不可思議の部屋小物語集

「過去世（かこせ）の修復をするグループでは前世をたどり現在を見直す作業を繰り返す」

　過去世の見える人がいる。
　過去世とは、人が今の世〈現世〉に生まれる前の世界だ。
　過去世を信じる人たちは、人は死ぬと蘇ると考えている。つまり、人間の歴史とは、蘇りの歴史ということになる。
　私の知っている過去世の見える人は女性で、過去世に関する会のリーダーをしている。
　この会の目的は、過去世をたどることによって、現世をどう生きるかを考えることだった。わかりやすく言えば、現世は、前世の行いによって決定される。つまり、現在、不幸な人の原因は前世で悪事を行ったからだ。今、幸福な人は、前世で善行を重ねたから、と言うことになる。そして、来世で幸せな生涯を送りたいなら、現世で善行を積む必要がある。
　それでは、前世において悪行を行った人は、この世での幸せは望めないのか。そうではない。前世の悪行を現世で償えばいいのだ。少なくとも、前世の悪行の何倍もの善行を重ねればいい。
　しかし、ここでの問題は、いかに正しく過去世を見るかである。これを誤ると、いわれのない前世の罪を背負って苦しむことになる。逆に少々の悪事を行っても、許されると勘違いしてしまう場合もある。
　この女性の過去世読みは、極めて緻密だ。その人の生まれてから死ぬまでを、事細かにたどっていく。一代記のように文章化され、中には絵で描写されている箇所もある。そして、この導き出された過去の歴史をもとに、これからどう生きるべきかを考えることになる。
　特別に頼んで私の前世を見てもらった。私の前世は、江戸時代の豪商だそうだ。これからの生き方に役立ててほしい、ともらった過去世読みの資料は、A4で五十枚以上もなった。
　テレビで、一家惨殺事件の犯人逮捕のニュースが流れていた。つい、この犯人の前世と来世について考えてしまった。