丸の内OLと女マッサージ師の入れ替わり

ジャンタマオ

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返して

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「……うまいね。……まるで、長年この身体を使ってきたみたい」

静かな言葉の裏に、刺すようなものが含まれていた。
志穂(中身:美月)の手が、ほんの一瞬だけ止まった。

「ありがとう。……慣れてるから、ね」

その返事は、まるで無表情の仮面。だが、その奥に潜む感情は、明らかに何かを隠していた。

タオルを整え、志穂(中身:美月)はベッドの脇に立つ。
しかし、美月(中身:志穂)は起き上がらなかった。
むしろ、ベッドに突っ伏したまま、震えるように笑い声を漏らした。

「ねぇ……あんた、楽しい?」

志穂の身体——つまり元の自分の声で、言葉がにじむ。
その声音には、怒り、戸惑い、そして何よりも深い“悔しさ”がこもっていた。

「ずっと見てた。あたしの身体を触るあんたの手……、ただの施術じゃなかった。確認してたんでしょ。あたしの脚の形も、ウエストのカーブも、胸の張りも。あんたが失った“宝物”……目の前にあるから、触りたくて仕方なかったんでしょ?」

志穂(中身:美月)は黙っていた。

「だったら……返してよ」

その言葉には、限界を越えた感情が込められていた。
ベッドから身体を起こし、美月(中身:志穂)は鏡の前に立つ。

白い肌、整った顔立ち、バランスの取れた長い脚。
——それは、美月そのものだった。でも、鏡の奥から自分を見返してくる目は、“志穂”だった。


「これは……あたしの身体なの。あたしの人生、あたしの努力、全部ここに詰まってる。……返してよ……返してよッ!」

声が割れ、頬を涙が伝った。

美月(中身:志穂)はゆっくりと歩み寄り、鏡の隣に立つ。

「あなたの人生が詰まってる身体なのは、わかってる。でも……」

彼女は静かに、鏡越しに“自分”を見た。

「この身体の中に入った瞬間、わたし、息がしやすくなったの。世界が違って見えた。歩くだけで人に見られて、会話も自信が持てて、誰からも“ちゃんとした人”に扱われた。……それが、あまりにも、自然だったのよ」

一拍の沈黙。
志穂(中身:美月)は、唇をかすかに歪めた。

「ごめんね。でもね、もうわたし……返したくないの」

「は?」

「返したら、もうこの世界には戻れない。この高さ、この軽さ、あの会社、この服……全部、夢だったみたいに消える。そんなの、もう耐えられない」

「……あなた、盗んだのよ。人の人生を!」

「いいえ、“選んだ”のよ。あなたが私の身体でマッサージを続けたとき、わたしはもう決めてた。こっちの人生を生きるって。そうでしょ? あなたも、もう“私の顔”で生活してるんでしょ? だから、こうして再会できた」

「……それは……!」

「だったら、やめましょう。お互いに言い訳も、怒鳴り合いも。これはもう、交渉でも話し合いでもない。選び合ったの。新しい“人生”を」

志穂(中身:美月)は、言葉を詰まらせた。
目の前の女が言っていることは、すべて狂っている——なのに、言い返せない自分がいる。

彼女の笑みは、もうかつての“志穂”ではなかった。
名も、過去も、すべてを奪ったその女が、美月として微笑んでいた。
——そして志穂は、ただ黙ってうつむいた。もう、何も取り戻せないことを悟りながら。
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