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失われた指先の感覚
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部屋の照明は柔らかく、アロマの香りがゆっくりと鼻腔に広がる。
美月(中身:志穂)は、ベッドに仰向けになりながら、心の奥にざわつきを感じていた。
背中に、オイルを含んだ温かい手が触れる。ゆっくりと、慎重に、だが確実に筋をほぐしていく手の動き。
その指先の圧——。
間違いない。あれは、かつての自分の手だ。
(やっぱり……美月さん、わたしの身体のまま……)
体の奥がふるえる。記憶のなかの「自分の所作」を、他人がまるで模倣するように再現している。いや、模倣ではない。それは本物だ。今、その身体を使っているのが、自分ではなく“彼女”だというだけ。
肩甲骨のあたりに指が食い込む。
絶妙な力加減だった。骨と筋の境界を知り尽くしている。まさに自分が、毎日、何年も使い込んできた「職人の手」。
(この力の入れ方……この角度……)
かすかに身をよじってしまう。美月の身体が反応する。
同時に、ふと自分が“この身体”で受ける快感の種類が、微妙に異なることにも気づく。
(この人の身体って……こんなにも敏感だったんだ……)
知らなかった。まさか、誰よりも自分を知っているはずの自分の手で、
“この体”の繊細な反応を知ることになるとは。
背中から腰へ。ウエストをなぞる動きに、無意識に息が浅くなる。
そのたび、胸がベッドに押しつけられ、わずかに動く。
丸の内で、堂々と歩いていた自分のスタイルが、改めて“美しい”と思えた。
(こんな身体……もともと、私にはなかった)
そう思った瞬間、喉の奥が苦くなった。
志穂として生きていた頃には感じなかった劣等感。
そして今、それをまざまざと実感させる“元・自分”の指。
太ももに手が滑る。
その動きにはどこか、ねっとりとした執着があるように感じた。
圧をかけるふりをして、形を確かめている。
——この脚は、誰のもの? 今、それを揉みほぐす手は、なぜこんなにも慎重で、ゆっくりなのか。
(……返したくないんだ、この人)
自分の身体を自分で揉まれているような、
しかし、完全に“他人の視線”で触られているような、
——奇妙で、背筋がひやりとする感覚。
膝裏、ふくらはぎ、足首。最後に、足裏へと指が降りてきたとき、
美月(中身:志穂)は、思わず口を開いた。
「……うまいね。……まるで、長年この身体を使ってきたみたい」
沈黙。
その言葉の裏に何があるか、施術する“志穂(中身:美月)”は気づいただろうか。
視線は交わらない。けれど、空気は、確かに変わった。
美月(中身:志穂)は、ベッドに仰向けになりながら、心の奥にざわつきを感じていた。
背中に、オイルを含んだ温かい手が触れる。ゆっくりと、慎重に、だが確実に筋をほぐしていく手の動き。
その指先の圧——。
間違いない。あれは、かつての自分の手だ。
(やっぱり……美月さん、わたしの身体のまま……)
体の奥がふるえる。記憶のなかの「自分の所作」を、他人がまるで模倣するように再現している。いや、模倣ではない。それは本物だ。今、その身体を使っているのが、自分ではなく“彼女”だというだけ。
肩甲骨のあたりに指が食い込む。
絶妙な力加減だった。骨と筋の境界を知り尽くしている。まさに自分が、毎日、何年も使い込んできた「職人の手」。
(この力の入れ方……この角度……)
かすかに身をよじってしまう。美月の身体が反応する。
同時に、ふと自分が“この身体”で受ける快感の種類が、微妙に異なることにも気づく。
(この人の身体って……こんなにも敏感だったんだ……)
知らなかった。まさか、誰よりも自分を知っているはずの自分の手で、
“この体”の繊細な反応を知ることになるとは。
背中から腰へ。ウエストをなぞる動きに、無意識に息が浅くなる。
そのたび、胸がベッドに押しつけられ、わずかに動く。
丸の内で、堂々と歩いていた自分のスタイルが、改めて“美しい”と思えた。
(こんな身体……もともと、私にはなかった)
そう思った瞬間、喉の奥が苦くなった。
志穂として生きていた頃には感じなかった劣等感。
そして今、それをまざまざと実感させる“元・自分”の指。
太ももに手が滑る。
その動きにはどこか、ねっとりとした執着があるように感じた。
圧をかけるふりをして、形を確かめている。
——この脚は、誰のもの? 今、それを揉みほぐす手は、なぜこんなにも慎重で、ゆっくりなのか。
(……返したくないんだ、この人)
自分の身体を自分で揉まれているような、
しかし、完全に“他人の視線”で触られているような、
——奇妙で、背筋がひやりとする感覚。
膝裏、ふくらはぎ、足首。最後に、足裏へと指が降りてきたとき、
美月(中身:志穂)は、思わず口を開いた。
「……うまいね。……まるで、長年この身体を使ってきたみたい」
沈黙。
その言葉の裏に何があるか、施術する“志穂(中身:美月)”は気づいただろうか。
視線は交わらない。けれど、空気は、確かに変わった。
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