不可思議の部屋小物語集

露木阿乱

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「小学校の天井裏に住んでいた男の子は女教師を奇妙な世界へ連れ去った」

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「誰かに見られている」
「天井に目があるんです」
 そう訴える、六年一組の子供たちが増えてきたのは、ここ一か月のことだった。
 しかし、担任の大塚遥香先生は、よくある学校の怪談のひとつだと思っていた。
 うわさは沈静化しなかった。日を増すごとに、この怪談話は子供たちの話題の中心となっていた。大塚先生は、やむをえず、職員会の話題にあげたが、同僚の教師に笑われただけで終わった。
 親しい教師からは、「来年は校舎の建て替えです。新しい校舎になれば、そんな噂、消えてしまいますよ」となぐさめてくれた。
 今の校舎は、築百年に近い木造で、雨漏りはするし、ギシギシと音がしていた。エアコンはあるものの、ほとんど役に立っていなかった。
 大塚先生も、その時は、(もう少し子供達には、我慢してもらおう)と、自分に言い聞かせていた。
 ところが、金曜日の午前中の体育の時間のことだった。たまたま、忘れ物で教室に戻った男子生徒の、学校中に響くほどの悲鳴が聞こえた。教師たちが教室に駆けつけると、そこで見たものは、天井に必死に戻ろうとしている少年の姿だった。本立てなどを足場に、器用に天井にあがろうととするが、あわてているため、すぐに体育の教師に捕まってしまった。
 警察が呼ばれ、その後、分かったのは、少年は家出したものの、住むところがなく、この学校の天井で暮らしていたらしい。この教室を選んだのは、隣に給食の調理室があって、残り物が手に入ったからだ。その日は、天井の隙間から、生徒が内緒で持ってきていた漫画本を見て、それを読むために姿を現していた。
 この話は、それで終わったわけではない。天井裏の少年は、不思議な話をしていたのだ。
「友達が待ってるから、帰らないと」。
 あまりに言い続けるので、念のため警察は、教室の天井裏を念入りに調べたが、誰も見つからなかった。
 それから三年の月日が流れた。学校の校舎は新しくなり、大塚先生も他の学校に移った。その頃、教師仲間たちの間に、ある奇妙な噂が広まっていた。
「大塚先生の行動がおかしい。授業中にヘンなことをブツブツとつぶやくようになった」
 と言うものだった。気になった友人の教師が大塚先生の家を訪ねた。以前と変わらなかった。ところが、二時間ほど話しての帰り際だった。
「今度、お友達を紹介するね」
「友達って男性。恋人ができたの」
「違うわよ」
 大塚先生は、それからしばらく口ごもった後、
「天井裏のお友達よ」
 と笑顔で告げた。友人の教師は、その時、恋人の男性のことを話すのが恥ずかしなって、冗談を言ったのだと思っていた。ところが、その後も、大塚先生の奇行の噂は絶えなかった。胸騒ぎがした。しかし、学校の行事が続き、大塚先生を訪ねそこねていたうちに、
「大塚先生が失踪した」
 との話が耳に入った。
 大塚先生の家を訪ねてみようか、と考えた。しかし、背筋に悪寒が走った。大塚先生の、あの部屋の天井裏には(お友達がいたのではないか)。そう想像してしまったからだ。
 そして、今頃、大塚先生は、そのお友達とどこかで暮らしているのかもしれない。そう考えながら、授業中、時折、天井を眺める自分に気づいていた。
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