不可思議の部屋小物語集

露木阿乱

文字の大きさ
22 / 26

「憑依霊(ひょういれい)。その女性は、淫魔に取り憑かれていた」

しおりを挟む
 アラブの友人と喫茶店で会った時、不思議そうな表情をしながら聞かれた。
「日本の女性は悪霊が怖くないのか」
 悪霊という言葉に、引っかかった私は、その意味をたずねた。
「ニュースで報道していた歌舞伎町の公園の近くで、売春をしている若い娘の話」
「悪い病気が流行っているそうだね」
「いや、病気じゃなくて悪霊です」
 意味が分からず、詳しく内容を聞くと、彼は次のように説明した。
「私の生まれた地域には、セックスと一緒に、相手に憑依した悪霊が、取り憑(つ)くと言われています。だから、よく知らない相手とセックスするのは危険なんです」
 そんな、話を耳にするのは初めてだった。試しにchatGPTに聞いてみた。日本にも狐憑きのようなものがあるが、海外にも、アフリカのロア、インドのブータ、中東のジンなどたくさんの憑依霊がいるという。しかし、それがセックスとともに、相手に伝播するとは書いていなかった。彼は、その恐ろしさを私に力説したが、私には実感できなかった。自分にはそのような女性を相手にする気はなかったし、該当する年齢の娘もいなかった。
 それから数日後、勤務先の会社の課に新しい女子社員が入り、その歓迎会の帰りだった。彼女は随分、酔っ払っていて、帰る方向が同じの私が送って行くことになった。タクシーの中から、彼女の様子がおかしかった。ブツブツと何か、わからない言葉を呟き続けているのだ。そのまま、帰らせるせることができず、一緒にタクシーを降りると、マンションの彼女の部屋まで送って行った。部屋まで送ると、彼女をベッドに寝かせて、そのまま帰るつもりだった。ところが、ベッドに寝かせようとすると、彼女が抱きついてきた。何とか引き剥がして帰ろうとすると、彼女の目つきが妖しくなり、耳にしたことのない言葉を喋りはじめた。上着を脱ぎ裸になろうともがいている。目が血走り、口からは泡を吹いている。
と、こんな場面を他人に見られては、あらぬ疑いを持たれることになる。私は、狂乱状態の彼女を置いたまま、部屋を逃げ出した。
 救急車でも呼ぶべきだったかも知れないと、後悔したが、今更遅かった。彼女の無事だけを祈った。

 私の心配をよそに翌日、彼女は、何もなかったように定時に会社に出勤した。
 その日以来、私は何があっても、彼女と一緒に帰ることを避けている。あの彼女の状態こそ、憑依そのものでなかったのかと思った。
 久しぶりにアラブの友人に会った。彼女のことを彼に話してみた。彼は、絶対に悪霊に憑依されていると断言した。その女性には気をつけろ、と念を押された。そう言われても、私に打つ手はなかった。そんな彼女が結婚することになった。隣の課の若い男性社員だ。
 その結婚式が終わった帰り道、彼女と親しい女子社員から、気になる話を聞いた。
「元彼がどこかの国の人で、今の彼にプロポーズされた時、失恋の勢いで承諾したらしいんです」
 しばらくして彼女は会社を辞めた。子供ができたらしかった。結婚相手の彼は、最近、仕事のミスや病欠が多いて聞いた。彼に何か起こっているのかも知れない。そう思ったが、彼女にはどうしても近づく気になれなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

清掃員と僕の密やかな情状

MisakiNonagase
恋愛
都心のオフィスビルで働く会社員の26歳・高城蓮(たかぎれん)。彼の無機質な日常に唯一の彩りを与えていたのは、夕方から現れる70歳の清掃員・山科和子だった。 青い作業服に身を包み、黙々と床を磨く彼女を、蓮は「気さくなおばあちゃん」だと思っていた。あの日、立ち飲み屋で私服姿の彼女と再会するまでは――。 肉じゃがの甘い湯気、溶けゆく氷の音、そして重ねた肌の温もり。 44歳の年齢差を超え、孤独を分かち合った二人が辿り着いた「愛の形」とは。これは、一人の青年が境界線の向こう側で教わった、残酷なまでに美しい人生の記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...