魔女のために泣いた王子様

あいみ

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魔女の名前

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 魔女がいました。

 200年も生きた魔女です。顔も手足もしわしわです。

 村の外れにある湖のほとりに建てられた小さな小屋。魔女はたった一人、そこで暮らしています。



 魔女は嫌われ者でした。

 人を食らい、生き血をすすり、気まぐれで村に厄災を振りかるからです。

 人々の苦しむ顔を見ては楽しんでいました。



 魔女は孤独でした。

 もう村に人はいません。子供を食べて、村人を苦しめて。
 みんな、とっくの昔に逃げてしまったのです。

 以来、寂れた村には誰も近寄りません。噂が広まったのです。

 あの村には人を食べる魔女がいる。誰も行ってはならない。
 村へと続く看板も壊されていました。

 魔女の犠牲を出さないためです。



 魔女は……独りぼっちでした。

 もういない家族の名前を呟いては、ただ静かに死を待ちます。

 「貴女が村の魔女か?」

 凛とした声。

 月夜に照らされる美しい髪。金色はこの世界でたった一人の王子様です。

 そして……魔女を殺せる唯一の存在です。

 魔女は返事をしませんでした。

 冷たい夜風に吹かれて、虚ろな目で王子様を見つめます。

 「すまない。すまない……」

 王子様は手に持っていた剣を落としました。乾いた音が響きます。

 魔女に駆け寄り、しわくちゃの手を強く握りました。

 「すまない。本当に。僕達のしたことは許されることではない」

 王子様は美しい涙を流しました。震える声で何度も謝罪を繰り返すのです。

 「200年もの間、独りにさせてすまなかった」

 微動だにしない魔女。

 「待たせてごめんね。フィーナ」

 それは……魔女の名前だったもの。誰にも呼ばれることのなくなった。

 魔女に……フィーナに優しく微笑んだ王子様は、甘い口付けを交わします。

 “魔女にかけられた呪い”を解く方法は一つだけ。

 魔女を愛する者からの口付け。
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