レティシアお嬢様、今日もやらかす 〜見習い天才魔術師と愛のお仕置き〜

聖sai

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第一話 わたし、飛べるもん!

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 屋根の上って、なんでこんなに気持ちいいんだろう。

 朝の空気は冷たくて、肌をぴりっと刺激してくるけれど──その分、頭がすごく冴える。

 風の流れ、日差しの角度、屋根瓦のすべり具合。
 すべては計算どおり。完璧。

 わたし、レティシア・グラシエル、七歳。グラシエル公爵家の長女にして──何を隠そう魔術の天才ですっ。

「ふふっ……今回はいける。いけるよこれは……!」

 手にした魔術ノートを開きながら、小声で確認。

「風向き良し、角度良し、気圧も安定……着地地点まで約五メートル。バッファ込みでも3ステップで対応可能……」

 準備完了。

 わたしは、自室の窓から屋根に出て──その縁に、そっと足をかけた

 ──そこへ。

「お嬢様、朝のお食──って、いない!? どこっ……お、お嬢様あああああっ!?」

 エリィの声がひっくり返った。

 あ~、来ちゃったか。

「エリィ~、おはようっ!」

「おはようじゃありませんっっ!! なにしてるんですかっ!? 今すぐそこから降りてください!!」

「だいじょーぶだってば! ただの実験だから、ちょっと浮かぶだけ! 飛ぶわけじゃないよっ!」

「その言い方、飛ぶつもりですよね!? “ちょっと”がちょっとじゃ済んだ試しないですよね!? あああ、誰かーっ! お嬢様がまた屋根にのぼってますううう!!」

 屋敷中がざわつき始めた。

 「また!?」「庭にマット敷け!」「シーツと藁もってこーい!」「受け止めるぞ! いそげ!」

 ──朝なんだから、もっと静かにしようよ。この時間だと、ママ、まだ寝てるよ?
まあいいか。気を取り直して屋根から下の景色を見る。

「よーし……風、いける!」

 深呼吸して、両腕をひろげて──

「じゃ、いっきまーすっ!!」

 跳んだ。

 空中で魔術陣が展開され、風の渦が足元から巻き上がる。
 スカートがひらりと舞って、髪が浮く。

 風圧、軽減成功。
 着地地点、芝生まで──あと、1秒。

「──着地っ!」

 とんっ!

 ふわっと、芝の上に着地成功。……と、同時に──

 バッッッサアアアア!! 私を中心に風が舞い上がる。

「「「うわあああああ!!」」」

 風圧でマットがふっ飛び、使用人たちが吹き飛ばされていく!

 椅子やテーブルが倒れ、藁が空を舞い、クッションが空中で回転してるし──何この壮大なモーニング爆風!!

「……っし! 成功っ! ね、ね、着地成功でしょ!?」

「──お嬢様っっ!!」

 その声に、わたしはピタッと動きを止めた。

 見ると、エリィが涙ぐみそうな顔で、こっちに全力で駆け寄ってきていた。

「大丈夫ですかっ!? どこか痛いところは!? 手は? 足は!? ぶつけたり、ひねったりしてませんか!?」

 次々とわたしの腕を持ち上げたり、足元を覗き込んだり、両肩を抱きしめるようにして確認してくる。

「う、うん。だいじょーぶ。ちゃんと着地したよ? ほら、無傷っ!」

「ほんとうに……ほんとうに、無事なんですね……?」

「……うん」

 その瞬間──

「……よかったぁぁぁあああ……!!」

 エリィは、胸の奥から絞り出すみたいに叫んで、涙をぽろぽろ流した。

「も、もう……また落ちて、怪我したらって……ずっとずっと、足が震えて……!」

 わたしの胸にぎゅっと顔を埋めて、何度も何度も「よかった……」って繰り返す。

 わたしのほうが驚いて、動けなくなっちゃった。

「え、えりぃ……泣くほどじゃ……」

「泣きますよっ!!!」

 顔をあげたエリィの目には、涙と──怒りが混ざっていた。

「だって、わたし、お願いしましたっ! “危ないことはやめて”って、“飛び降りないで”って、何度も、何度も言ったのにっ!」

「……うぅ」

「だから──今日はもう、本気で叱りますっ!!」

 次の瞬間、わたしは庭のベンチまで引きずられた。

「ちょ、まってっ! 落ち着こう! わたし今ものすごく冷静だし、話し合いっていうか、そもそも成功してるし──」

「お仕置きです!!」

 ドスンとベンチに座ったエリィの膝に乗せられ、スカートをばっ!とめくられる。

「きゃっ!? ちょっ、エリィ!? え、えっ、えええっ──」

 パンツをやや乱暴に降ろされた。

「ぴぃぃぃぃいぃぃっっっ!!?!?!」

 お尻、出た。出された。わたしの可愛いお尻が朝の空気にさらされる。

 ──その瞬間。

 パアァン!!

「いっだあああああああああっ!!?」

 お尻に雷落ちた!? ってくらい痛い!! 熱い! ピリピリする!!

「うそ!? ちょ、ちょっとぉぉっ、まってぇえええっ!!」

「待ちません!!」

 パンッ! パンッ! パンッ!!

「うわぁああんっ! うぎゃっ、いたたっ、いたいっっ!!」

「“成功したから叱られない”なんて思わないでくださいっ!」

 バチィン!!

「危ないことをしたら、何度でも叱りますっ!!」

「い、いやあぁぁあぁんっ! お尻ぃぃっ、われるうううっ!!」

 ぐねぐね暴れても、腰はがっちり固定されてて逃げられない!
 足ばたばたしても無駄! エリィの手が、容赦なく何度もお尻に落ちてくる!

「これで、“もう飛び降りよう”なんて二度と言いませんね!?」

「も、も、もぉおおしません~~~~っ!!」

 最後の一発が、ぴしぃっ!と振り下ろされたあと、
 わたしは膝の上で、涙と鼻水でぐしゅぐしゅになっていた。

 ──数分後。

「風……もっと強くても、いけそうかも……」

 わたしは芝生の上で、熱を持ったお尻をさすりながら、魔術ノートをめくっていた。

 横では、使用人たちが飛ばされた椅子を拾ったり、屋根にひっかかったシーツをどうにか取ろうとしたり、てんやわんやしている。

「次やったら、本気で泣きますからねっ!」

 そう怒鳴ったエリィは、まだ目が赤かった。

「……つぎは、無いと思うよ……たぶん」
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