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「いじめられっ子の彼は古代中国少数民族の呪術、蠱毒(こどく)を使って怨みをはらした」
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中学生の頃、ひどいいじめられっ子がいた。
東幸助。それが彼の名前だった。
町内でも有名な洋館に住んでいたこともあって、彼は注目される存在だった。
親が事業家で彼や私達の通う中学に多額の寄付をしていたことから、それをねたむ上級生からもいじめられていた。少しは抵抗すればいいのだが、ただ我慢するだけの彼の態度も、いじめっ子をいらつかせる材料だった。
私は、彼が気の毒で、あたりに誰もいない時には、声をかけるようにしていた。
いじめっ子に見られて、彼のようになりたくなかったため、人前での彼との接触は避けていた。他のクラスメイトも同じように考えていたらしい。しかし、上級生のいじめは、暴力を伴うものにエスカレートしつつあった。
それを見かねた私は、担任の女教師に、彼のことを何とかしてほしい、と頼み込んだ。女教師教師は、まだ新任だったが、私の言葉に耳を傾けてくれた。そして、いじめっ子のいるクラス担任に話し、上級生のいじめが一旦はおさまったかに見えていた。
ところが、女教師は、帰宅中、暴走車によって轢き逃げに遭ってしまった。命には別状がなかったが、数カ月の入院が必要だった。
私は上級生達の企みに違いないと思った。いじめっ子達が、卒業生のハングレ達の車に同乗しているのを、よく見ていたからだ。私も、用心のために下校時は必ず同級生と帰ることにを心掛けていた。
そんなある日、幸助から誘われて、彼の自宅を訪問することになった。
町内で最も目立つ建物だ。中を見てみたかった。家には幸助の母親がいて、「初めて友達を連れてきた」と喜んでくれた。
彼とケーキを食べた後、秘密の部屋に誘われた。幸助は、その部屋を研究室と呼んでいた。研究室というだけあって、ビーカーやフラスコ、アルコールランプなど、実験機材がたくさんある。幸助は、頑丈な蓋つきのガラスの容器のところに私を連れて行った。
中を見て私は、すぐに顔を背けた。大嫌いなムカデや毛虫、蛇やカエルなどが入れられていたからだった。
「何だよ。キミが悪い」
私は、急いでその場を離れた。
彼の部屋に戻って、改めてあの虫達について聞いた。
「アレはボクの神様だ」
彼は君の悪い笑いを浮かべながらそう言った。
半年が経って、女教師は退院して教室に戻ってきた。それに合わせるように、ハングレ達が交通事故を起こして死亡したとの知らせが伝わってきた。そのこともあって、幸助への上級生のいじめが少しは沈静化したように感じられた。
下校時、たまたま幸助と一緒になった。
「最近、元気そうで安心したよ」
私がそう声をかけると、「神様がついているから」と満面の笑顔が帰ってきた。神様について詳しく聞いてみたかったが、彼の笑顔を見ていると、次の言葉が出て来なかった。
しばらくして、いじめっ子の上級生達にも変事が起こった。原因の分からない病気で学校を休み始めたのだ。結局は、いじめっ子たち全員がクラスから消えていた。原因の解らない、正体不明の病いということで、しばらく学校は休校となり、防疫の専門家が調査したが、原因は解らなかった。
中学を出てからは、幸助とは会っていない。彼は、東京の大学に行ったようだった。
私は、地元の大学に通い教師を目指している。今、興味を持って読んでいる本がある。蠱毒(こどく)について書いた本だ。蠱毒とは、中国河南省の少数民族に伝わる呪術で、虫の毒を用いて敵を倒す方法だ。ヘビやムカデ、ゲジゲジなどの虫達を同じ場所に入れ、生き残った虫が神になると言われている。
私は、あのいじめっ子達を倒すために、幸助が蠱毒を使ったに違いないと、いまでは確信を持っている。研究室のあの容器の中で、彼は蠱毒を創(つく)っていたのだろう。下校時に幸助が浮かべた、自信に満ちた薄笑いを思い出すと、背筋が寒くなってる。
東幸助。それが彼の名前だった。
町内でも有名な洋館に住んでいたこともあって、彼は注目される存在だった。
親が事業家で彼や私達の通う中学に多額の寄付をしていたことから、それをねたむ上級生からもいじめられていた。少しは抵抗すればいいのだが、ただ我慢するだけの彼の態度も、いじめっ子をいらつかせる材料だった。
私は、彼が気の毒で、あたりに誰もいない時には、声をかけるようにしていた。
いじめっ子に見られて、彼のようになりたくなかったため、人前での彼との接触は避けていた。他のクラスメイトも同じように考えていたらしい。しかし、上級生のいじめは、暴力を伴うものにエスカレートしつつあった。
それを見かねた私は、担任の女教師に、彼のことを何とかしてほしい、と頼み込んだ。女教師教師は、まだ新任だったが、私の言葉に耳を傾けてくれた。そして、いじめっ子のいるクラス担任に話し、上級生のいじめが一旦はおさまったかに見えていた。
ところが、女教師は、帰宅中、暴走車によって轢き逃げに遭ってしまった。命には別状がなかったが、数カ月の入院が必要だった。
私は上級生達の企みに違いないと思った。いじめっ子達が、卒業生のハングレ達の車に同乗しているのを、よく見ていたからだ。私も、用心のために下校時は必ず同級生と帰ることにを心掛けていた。
そんなある日、幸助から誘われて、彼の自宅を訪問することになった。
町内で最も目立つ建物だ。中を見てみたかった。家には幸助の母親がいて、「初めて友達を連れてきた」と喜んでくれた。
彼とケーキを食べた後、秘密の部屋に誘われた。幸助は、その部屋を研究室と呼んでいた。研究室というだけあって、ビーカーやフラスコ、アルコールランプなど、実験機材がたくさんある。幸助は、頑丈な蓋つきのガラスの容器のところに私を連れて行った。
中を見て私は、すぐに顔を背けた。大嫌いなムカデや毛虫、蛇やカエルなどが入れられていたからだった。
「何だよ。キミが悪い」
私は、急いでその場を離れた。
彼の部屋に戻って、改めてあの虫達について聞いた。
「アレはボクの神様だ」
彼は君の悪い笑いを浮かべながらそう言った。
半年が経って、女教師は退院して教室に戻ってきた。それに合わせるように、ハングレ達が交通事故を起こして死亡したとの知らせが伝わってきた。そのこともあって、幸助への上級生のいじめが少しは沈静化したように感じられた。
下校時、たまたま幸助と一緒になった。
「最近、元気そうで安心したよ」
私がそう声をかけると、「神様がついているから」と満面の笑顔が帰ってきた。神様について詳しく聞いてみたかったが、彼の笑顔を見ていると、次の言葉が出て来なかった。
しばらくして、いじめっ子の上級生達にも変事が起こった。原因の分からない病気で学校を休み始めたのだ。結局は、いじめっ子たち全員がクラスから消えていた。原因の解らない、正体不明の病いということで、しばらく学校は休校となり、防疫の専門家が調査したが、原因は解らなかった。
中学を出てからは、幸助とは会っていない。彼は、東京の大学に行ったようだった。
私は、地元の大学に通い教師を目指している。今、興味を持って読んでいる本がある。蠱毒(こどく)について書いた本だ。蠱毒とは、中国河南省の少数民族に伝わる呪術で、虫の毒を用いて敵を倒す方法だ。ヘビやムカデ、ゲジゲジなどの虫達を同じ場所に入れ、生き残った虫が神になると言われている。
私は、あのいじめっ子達を倒すために、幸助が蠱毒を使ったに違いないと、いまでは確信を持っている。研究室のあの容器の中で、彼は蠱毒を創(つく)っていたのだろう。下校時に幸助が浮かべた、自信に満ちた薄笑いを思い出すと、背筋が寒くなってる。
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