丸の内OLと女マッサージ師の入れ替わり

ジャンタマオ

文字の大きさ
3 / 4

失われた指先の感覚

しおりを挟む
部屋の照明は柔らかく、アロマの香りがゆっくりと鼻腔に広がる。

美月(中身:志穂)は、ベッドに仰向けになりながら、心の奥にざわつきを感じていた。


背中に、オイルを含んだ温かい手が触れる。ゆっくりと、慎重に、だが確実に筋をほぐしていく手の動き。

その指先の圧——。
間違いない。あれは、かつての自分の手だ。

(やっぱり……美月さん、わたしの身体のまま……)

体の奥がふるえる。記憶のなかの「自分の所作」を、他人がまるで模倣するように再現している。いや、模倣ではない。それは本物だ。今、その身体を使っているのが、自分ではなく“彼女”だというだけ。

肩甲骨のあたりに指が食い込む。
絶妙な力加減だった。骨と筋の境界を知り尽くしている。まさに自分が、毎日、何年も使い込んできた「職人の手」。

(この力の入れ方……この角度……)

かすかに身をよじってしまう。美月の身体が反応する。
同時に、ふと自分が“この身体”で受ける快感の種類が、微妙に異なることにも気づく。

(この人の身体って……こんなにも敏感だったんだ……)

知らなかった。まさか、誰よりも自分を知っているはずの自分の手で、
“この体”の繊細な反応を知ることになるとは。

背中から腰へ。ウエストをなぞる動きに、無意識に息が浅くなる。
そのたび、胸がベッドに押しつけられ、わずかに動く。
丸の内で、堂々と歩いていた自分のスタイルが、改めて“美しい”と思えた。

(こんな身体……もともと、私にはなかった)

そう思った瞬間、喉の奥が苦くなった。
志穂として生きていた頃には感じなかった劣等感。
そして今、それをまざまざと実感させる“元・自分”の指。

太ももに手が滑る。
その動きにはどこか、ねっとりとした執着があるように感じた。
圧をかけるふりをして、形を確かめている。
——この脚は、誰のもの? 今、それを揉みほぐす手は、なぜこんなにも慎重で、ゆっくりなのか。

(……返したくないんだ、この人)

自分の身体を自分で揉まれているような、
しかし、完全に“他人の視線”で触られているような、
——奇妙で、背筋がひやりとする感覚。

膝裏、ふくらはぎ、足首。最後に、足裏へと指が降りてきたとき、
美月(中身:志穂)は、思わず口を開いた。

「……うまいね。……まるで、長年この身体を使ってきたみたい」

沈黙。

その言葉の裏に何があるか、施術する“志穂(中身:美月)”は気づいただろうか。

視線は交わらない。けれど、空気は、確かに変わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

令和の俺と昭和の私

廣瀬純七
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

性転のへきれき

廣瀬純七
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

リアルフェイスマスク

廣瀬純七
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

魔法の本

廣瀬純七
ファンタジー
高校生の男女が入れ替わる話

宇宙人へのレポート

廣瀬純七
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

処理中です...