親友と婚約者と共に復讐します〜

あいみ

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第二章

ただ会いたい。貴方に

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 部屋の外からウォン卿とお父様の言い争う声が聞こえる。

 娘が塞ぎ込んでしまっているのに、様子も見に来ないなんて親としてどうなんだと。

 会うことを拒絶されるのに行くのは時間の無駄だと反論するお父様に、それでも親か、と怒っていた。

 本当に家族を大切に思っているのなら例え会えなくても部屋に出向くことはするべきだとも。

 私と顔を合わせずに清々しているのに近づいて来るわけがない。

 仮に会えたとしても、面倒事に進んで首を突っ込む優しさなど持ち合わせていないのだ。

 私のために怒ってくれいることが嬉しいのに、私を庇うような真似はしないでと叫びたい。

 フンッと鼻を鳴らしさっさと行ってしまうお父様に、彼は人の親で在っていいはずがないと呟く。

 ウォン卿はとても家族に恵まれていたのね。きっとラード卿も。

 愛されて育った人は他人にも優しくなれると、読んだことがある。

 ディーもシャロンもカルもテオも、ニコラもヨゼフもみんな、愛されているからあんなにも優しい。

 たった一人でも私のことを、深く愛してくれる人がいたのなら……。

 過ぎた時間に縋っても意味はない。

 扉の隙間から差し込まれる手紙は封を切らずに引き出しに閉まっていく。

 これを開いて読んでしまったら、私はシャロンに苦しいと胸の内を晒してしまう。

「僕は友人として見舞いに来たんだ」

 この声は……。どうしてあの男が。

 廊下が慌ただしくなったと思えば、気が狂いそうな声が聞こえてきた。

 ドクン!と心臓が跳ねて、柄にもなく体が震えている。

 耳にこびりついた声が頭をおかしくさせた。

 陽は沈み、すっかり夜だというのに、たかが友達のために訪ねる性格でもない。

 私のために時間を割くくらいなら、あの子と過ごす時間を大切にする。

 ウォン卿が止めてくれてはいるものの、扉を破壊してでも中に入ってきそうな勢い。

 鍵はかけてあるし大丈夫なはず。

 扉を壊せるだけの力はないだろうけど。

「大丈夫かいアリアナ。こんな時間にすまない」

 ええ、本当に。非常識にも程がある。

「ヘレンから聞いたよ。体調が芳しくないんだって?部屋から出られないなんて、何があったんだい」

 その声を聞くだけで頭痛がする。

 悪夢が蘇ってきた。

 眠っていないのにディー達の首が見えてしまう。

 罪悪感だけが膨らむ。

「少しでいいんだ。顔を見せてくれないか」

 嫌だ。というか無理だ。

 今あの男の顔を見たら、怒りで我を忘れてこの手で……。

 後のことなんてどうでもいいぐらい、私の精神状態は異常。

 はしたないと言われても、頭から布団を被り耳を塞いだ。

 もう嫌。誰も私の世界に入ってこないで。

 ──放っておいて!

 このまま息を止めてしまえば誰も傷つかない。

 私だけが笑われ、晒し者にされるだけで済む。



『必ずアリーを守る』



 約束をした。

 ディーが約束してくれた。

 会いたい……。会いたい……。

 ディーに会いたい。

 助けて……欲しい。

「たす、けて。ディー……」

 藁にもすがる思いで、ほとんど無意識の状態で口にした願い。

 誰とも関わらないと決めたのに。

 なぜ私はディーの名を口にしたのか。

「遅くなってごめんね。アリー」

 懐かしい声。威圧しない声。

 私が……愛しいと伝わってくる声。

 小さな暗闇の世界に差し込んだ光は眩しくて、きっと眩しかったから、だから……こんなにも泣いてしまうんだ。

 頭がおかしくなったせいで幻覚を見ているわけではない。

 だって伸ばした手は触れられる。

 感じる体温。それは本物である証。

 突き放すことなく優しく包み込んでくれた。

 目を細めて微笑むディーは、ただただ私だけを見つめる。

「君を泣かせたのは扉の向こうにいるエドガー?」

 愛しさを伝えてくれた声は変わり、殺意がこもっていた。

 それはもう確信している。犯人が誰なのか。

「いっときの感情で計画を台無しにするつもりか?」

 やれやれと言うような口調。その声の持ち主は……。

「クラウス様まで!!?」

 慌てて口を閉じた。

 部屋の外に今のが聞こえてしまえば……。

 人目につかず私の部屋に来る方法なんて転送魔法ぐらい。

 どんな理由があれ、女性の部屋に扉から入らないのは問題だらけ。

 こんなことが外にいる彼らに知られたら、たちまち悪い噂として国全体に広がる。

 上がってきたディーの信頼や好感が下がってしまう。

「音消しの結界は張ってある。存分に声を出すといい」

 私の不安こころを読んだかのようにクラウス様は安心をくれた。


「お気遣いありがとうございます」

 クラウス様は自国に帰っていたはず。いつこっちに戻ってきていたのかしら。

 ディーの顔を見ると底知れない安心感が押し寄せてきた。

 と、同時にあることにも気が付いてしまう。
 涙を拭ってくれようとするディーから距離を取った。

「ア、アリー……?」

 私は数日間、部屋にこもっていた。こもっていたのだ。

 髪はボサボサ。肌もガサガサ。

 そんなことはどうでもいい。

 部屋着も、まぁこの際いい。私の部屋だし。

 問題なのはお風呂にも入っていないこと。

 今の私はものすごく……臭う。 

 ディーは私に拒絶されたと落ち込んだけど、クラウス様の耳打ちで察してくれた。

 察してくれて何よりです。
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